秘書さんの登場によって一旦中断された捜査を再開した今現在。
俺は降谷さんを招来していた間の進捗をコナン君に聞くことにした。
コナン君は少し思い悩んで、慎重に口を開いた。
「殺した方法は見当がついてる。犯人も。でも動機がわからない。25年前に起きた事件と関わりがありそうだけど」
降谷さんがやや目を見開いて、しゃがんでコナン君と目線を合わせた。
「君が攻めあぐねているとは、随分な難事件なんだな」
「込み入ってるのもあるけど……情報自体が少ないからね」
「うむ。純粋に島民の口が重いから閉鎖性かな。ほらあれ、因習村に近い感じ」
「なるほど。それは厄介だ」
新顔登場に困惑して小さくなる七瀬さんに、降谷さんは素早く外向きの仮面を被り直した。
安室透の爽やかな顔だ。
借りてきた猫とも言う。
「ああすまない、僕は警視庁の降谷というんだ。話は聞いているよ。災難だったね」
「………剣持警部の同僚の方ですか?」
「警視庁も大きな組織だから、顔見知りではないけどね。同じ組織に勤める、と言う意味では間違いではないよ」
柔らかい口調の降谷さんに少し安心したようだ。
開幕嫌味な警官だったし、そりゃ警戒するわな。
おまけに俺らのパーティは子供、俺、ヤクザの三人組だから不安だったのはよくわかる。
俺の信用度が低いのが少し気になるが。
ちょっとパッパラパーなのは否定できないし。
というか、そろそろ推理を公開してもよかろうよ。
コナン君にチラッと視線を向ければ、「うん、パペット役頼んだ」と頷いた。
動機をこれ以上深掘りしても時間を食ってしまうし、トリックがわかったなら本人の口から話してもらったほうが早かろうよ。
咳払いして魔術を声に僅かに纏わせ、「皆さん、俺から話があります」と伝える。
人を信頼させる、説得力を持たせる声だ。
普段は使っていないが、閉鎖的なこの島の環境を思えば使っても損はなかろう。
注目が集まったところで、蝶ネクタイ型変声機を構えたコナン君が話し出す。
あとは流れ作業、口パクの時間だ。
鳥羽美佐を殺したのは、同じ風花堂に勤める従業員の女性だ。
トリックは省こう。
不可解なのはその出自だ。
写真を見るに、彼女は幼い頃この島に住んでいた。
父親はこの島の有力者で、25年前に島の図書館で拳銃自殺をしている。
25年前、というのが兎角キーワードになっているのは間違いない。
ただの炭鉱だったこの島で金塊が発見されたのも、「惨劇」とやらが起こったのも、有力者の自殺も。
全て25年前。
ありがちなのは発見された金塊をめぐって内紛が起こった、ぐらいの話だが。
推理が終わり、物陰から出てきたコナンはまだ難しい顔をしている。
「……私たちの復讐のため、って言ってたね」
「口の固いアマだ。こういう輩は根本から絶たねぇと禍根を残す。ヘマをするなよバーボン」
「分かっている」
ジンが特に思うところのない顔でタバコを吸って降谷さんに忠告する。
降谷さんも冷徹な瞳を隠すことなく応えた。
どれほど問いかけてもそれ以上口を割らなかったから、事件の全容は見えてこない。
私たち、というからには他の仲間もいて、復讐はまだ終わっていないと考えるべきだろう。
降谷さんが厳しさのままに目を細める。
「既に本土には応援を要請している。今は波が高くて船が出せないようだが、天候が回復する明日朝には到着できるだろうとのことだ」
「金田一さんを救出しに行くための船の方も明日になるかな?」
「ああ。もっとも、無事にこの異界に入ることができたらの話だが」
この異界に閉ざす性質は無いからなんとかなるだろうが、何か不具合が起こってもおかしくは無い。
ともかく、これ以上は果報は寝て待て、ということになるだろう。
犯人は駐在さんのところで一旦拘束する形を取るらしい。
俺たちはまったりと宿に戻ることになった。
25年前の惨劇について深掘りしてもいいが、応援が到着するまでは町長側を刺激するのは控えたほうがいいだろう。
俺たちはとことこ歩きながら、七瀬さんからちょっと距離をとって内緒話した。
七瀬さんはコナン君がついているからか、少しだけ顔が明るい。
「……ところで、僕の宿って無い感じだよな?」
「宿屋無し人です。帰ったら民宿の女将さんに一人追加できないか聞いてみるつもり」
「テメェは食わなくても寝なくともどうとでもなるだろうが。人間ぶってんじゃねぇ」
「不愉快な鼻風邪ひかせてやろうかジン」
「地味な嫌がらせはやめろ!」
この二人も意外と仲がいいんだよな。
ニャルゲームが生んだ絆だ。碌でもねぇとは言ってはいけない。
「ともかく、ダメなら夜毎に送り返すか、別の宿を探すかするよ」
「頼む。あの目立つ招来はなるべく控えたいから、できればその時は別の宿を探したい」
「だからあのエフェクトは降谷さんの意向が反映されてるだけだってば!俺が悪いみたいに言わないで!」
「……?僕はいい感じに現れたいだけで別に目立ちたくはないが」
いい感じに現れはしたいらしい。
具体的にはターミネーター的な感じで。
そんなふうにわちゃわちゃしながら宿に戻ると、宿に着いたあたりで通信があった。
金田一君からだ。
「聞こえるか!」という声を七瀬さんも受信したようで、「はじめちゃん!」と嬉しそうな声が響いた。
『美雪も無事か。一応こっちは剣持のおっさんと合流できた!そっちは何か動きはあったか?』
「おお、刑事さんも無事か、よしよし。だが俺たちの方は殺人事件だ」
『ッなんだって!?』
「鳥羽美佐さんが殺された。25年前の島の有力者の娘が犯人、確保済みだが動機を吐いてない」
やはり中学の同級生が殺されたのはショックだったらしい。
金田一君は「なっ……殺された、なんて…」と声を震わせている。
あらましを説明したが、やはり不可解なのか向こう側から悩むような声が聞こえてきた。
「そっちは何かわかったか?」
『どうやらここは炭鉱の島らしい。かなり閉鎖的で、夕闇島そっくりだ。島の外から来た俺らは目の敵にされてる。あとこっちでも殺人事件発生してて、かなり面倒なことになってる』
降谷さんがそれを聞いて首を傾げた。
「炭鉱労働者?それは本当なのか?」
『………誰だ、あんたは』
「僕は警視庁の降谷という。黄衣探偵とは知り合いでね。それで、炭鉱労働者と言ったが本当か?」
『ああ。少なくとも働いてる本人達はそう信じてると思う』
降谷さんの眉間のしわが深くなった。
地図からも隠された島で単なる炭鉱労働なんて、収支が合って無さすぎる。
間違いなくその炭鉱とやらに神話生物チャコタが隠されているのだろう。
話に割り込むのは剣持警部だ。
金田一君と一緒にいるらしく、声が近く感じる。
『ところで警視庁と言ったか。俺もそうなんだが、どこの所属だ?』
「……僕は公安部公安総務課ですが」
『うっ、公安か。やっぱりあの探偵、協力者とかその辺なのか』
「さて、その辺りは僕らの流儀を理解してくれているのなら、答えは一つです」
『勿体ぶった言い回しだな。公安が出張ってくるって、この島本当に一体何を企んどるんだ…』
実に嫌そうな顔をしているのが見えてくるような声色だ。
なんにせよ、あまり良い企みではないのは間違いない。
『それと、こっちで起きてる事件も共有しておきたい』
「殺人事件ってやつか」
『ああ。殺されたのは一ノ瀬恵一って島民で、この島の有力者らしい。図書館で拳銃自殺していたんだ』
「うーん開幕不穏の塊か?一ノ瀬恵一って人物が図書館で拳銃自殺したのは25年前だぞ」
『!?!?』
実に奇妙な事件だ。
少なくともここに時空異常は起きていないから、タイムスリップは起こり得ない。
というか、こんな入り組んだ場所で時空遡行なんてしたらティンダロスの猟犬に追いかけられる前に狭間に落っこちて行方不明だ。
だから、そこにあるのは不可解な人の意図のみ。
敢えて25年前そっくりの状況を作り出しているとみるべきだろう。
夕闇島そっくりな島で、25年前そのものの事件。
なんとも不気味だ。
怪異でないのがさらに不気味である。
今日はもうすでに夕日も暮れて来ている。
赤い夕日が海の向こう側に沈んでいく。
金田一君達達も向こうで寝床が確保できているといいのたが。
近場だから天気もそこまで違いはないと考えれば、野宿でも問題ない気候ではあるのだが。
宿に入って日が沈むと、七瀬さんは部屋でますます不安そうになってしまったようだ。
心配したコナン君が、子供のふりをして七瀬さんに付いていてやっている。
知らん男に囲まれていたらゆっくりできないし、コナン君なら孤独もマシになって安心だろう。
なお、俺たちの部屋では置いて行かれて不貞腐れた星の精が畳の上で転がっている。
「ゲタ…ゲタ……」と文句を言っているようだ。
友達が星の精を置いてった。星の精のことなんてどうでも良くなったんだ……。
ジンが嫌そうに顔を歪めて俺を睨め付けた。
「おい、コイツが俺の髪で遊ぶんだが。やめさせろ」
「毟らずに触手を絡めているだけだろう。いい星の精じゃないか。それより僕の方は泊まれるのか?」
「女将さんに確認とったらOKだって。布団一枚追加してくれたよ」
【ゲタゲッタ】
星の精は布団の上を転がり回ったあと、ジンの背中に再びピトッと張り付いた。
すっかりジンに懐いたようだ。
長い髪の毛の中に潜り込んで秘密基地にしている。
降谷さんもちょっと星の精を撫でようとして、スッ……とさりげなく避けられている。
星の精にさわんな。体は親しい人しか触らせないって友達に聞いた。
降谷さんは憮然としてジンをどついた。
ジンがクソデカため息をつきながら、されるがまま髪の毛基地を星の精に提供している。
休日のお父さんかな?
コナン君は寝る前になってこちらの部屋に帰ってきた。
俺はやや眉を下げてコナンくんに問いかけた。
「彼女も不安だし一緒の部屋で寝てあげた方が良くないか?」
「俺、高校生の男なんですけど」
かなりのマジトーンで言われて、俺は反省した。
すまんコナン君。コナン君が板につきすぎてそういうものだと思い込んでいたようだ。
降谷さんに「高校生を揶揄うのは良くないぞ」と注意されてますます肩を落とす俺である。
ジンが後ろで湿った髪にドライヤーをかけ直している。
ぶわわわわ、と髪が舞い上がって星の精がテンション爆盛りで喜んだ。
そしてコナン君の姿を見つけて、トップスピードでコナン君の顔に張り付く。
あの銀髪いいやつ!星の精に優しい!友達にも紹介する!
と、すごくゲタゲタ喋っている。
ジンはため息をついて後ろをむいたようだった。
降谷さんは拗ねて仕事中。
まあ、仲が良いのは良いことである。
そのように、二日目の夜も過ぎていった。
翌日は朝に警察の応援が到着する手筈になっている。
朝食後、港で待機して応援を待っていると、同時に駐在さんが確保していた犯人も港まで駐在さんに連れられ護送されてきた。
本土に移送されるようだ。
降谷さんが少しばかり不安そうに顰めっ面をしている。
「怪異対策課から応援が来る手筈にはなっているが。無事にこちらに来られると良いのだが」
「というか彼女、犯人の一ノ瀬恵子は異界の住人だしなぁ。取り調べとかどうしようか」
「この島の駐在から『向こう側』の大分県警と連絡が取れているかも疑問だ。早めに向こうの刑事と連絡を取り合えたらいいんだが」
現在、警察組織は二つある状態だ。
俺たちの知る日本警察と、異界の日本警察だ。
ここから電話をかけてどちらに通じるのかがいまいち不明。
少なくとも降谷さんが衛星電話をかければ、100%こちらの世界の警視庁へと繋がるようだ。
だが異界の県警も動いているようだし、情報も重なり合っていて俺の存在が認知されていたりする。
だから早めに情報の所持状況を交換したい……と降谷さんは思っているのだろう。
うむむ、と頭を悩ませているところで、フェリーが到着したようだ。
そこから降りてくる人物の姿に、七瀬さんは驚いたようにハッと顔を上げた。
見知らぬその男の方も、七瀬さんに驚いたようだ。
「美雪君か、一体どうしてここに」
「明智警視!?」
淡い色の髪に整った顔立ちのイケメンは、どこか静かで知的な印象を与える。
年若そうにみえるのに警視ということは、恐らくはキャリア組だろう。
界隈で珍獣と呼ばれるほどにキャリア組は珍しいはずなのに、白鳥警部といい降谷さんといい、既に飽和状態だ。
ともかく、彼はどうやら向こう側の刑事さんのようだ。
情報共有の絶好の機会がやってきた、というわけである。
・ジンニキと星の精
ジンニキは「この化け物、人に懐くのか」って驚愕してる。
前襲ってきたやつも爆殺せず捕獲して手懐ければ割といい戦力になってたか…?
こういう小動物(?)は嫌いではないので、そっけなく見えるがかなりこまめに遊んでやっている。
舞い上がる星の精をくすぐってやったり、触手と握手したり片腕で持ち上げてやったり。