本日は日帰りスキー旅行なり。
都営バスに揺られて、高速バスの乗り換え地点までまったり車窓からの景色を堪能している。
メンバーはいつも元気な少年探偵団と、コナン君と志保ちゃん。
そして風邪気味の阿笠博士に代わって、俺と諸伏さん、そして明美さんが付いてきている。
明美さんは死んだばっかりなので念のため幽霊状態のままの参戦になる。
いつもの彼氏のところへ行くのは良いのかい、と聞いたのだが。
「大君なんて知らないわ」と頬をぷくりと膨らませてそっぽを向く一幕もあった。
一体何があったのやら。
なんにせよスキーは楽しみだ。
元太君が「なんかうめーモンねーかな。オレ腹減ってきた」と困った顔をしている。
「えぇ、元太君もうお腹すいたんですか?まだ出発したばっかですよ!?」
「仕方ないなぁ、黄衣お兄さんが腹ペコ元太君にお菓子を恵んでやろう。ちゃんと三人で分けて食べるように。あと零したり汚したりしないようにね」
「あ!クッキーだ!歩美これ好き!ありがとう黄衣さん!」
こんな時のためにバッグの中に入れていたお菓子の箱を取り出し、子供達に手渡してやる。
子供達はわっと喜んで舞い上がった。
なお、そんな子供たちの反対側では、上機嫌のコナンくんがしきりにスマホを確認している。
その右手には俺の作ったブレスレットがきらりと朝の日差しを反射している。
無事完成した改良版で、これなら学校に着けて行っても問題ないだろう。
コナン君のヘニャヘニャにやにやした顔に、隣に座る志保ちゃんは半笑いだ。
「江戸川君、貴方、顔が崩れてるわよ。貴方の愛しの彼女から連絡でも来たのかしら?」
「っんなんじゃねーし!い、いいだろ人がどんな顔してたって!」
バッとコナン君が顔を赤く染めて叫ぶ。
この間の米花シティビル最上階でのデートが上手くいった影響で、もう2日もコナン君はこんな感じだ。
テレッテレのニヤニヤ。顔が崩れてIQも大幅に下がっている。
まあそれも仕方あるまい。
見晴らしのいいビル最上階の高級レストランでの告白は、無事に成功したんだから。
ロマンチックな空気の中、新一君の渾身のプロポーズが成功。
蘭ちゃんもこれを承諾し、晴れて恋人関係となることができたのだ。
そりゃ顔が崩れて戻らなくなる程度で済んでいるなら軽傷の部類だろう。
ちなみに、その際毎度お馴染みの事件も起きた。
もちろん間違いなくそういう展開になるだろうと予想して待機していた俺と諸伏さんが対応。
ダッシュで駆けつけてきた工藤君を叱責し、蘭ちゃんとのデートへと追い返すことで事なきを得た。
ちなみに、元の体に戻る際には俺の魔術を用いた。
志保ちゃんからは人体実験がてら試作の解毒薬の使用を提案されたのだが。
デートの途中で体調を崩したらかわいそうだ、ということで今回は見送りになったのだ。
そういう意味では俺の魔術は身体にかかる負担が非常に少ないからな。
仕組みとしては、精神を除いた身体の時間を逆行させて「江戸川コナンになる前の肉体に戻す」という手順を取る。
ヨグ=ソトース干渉系の魔術で、術式維持のための消費MPが多いものの時間制限もなく比較的扱いやすい。
そうしてわいわいと雑談を続けていれば、バスは米花公園前まで来ていた。
一気にお客さんが増えて、ガラガラだった席が埋まる。
どこか鋭い視線で乗客を確認するコナン君を見るに、この間のピスコのことがあったから、まだ神経を尖らせているのだろう。
警戒している様子のコナン君を見て、隣の志保ちゃんが「その人は違うわよ」と鼻で笑った。
「なんでそんなこと分かるんだよ」
「私、組織の人間は匂いでわかるのよ」
「第六感か?そんな特殊能力お前にあったんだな」
「あら、非科学的って言わないのかしら?」
「バーロー、ならそこでダブルピースしてる諸伏さんは一体なんだってんだよ」
話題に出されていることを察した諸伏さんが、満面の笑顔で蟹みたいにピースをちょきちょきしている。
愉快な幽霊である。
コナン君はため息をついて言葉を続けた。
「それに、初見でお前、諸伏さんのことを警戒してただろ」
「そんなこともあったかしら………ッ!」
瞬間、志保ちゃんが怯えた様子でフードを目深に被った。
ふと見ると、新出先生と見知らぬ白人女性が連れ立ってこちらに歩いてきていた。
俺は新出先生をチラッと見てから、思わず二度見することになった。
前に事件の時に新出先生には会っているのだが、今見た彼はかつての時とステータス値がガラリと変わってしまっているのだ。
見た目は新出先生のまま。しかし露骨に中身は別。
普通に神話的恐怖である。
新出先生(偽)の隣にいるのは帝丹高校の教師の英語の先生で、ジョディ・サンテミリオンというらしい。
むっすー、と頬を膨らませた明美さんがじろじろとジョディさんを睨め付けている。
俺はこっそり座席上空で体操座りする明美さんに声をかけた。
「どうしたんだ、知り合いか?」
『あの人、私の彼氏の元カノらしいの。最近大君、あ、彼氏のことだけど、が彼女の後を追ってて……。私が死んだからよりを戻そうとしてるのかもと思ったら、気が気じゃなくて!』
「つまり昼ドラ?」
こくり、と深刻そうな顔をして明美さんは頷いた。
えらいこっちゃ。
そしてその後をつけるようにマスクをした目付きの悪い帽子の男が現れると、明美さんは激しくいきりたった。
『ほらやっぱり!大君よ!元カノのストーカーなんて最低!』
「お、おお、落ち着いて…」
『ねえ聞いて志保!酷いのよ!…志保?』
返事がないことを不審に思って志保ちゃんの方を見てみると、志保ちゃんは震えながらコナン君と席を変わってもらっていた。
おまけにその後ろに座る諸伏さんまで顔を真っ青にして冷や汗をかいている始末。
みんなして様子がおかしいんだが、俺は一体どうすれば…?
ひとまず諸伏さんにテレパシーで話しかけてみることにする。
『おーい、どうした?顔真っ青だぞ』
『あ、黄衣か。あのさ、俺、メチャクチャ視線合ったんだわ、さっき…』
『誰と?』
『ライと……俺が生きてたって誤解されたかもしれない』
『!?!?』
あの乗客の中に組織幹部がいて、かつ諸伏さんの顔を覚えていて生存を知られたってこと!?
俺が驚愕に目を剥くと、慌てて諸伏さんが追加情報を投下してくる。
『いやいや、ライは潜入捜査官だからそっちは問題ないんだけど、どっちにしろ俺生存の誤報は問題というか』
『そうだね!!』
もはやこれだけで一杯一杯だというのに、最後に入ってきたスキーヤーの格好をした二人組の男性客が事態にとどめを刺した。
二人組の男は二人とも拳銃を取り出した。
そして乗客を威嚇するためか、一発拳銃を撃って大声で怒鳴り散らす。
「騒ぐと命はないぞ!」
お、俺は一体どれから手を付ければ良いんだ!?!?
乗客全員に緊張が走り、一気にバス内が静まり返る。
子供達も騒いだりはせず、不安そうにコナン君を見つめている。
流石、事件慣れしている子たちだ。
俺は慌てて皆に念話のネットワークを繋げて、緊急的に相談ができるように組み上げた。
シンプルな魔術で、思考を仮想音声に変換するものだ。
これを使えばグループチャットのように皆で情報交換が可能になる。
もちろん、後で状況に応じて機能を加えられるように拡張の余地を残しておくのも忘れない。
繋げる相手は俺、諸伏さん、コナン君、灰原さん、明美さんの5人だ。
『テストテスト、聞こえてるか?』
『!!っ頭の中に声が…これ、黄衣さんの魔術だよね?』
『不思議な感じだわ…それにしても、大変なことになっちゃったわね』
『こりゃスキーは中止だな。子供達は後で美味しいレストランに連れて行ってやるとするか』
皆特に違和感なく念話を使いこなしているようだ。
その間にもバスジャック犯たちは手早く乗客から携帯電話を回収し始めた。
男の通話を盗み聞きするに、どうやら仲間の服役囚の解放が目的のようだ。
「そういう業界にも仲間想いの奴っているんだなぁ」などとつい念話で呟いてしまう。
それを半目で否定したのはコナン君だ。
『違うよ。さっき話に出てきた服役囚、強盗グループの主犯で、元宝石ブローカーだよ。盗んだ宝石が捌けなくて、そのルートを聞き出すのが目的なんじゃない?』
『だろうな。仲間を警視庁が逃したのが痛かったな』
『なるほど、普通にサツバツとしてたわ』
諸伏さんにも追加で肯定され、人の世は無常だと言うことを再確認するなど。
後ろで明美さんの恋人がわざとらしく咳をしながら「僕、携帯を持ってないんですよ」とか言ってるのが聞こえてくる。
ええと、さっきの話からするとこの目付きの悪いニット帽の人は明美さんの恋人兼組織の幹部のライで、潜入捜査官と。
どの角度から見ても携帯持ってない訳なくて地味に笑いが込み上げる。
明美さんが頬を赤らめながら「僕って言う大君ってなんだか新鮮だわ。可愛くていいわね!」とのコメントあり。
怖がってるのに律儀な志保ちゃんの「お姉ちゃん、今それどころじゃない」の言葉が刺さる。
コナン君がするりともう一台のスマホを取り出し、にこりと笑った。
『ひとまず、僕はスマホ2台持ちだからもう一台の方で目暮警部に連絡してみる』
『悪い、頼んだ』
しかし、その通話は繋がる前に中断されることになった。
すぐさまコナンくんの行動に気付いたバスジャック犯の一人が、コナン君を持ち上げて床に叩きつけたのだ。
スマホが激しく床に叩きつけられ、滑ってゆく。
「ぐっ!」とコナン君が苦し気に呻いた。
無事にブレスレットの魔術障壁が発動したことを感知する。
これは人の体に対して装甲として働き、一定の衝撃をカットする機能だ。
魔術の効果もありコナン君の身体に害はなかったようだが、子供相手になんたることか。
歩美ちゃんがコナン君を心配して涙目で抱きついてくる。
慌てて明美さんが駆け寄ったが、幽霊ゆえに助け起こすことはできない。
コナン君が明美さんと視線を合わせながら、自分の無事を示すように柔らかく微笑んだようだ。
俺は冷ややかに男の姿を観察した。
こいつちょっと目にもの見せてやろうか。
諸伏さんが苦笑いしながら肩をすくめた。
『おいおい、こんなところでマジになるのはやめろよ?』
『何も変なこと考えてないデスヨ?』
『あからさまに片言じゃんか』
気のせいアルネ!全然気のせいヨー!
とまあ、黒の組織特盛のバスジャック事件は始まったばかりなのであった。
・ハスター主
身内等目をかけてる人間等には駄々甘。
友人として10年ぐらい一緒にいると老衰で友を失うことが耐えきれずに「一緒に永遠を生きよう!!」って泣きついてくるタイプ。
お前も神話生物にならないか?(ハス座)