ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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巡り合う二人の名探偵〈大乱闘〉

 

 金田一君達と情報交換をしてるなり。

 

 通信機はやはりこの島の社長たる日沖という男に取り上げられたらしい。

 俺たちはひとまずの島からの撤退を提案したが、金田一君達はそれを拒否した。

 人が殺されて、その無念を放っては置けないということらしい。

 やはり彼らも正義感のある義人ということだろう。

 

 降谷さんが目を細めて、彼らの話に耳を傾けている。

 

「つまりこちらでは、25年前をなぞるような事件が起きていたと」

「ああ。犯人は鳥羽美鶴って名乗った。若い女性の姿で、美佐の母親の名前だ。被害者も25年前と全く一緒。わけがわかんねー状態だ」

 

 明智警視が目配せしたので、俺は首を振った。

 これは25年前にタイムスリップしたわけではない。

 あくまで金田一君達の世界と俺たちの世界が交わったのみ。

 この25年前の類似性は、人が人為的に行なっているものにすぎない。

 

 少しだけ悩んでから、俺は金田一君に提案した。

 

「この島を少し案内してくれないか?君の見解を詳しく聞きたい」

「ああ、いいぜ。俺もそうしようと思ってたところだ」

 

 金田一君がやや迷う仕草をしたが、明智警視が「美雪君は連れて行きましょう。連絡手段もなしに残しておけば、万が一の場合対処が難しくなる」と言ったことで決意を固めたようだ。

 たしかに、探索で二手に分かれるのはクトゥルフ神話TRPGでも御法度な時が多いしね。

 

 とことこと昨日あった殺人事件現場を順番にまわっていく。

 そう広いわけでもない島だ。

 各所が本当に夕闇島そっくりであることはよく分かった。

 

 さて、住宅街に俺たちが差し掛かったあたりのことである。

 

 粗末な家々の道路の脇に、轢き逃げされたと思わしき男性がうつ伏せに横たわっていたのだ。

 倒れ伏す男性の体を見た瞬間、コナン君と金田一君が同時に駆け出した。

 

「おいっ、大丈夫かあんた!」

「だめだ……もう亡くなってる。でも、これも25年前の事件の再現かもしれないね」

「ッ、島の有力者である双葉という人物の轢き逃げか!」

 

 コナン君が頷いて目を細める。

 

 明智警視も「このタイヤ痕…海に続いていますが転落防止用のネットは刃物で切られています。偽装でしょうね」とさらりと言ってのける。

 降谷さんが「この男、身分証を一つも身につけてないのは妙だな。殺すついでに取り上げたんだろう」と冷徹に言葉を落とした。

 

 金田一君も同様に遺体を見て苦々しげな顔をした。

 

「靴底が綺麗すぎる。ぬかるんだ道を歩いたにしては不自然だ」

「別の現場で殺されて死体を運ばれたと考えるのが自然、というわけですね」

「こっち!跡からしてずっとしてるらしい指輪の跡があるよ!本当の現場に落ちてるかも!」

 

 探偵2、刑事2の飽和状態にて、俺は完全に職を失ってボーッと突っ立ってるだけになった。

 なーんも言うことないし展開も推理速度も早すぎる。

 俺はその辺に落ちていた小石を蹴っ飛ばす作業に従事した。

 

 ジンは調査中に奇襲されないように辺りを警戒していて、完璧な布陣だ。

 低INTハスターなんてハリ湖に帰るしかないんだ…。

 

 降谷さんが俺をどついて叱責した。

 

「拗ねないでくれ、僕までブルーになる」

「俺本体より頭がいい化身って許されないと思わないか…?」

「自分から頭脳に縛りをかけておいて何を言ってるんだ。というか黄衣の王然り、君の化身はみんな基本そんな感じだろうに」

「事実陳列罪で逮捕します」

 

 俺の憤りに、降谷さんはクスクス笑って「僕が逮捕されるのか」と言って愉快そうに捜査に戻っていく。

 なんやワレ。文句あんのかコラ。

 

 ジンニキは不安そうに縮こまる美雪さんに「おい、水でも飲んでいろ。未開封だ」とペットボトルを渡すなどしている、

 優しいジンニキだ。

 金田一君が横目でジトリと二人の様子を監視している。

 

 しかし、現場でそれ以上の成果は出なかった。

 というより、警察官が本格的に捜査すればすぐ分かる話が多いのに、というべきか。

 

 あまりに人目についても面倒が多いので、一旦宿屋に帰ることとした。

 

 降谷さんが代表して話をまとめるようだ。

 広めの和室で皆集まり、情報を出し合う。

 

「情報を整理しよう。現状、夕闇島は二つある」

 

 夕闇島1は開発されたリゾート島だ。

 神隠しが起きていて、鳥羽美沙が一ノ瀬恵子に殺される事件があった。

 爆弾騒ぎもあり、これは明智警視の追っている連続爆弾犯の仕業だと思われる。

 

「各地で爆弾騒ぎを起こしている愉快犯です。それがこの島に潜伏していることを突き止めたのが、私が島に来るきっかけですよ」

「あのタイミングで一ノ瀬恵子を爆殺しようとしたあたり、口封じが目的だろう。今回の一件に爆弾犯が関わっているのは確実だ」

 

 俺たちは二人の言葉に頷いた。

 

 夕闇島2は寂れた炭鉱島だ。

 25年前の事件を模倣した殺人事件が二件発生している。

 

「これまでの情報からの単なる推測だけど。犯人達は『25年前の惨劇』とやらの被害者で、当時の犯人関係者を殺してまわっている、と推察できるね」

 

 コナン君の言葉に金田一君も頷いた。

 

「こっちで上がってる遺体は、神隠しで攫ってきた夕闇島1の住人だろうしな。だから、身分証を取り上げる必要があった」

「なら鳥羽美佐は裏切り者だろうな。密告して探偵なんぞを島に呼んだ。殺された理由も明白だ。裏切り者には死あるのみだからな」

 

 ニタァ、とジンが複数人ぶっ殺した後みたいな顔を作った。

 本人的には別に思うところは何もないのだろうが、もう完璧に凶悪犯の面構えである。

 金田一君が「いやこれやっぱ絶対スジモンじゃねーか」と呟いて七瀬さんを庇う仕草を見せている。

 

 と、そのあたりで下階が騒がしいことに気がついた。

 どうやら誰かがやってきたらしい。

 

 俺たちは素早く埃だらけの別室に隠れるなどした。

 

 そーっと漏れ聞こえてくる声に耳を澄ませる。

 どうやら来訪者は沖田という大柄の炭鉱労働者で、金田一君達を迎えにきたらしい。

 金田一君はこの島の日沖社長に呼ばれていて、用事は不明。

 あまり穏やかな内容ではなさそうだ。

 二人が沖田に連れられて去っていく。

 

 窓から二人が去っていく姿を見ながら、俺は口を開いた。

 

「じゃあその間、俺たちは事件の追加調査をしておくとするか」

「このままあちらが金田一君を人質に取る可能性もありますね」

「その場合後で潜入、取り返す工程が必要だな」

 

 どうも金田一君によると、この島の住人は皆日沖社長に逆らえないようだし。

 司法は機能していないと見るべきだろう。

 ひとまず帰ってくるのを待って、ダメそうなら殴り込み。

 これでよかろうよ。

 

 俺たちは皆で宿屋から出て、轢き逃げ被害者から落ちた指輪の探索に当たることにした。

 

 奇しくも、それはすぐに発見された。

 島の中央商店街に、露骨に車で轢いた跡と思しきガラス片がたくさん転がっていたのだ。

 その付近に、きらりと光る真新しい指輪の姿もあった。

 

 コナン君が現場を確認して頷いた。

 

「ここが本当の事件現場だね」

「鑑識を呼べないのは辛いところだな。ここが現場であることは間違いないが、遺体の服に付着していたガラス片と照合ができない」

「車がここまでダメージを受けてるなら、この島のどこかに乗り捨てたか、海に落として処分したか。あるいは修理して痕跡を隠すかだな」

 

 タバコを吸うジンの横で、コナン君が少し静謐な顔をした。

 

「こんな警察のいない島で、凝ったトリックを使う必要は本来ない。日沖社長の指示で殺人事件にすら口を噤む人ばかりなのに、敢えてそれをする理由ってさ」

「………25年前の事件の、完全再現ですね」

 

 明智警視の言葉に、コナン君は少しだけ目を伏せた。

 それだけの恨みがあったと言うことだろう。

 25年もの歳月をかけて復讐を誓うほどの、憎悪があったのだ。

 

 その後、俺たちは自動車整備工場へと足を運んだ。

 森と海を調べるには俺たちは手が足りなさすぎるからか。

 

 自動車整備工場へ入ると、明らかに事故を起こしている車が入り口に見えた。

 黄色の車だ。

 

 暇そうにしている整備工場の社員さんに、明智警視が声をかけた。

 

「失礼、この車の持ち主は?」

「……お、俺の車だよ。なんだ客か?」

「ふむ。では、この車はフロントガラスが割れているようですが、一体どこで事故を起こしたので?」

「自損だよ。うっかり車庫にひっかけちまってな。というかなんなんだあんたら」

「私達は少し調査をしていましてね。バンパーの傷は大したことがなく、フロントガラスだけ破損したんですか?」

「な、なにがいいてぇんだよ」

「人のように重心が高いものを派手に撥ねたから、頭蓋骨とぶつかってフロントガラスが割れたのではなく?」

 

 ニコッとした明智警視に、むっとして整備員が噛み付いた。

 

「サツでもないのに偉そうにしやがって!」

「これは失礼、自己紹介を失念していましたので改めて。警察です」

「!?!?!?」

 

 警察手帳を出す明智警視は随分と優雅な笑顔を浮かべている。

 

 ジンが嫌そうな顔をして眉間に皺を寄せた。

 

「ああいうサツは執念深く張り付いてくるから、変なことを掴まれる前に消すに限る」

「消すな。ムショにぶち込むぞ」

「バーボン、テメェだって同意見だろう」

「いやっ面倒だとは思うが消すわけないだろう同業者だぞ!?僕のことなんだと思ってるんだ貴様は!」

「邪神」

 

 ジンのシンプルな一言に、俺は大いに頷いた。

 その通りなんだよなぁ。

 コナン君は七瀬さんと一緒に「ねぇ七瀬お姉ちゃん!かっこいい車がいっぱいだねえ!」と他人のふりをしている。

 こんな場面で渾身の子供のふりを炸裂させなくとも。

 

 さて、俺たちのまったりした詰問もそのあたりで邪魔が入ることになった。

 

 金田一君と一緒にいたのは、見慣れない謎の男だ。

 彼がおそらく日沖社長だろう。容姿の特徴が金田一君の語ったそれと当てはまっている。

 

 炭鉱労働者をわんさか引き連れ、日沖社長はドスの利いた声を出した。

 

「お前達。これ以上の好き勝手はやめてもらおうか」

「ん、あの通信機の人。どうも、言われた通り好きにさせてもらってるよ」

「………やはりお前達がそうなのか。だが。お前達にはこの島の有力者を轢き逃げした容疑がかかっている」

 

 振り返った明智警視が、フッとキザにわらって肩をすくめた。

 

「それなら既に概ね固まっています。というより、謎ですらありませんね。ガラス片を鑑識に回せば済む話です」

「ここに部外者を入れるつもりはない」

「……ふむ、ここは結局日本領土なのか?地図にないとなると、実効支配と歴史問題が出てくるが」

「降谷さんマイペースか。いや警察が権限を振るう時日本かどうかが大きな焦点になるのは分かるけど」

 

 俺たちの様子に、日沖社長が有力な証拠なしと判断したらしい。

 「一旦こちらで身柄を確保させてもらう」と低く険しい声を出す。

 その言葉と共に、炭鉱労働者達がゾロゾロと前に出てくる。

 流石、屈強そうで皆体格も優れていて、筋肉質だ。

 

 降谷さんも対応するように前に出て、ニタリとニャルじみた笑みを浮かべた。

 

「話が早くて助かる。各自、網から漏れたものは自分で処理するように」

「チッ、拳は泥臭くて好きじゃねぇ。銃はねーのか」

「ないに決まってるだろうふざけているのか」

 

 俺は七瀬さんを背後に隠して軽く防壁魔術を組む。

 明智警視は「フェンシングなら嗜んでいますが、警察学校以来の柔道では足を引っ張りそうだ」とやはり後ろに下がった。

 

 七瀬さんが「コナン君もこっちへ!」と手を引いてくれたので、コナン君もやや頷いて後ろに下がったようだ。

 いやコナン君は暴漢に殴られたぐらいでびくともしない宇宙戦艦だけど。

 でも、その言葉だけで彼女が優しい人間であると言うことがわかる。

 

 張り詰めた空気。

 ニヤニヤと悪質な笑いを浮かべる労働者達が、一歩前に踏み出す。

 

 乱闘開始だ。

 まずは降谷さんを見せしめにボコろうということらしい。

 巨漢の男が「ちょいと痛い目に遭わねーとわからねぇようだな!」と威勢よく挨拶がわりに殴りかかった。

 その拳を無防備に顔面に受けて、降谷さんがニタリと笑った。

 

 黒い風に物理攻撃は通用しない。

 降谷さんは嗜虐的な声で「無防備な人間に拳を振るう、傷害罪、ということで」と愉悦に顔を歪めた。

 

 軽やかに懐に入る。

 そのまま流れるような顎への強烈な一撃でノックアウト。

 降谷さんは「ははハはは!!」と裂けるような三日月型の笑みを浮かべた。

 

 次に逆上して殴りかかる数人をハイキックで刈り取って愉悦に顔を歪める。

 生き生きとしておられるようだ。

 俺の化身になっても、黒い風の本来の攻撃性は据え置きだ。

 行儀よく振る舞うのに、間違いなく鬱憤は溜まっていただろう。

 

 剣持警部は一人目を投げたところで腰をやって撤退。ヒィヒィ言っている。

 金田一君は謎の動きでヌルヌル暴漢達の拳を避けまくってから同じくヒィヒィ言いながら最後尾まで逃げてきた。

 案外すげーな金田一君。

 

 狼狽えた小柄な男が七瀬さんを人質に取ろうとこちらへ走ってくる。

 それをジンが回り込んで、見知らぬ体術でKOさせた。

 ロシア発祥の武術システマに似ているが詳細は不明。

 組織流体術かもしれない。

 

 日沖社長は舌打ちと共に炭鉱労働者達に指示を出した。

 

「やめろ、もういい」

「ご納得いただけたようで何よりです」

 

 傷一つ負っていない降谷さんがケタケタと笑う。

 乱闘だったから擦り傷ぐらいはあっただろうが、黒い風だから無効化してしまったようだ。

 不審に思われなくて何よりである。

 

 俺は最後列から進み出て、少し慎重に声を潜めて言った。

 

「ところで聞きたいんだが、俺たちはこの島にいる怪物を退治したい。引いてくれると嬉しいんだが」

「怪物、だと………?」

 

 不意に激情を堪えるように震えて、拳を握りしめる仕草。

 何やら思い入れがある様子だ。

 怪物、のワードに炭鉱労働者達に怯えが走った。

 

「ああ。怪物チャコタ。人を喰らう、人の塊。なんで後生大事に飼ってるのかしらないが、アレは最終的に全てを破滅させる」

「貴様は何を知っている!」

「ああいう怪物の専門家だよ、俺は。だから謎の解明と、怪物の討伐に来たんだ」

 

 ブルブルと震えて、血走った眼を見開いてガチガチと歯を鳴らす。

 

「…………だから殺すというのか。大切なものに二度目の死を与えて、俺たちに無念を忘れてのうのうと暮らせと、そう言うのか」

 

 コナン君が目を伏せている、

 どうやらやはり、チャコタ製作黒幕は他にいるらしい。

 彼は大切な人をチャコタにされて復讐を誓う被害者遺族とかの立ち位置だったようだ。

 

 俺は哀れみを込めて頷いた。

 

「早く解放してあげたほうがいいよ。チャコタに囚われる魂は苦痛が伴う。生き地獄だ」

「……………俺は、奴らが滅びる様を見せるまで…その涙が止まるまで……歩みを止めるわけにはいかない」

「その涙に意味はない。チャコタは…」

「うるさい!」

 

 瞬間、日沖社長は脱兎の如く逃げ出した。

 まさかこの局面で逃げるとは。

 だが今この瞬間に深追いする意味も無い。

 狼狽える炭鉱労働者たちがばらばらとその後を追っていく。

 

 金田一君が俺に詰め寄って叫んだ。

 

「お、おい、どういうことだよ!怪物って何を意味してるんだ!」

「それはこれから見に行くとしようか。たぶん、日沖社長もそこにいるからな」

 

 俺はそのように言って、炭鉱の方向を指差したのだった。

 





・鳥羽美佐
チャコタの餌やりで心が折れて自白しようとして殺された。
25年前の惨劇で、母から無念を継いだ。

・一ノ瀬恵子
25年前に殺された島の有力者の娘。
別途拳銃自殺を装って殺されたため、チャコタとして顔すら浮かばない父を想い嘆いている。

・日沖社長
日沖町長の息子で、25年前口封じで実の父親に殺されかけた。
25年前の惨劇でできてしまったチャコタをずっと介護していた。
主犯達に復讐を誓っている。

・チャコタ
人の大量死した場所に低確率で生まれる。
犠牲となった人の顔が身体中に浮かび、涙を流し、嘆きの声を上げる。
それは生前の恨みを叫ぶものではない。
チャコタに囚われたが故の、苦痛と苦悶の声である。
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