ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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黒の組織との再会

 

 この頃は事件づくめの毎日なり。

 しかも不自然に事件づくめということで、疲弊する一方である。

 

 ついこの間の寝台列車の旅もそうだ。

 

 以前に事件を解決したことのお礼に、北海道へ向かう豪華寝台特急「北斗3号」のチケットを貰ったのだが。

 せっかくの旅行だったというのに、車内で人が殺される事件があったのだ。

 

 もっとも、諸伏さん、降谷さん、コナン君の名探偵トリオがあっという間に解決したが…なんにせよ疲れるばかりだ。

 

 最近ではニャルラトホテプの陰謀なんじゃないかと疑心暗鬼にすらなってきている。

 

 もちろん、俺も念入りに確認したがそんなことはなく。

 魔術の気配も、神話生物や団体が裏で糸を引いてるとかもなし。

 純度100%、偶然事件が集中しているに過ぎないと言う結果であった。

 

 だとしたらこの事件遭遇率は……一体……?

 

 ともかく、毎日事件事件の連続で、俺の名声も高まる一方ということである。

 

 降谷さんが加わり、探偵事務所が捌ける事件の量も増えたことも影響はしているだろう。

 相変わらずコールドケースが依頼の主な領域を占めるが、その時その時で遭遇した事件を解決することも増えたし。

 

 

 とまあ、そんなわけで今日もまた、地道に依頼を捌いていく今現在である。

 

 

 隣の机では、昨日現場に行った時の調査結果を諸伏さんが黙々と整理中だ。

 コナン君が帰ってきたら一緒に報告書を仕上げるつもりなのだろう。

 

 事件記録は全てファイリングして明美さんがわかりやすく保管しておいてくれている。

 今では壁一面が書棚で埋まっており、書類の置き場所が悩ましくなってきている。

 

 降谷さんは一人で出張中だ。

 四年前に起きた大火事の件で、郊外に立つ古びた青い古城に住む間宮家とやらに聞き取り調査に行っているとのこと。

 まあ、どうあれ彼に任せておけば不安はあるまい。

 

 時刻はもう夕方だ。

 顔を上げると、窓の外に街並みの向こう側に沈みゆく夕陽が見えた。

 冬だからか随分と日没が早い。

 コナン君もそろそろ学校が終わって下校してくる頃だろう。

 

 諸伏さんがぼんやり資料に書き加えながら窓の外を見つめた。

 つられて書類整理をしていた明美さんも外を見ている。

 

『少年、まっすぐ家に帰って来られるかな…また銀行強盗に一発食らわせて警視庁から電話が来るとかじゃないといいけど』

『彼、本当にやんちゃよね。志保も一緒にいてすごく楽しそうだし、羨ましくなっちゃうわ』

『いやアレは真似しちゃいけないヤンチャさだろ!』

 

 まあそれはそう。

 俺が苦笑すると、ふと、諸伏さんのスマホが着信音を鳴らした。

 

 ちなみに、諸伏さんの持っているスマホは俺名義で買った最新機種だ。

 穴が空いた霊体のやつの他に、業務用として別途購入している。

 

 電話に出た諸伏さんは電話口から聞こえる話になにやら目を見開いて驚愕したようだった。

 「はぁ!?!?おまっ、ジンの車に盗聴器……いやいやいや!」と焦ったように漏らしている。

 そしていくつか会話してから、「ともかくすぐ行く!!!あと説教覚悟しとけよ!!!」と言い置いて電話を切った。

 

 どうもコナン君はまた大暴れしたらしい。いつものことと言えばいつものことだ。

 

 「俺も行くか?」と諸伏さんに声をかけたが、彼は上着を羽織ってから首を横に振った。

 

『今回は俺一人でいい。行ってくるよ』

「おう、行ってらっしゃい。気をつけてな」

『工藤君を頼んだわね、諸伏君』

 

 諸伏さんの後ろ姿を見送って、俺は椅子の背もたれに体重を預けた。

 最近の諸伏さんは業務のこともあり1日の半分以上を実体化で過ごしている。

 

 あまり死者をこうして引き止める真似は本来良く無いのだが。

 この雰囲気感が心地よくて、こうしてズルズルと続けてきてしまっている。

 

 仕事がひと段落したらしい明美さんが、書類を置いてこちらに微笑みかけてくる。

 

『ああ、私この後少し出てくるわ。帰りは遅くなるかも』

「OK、実体化はかけ続けておいた方がいいか?」

『いいえ。幽霊の姿で動くつもりだから大丈夫よ』

「気をつけてな。怖い怪物や魔術師に会ったら俺を呼ぶんだぞ?」

『ありがとう、黄衣君』

 

 優しく微笑む明美さんの姿に、俺も少しだけ肩の力が抜ける。

 死んでから日が浅いが故に塞ぎ込みがちだった彼女も、最近では明るい顔が増えてきた。

 いい傾向だ。

 

「ところで、どこにいく気なんだ?最近よく出かけてるようだけど」

 

 そう聞けば、明美さんは少しだけミステリアスに笑って、こう答えたのだった。

 

『ふふ。それはね、愛情深くて少し薄情な、私の彼氏のところよ』

 

 

 

 

 

 さて、そんなことがあってから二時間。

 

 日も沈んで、辺りの道を都市の灯りのみが照らしている。

 諸伏さんとコナン君は、まだ帰って来ない。

 

 流石にそろそろ心配なので、俺も様子を探しにいかんとするものなり。

 

 「ハスターの瞳」を起動すれば、彼らは今なぜか米花ホテルにいるらしい。

 やけに多くの人が同ホテル内で彷徨いており、その一人一人に警察官達が聞き込み調査を行なっている。

 やっぱり事件だったらしい。

 

 ひとまず米花ホテルへ向かうとするが、俺には車が無いので徒歩になる。

 が、米花町は地下鉄もたくさん通っているので、あのくらいの距離ならそこまで心配はしなくていいだろう。

 

 黄色い厚手のコートを羽織り、事務所に鍵をかけて外へと出る。

 

 外はひどく冷え込んで、路上には雪が薄らと積もっていた。

 ヨグ=ソトースの表皮が滞留したことによる時空異常が原因だろうが、こうも寒暖差が激しいと体調がおかしくなりそうだ。

 

 しんしんと冷え切った道をゆっくりと歩いていく。

 米花駅まですぐそこだ。

 いつも通り最短ルートであるビルの影を通りがかった、そのときである。

 

 瞬間。

 特徴的な空を切る音とともに、左足に鮮烈な痛みが走った。

 

「ッ!?」

 

 力が入らずよろけたところをもう一発。

 おそらくサイレンサーをつけた拳銃で右足を射抜かれる。

 

 どさりとアスファルトの上に倒れ込んで、俺は呻いた。

 顔を打たないように地味に柔らかく倒れてみたが、気付かれていないといいなと思うなど。

 

 ツカツカと背後から歩み寄る革靴の音がする。

 息も絶え絶え、といった雰囲気を醸し出しながら振り返ってみる。

 

 それは、長い銀髪に黒づくめの服の男であった。

 名前は確か諸伏さん曰くジン、だったか。

 

 ジンは俺に近づくと、そのまま追加で俺の両手首を拳銃で撃ち抜いた。

 ご丁寧なことだ。

 別に両手があってもなくても、俺の戦闘力に違いなんて無いのに。

 

 そうして四肢すら動かせなくなった俺の頭にゴリッと拳銃を突きつけながら、ジンはせせら笑った。

 

「よお、久しぶりだな。俺のツラは覚えていてくれていたか、名探偵?」

「…ッ!」

「まさか忘れた、とは抜かさねぇよな」

 

 俺の左足の傷口を踏みつけながら、ジンは凶悪に口角を釣り上げている。

 ナチュラルに拷問してくるとかやっぱマフィアは怖ぇな!

 

 しかし、この様子だと俺と会話したいっぽいように見えるが…一体なんの用だ?

 いや、気のせいか。

 冥土の土産にいくらか喋らせてやる、くらいの意味合いの方が強いのだろう。

 

 特に俺から情報を聞き出す気が無いのなら、俺としても警戒しなくて済むから楽でいい。

 

 苦しげに見えるように、俺は顔を歪めながらジンを睨み据えた。

 口から血とか垂らした方がいいかな。

 別に腹を撃たれたわけじゃ無いからダメか。

 

「俺に…何の用だ?」

「一体どういう手品で俺たちの目を欺いた?それを吐くんなら、命は助けてやってもいいが」

「心にも無い嘘を、言うモンじゃ無い、ぞ」

「はっ、テメェの命は九つあるっていうんなら、試してみても良いな」

 

 嘲笑うように引き金にかかる指に力を入れる。

 九つの命って言われてもな。

 俺に死という概念は無いので何回試したところで同じことだ。

 

 俺が白状する気がないのを悟ったのか、ジンは目を細めた。

 

「まあいい。そのくだらねえトリックを墓まで持っていく気なら止めやしねぇさ」

「………」

「あばよ名探偵。恨むんなら、自分の不運を恨むんだな」

 

 サイレンサーの先がわずかに瞬く。

 脳天を弾丸が通り抜けて、血が雪と混ざってアスファルトへ染みていく。

 

 路地裏で起きた惨劇に気付いたものは誰もいない。

 俺渾身の死んだふりが功を奏したのか、ジンは興味なさげに銃を下ろしたようだった。

 

 後ろからもう一人の男、ウォッカが駆け寄ってくる。

 

「終わりやしたかい、兄貴…それにしてもこいつ、薄気味悪いったらありゃしねぇ…」

「復帰したばかりだろう、無理をするなウォッカ。車で待っていろ」

「あ、ありがとうございやす!!……ですが」

 

 一度言葉を切り、ウォッカと呼ばれた男が躊躇いがちに口を開く。

 よく見ればこの男、俺が以前【黄衣の王の凝視】を叩き込んだ男だ。

 ほんの少しだけSAN値が回復している辺り、きちんと療養に専念したらしい。

 

 ウォッカと言うらしい男はゴキブリの死体でもみているように引きながら、眉を釣り上げたようだった。

 

「兄貴…こいつ、本当に死んだんですかい?」

「何?」

「だって、キャンティもバーボンも『間違いなく殺した』って言ってたんですぜ?バーボンの方なんざ死に顔の写真付きだ」

「……フン」

 

 ウォッカの言うことももっともだと思ったのか、素直にジンは俺の首元に手を当てて脈を確認したようだった。

 一応死亡確認を取ることにしたらしい。

 

「脈はねぇようだが───ッ!」

「ど、どうしたんですかい兄貴?」

 

 未だとくとくと吹き出る血液を見ながら、ジンは驚きに目を見張った。

 

「こいつを袋へ入れて車のトランクへ入れておけ」

「え、兄貴…!?」

「脈はもうない。心臓も動いていない。だと言うのに見ろ、『血液が勢いよく脈打って吹き出している』」

 

 ………やっべ。

 

 ウォッカが「そりゃあ、一体…!?」とのけぞって言った。

 

 俺は肉体の再現に関して、結構適当に行なっている。

 くちゃっと触手を肉団子にしたものを人型にして皮膚で覆っただけ、と言うべきか。

 だから血液はその時のノリとライブ感で出しているのだ。

 

 病院に行く機会などないだろうとたかを括っていたが……この調子ではやっぱりまずかったらしい。

 

 ふわっと雰囲気で死んだふりをしているからこんなことが起こるというわけだ。

 俺は内心冷や汗流しまくりで考えを巡らせた。

 

 このまま死体(?)を持っていかれるわけにはいかない。

 

 俺の選択肢としては、そうだな。

 このまま起き上がって逃走もしくは抵抗する。

 これは街中で銃撃戦が始まってしまうから却下だろう。

 

 「門の創造」などのワープ系魔術で撤退する。

 悪く無いが、話が振り出しに戻る気がするので保留。

 ベストは「俺のことは殺せない」と思ってもらうことだ。

 

 とすると。

 街中でやるのは非常に危険だが、やる価値はある。

 

 俺はゆらりと立ち上がって丁寧に編んだ魔術を発動する。

 再びジンが拳銃を発砲するのと同時に、俺の魔術が空間に展開し、56層の認知結界を張り巡らせた。

 

 弾丸が俺の腹にめり込む。

 俺の仮の皮膚を突き破り、空いた穴から細長い触手がわっと踊り出してくる。

 

 次第に皮膚が脆く崩れ落ち、その姿はおぞましい触手で構成された人型のような何かへと成り果てた。

 羽織っていた黄色いコートがみるみるうちに経年劣化し、ぼろ布へと変化する。

 

 ビチビチと跳ねた触手が雪とアスファルトを打ちつける。

 今回は粘液はオミットだ。

 アスファルトを溶かしてしまうと迷惑がかかるからな。

 

 黄衣の王、最小バージョンの顕現である。

 

 認知結界を展開してあるので、うっかり通行人や近隣住民が俺を目撃してしまっても、単なる黄色コートの不審者にしか見えないはずだ。

 また、今回は俺の存在規模を内側に縮小させる効果も組み込んだ。

 なので、よっぽど注意しない限り旧支配者の顕現を悟られることはないだろう。

 

 悪影響があったとして、東都内の感受性の高い人とかが俺の絵を描きたくなってしまうかも、というぐらいだろう。

 

 ジンが本性を見せた俺に一瞬硬直を見せた後、頭っぽいと思われる部分に発砲してきた。

 凄いな、初見で発狂を免れたらしい。

 

 ただ、拳銃ぐらいでは残念ながらノーダメージだ。

 そのまま、ジンとウォッカのいる方角にあるマンホールへと勢い良く突進する。

 

 彼らは俺が襲いかかってくると思ったらしい。

 

 ウォッカが恐怖に硬直しているところを、ジンが勢い良く横に引っ張って俺をかわしたようだった。

 俺はその間にマンホールから下水道へと逃げ込んだ。

 

 そのままどぼん、と身体をくねらせて下水管の奥へと身を滑りこませる。

 うおおお臭え汚ねぇ!!!!!

 防護魔術を多重に展開してるから汚水には触れないとはいえ、生理的にあまりにも無理だ。

 

 汚水の海を泳ぎ、涙目で遠く離れた別のマンホールから脱出する。

 方向としてはコナン君達の反応がある位置をぼんやりとめざしての移動となる。

 もちろん、出る時は周囲に人がいないことを確認してからの行動になる。

 

 形を「黄衣ハスタ」のそれに直してから、念のため注意深く身体中を確認する。

 まだ触手が残ってるとかならいいが、身体が汚物まみれとかだったらもう立ち直れないかもしれない。

 一応綺麗な状態だったが、もう二度とやらないと俺は固く誓ったのだった。

 

 さて。

 時刻を確認したが、そこまで経っていないようだった。

 想定外のイベントがあったが、早くコナン君達を迎えにいかねば。

 

 と、ちょうど通りがかった車が路肩に停めて助手席の窓を開けた。

 

「あれ、黄衣さんこんなところで何してるの?」

「コナン君!よかった、無事だったんだな!」

 

 ややあちこちに擦り傷や焦げた跡のあるコナン君が窓から顔を覗かせた。

 後部座席には哀ちゃんが乗っているようだ。

 運転手は諸伏さんで、どことなく陰鬱な気配が漂っている。

 

「俺はコナン君達が全然帰って来ないから探しに来たんだよ」

「あはは…というかその服どうしたの、ボロボロだけど……って、それ弾痕!?」

「組織が俺の命を狙ってきたんだよ。そっちは処理済みだから安心してくれ。詳しくは家で話す」

『いやいやいや、それさらっと流す情報じゃないだろ…』

 

 車に乗せてもらって俺は大きく息をついた。

 今日1日でどっと疲れた心地である。

 

「で、そっちはどうだったんだよ。志保ちゃんが乗ってるってことは、組織絡みか?」

『ああ。結果としては一進一退ってところかな。志保ちゃんの幼い頃の姿を知る幹部を一人始末できたのは僥倖だろうな』

「始末?って、諸伏さんの持ってた拳銃って撃てたんだ」

 

 実に物騒な会話だ。

 どこか陰惨な顔で諸伏さんが首を振った。

 

『いや。撃てなかった。だから憑り殺させてもらった』

「!」

『正確には気絶させて火事の中に置いてきた、だけどな』

 

 どうやら亡霊としての力でPOW(精神力)を奪ったらしい。

 コナン君がやるせなさそうに静かに目を伏せた。

 

『どうやらジンへピスコの暗殺依頼が来ていたみたいだし、火事に巻き込まれなくともそのまま殺されただろうな』

 

 ああ、なるほど。その暗殺の帰りに俺が襲われた、みたいな時系列なのか。

 あの銀髪精力的に動くやんけ、などとどうでもいいことを考えつつ。

 

 助手席からだとコナン君の顔はよく見えない。

 

 俺は少しだけ、彼の正しさと優しさが守られるような世の中だったらよかったのに、と。

 そのように詮のないことを考えたのだった。

 




・バーボン
え?黄衣ハスタの暗殺に失敗した?
だから(笑)言ったじゃないですか(笑)
僕の調査が完了するのを待てって(笑)

・赤井秀一
毎晩亡き彼女に見られていることに気付いていない。
スコッチ飲みながら静かにタバコをふかしている。


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