ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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世紀末の魔術師〈処罰と平穏〉

 

 まずは怖いものを見ないように、オーディエンスの意識を刈り取っておく。

 

 静かに彼らを横たえて、具現化したタオルを枕に寝かせてやる。

 本当は二人っきりになってから処罰した方が良かったんだが、こういうのはすぐに処罰しないと禍根を残すからな。

 

 卵形の部屋の外壁から滲み出るように、触手がざわざわと起き上がる。

 部屋は生きている臓物の壁のように蠢き、そこがもう逃げられない腹の中であることを連想させた。

 

 浦思青蘭が顔を青ざめさせ、それでも反抗的な様子を改めることなく悪態をついた。

 

「下等な魔物如きが!私に近づくな!」

「……うーん。俺、もしかして舐められてる?魔術師に下等な魔物とか言われたの初めてかも。それとも凄く誇り高いとかか?」

「ただの馬鹿だろう。彼我の力量差が分かってない間抜けだ」

 

 冷淡に降谷さんが腕を組んだまま興味なさそうに息をついた。

 

 俺の存在規模がわかるぐらいには腕のある魔術師だと思うんだが。

 どうやら鬱屈した人生を歩んできたようで、それを「自分が選ばれたものだからだ」という選民思想に置き換えて暴れていたようだ。

 選ばれし自分が怪物などに負けるはずがない。有象無象を踏み潰して自分が全てを手に入れる。

 そのような思いが凶行を起こさせた。

 

 やはり思想と信条というのは時に人を狂わせるということだろう。

 

「この……放せェ!!」

 

 苦し紛れに浦思青蘭がコナン君に攻性魔術を放った。

 びっくりしたが、コナン君の守りに阻まれて魔術は目の前で霧散したようだ。

 コナン君の宇宙戦艦とて見えやすい形をしていると思ったのだが。

 まさかそんなささやかな魔術で突破できるとでも思ったのだろうか。

 

 「なっ……!私の魔術が!」とスコーピオンは悲鳴をあげた。

 

 コナン君が見た目的に一番弱そう、かつ俺の連れだから狙ったのだろう。

 放たれた魔術は呪詛の類だったから、人質に取ろうと思ったのかもしれない。

 

 俺はため息をついてしゃがみ込んだ。

 浦思青蘭を覗き込み、冷徹に宣言する。

 

「判決。お前からは、「ラスプーチンの血縁である」という事実を取り上げる。お前はただ、自分がラスプーチンの末裔だと思い込んでいる狂人だ」

「ッ!?!?」

「また、魔術の発動も狙撃の腕も没収。人を傷付けることも禁止。今まで集めた品も散逸。今後の人生に不幸は山盛り」

「ま、待っ……そんなことできるはずがない!」

「お前は無力に惨めにこれからの生を過ごせ。自殺は許可しようと思ってたけど、それも没収。転落人生は辛いだろうが、頑張ってくれたまえ」

 

 呪詛の塊を触手の先に灯して、浦思青蘭の額に押し付ける。

 そのまま返事も聞かずに本国に送還した。

 不幸の塊が日本に滞在されても迷惑だし、それはあっちでなんとかしてもらうとしよう。

 

 諸伏さんのバッドラックの呪いを参考に組み上げた、「何も成すこと無き呪い」だ。

 

 あらゆる不幸が押し寄せて、経済的苦境、犯罪に巻き込まれる、大きな負債を被る、苦痛を伴う病、親しいものの裏切り、全てが彼女を苦しめる。

 彼女の心を支えた芯はもうない。

 非常に小規模な過去改変が発動し、もはや彼女はラスプーチンとは縁もゆかりもない一般人でしかない。

 

 不幸に抵抗する力も無い。

 あらゆる魔術は発動前に「ハスターの瞳」により阻害される。

 人を傷付ける技能には大きなデバフがかかり、それを成し遂げることはできない。

 

 自殺はできない。

 それは失敗し、惨めに怪我と負債を負って生き残る。

 長く苦しく、理解者もなく報われることのない人生は苦痛の中で幕を閉じる。

 

 コナン君を傷つけようとしなければ、自ら命を断つことぐらいは許可したのに。

 

 俺はため息をついて首を回した。

 

「よし、かなり厳しめに対応したぞ。お仕事終了、スコーピオンは処分したし、俺たちも公安呼んで帰るか」

「ねぇ黄衣さん、浦思青蘭さんを転移させたみたいだけど、捕まえなくて良かったの?殺人の容疑がかかってるのに」

『いやあれは捕まえたら刑務所が迷惑だと思う。俺の呪呪呪の百倍ぐらいドス黒い呪いが付与されてたし』

「うん。弁護士さんも裁判所も刑務所も迷惑しか受けないから強制送還した。ともかく、今後は関わらない方がいいさ」

 

 コナン君は憂いを帯びた顔で俯いたようだ。

 人の手で罰されないということは、殺された映像作家さんの遺族はどこにもいけない悲しみを背負うことになる。

 それは確かに、少しだけ気の毒だ。

 

 降谷さんが布手袋をはめた手でそっとメモリーズエッグを台座から取り外した。

 

「予想していた厳しさとは真逆だったが、良いんじゃないか?スコーピオンの無力化は達成したし。もし仲間の魔術師がいたとして、あれを見て下手なことは考えないだろう」

『俺の十八番を軽々と超えられてちょっとショック』

「いや、諸伏さんは不幸の出力が高すぎて対象が苦しむ前に死ぬんだよな。その辺調整するのも手だぞ?」

 

 俺がアドバイスすれば、諸伏さんはふむふむと頷いて悩み出した。

 キッドが「怖……名探偵のとこっていつもこんななの?」とドン引きしている。

 いつもじゃねーよ。今回は特殊な事例だよ。

 

 と、そのあたりで「グズグズグズ!!!」とクソデカ泣きべそが聞こえてきた。

 

 星の精がベショベショになりながら上の方から飛んで来るのが遠目から確認できた。

 いないと思っていたが、どうやら迷子になっていたらしい。

 可哀想な星の精がビターン!!とコナンくんの顔に張り付いて泣き喚く。

 

「ぶおぶお!?」

【グスッ!!グスグス!!ゲダゲダ…!!】

「ぷはっ、寂しかったのかな。よしよし。置いてってごめんね」

 

 星の精は震えて「ゲダ!!!」と触手を全部しおしおにしてコナン君に縋りついている。

 一人にされてかなり心が傷ついているようだ。

 城の中を見るのに夢中になって、俺たちの移動に気付かなかったらしい。

 可哀想なので持ってるグミ缶にグミをバラバラと追加してやる。

 おおよしよし、美味いもん食べて機嫌を直せ。

 

 星の精はやや熟考して缶をカラカラと振って中身の量を確認。

 ふたたび「グズッ」と泣きに入った。

 その程度で癒える傷ではないらしい。意外と現金だな……。

 

 キッドが肩をすくめて触手をもしゃもしゃ撫でながら口を開いた。

 

「しかし、どうすんだこの状況。言い訳が必要だろ」

「浦思青蘭はエッグを悪用しようとした。そのためにエッグの機能で罰が下り、その反動で皆が気を失った。浦思青蘭自身はどこかへ転移させられてしまったようだ……ってとこかな」

「なるほど。織り込み済みね」

「実際、もし浦思青蘭の指輪に込められた魔術が発動していたら、この場で怪獣大決戦が始まってたよ」

 

 アルワッサは何故か召喚に応じなかったが、恐らくは気が向かなかったのだろう。

 もし召喚されたら俺が直々にぶん殴ろうと思ってたから、少し残念な気持ちもあったりする。

 この鬱々とした気持ちを晴らす良いチャンスだったのに。

 

『ともかく、皆を起こして公安の応援を呼ぼう。エッグをこのままにはしておけないし』

「そうだな。降谷さんは連絡頼んだ。俺は館内に変な防護魔術がかかってないか調べとくよ」

「分かった。コナン君、すまないがエッグを持っていてくれ」

「分かった!」

【グズッ……】

 

 そのように、俺たちはひとまずの事件解決を迎えたのであった。

 

 

 

 

 

 その後は定型的な処理のみでことは済んだ。

 

 転移した浦思青蘭がロシアで見つかるのはすぐだった。

 日本は形だけ引き渡しを要求をしたが、正直渡されても困るし。

 なによりロシアとしても国内犯罪を犯した彼女を裁くというメンツがあるから引渡しするわけもない。

 

 どちらにしろ彼女はすでに俺の罰を受けると言う刑期を開始している。

 ロシアがどう対応するかなど、どうでもいいことだ。

 

 メモリーズエッグを巡った殺人事件は、その後もTV各局でセンセーショナルに報道された。

 

 なんだか俺が謎を暴いたみたいな流れで処理されており、俺の事務所には取材が殺到。

 「名探偵黄衣ハスタ、怪異の謎を暴く!」みたいに大々的に報道されている。

 

 絶対俺を世間の不安払拭のためのスケープゴートにしただろ。

 公安二人が無言無表情のダブルピースをしていたので、間違いなく公安も一枚噛んでいる

 俺はゴスゴスと二人を肘打ちするなどしたが、もはや後の祭りである。

 

 

 そんなふうに、今回の一件は平和に一件落着。

 俺たちは通常営業に戻っている。

 

 コナン君が星の精のお絵描きに付き合いながら、俺にそっと話しかけた。

 

「黄衣さんって、人間のこと本当に好きなんだね」

「薮からスティック。え、なんで、俺めっちゃ酷い判決下したよね?」

「相手が宇宙人なら100回族滅してたシーンでしょ、あれ」

「それはそう。俺を舐め腐ったキモい羽虫は族滅決定」

 

 俺はうんうん頷いて、コナン君にキッと睨まれた。

 

「見た目差別禁止!星の精を見てよ!こんなに可愛い!」

【ゲタ?】

 

 星の精はマジックできる友達を得て、インスピレーションが湧いたらしい。

 クレヨンでキッドのマジックを絵に描くなどしている。

 俺たちが見ても何をしているかわかる絵で、幼児のそれとしては凄くうまい。

 

 俺は星の精をもしゃもしゃして頷いた。

 

「これは例外中の例外だからね?人間を基準値に可愛いは生かし、キモいは殺す。そう言う単純な話なので」

「荒ぶる神じゃん。なら人間は黄衣さんにとってどんな存在なの?」

「え………生き甲斐………?」

「重い」

 

 コナン君にストレートに言われ、俺はしょげかえって星の精をもっともしゃもしゃするなどした。

 星の精はゲタゲタ笑い、喜んでふんぞり返ったのであった。

 





・ハスターの呪詛
「辛い人生を送る」呪詛。
彼女の仲間の魔術師が震え上がって関わるのをやめる程度には邪悪。
人間的感性からすれば最も重い罰かもしれない。
言葉にすると軽いが、きちんと上げて落とすが心がけられており、人の心がありすぎてないタイプの仕掛けになっている。
苦しみとは、幸せの絶頂が崩れるところにこそある。
コナン君に手を出されて意外とキレてたハスターです。

・星の精
カラーペンを買ってもらって、意気揚々と城の絵を描いている。
意外と上手い。
人間と色覚も視野も違うので色使いと構図がやや独特。
星の精と相談して、コナン君がSNSのアカウントを作成。
星の精の絵を載せるなど活動中。
事務所のメンバーも時折星の精の絵が入ったTシャツを着ている。
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