ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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巡り合う二人の探偵〈情報交換〉

 

 淡い髪色の男性は明智警視と言って、七瀬さん、ひいては金田一君の知り合いらしい。

 

 剣持警部の上司でもあるらしく、捜査一課に所属しているようだ。

 間違いなく「向こう側」の警察官だ。

 やや困惑した様子の明智警視は、俺を見て「失礼ですが貴方がたは…?」と問いかけて来た。

 

「俺は黄衣ハスタ。行方不明の金田一君に代わって、七瀬さんを保護してる探偵だ。こっちはうちの事務員と、俺が面倒見てる子供」

「事務員……ですか」

 

 すごい勢いで見られたジンが、凶悪な笑顔を浮かべて頷いた。

 これは最近身につけたらしい愛想笑いという概念だ。

 本人は「何故かビビられる」と悩んでいるらしいが、俺だってビビるピカピカのヤクザスマイルである。

 別名、次の瞬間には東都港に沈められそうな笑顔。

 

 どんどん明智警視の警戒心が高まっているので、咳払いした降谷さんが前に出た。

 警察手帳を開いて正式に名乗りをあげる。

 

「僕は警視庁公安部公安総務課の降谷だ」

「………それは本当に、警察手帳ですか?」

「どういう意味だ?」

 

 降谷さんが訝しげに首を傾げる。

 「失礼、拝見しても?」と言って明智警視が警察手帳を確認した。

 明智警視の顔がどんどん困惑していく。

 そして懐から旧式の手帳型警察手帳を取り出して、詳しく見比べていく。

 

 「おもちゃにしてはしっかりしすぎている。だが明らかに本物と形が違う……これは一体…まさか、いや」と一人ごちるように口にする。

 というかまさかって、何か掴んでいることでもあるのだろうか。

 

 降谷さんはピンと来た顔で、目を見開いて「そういうことか」と苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

 警察手帳は、かなり前に形式が変更されて手帳型から縦開きホルダー型に刷新された。

 

 時空の歪みのせいで時系列はぐにゃぐにゃだが、俺たちの時空の人間は2002年に変更があったと認識しているようだ。

 対して、明智警視の取り出した現役警察手帳は旧式の手帳型。

 時間軸がずれているのは間違いない。

 

 降谷さんは眉間に皺を刻んだまま、確認するように口を開いた。

 

「……念のため聞きたいんだが、公安部からの連絡は受け取っているだろうか」

「はい。月影島で殺人事件が発生し、公安部からの応援要請が県警にあったとは聞いています。とはいえ、僕が例の爆弾犯を追うために向かう予定があったので、こちらで巻き取りましたが」

「爆弾犯?観光客の行方不明事件ではなく?」

「行方不明……は、聞き覚えありませんね」

 

 どうにも話が噛み合わなくて、お互いかなり深刻そうな表情になっていく。

 明智警視は鋭い瞳で俺たちを見据えて、「どうやら、腰を据えて話を聞かねばならないようだ」と言い切った。

 

 降谷さんが化身としての繋がりを使って念話で俺に問いかける。

 

『どういうことだと思う、黄衣君』

『世界が中途半端に混じり出してるね。フィールドに並んだ二体の警察組織でオーバーレイネットワークを構築!的な話だよ』

『日本語を話してくれ』

『つまり異界の警察組織と合体しかけてるってこと』

 

 このままだと、夕闇島を起点に同名の別組織が衝突(コリジョン)を起こすだろう。

 組織の構成がめちゃくちゃになるに違いない。

 しかも向こうとこっちで時間軸が異なるから、2002年以前の向こうとの結合のために歪みが生じる。

 すると、罪のない警察官が時空の隙間に落っこちて行方不明になるという事件が頻発する。

 

 早めに事件解決して注意を逸らし、厳重に報道規制を敷いた上で島民を避難させねばならないだろう。

 その上で無人となった島で分離のための術式を発動させる必要がある。

 

 降谷さんは少しばかり熟考したあと、口調を警察向けのものから少し柔らかく変えて明智警視を見た。

 

「すみませんが、このあと時間をいただきたい。お話ししたいことがあります」

「……そうですね。この警察手帳のことも含めて、私も聞きたいことがある」

 

 疑う、というにはどこか真摯な瞳で明智警視は言った。

 

 金田一君が俺たちに七瀬さんを預けた、そのことを彼は重く受け止めているのだろう。

 それ以外にもなにか彼自身で掴んでいる情報があるようだし、この人も随分な切れ者のようだ。

 

 

 

 俺たちが話をまとめたあたりで、昨晩の犯人が船に乗り込んでいくのが見えた。

 

 警察官が数人、犯人を船に乗せて護送していく。

 犯人の女性は俺たちを少しだけ見てから、口を噤んだまま何も話そうとはしなかった。

 

 七瀬さんが「はじめちゃん……」と物憂げに俯いている。

 それを明智警視が「あまり心配しなくても大丈夫ですよ。彼はこういうピンチをいくつも乗り越えてきたでしょう」と元気づけたようだ。

 うーん、イケメン枠がまた一人増えてしまった。

 

 目の前で、船がゆっくりと出発していく。

 ごうごうと特徴的なスクリューの回る音とともに、船が遠くなっていく。

 俺たちが手配した船ももうすぐ来るだろう。

 それを待って、じっと港で無言のままに時が過ぎていく。

 

 船が遠くなり始めた、その時である。

 

 凄まじい地響きと共に、船の横っ腹からオレンジの閃光が瞬いた。

 衝撃波に波立つ港、もうもうと立ち上がる黒煙、ざわめき、野次馬に集まる海の男たち。

 

 思わずポッケで寝こけていた星の精が「ゲタッ!?!?」と飛び起きたが、上からコナン君に押さえられて「ムギュ」と潰れたようだ。

 

 比較的大きな爆弾だったようで、穴の開いた船体がゆっくりと海に沈んでいく。

 コナン君も、俺たちも、あまりの予想外に目を見開いてその光景を凝視するばかりだ。

 口封じのためそこまでするのか!

 

 明智警視が「なっ、まさか奴の…!」と言って焦った声を出す。

 俺は反射で魔術で生存者を探し、助け出されるまで生きていられるよう、保護の魔術をかけた。

 

 乗客乗員全員生きているが、皆それぞれにかなりの怪我を負っている。

 犯人は特に重症だが、俺の保護があれば一命は取り留めるだろう。

 

 沈みゆく船を見て、流石の事態に周辺から慌てて救助の船が出ていく。

 駐在さんも大慌てでやってきて「なんたること!!」と口をあんぐり開けて愕然とした様子を見せた。

 

 明智警視が眦を強く指示を出す。

 

「私は本土からの応援です!すぐに本土のレスキューを呼んでください!」

「そ、それが昨日の朝から島の電話線ケーブルが切断されておって…」

「!?!?………この島で携帯電話のつながる場所は?」

「この島全て携帯は圏外じゃ」

 

 つまり助けは呼べない、ということらしい。

 明智警視は降谷さんをチラリと見てから僅かに沈黙して「では、この島の権力者に連絡を。救助・連絡体制を整えてください」と言った。

 

 降谷さんが無言でことの次第を見守っている。

 衛星電話があるから、降谷さんが連絡をするのは容易だ。

 それをしないのは、魔術での保護があるのに加え、レスキューを呼んだ場合よりこの島との結合が進むことを恐れてだ。

 

 同時に、明智警視は降谷さんがなんらかの連絡手段を持っていることを知っている。

 そうでなくては、昨日降谷さんが応援を呼ぶことは不可能だからだ。

 連絡手段を持っている上で、目の前で犠牲が出ているにも関わらずそれを開示しない。

 

 その意味を、明智警視は慎重に探っているようだ。

 

 不意に、コナン君が港の係船柱の影から何かを拾い上げて叫んだ。

 

「黄衣さん!他に爆弾が仕掛けられてる可能性がある!島内を探して!」

「ッ、わかった!」

 

 コナン君が見つけたのは犯人からのメッセージらしい。

 「これで爆弾は終わりじゃない」と記述がある。

 

 ここではハスターの瞳が使えないので、手作業で魔術を組み上げる。

 素早く爆発物に該当するものを探索、家庭用ガスなんかもヒットしてしまうからそれを省いて。

 頑張ってババババと処理を進めていく。

 

 明智警視が困惑のままに俺を見ている。

 俺は探索終了と共に宣言した。

 

「海上レストランコールブルー、郷土資料館にあるみたいだ!二つのみ!もうタイムリミットまで間もない!というよりコールブルーの方は瞬間移動しても解体間に合わない!」

「仕方ない、黄衣君の方で解除してくれ!これ以上この島が注目される事態は避けたい!」

「オッケー!」

 

 パチン、と指を鳴らすと同時にチカリと光と共に術式が現れる。

 それだけで、爆弾はその意味を失って沈黙した。

 

 発見できているなら、魔術で遠隔から爆弾解除するぐらい容易いことだ。

 起爆の概念を取り除いてしまえばいいだけだし。

 

 仕事を終わらせて、俺はふうと一息ついた。

 

「これで問題なし。爆発はしないが、念のため回収にいこう」

「……やはりあなた方は、この島で起きている異変について何か核心めいたものを掴んでいるようだ」

 

 明智警視が進み出て、俺を強い眼差しで捉えた。

 その瞳は真摯で、かつ理性的だ。

 

 やはり「向こう側」の警察もこの島の異変を観測しているらしい。

 海上レストランコールブルーまで歩きながら、道中説明タイムに移ることとする。

 

 口を開いたのは降谷さんだ。

 

「まず、僕の警察手帳は偽物ではありません。型式は違いますが、日本国にて正式に認められた警察手帳です」

「……ならば、貴方の持つ紙幣を見せてもらえませんか。できれば全て」

「!」

 

 降谷さんが僅かに息を飲んだ。

 メガネをやや上げて、静かに明智警視が微笑む。

 

「この島では最近、不気味な偽札騒ぎが相次いでいまして。現発行紙幣とは明らかに異なるのに、異常なほど高い技術が使われた偽紙幣が出回っていると」

「貴方も掴んでいたというわけですか」

「ええ、発行元を探ると、それは観光客が持ち込んだもので、船で島を出てからの行方が一切掴めない。島でレンタカーを借りた履歴を調べても、実在しない元号の交付日が記された免許証が使われていたと」

 

 もうすでに、この島に来る前に大方の予想はつけていた、ということらしい。

 

 降谷さんがため息をついて紙幣を6枚ほど取り出して手渡す。

 それは概ね新紙幣だが、旧紙幣も数枚入っているようだ。

 ついでにスマホも渡したようだ。

 

「警察手帳の型式変更があったのはかなり前のことだ。この携帯電話も、衛星通信ができる以外は一般的な機能と外見しかない」

「なるほど。バックトゥザフューチャーですか。普段ならくだらないと一笑するところですがね」

 

 指紋認証で開いたスマホ画面に目を丸くして、明智警視は面白そうに口端を緩めた。

 

「それで、金田一君と剣持さんの行方不明には、その異変が関わっていると?」

「厳密には調査中、と言ったところですよ」

「別の組織とはいえ、警視正の方でしょう。かしこまった言い方はせずとも結構です」

「……では失礼して。とかく、この島からの全島民をそちらへと脱出させたい。この島はそちらの島だから、そちらの協力が必要不可欠になる」

「なるほど。事件解決はそのついで、ということですか。いや、大ごとになるのを拒んでいたのは、あまり知られればこの異変に悪影響が出かねないからか」

 

 随分頭の切れる刑事さんらしく、どんどん彼の中で推理が固まっていく。

 降谷さんは「すまないが、あまり口には出せない」と消極的な肯定に留めたようだ。

 別に言っても構わないと思うのだが、この辺りは公安の条件反射かもしれない。

 

 その後は爆弾二つを回収したが、途中、なにやら郷土資料館で窃盗があったらしく騒ぎになっていた。

 爆弾を持ったままうろちょろできないので、この場は帰るしかあるまい。

 

 俺たちが港に戻る頃には、呼んでいた船が到着していた。

 

 ついにもう一つの島に乗り込む時がやってきたのだ。

 





・明智警視
本土で爆弾犯を追う途中、この島の謎に気付いた。
度々現れる、謎の紙幣を使う観光客。
未来の日付の身分証で車を借りる男。
「フリーWifi無いんですか?」という暗号めいた言葉。
電子マネーとやらが使えなくて怒り出す迷惑客。
コンセントが異様に少ないという苦情が多発する旅館。
今、南国の島で何が起こっているのか───?
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