ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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巡り合う二人の名探偵〈チャコタ〉

 

 炭鉱の奥へと進んでいく。

 

 そこで作業する他の炭鉱労働者が不審そうな顔で俺たちを呼び止めた。

 入れ替わりが激しく、俺たちを新入りだと思っているようだ。

 

 肩にタオルをかけた体格のいい男性が、眉間に皺を寄せて口を開いた。

 

「その先には行かない方がいいぜ。……新入りかもしれねぇが、あまり動き回らないのがここで生き残るコツだ」

「大丈夫。俺たちは奥にいる怪物が目的だからな」

 

 瞬時に、彼らの目に怯えが走った。

 

 チャコタは少食だが、最低限半年に一回は食事が必要だ。

 食事には人間の生き餌が必要で、餌をもらうまで暴れるだろう。

 

 もしかしたらこの炭鉱労働者達は、世話で生き餌をやる仕事をさせられていたかもしれない。

 陰鬱な様子で、おそらく一番立場が上らしい奥にいた年配の男が俺たちを見る。

 

「餌やりか?」

「いや。刑事さん達を伴って怪物退治。この鉱山は摘発が入りました」

「馬鹿言うんじゃねぇ!軍隊でもなけりゃあれに対処なんてできねぇよ!間違って足を踏み外して落っこちた奴がどうなったか…!」

「まあ、邪魔はしないでいてくれ。すぐ済むから」

 

 炭鉱労働者達は言いたいこともあっただろうが、特に俺たちを引き止めることはなかった。

 俺たちが餌になる分には、次の餌やりまでの期間が長くなるからいいと思ったのかもしれない。

 

 瞬間。

 「ぎゃああああああああ!」と奥から凄まじい絶叫が響いて。

 炭鉱労働者達はビクリと身体を揺らして身を縮こめて怯え出した。

 

 金田一君が目を見開いて駆け出そうとする。

 

「さっきの声は!?っ、行かないと!」

「いや、焦らなくていい。あれは怪物の声だ」

「怪物って……さっきから何を言っているんだあんたは!ここで何が起こっていて、何の隠語なんだ!」

 

 困惑する金田一君を見ながら、明智警視も慎重に言葉を選んでいるようだ。

 降谷さんもコナン君も説明しようとする様子はない。

 俺に任せた、と言うことなのだろう。

 

「俺たちがここに来た理由は二つある。その片方が、ここにいる怪物退治だ」

「…………言葉通りの意味で、ですか?」

「そう。こいつがそのままだと、分離後に明智警視さんたちでどうにもならなくなる」

 

 奥へ奥へと進んでいく。

 

 しばらくくねくねと曲がった通路をいくと、広い空間に出たようだ。

 中央には漏斗状に巨大な穴が設けられていて、その中に泣き叫ぶチャコタの姿が確認できた。

 

「─────ッッッ!?!?」

 

 金田一君が喉まで出かかった悲鳴を飲み込んだ。

 七瀬さんが金田一君に抱きついて、息を呑んで震えている。

 

 チャコタは人の顔が身体中についた顔のあるイモムシ、と言った感じの見た目だ。

 大きさは20メートルほど。

 人を丸呑みにするサイズは、それだけ犠牲者の多さを物語っている。

 

 俺たちにはSAN値防壁があるから問題ないが、姿を見ただけでなく声を聞いただけで心を削る効果がある。

 

 とくに絶叫は人の心に確実に爪を立てる、悍ましい苦悶と苦痛に濡れているのだ。

 具体的には一撃で発狂ラインまで来る。

 

 漏斗状なのは上下方向に移動する能力が弱いチャコタを捕えておくためのものだろう。

 この施工のために何人食われたかはわからないが、よくやるものだ。

 

 チャコタは激しく暴れて、蟻地獄のようなそこから出ようと蠢いている。

 全ての顔から涙をしとどに流し、絶叫する。

 

 それを見下ろす位置に、日沖社長が待っていた。

 

 少し振り返って自嘲気味に笑う。

 沈黙が落ちた。

 チャコタの暴れる轟々とした音、絶叫。

 その中にあって、不気味なほど静かに日沖社長は俺たちを見た。

 

「全ての始まりは……25年前、ここで金塊が発見されたことだ」

 

 語り口は自白めいて、無念と絶望に濡れていた。

 だがそこにはまだ、轟々と燃える復讐の炎が燃えている。

 

「俺の父は炭鉱管理者だった。この島で見つかった金塊を、この夕闇島と近場の日暮島で等しく分配しようとした」

「……この夕闇島の島民から反発があったのか」

「それは当然だろう。だが別に、両炭鉱を経営する父が分配を選択したことを責めちゃいないさ」

 

 見下ろすチャコタは未だ暴れて、穴から出ようと巨体をくねらせている。

 静かに目を閉じて、日沖社長は言葉を落とした。

 

「だが、反発を抑えるために夕闇島の有力者を暗殺して回ったのは、言い訳しようの無い悪行だろう」

「………!それが一ノ瀬恵一の拳銃自殺と双葉の轢き逃げ事件か!」

「ああ。当然だが、そんなことをすれば反発は強まる。だからあのクソ親父はこう考えたわけだ」

 

 「夕闇島の住民を皆殺しにして、日暮島のほうを夕闇島だったことにしてしまえばいい」と。

 

 俺たちは思わず息を呑んだ。

 そんなことありえる、出来うるのか。

 

「恐ろしい計画を密告しようとした母と俺を炭坑に閉じ込め、炭鉱事故に見せかけて夕闇島のほぼ全員を生き埋めにした。俺は助かったが、母と島の住民はあんな姿になった」

「……………」

「日暮島は夕闇島になった。金塊を使ってリゾート地として整備され、南国の楽園になった。あいつは今もその島で、町長をやっている!!!」

 

 ダン!と日沖社長は震える拳を握りしめて

 ぎゃああああああ!とチャコタが喚く。アレに知能は無いため呼応したわけではないけれど。

 でも、それは日沖社長の魂の叫びであるように聞こえた。

 

 金田一君が思考を整理し終えたようで、一歩前に踏み出し、日沖社長を糾弾した。

 

「アンタがこいつを養うためになんの罪もない観光客を攫ったのか?」

「何も知らずあんな島に来るような連中、同罪だろうさ」

「それは、アンタの言うクソ親父と同じ罪だったとしてもか!?」

「………そっくりだろ。これこそ血は争えないってやつだ」

 

 そう言って嘲笑して、「俺たちの復讐はまだ終わってない。必ずあいつが夕闇島の名前すら奪った日暮島の奴らをめちゃくちゃにしてくれる」と言い切って、ポケットに手を突っ込む。

 

 そして。

 突如、スロープの一部が轟音と共に爆破されて崩れ落ちた。

 

 「ッ!?!?あいつ、起爆装置を…」と金田一君が駆け出そうとする。

 それを俺は手を引いて引き留めた。

 

 日沖社長が穴へと落ちていく。

 「どうしてもっと早く来なかったんだよ、クソッタレ」と。

 日沖社長の最後の言葉は、それだけだった。

 

 コナン君が魔術で彼を支えるより先に、空腹に喘ぐチャコタがパクりと、身を乗り出して日沖を噛み砕いた。

 

 一口で胴と首が泣き別れし、もちゃもちゃと餌にありつくチャコタはやはり涙に濡れている。

 

 新鮮な血の匂いで起きた星の精が「クス?」と言ってポッケから外を覗いた。

 そうしてチャコタ降臨を目撃した星の精は、日が悪いことを察してすっとポッケの中に戻っていった。

 タイミングが悪かったね……。

 

 食事を終えた貪欲の魔物、チャコタが再び絶叫する。

 このままでは破壊されたスロープを通って俺たちに襲い掛かるばかりか、炭鉱労働者の命も危ないだろう。

 

 もう異論はなさそうなので、俺は手を叩いて声を出した。

 

「えー、討伐しまーす。けどこいつは一応そっちの、金田一君達側の怪物だ。念のため聞くけど生捕りにしたいとかは無いよね」

「いくら元人間であろうと、人喰いの化け物を生かしておく義理はありませんね」

「了解。ならチャチャっと片付けます」

「…………」

 

 黙り込む金田一君とコナン君を置いて、俺は前に出た。

 のそのそと、チャコタが近づいて新たな餌を貪り食おうと口を開ける。

 

 こういう悲しいものはあまり見ていたくない。

 

「苦しまないよう術式は丁寧に。魂はすぐ解放。証拠として肉はなるべく残す形で。では時の神よ、ご照覧あれ」

 

 優雅に両手を開いて、俺は魔術式を構築した。

 

 魂の解放だ。

 チャコタの内に囚われたそれを、魔術で丁寧に放散させていく。

 コンマ秒にも満たない構築時間のそれだが、意外と丁寧な仕事だと自負している。

 

 蛍火のような光が、チャコタの体から立ち上がって空へと消えていく。

 

 チャコタの蓄えたMPを伴って解放されているから、まるでチャコタを中心に天へと還っていくようにも見えるだろう。

 

 内包する力を失ったチャコタがドォン、と巨体を横たえる。

 目を閉じたチャコタは思ったよりも穏やかな顔に見えた。

 俺の術式で苦痛が和らいだのもあるかもしれない。

 

 皆がダンマリのなか、俺は腕を回して仕事終了をアピールした。

 

「さて、これでOK。ただ、まだ残党が日暮島にいるようだし、日沖町長の件も残ってるかな」

「明智警視の追っているという爆弾犯もか。おまけに日沖町長には地図を誤魔化すほどの権力者の友人がいるようだ。面倒な」

「被疑者にあの世に逃げられるのが一番厄介なのですがね」

 

 明智警視は大きくため息をついて疲れた様子を見せた。

 もしかしたら今後の処理に思いを馳せているのかもしれない。

 

 剣持警部が「本物のバケモンって…こりゃ一体どうすればいいんだ……」と困り果てている。

 怪異対策法もないのにこんな大事件、確かに処理に困るわな。

 

 七瀬さんを抱きしめたまま、金田一君がチャコタに向かって黙祷した。

 

 とろとろと炭鉱を出ていく足取りも重い。

 コナン君が俯いて、「黄衣さん達はさ……いや、なんでも無い」と言葉を飲み込んだ。

 

 あのタイミングなら、俺と降谷さんなら助けられたと言いたいのだろう。

 それはその通り。

 降谷さんがなぜ助けなかったのかは定かでは無いが、俺はその哀れみが故に手を出さなかった。

 

 俺はコナン君を少しだけ撫でて、目を伏せた。

 

「彼はずっと、ああしたかったみたいだから」

「…………」

 

 罪を償うのが正しい選択なのは間違いない。

 だが、その選択を選ぶ彼の気持ちもわかるから、つい躊躇っているうちに食われてしまった。

 

 降谷さんが事務的な声でしんみりした空気を打ち払った。

 

「日沖町長も野放しなのは気がかりだが、怪物は処理した。あとは二界間の分離のために島の住民を避難させるだけだ」

「……いえ、まだ爆弾犯の確保が残っています。あと金田一君が見たと言う殺人犯の鳥羽美鶴、そして日沖町長も」

「それはできれば分離後、そちらで解決してもらいたい。人の領分の事件だから、そちらでも解決できるだろう」

 

 雑に巻こうとする降谷さんに、明智警視が眉を釣り上げた。

 

 警察組織はやや決裂しているようだ。

 ともかく、俺たちはこそこそと炭鉱を出る。

 爆発の轟音を聞いて外に避難していた炭鉱労働者に「チャコタの死体には触れないように」と注意して後にする。

 

 なんにせよ一旦夕闇島こと日暮島に帰らねば。

 明智警視もチャコタ処理のための応援を呼ばねばならないし、チャコタ製造者の日沖町長はふんじばっておかねばならない。

 

 何だか遠い目をして金田一君が肩を落とした。

 

「じっちゃん、こういう案件にも関わってたりしたのかな……」

「金田一耕助さんなら、きっと関わってたんじゃないかなぁ。僕たちが知ってる事件も、実は怪異のことを省いた事件記録かもね」

 

 コナン君が若干複雑そうな顔で頷いている。

 たしかに、あの作風なら出てきても何もおかしくなさそうだ。

 

 ジンが一回だけ炭鉱を振り返って、ニタリと凶悪に笑った。

 

「あの日沖とか言う野郎、やるじゃねぇか。使い捨ての下っ端を使って化け物を飼い殺すとはな。あれなら万が一逃げ出しても鉱山ごと爆破しちまえば化け物は処分できる。後腐れない処理にもいいな」

「彼は出所してもまだ更生していないようですが。仮釈放中なら一度確認した方がいいのでは?」

「いやジンはこれでもすごく更生した超有能仕事人で…これはあまりに闇深いところにいたから後遺症みたいなものなんだ。な、降谷さん!」

 

 俺が頑張ってフォローすれば、明智警視は非常に難しい顔をしたようだった。

 降谷さんは全然気にせず「山の中に怪異の収容施設、か。なるほど、ジンもたまには良いことを言うじゃないか」と頷いている。

 予後が悪い人がここにもいるようだ。

 

 そんなわけで、俺たちは船で日暮島に一旦戻ることにしたのであった。

 





・日沖社長
亡き母の顔が体に浮かぶチャコタが殺せず、ずっとずっと面倒を見ていた。
殺してくれって言ってるのはわかってた。
毎日来て、絶叫をあげるチャコタに語りかけてた。
もちろんSAN値はピンチだが、狂いきれない心の強い人だった。
誰かこの非道を暴いてくれと願っていたが、誰も来ないから自分で復讐することにした。

・ニャルニャル
ヨグ=ソトースの腹をタプタプして遊んでる。
副王が殴ろうとするとサッといなくなる、よく学習したニャル。
あげく段腹をちぎって料理に使ったため、ニャルは尖った時間に追放された。
ヨグ=ソトースクッキングシリーズ。

・ミゼーア
尖った時間の王。
突然超迷惑ニャルニャルマンが着払いで送られてきたので、ヨグ=ソトースのことがもっと嫌いになった。
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