ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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平和な午後と老人火

 

 まったり事務所にて仕事をする今である。

 

 俺の探偵事務所の名声は高まる一方。

 怪異探偵としての側面も先日の一件で不動のものとなり、恐ろしいほど大量の依頼が舞い込んでくる。

 

 怪異系は大半を公安怪異課送りに、探偵業を毛利さんと知り合いの探偵に送っているのでギリギリ回っているが。

 もはや仕分け業だけで日が終わるレベルの分量が続いている。

 

 今日もまた、俺が頑張ってヤバい案件を抜き出す作業に従事しているのである。

 これは公安、これも公安、こっちも公安、コナン君はこの束。

 ちょっと魚くさいのでこれは俺が要調査。

 

 と、黙々と仕事を続けていると。

 給湯室の奥から「っ!?」と押し殺したマモーさんの声が聞こえてきた。

 どうやら茶を入れようとしたマモーさんに何かトラブルがあったらしい。

 

 パタパタと覗きにいくと、キッチンの蛇口から水が溢れて止まらなくなってしまっていた。

 ナットの緩みが原因だろう。

 

 きゅるっと魔術で修繕すれは、マモーさんは頭を下げて申し訳なさそうにした。

 コナン君が遅れてタオルを持ってくる。

 

「これは神のお手を煩わせてしまい申し訳ございません!」

「マモーさん、これ、タオルどうぞ」

「ありがとう。ふう。まだ搬入から間もない蛇口が緩んでいるとは…」

「まあそういうこともあるさ。俺たちの入居も急遽決まったことだし」

 

 ナイトゴーントがてけてけとやってきて、雑巾で拭いてくれているようだ。

 非常に働き者のナイトゴーントだ。

 掃除も丁寧だし、真面目で誠実だ。

 

 ちょっとしたトラブルも収束し、俺たちはバラバラと席に戻り始める。

 降谷さんもちらっとキッチンを覗き込んでから、ぼんやりと声を出した。

 

「今更なんだがコナン君。僕らの警察学校時代に会わなかったか?」

「え、そうだっけ」

「ああ。思い出せば出すほどすごく明確に会ってる。ほら、山モモの事件だよ」

『あ!大麻の密輸お化け屋敷か!その時の子、丸々コナン君じゃないか!!』

 

 思い当たる節があったのか、諸伏さんが叫んで高速で頷いた。

 どうやらその事件とやらで諸伏さんも一緒だったらしい。

 

 しばらく悩んでから、コナン君が「あっ!勤務中にキャッチボール不良警官!」と降谷さんを遠慮なく指差した。

 すかさず降谷さんがコナン君の両頬をつねり上げる。

 

「いだだだだだ!」

「休憩中に仲間内で息抜きしていただけだろう!」

「でも制服で休憩外出はダメだったはず!」

「…………飴いるかい?最近美味しいの手に入れたんだ」

 

 急に媚びるような声色で、降谷さんはカラフルな飴を懐から取り出した。

 痛いところを突かれてしまったらしい。

 

 というか飴の呪縛からは解放されたはずだが、まだ普通の飴を舐めてたのか。

 太りそうなものだが、黒い風が太ったところで問題ないのか。

 

 コナン君が降谷さんの露骨な賄賂に半目で睨め上げている。

 代わりに瞬時に現れた星の精が「クスッ!」と受け取って自分のものにした。

 

 コナン君がそれを慌てて奪い取って叫ぶ。

 

「だめ!というかそもそも僕が受け取るやつなんだよ!横取りは悪い子!めっ!」

【グズッ】

「ちゃんとこっち見る!反省!」

 

 怒られた星の精は渋々机の上で正座した。

 星の精は悪くないのに…友達が文句言う……。

 

 人飯への執着のあまり不良星の精になってしまったようだ。

 友達のお叱りの言葉にそっぽを向いて反省の色はない。

 

 仕方ないので、代わりに俺が血液グミ新味〈深きものども風味〉を数粒渡して納得してもらうこととする。

 星の精は訝しげな顔をしてパクリと一口。

 そのまま無言で俺にグミを返却した。

 

 ……星の精はこれ嫌い。臭い匂いする。

 

『ダメみたいだな。俺でもわかる。気に食わないって顔してる』

「舌肥すぎだろこの星の精。好き嫌いするんじゃありません!」

 

 降谷さんが深きものども味の血液グミを手に取り「本当に酷い匂いだなこれ」と顔を顰めた。

 磯臭いのは本当のことだから、次回作るときはもう少し匂いを抑えめにして生産しよう。

 

 降谷さんが咳払いして星の精を撫でた。

 

「なんにせよ、まさかのまさかだな。僕らが昔から君と関わりがあったなんて」

「僕もびっくりだよ。前から知ってたの?」

「いや。今蛇口を見て不意に思い出しただけさ。コナン君にも可愛い時があったなあって」

「その暴言は星の精と分け合える美味しい飴一袋で手を打つよ」

「地味に難しいこと言うな君は!」

 

 降谷さんがぼられそうになってるのを横目で見ながら、俺はもそもそと作業している。

 次なる新味であるムーンビースト味の青いグミだ。

 

 出来上がったグミを星の精に渡してやる。

 星の精は絶妙な顔つきでグミを口の中で転がし、少しだけ無言になった。

 採点が厳しいんだわ。

 

 いつものの人血をベースに栄養満点に改良した独自ベース味は最近飽き出しているようだし、いい味ができるといいんだが。

 

 降谷さんが頑張って、魔術で飴を創造するべく教本開いている。

 食物具現化は意外と難しいから、降谷さんのいい練習にもなるだろうよ。

 

 諸伏さんが深きものどもグミの残りをぐにぐに弄りながらぼんやりとした声を出す。

 

『そういや、明日は「天狗の御燈」の件の調査だな』

「長野県警のメンバーとも合流予定だよ。諸伏さんはついでに帰省するんだっけ」

『ああ。兄さんと飲みにいく予定。まぁそれはいつもだからいいんだけど、天狗の御燈の方はどうなんだ?』

 

 天狗の御燈とは、雨の夜に出現する火の妖怪のことだ。

 別名老人火。

 

 これは神話生物というより純粋な伝承妖怪の類だ。

 怪異としては実に小規模で、炎の精程度の力も無い。

 

 だが、最近ではSNSのインフルエンサーが動画を投稿しており、話題になっているため規模拡大が懸念される。

 

 降谷さんがモニターに表示したデータを眺めながら息をついた。

 

「真偽はまだ不明だが、調査によると三ヶ月前に実際に火災で死者も出ている死亡事件ということで、俺たちも次の犠牲が出る前に動く必要がある」

「妖怪系は人の噂で規模拡大するから厄介なんだよな。死者が出ると雪だるま式に大きくなる可能性がある」

『でも怪異が明らかになる前にそう言う事件は聞かなかったけど』

「ある程度噂が大きくなると『そんなのいるわけない』の冷笑で力が大幅減する感じ。現代ならではだよね」

 

 だからこそこれまで大災害にならずに済んできたわけだが。

 今は怪異の存在が知れ渡り、「いてもおかしくない」という風潮が強まっている。

 これまでのようなブレーキは期待できないだろう。

 

 コナン君が生意気な星の精をむぎゅむぎゅ引っ張ってつねりながら、疑問を投げかけた。

 星の精は「グズ…!」と悲鳴をあげてキュウキュウ泣いた。

 

「ねえ、妖怪って怪異としてはどう言う括りなの?」

 

 そのあたりで、マモーさんが、ナイトゴーントと手分けしてお盆にティーカップとお菓子を持ってきてくれたようだ。

 

 美味しそうなイチゴのタルトだ。

 あらかじめ冷やしておいた同型の俺製血のイチゴタルトも一緒だ。

 素早く気を取り直した星の精が、おっきな口で満面の笑みを浮かべてワクワクしている。

 

 マモーさんが穏やかに笑ってコナン君の疑問に答えた。

 

「怪異というのは新しい概念ではあるが。古代ハイパーボリアでは脅威…すなわちルールを持つものは体系的に管理されていたよ」

「それって?」

「大きくは、実体あるものと実体なきもの。実体あるものは強力だが死ぬ。実体なきものはよほど強くなければ干渉力を持たないが死なない」

「妖怪は実体なきもの?」

「そうだ。ほとんどの場合、弱くて取るに足りない。特筆して強いものを、我々は『旧神』と呼んだ」

 

 俺はうんうんと頷いてマモーさんの言葉に同意した。

 

 諸伏さんが「ってことは、俺は実体なき弱いもの?」と自分を指差して訝しげな顔をしている。

 弱いかは諸説ありそうだが、現状旧神ほどではないのでそうなるだろう。

 降谷さんがイチゴだけを齧りながら眉を顰める。

 

「じゃあ、僕らはどうなるんだ?」

「神とその化身は実体あるが死なぬもの。すなわち『支配者』という括りになります」

「なるほど。結構シンプルな枠組みなんだな。公安でも採用すべきか」

「他にもルールで系統立てて分類する方式もあったけど、結局この分類が一番定着したよね。わかりやすいのがいい」

 

 専門家向けにはルールの魔術的に仕組みによる分類の方が使われてたが。

 やはり魔術に堪能でないと分類するのすら一苦労だからな。

 

 ちなみに、俺はもちろん「支配者」の区分に入る。

 これはクトゥルフ神話で言うところの「地球の旧き支配者、旧支配者」とは意味合いが異なっている。

 この宇宙のルールの支配者、すなわち神を指す区分なのだ。

 そのため外なる神もここに分類される。

 

 そして地球由来の形なき力はそのルールに敗れ、「旧神」として格落ちした、というわけだ。

 

 などと話している間に、星の精は一瞬でペロリとタルトを食べ終えたようだ。

 「ゲタゲタ」と星の精は訝しげな顔をしてトストスと触手で机を叩いた。

 

 星の精のタルトがない。星の精はタルトをもらってない。

 

 俺は憤慨して星の精のゼリー体をぐねぐね引っ張った。

 

「嘘をおっしゃい。二個目はないです。星の精最近走り込みサボってるだろ。太っちょにあげるタルトはありません!」

【ゲタ!!!】

「喚いてもダメ。立派な星の精になれないぞ!」

 

 星の精は「グズッ、ゲタゲタ」とコナン君に俺の非道を言いつけている。

 コナン君は星の精のグスグスゲタゲタを辛抱強く聞いて、「星の精はね、わがままは嫌われるんだよ」と懇々と説教した。

 星の精がだんだんしおしおのくしゃくしゃになっていく。

 

 コナン君は枯れてしまった星の精をヨシヨシした。

 

「走り込み十周したらもう一個欲しいって。だめかな?」

「仕方ないなぁ。一個だけだからな」

【ゲタゲタ!!!】

 

 瞬時に復活し、星の精が艶々の触手で大いにはしゃいだ。

 諸伏さんが「うーん、これがデブの循環、デブループってやつか」と頷いている。

 降谷さんがペンを回しながらくすくすと笑った。

 

「僕が様子見ながらメニュー作ろうか」

『でもゼロのメニューだとマッチョの精ができそうだしちょっと』

「僕のやってるメニューの流用版だから別にそう重くないぞ」

『なるほど。マッチョの風かぁ』

「表出るかヒロ」

 

 そのように穏やかに雑談する、本日午後なのである。

 





・マッチョの風
この黒い風は同規模の同じ黒い風平均に比べて何故か風速が速い傾向がある。
つまりマッチョである。
別に黒い風が体を鍛えても何にもならないような気がするが、体調が整うからと降谷さんはずっとトレーニングを続けている。
そのせいかもしれない。

・星の精
愛情をいっぱい受けて、我儘を言うことを覚えてきた。
友達に説教されて萎れるなどしがち。
割と健全。
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