ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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屍人の御燈の正体〈賢者の灯火〉

 

 土下座する老人火に、俺は激しくガンをつけた。

 

「おいおいおいおい、困るよそういうの〜俺が危険人物みたいな反応はさぁ。この心の広い旧支配者に対してさぁ。もしかして喧嘩売ってる?」

「めめめめっそうもございません!!!」

「ふーん。ならいいや。君にはね、ちょっと聞きたいことがあって来てもらったんだけど、時間あるよね?」

「はいッもちろんですじゃ!!」

 

 俺に肩を組まれ、老人火は硬直してゼンマイ仕掛けの人形みたいにガタガタと頷いた。

 素直でよろしい。

 大和警部が胡乱な顔をして眉間に皺を寄せた。

 

「俺らは捜査一課であってマル暴じゃねぇんだが」

「力が行き着く先は怪異も人も変わりないということなのでしょう。興味深いですね」

「そういう話か?」

 

 非常に訝しげな大和警部が俺をみた。

 少しヤンキー仕草過ぎたらしい。

 横の老人火はまるで人間のように戸惑い、肩を寄せて不安そうにしている。

 

 チッ、人間ぶりやがってよーー!!

 

 眉を釣り上げた降谷さんが「黄衣君」と口をへの字にして声を出した。

 

「そう苛立たないで欲しいんだが。僕まで心がささくれ立つ」

「それは失敬。こいつがあまりに自然な人間型でむしゃくしゃしたんだ。というか怪異のくせに生意気じゃないか?」

「まあ、それはそうだが」

 

 俺から流れ込む意思に触れた降谷さんは「怪異が人型なのは…そうだな。生意気だ」と同意した。

 目がぐるぐる回って虚ろな表情になっている。

 

 べしっとコナン君にはたかれ、俺は激しく叱られた。

 

「降谷さんの洗脳禁止!その怪異も放してやること!」

「黄色悪いやつ!友達怒らせた!ほしのせーを見習え!」

「いや星の精は最近食いしん坊で怒られてるじゃん!」

「………ほしのせーはよく分からない。しらーーないーー」

 

 都合よく普通の鳥みたいにピヨピヨ言い始める星のオウムを、コナン君がぐにぐに引っ張った。

 しょげるオウムを腕の中に抱え込んで、コナン君が老人火に静かに話しかける。

 

「あなたには悪いけれど、人にすでに被害が出てる。放ってはおけない。だから話し合いたい」

「それは……そのためにワシの話を聞いてもらえるのはありがたい話だが、わしの領分を超える話だ」

「どういう意味?」

 

 老人火は好々爺の顔でコナン君を撫でた。

 皆がやや動揺して、少しだけみじろぎしている。

 コナン君と視線を合わせ、老人火は穏やかに微笑んだ。

 

「ワシらは理に付随したちっぽけな意思でしかない。意思ある風は、己がどこへ吹くかなど決められぬ。それを決められるのは大いなる神々だけじゃわい」

「………つまり、制御が利かないってこと?」

「逆じゃて。ワシらはオマケ。理次第でワシらは変わる。翁は子供に優しいと、皆が思うからワシはこうしてヌシに喋るのよ」

 

 まあ、その通りだ。

 薄っぺらな妖怪は喋るだけで決定権などほとんどない。

 喋る自然現象、虚ろなAIでしかないのだ。

 

 俺がどれほど脅しかけても、こいつは人の心がそう思うのなら、人を襲って喰らうだろう。

 なにせ俺の脅しかけに恐怖するのだって「生命として当然そうだろう」という反応をとっているにすぎないからな。

 

 自分の意思を長く芯を持って活動できる妖怪系怪異は、それだけで結構力のある怪異であるということでもある。

 

 コナン君は瞳に憂いをを込めて俯いた。

 諸伏兄が彼の言葉を継いで問いかける。

 

「では、どこか別の場所に移動して棲み分けることは不可能だということですか?」

「皆がそう思うのなら、可能じゃろうな。山奥から出てこぬと思うのならばの」

「元々老人火は山奥にのみ出るものだ。正しい知識を流せば可能性もなくはねぇ、ってとこか」

 

 苦々しいという様子を隠すことなく、大和警部が吐き捨てた。

 大和警部自身、それがいかに難しいかを理解しているのだろう。

 

 人の噂を操作するのは至難の業だ。

 統制しがたく、容易く思わぬ方向に向かう。

 

 加えて「そこまで手間をかける必要があるのか」という話もある。

 情報操作もタダでとはいかない。

 人も金も動くところに、同情だけで金をかけるわけにはいかない。

 公金である以上、正しき法を定め、その通りに動かさねばならないのだ。

 

 老人火は顎髭をもしゃもしゃと動かしてあぐらをかいた。

 

「死にたくはない。死にたくはないが、理が起こり廃れるは世の常じゃ。その前に公園清掃ボランティアの中島さんに連絡しても言いかえ?次の清掃も参加予定だったんじゃわい」

「すげー地域密着型の怪異だなこいつ。やっぱむしゃくしゃして来た。人間型しやがって」

「黄衣さんステイ」

 

 ガルルルル、と俺が唸るとコナン君にポコっと頭をはたかれた。

 

 降谷さんが苛立ちを堪えるようにつま先で床を蹴ってざわつく心を抑えようとしている。

 

「黄衣君は本当に良くない。またイライラしてきた。処分は僕がやっていいか。何か発散先がないと円形ハゲができそうだ」

『ゼロをいじめるなんて酷いぞ!旧支配者の横暴を許すな!』

「変な活動始めないで!というか諸伏さん全肯定botかよぉ!」

 

 わいわい騒ぐも、やはり暗い空気は拭えない。

 変に喋って人間ぽいから誤解するんだろう。

 彼らは喋るがそこに魂は無い。

 

 それをわかってもらいたくて分かりやすく召喚したが、余計に惑わせる結果になってしまったらしい。

 

 浮かない顔のコナン君が少しだけ俺をチラリと見たが、やっぱり声をかけることはなかった。

 

 俺ならなんとかできると分かっているが。

 そんなのキリがないし、意味もないと賢い彼は理解している。

 今のこの老人火の人格だって流動的なのだから、たとえなんとかできたところでその後の善性を保証できるものでは無い。

 

 老人火はコナン君を撫でて「ほっほっほ」と顎髭をもしゃもしゃした。

 

「そうも人外を案じては身を滅ぼすぞ、若人よ。ワシらは理解し得ぬもの。分かり合えぬもの。わかったつもりで何一つ分かっておらぬもの」

「…………」

「人同士でそうも相争っておって、ワシらに手を差し伸べるなど片腹痛いわな」

 

 カラカラと笑って、いそいそと安物のスマホを取り出して電話をかけ始めた。

 知人との最後の電話をあっけないほど簡単に済ませて、「健勝での!」と言い置いて電話を切る。

 

 俺は魔術式を部屋に張り巡らせ、老人火駆逐のための力場を整えていく。

 

 街にいるのは全て増えた「コイツ」だから、一匹一匹に話を聞く必要はない。

 きっと悲しむ人間は生まれるだろう。

 うつろう理の狭間で人とそれなりに密接に関わっていたようだし。

 老人火の纏っているマフラーは貰い物のように見えた。

 

 俺が魔力の奔流を収束させて魔術陣を部屋に浮き上がらせても、誰一人反対しなかった。

 異論があるものはいないようだ。

 

 火災で既に死傷者が出ている。

 どれほど望まないことだろうと、それは人の敵だということ。

 助ける意味はない。そこに魂などない、現象そのものなのだから。

 

 諸伏兄だけが別れの際を惜しむように口を開いた。

 

「最後に聞きたいのですが。貴方のように、人に紛れて暮らす怪異はよくいるのですか?」

「さぁの。いるにはいるが、その数を断じられるのはそこの大いなる神ぐらいのものじゃろう」

「……そうですか」

「あーー死にたくない。まだ中島さんの孫にスマホの使い方教わっとらんのに。大いなる神よ、早うしとくれ」

 

 老人火に急かされたので、仕方なくぎゅるりと術式を発動する。

 

 それだけであっけなく、音もなく、痕跡もなく。

 老人火という現象はこの世から消滅したのであった。

 

 俺に命令してコナン君にご高説を垂れるとは、生意気な妖怪だ。

 老人ということは、賢者というイメージと直接に紐づいている。

 それだけに、自身のあり方についてもまた聡い存在であったということだろう。

 

 このままであれば親しい人を燃やしてしまう懸念も、当然理解した上で大人しく死を受け入れた。

 

 星の精がコナン君にピタッと寄り添って「友達元気ない?ほしのせー撫でる?」と頭を擦り付けた。

 その腕の中に存在するのもまた、怪異である。

 

 大和警部が盛大なため息をつく。

 髪をくしゃくしゃにかき混ぜながら、悪態をつくように言ったのだった。

 

 

「これだから、怪異案件は胸糞悪い事件ばっかだってんだよ」

 





・おでん屋妖怪
意外と力のある妖怪。
自らのルールを自らの意思で振るうことができる、上位の妖怪である。
でも旧支配者や旧神を前にすれば、吹けば飛ぶような存在でしかない。
今は日本が恋しくなってシンガポールから帰国。ひっそりと山の中で屋台を開いている。
ジン達とはLINEグループ作って日頃やりとりしてる。

・老人火
別にいい人なわけではなく、自らに課されたイメージに忠実なだけ。
それでも、その虚構には親しい人がいて、井戸端会議があって、人付き合いがあった。
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