ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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赤レンガ倉庫と霊魂探偵

 

 赤レンガ倉庫のパンケーキ屋さんに来ているなり。

 

 仕事の会合の場所をここに指定したのは、俺が観光したいからというのもあった。

 風情があって、港風と人の賑わいで非常にいい場所だからな。

 相手もここが近いというのもあった。

 

 お、待ち人が来たようだ。

 

「よ、なんでアンタらしこたまパンケーキ食ってんだよ」

「美味しいからだよ。な、諸伏さん」

『その通り。美食は至高』

 

 俺たちはうむうむ頷きあって積み上がったパンケーキを消費している。

 どれだけ食べても腹を下さない俺たちは、つまり無限食い放題もできるわけで。

 

 俺たちがもっもっとパンケーキを頬張る姿に、待ち人はため息をついたようだった。

 

 さて。

 待ち人、すなわち霊魂探偵の堀田さんは、俺の前に厳重に梱包された箱を差し出した。

 

「ともかく、これが約束の『人を裏返らせる鈴』だ。寿命縮んだぜ本当に」

「お疲れ様。鳴らさず持ち運ぶのは苦労しただろうに、どうやったんだ?」

「中に綿詰め込んだ。詰める時全身から脂汗が吹き出たっつーの」

 

 堀田さんはガックリと肩を落として椅子に崩れ落ちたようだ。

 

 彼は極めて強い霊視持ちの詐欺師さんだ。

 探偵とは名ばかりで、常日頃はインチキ霊媒師のふりをして詐欺行為を働いている。

 ただ時折本物に当たり、流れで引き取らざるを得なかった怪異関連品をこうして定期的に俺に納品しているというわけだ。

 

 俺は箱に封印を施し、ふぅんと観察した。

 

 「人を裏返らせる鈴」は地元での通称だ。

 この怪異を正式に形容するなら「生命体の内臓と皮膚を入れ替える鈴」ぐらいになるだろう。

 

 鳴らされると、音の聞こえた範囲内のランダムな数の生命体の内臓と皮膚を反転させる。

 これは生命体であればなんでもいいので細菌なども対象だ。

 しかし、ランダムな数の幅がでかいので、鳴らされれば割と死の空間になることが多い。

 命が助かっても腸内細菌全滅で苦しんだりとかな。

 かと思えば何も死なずにやり過ごせたり。

 

 地元では山中の崩れかけの神社に飾られており、地震時などに鳴って神の祟りとして恐れられていたようだ。

 

 「ったく、大変な目にあった!」と堀田さんは沈み込んだようだ。

 

「行方不明者の霊を探すだけの簡単なお仕事だったってのに!山のルールを破ったら祟って来るクソ神が異界に閉じ込めてくるなんてよぉ!」

「あー、山の旧神そういうとこあるよな」

「ギリギリ正式な下山ルートが『見えた』から逃げ帰ってきたけどよ!田舎の仕事はこれだから嫌なんだよ!!」

 

 ぷりぷり怒っておられるようだ。

 どうやら結構しっかりしたクトゥルフ神話TRPGシナリオをクリアしたらしい。

 お疲れ様、と俺は深く労った。

 

 都会は都会で変な新興怪異が盛りだくさんだが、田舎ほど強力な奴は少ない。

 人が多いから都会はヤバい奴がすぐ炙り出されるとも言う。

 

 諸伏さんが「山、猿とかいるし確かにヤバいもんな」と同じく納得した様子を見せた。

 

 堀田さんが引き気味の顔で黙りこくって視線を逸らした。

 「あんたもそのヤバい側の怪異だけどな」という言葉はギリギリのところで飲み込んだようだ。

 

「ところで、公安に誘われてるんだろ?協力はしないのか?」

「嫌だね。命がいくつあっても足りねぇよあんな仕事。つか俺が出なくてもあの疫病嵐の旦那が出れば一発だろ」

『いやぁ、ゼロはああ見えて忙しいからなぁ』

「忙しいは忙しいだろうな…。俺は呑気な一般人から金を毟り取って平和に生きたいだけなのに…」

「悪の権化じゃん」

「その点、黄衣の旦那からの仕事は気が楽だ。実入りは少ないがハズレを引く心配がねぇ」

 

 沈鬱な様子の堀田さんに、俺は生ぬるい顔をした。

 

 実は堀田さんには探偵業の一部を委託している。

 特に「気のせい」にまつわる業務は堀田さんの得意中の得意だからだ。

 

 怪異が一般に知れ渡って以来、「怪しい影を見た」「不思議な現象が起こった」というタイプの依頼は一気に増えた。

 

 人の不安とは手に負えないもので、それは往々にして怪異にも事件にも関係がない。

 すなわち偶然、不安の生み出した幻想の類である。

 

 そういうものに単純に「気のせいですよ」といっても解決しない。

 怒らせるだけだし、余計に不安にさせてしまう。

 

 その点、堀田さんは詐欺師なだけあって不安の扱いはピカイチだ。

 

 上手く言いくるめて必要とあらば除霊の演技もして、気持ちよく依頼を終わらせてくれる。

 依頼人の評判も極めて高い。

 俺の顔を立ててくれているのか基本調査料しか取らないし、仕事もすごく丁寧だ。

 

 あとは日頃の詐欺をやめてくれたら一番なのだが。

 ……などと考えているのがバレたのか、堀田さんがじとりとこっちを見た。

 

「なんだよ、俺はヤバい詐欺には関わらないクリーンな詐欺師だぜ」

「クリーンな詐欺師とは」

「俺は人の不安と向き合って格安で安心を売る商売をしてんだよ。実にクリーンじゃねぇか」

「どう思われますか諸伏さん」

『うーん逮捕』

 

 「なんでだよ!!」と堀田さんがいきりたった。

 当然なんだよなぁ。

 だが捕まったら依頼を回した立場として俺も連座制で責任を取らされるので、一緒に反省してやろうではないか。

 俺に悪評がつくと困るので公安がもみ消すかもしれんけど。

 

 そんなふうにまったり過ごしていると。

 

 入り口から、なにやら腕を組んで浮かれた様子でカップルが入ってきた。

 

 彼女の方は大層な美人さんだ。というか萩原千速さんだ。

 男の方は高木刑事。

 オドオドと緊張して、引きずられるように席に座らせられている。

 萩原さん、パワフルさが滲み出てる。

 

 こちらに気づいた萩原さんがパッと顔を明るくした。

 

「ああ、黄衣探偵!久しぶりだな!」

「あわわわえっと、萩原さん黄衣さんと知り合いだったんですか!?」

『ちょっ、え、萩原のお姉さん高木刑事とデートですか!?!?』

「ただの捜査だよ」

 

 萩原さんの謎テンションに、目を白黒させて諸伏さんが問いかける。

 高木刑事が真っ赤になったり真っ青になったり忙しい。

 

 ちらっと入り口を見ると、激しく嫉妬の炎をたぎらせた佐藤刑事の姿があった。

 

 うーんなんだこれ。どういうシチュエーションならこうなるんだ。

 素早く面倒ごとの気配を察知した堀田さんが「おう、じゃあ俺はこれで!」と席を立とうとしたので、まあまあまあまあと腕を掴んで引き留める。

 今の俺はコナン君がいないからな。

 助っ人は多い方がいい。

 

 堀田さんはバン、と塩の小袋を取り出した。

 

「相談料5万円。今なら清めの塩付き」

「怪異無償で引き取ってるだろ俺!!」

「それはそれ、これはこれ。相談料は5分ごとの料金になります」

 

 すごいぼってくるやん……!

 手持ちがないから、と言いながらMPを宝石型に固めて手渡しする。

 小さな宝石だが、ハイパーボリアなら一時間分の相談料ぐらいにはなるMPの塊を渡す。

 堀田さんは戦慄して「俺…一生相談係になるって話か…?」と声を震わせた。

 

 俺らのコントを無視して、諸伏さんが萩原さんへと問いかける。

 

『萩原のお姉さん、何かあったんですか?』

「ここに誘拐犯が隠れ潜んでいてね。顔も名前もわからんが、バイク乗りで一度こけてる。痕跡ぐらいは見つけられるだろうよ」

 

 そのように萩原さんが言い切ると、堀田さんが「なーるほど」と頷いた。

 

「あそこにいるやつか。いかにも軽薄そうな顔してやがる」

「!!!」

 

 皆の視線が堀田さんに集中した。

 堀田さんは肩をすくめて「そこの奴。証拠はねぇからあんたらで集めな」と言い捨てるのみだ。

 迷惑そうな顔を崩さない。

 

 俺は瞬き、堀田さんに問いかけた。

 

「霊魂探偵の目にはどう見えたんだ?」

「『都合のいい奴』。アイツを差し出せば俺は早く帰れそうな気がした」

「そう言う意味で都合がいいってアリなのか?」

「アリだろ。人の価値なんて利用してなんぼなんだし」

 

 そういうとこ、悪の詐欺師なんだよな。

 まあ俺の宝石分の価値ぐらいは仕事をしてくれたし、これでよしとしよう。

 

 ふんわり「何か特殊な怪異関係者なのだろう」という認識を萩原さん達は持ったようだ。

 萩原さんと高木刑事は納得して、ひとまず捜査に入ることにしたようだ。

 

 これ以上ここにいたら迷惑になってしまう。

 俺たちは会計して、外に出ることにした。

 

 萩原さんと高木刑事は痴話喧嘩を装うことにしたらしく、入り口から出たあたりで騒ぎが起きた。

 萩原さんに水ぶっかけられた高木刑事かびしょびしょになりながら動き回っている。

 

 どういう作戦か知らないが、水も滴るいい男、と言うことらしい。

 かなり可哀想だなと思いながら、俺たちは知らないふりを決め込んだ。

 

 入り口で相変わらず漆黒の炎をたぎらせる佐藤刑事の横を無言で通り過ぎる。

 

 堀田さんはこの後別の仕事に入るそうだ。

 俺は仕事を全うしてくれた堀田さんへのエールのつもりで、先ほど渡した宝石に魔術式を刻んだ。

 

「……おい何したんだ、黄衣の旦那」

「ちょっと細工した」

「具体的には」

「宝石を握るといい感じの奇跡が起こるように。堀田さんが本物の霊能探偵になれるように」

「いらんいらん!!!本物になったら倍面倒ごとが寄ってくるだろうが!偽物でいいんだよ!」

「えー、でも破ァ!ってやると霊祓えるよ?」

「いらんっつってんだろうが!大体諸伏の旦那それで祓えるのかよ?」

「それは無理」

 

 諸伏さんが「ヒュードロドロ」などといっておふざけ半分でガチ怨霊の顔をした。

 「ほら見ろ、ほら見ろ!!」といって堀田さんが逃げていく。

 相変わらず愉快な人である。

 

 そのように、俺たちは赤レンガ倉庫を後にしたのであった。

 





・霊魂探偵、堀田凱人
207話「霊魂探偵殺害事件〈※殺害されていない〉」より。
自称詐欺師。ちゃんと詐欺もするが、ユーザー評価はかなり高い。
「都合がいいもの」「都合が悪いもの」を見分ける特殊な霊視を持つ。
黄衣のことは「こいつ無限に搾取されそうな顔してやがる…」ってちょっと心配してる。
霊験あらたかな壺とか買いそう(悪口)。
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