ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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史上最悪の二日間〈サッカー〉

 

 警察を待つ間、不意に俺に電話があった。

 スマホに表示された名前はマモーさんである。

 

 もしかしたら銭湯から戻らない俺たちを心配してのことかもしれない。

 ううむ、コナン君を追うのに夢中だったから後回しにしたが、連絡を先にした方が良かったな。

 そのように後悔しながら通話ボタンを押す。

 

「はい、黄衣です」

『神よ!!一体何が、御身はご無事なのですか!?!?』

 

 すごい剣幕のマモーさんが堰を切ったように話し出した。

 震え声というか、尋常じゃない勢いだ。

 俺の返事を待つ前に、マモーさんが息も荒く言葉を続ける。

 

『全生活オーガナイザーと「彼方より来たりて饗宴に列するもの」との接続が、と、途切れています!空に跨る神の姿も光を失って見えづらく……おん、み、が、危機に瀕しているのではないかと、私は…!』

「!!っ俺は大丈夫だ!ちょっとニャルのイタズラがあっただけだから心配しないでくれ!」

 

 そうか、ハスターの瞳が落ちたことでマモーさんのオーガナイザーも不具合が出ているんだ。

 同時にマモーさんの恐慌の理由も分かって、俺は申し訳なさに歯噛みした。

 

 あのハイパーボリア滅亡の時、最初の予兆は理由なく俺との接続が途絶えたことだった。

 「彼方より来たりて饗宴に列するもの」がクトゥルフの権能で切断され、ハイパーボリアの民は困惑。

 そうこうしているうちにクトゥルフが大軍勢で現れて。

 

 そりゃいくらマモーさんでも恐怖するに決まっている。

 

「今コナン君が攫われてて、それに旧支配者イゴーロナクが関係してるみたいなんだ。解決したら後で復旧するから、しばらく不便かけて悪い!」

『旧、支配者が…この地球に……』

「大丈夫だって。俺は明日には絶対戻ってくる。約束するよ」

『…………はい』

 

 この世全ての心細さが縒り合わさったような声色に、俺は罪悪感が刺激された。

 電話を切ってから、ニャルを小突いて膨れる。

 

「なんですか?僕何にも悪いことしてないですけど」

「これ終わった後でいいから俺の瞳直せよ……おいその顔絶対どこいじったか忘れたろ!」

「うーん」

 

 ニャルはずっとぼけてふらふらとその辺の蝶々を捕まえに行った。

 このニャル野郎!!!

 もうそれもこれもイゴーロナクが悪い。全部悪い。

 

 俺はいきりたった。

 

「あの中年デブ野郎、ぜってー捕まえてボコボコにしてやりますわよ!」

 

 ひとまず無力な犯人Aを到着した警察に引き渡して、俺たちは車に戻った。

 怪異案件として公安を呼んだのだが、イゴーロナクは既に退散しているため警察は対応に苦慮することになるだろう。

 怪異関連案件はこういうところ、法では扱いづらいんだよな。

 

 降谷さんが厳しい顔をしてRX-7にもたれかかった。

 

「あとは俺たちでコナン君を追うか?残党が残っているんだろう」

「んー、コナン君のことは降谷さんと諸伏さんに頼みたい。俺は嫌な予感がするからイゴーロナクを追うよ」

 

 あれがただ逃げているのならいいのだが。

 逃げながらまた悪いことを考えていたらまずいため、念には念を入れる形だ。

 

 アレの悪事は底が浅いというか、適当に悪そうなことやって満足してる奴だからな。

 とりあえず殺しまくる犯しまくる壊しまくる。

 凝った感じが全然ないが、その分対処しやすいやつだ。

 そのせいでよくニャルにまで馬鹿にされているけれど。

 

 だが、今回はかなり凝った悪事だった。

 トラックに爆弾を積んで爆破し、何かの理由でコナン君を攫って身分を隠して多数の人間を使うに至った。

 

 たぶん依代の知恵だろうが。

 それを吸ったイゴーロナクが下手に知恵を働かせたら厄介だ。

 

 俺は口を引き結んでため息をついた。

 

「とりあえずコナン君の位置情報魔術を降谷さんに送るよ、これを参考に、」

「待った。心の準備をする時間をくれ」

 

 降谷さんは真面目な顔をして手を俺の方に突き出した。

 そして深呼吸。

 よしこい!と言う顔で俺を再びキメ顔で見た。

 

「いやなに?ただ魔術渡すだけだぞ?」

「毎回それで僕は頭痛に苦しんでる。魂の処理落ちだと思うが。君の魔術は高度すぎる」

「言うほどか?まあいいや。はい、どうぞ」

 

 俺が魔術を渡すと、「ぐあ!?」と降谷さんは変な悲鳴をあげてうずくまった。

 諸伏さんがゼロ!?と心配そうに背中をさする。

 俺のこの加害者扱いは一体なんなんだ?

 

 だがこれでコナン君の位置は把握できただろう。

 よほどのことがなければコナン君の魔術防壁は突破できないし、黒い風がいれば多少の怪異は薙ぎ払える。

 

 俺は早めにイゴーロナクをとっちめた方がコナン君の安全は守られるはずだ。

 

 俺はカッと目を見開いて宣言した。

 

「ニャル!サッカーのお時間がやってきました!!」

「僕もうユニフォームに着替えちゃいましたよ!」

 

 暇そうに雑草むしってたニャルがニュッと元気を取り戻してこちらへ寄ってくる。

 その姿は胸の中心に燃える三眼のワッペンが付けられた黒いユニフォームだ。

 背中の番号10番だ。キャプテンのつもりらしい。

 

「気合い入りすぎやんけ。よろしい。第一目標はイゴーロナクでよく転がるボールを作ること」

「じゃあ第二目標は手足でかっこいいゴールを作ることですね!盛り上がってきましたよ!」

 

 ニャルが形ばかりの準備運動の仕草でやる気を見せている。

 良いことだ。これはイゴーロナクサッカーも捗りそうだ。

 

 俺たちが気合を入れていると、諸伏さんが「怖…近寄らんとこ…」モードに入ってしまった。

 降谷さんの後ろに隠れて怯えている。

 盾にされた降谷さんは苦悶の表情でただ耐えている。

 

 いやでもあいつは本当に悪い奴で一生ボールでいいタイプの存在だから!

 俺たちが正義だッ!!!

 

 

 まあ、ともあれ行動は迅速に。

 旅立ちは今すぐが良いだろう。

 

 身の回りの様子を確認してから、俺は「あ!」と気付いて俺は諸伏さんに血液パックを手渡した。

 

「ごめん星の精にご飯あげといて!多分めっちゃ怒ってる!」

『了解、星の精への言い訳は俺が考えておく。ゼロ!行けそうか?』

「ああ。問題ない。うう、まだちょっと吐きそうだ……」

『無理するなよ。じゃあ黄衣達は頼んだ!』

 

 軽く挨拶をして別れる。

 俺たちもその場で行き先を打ち合わせるべく、まず星図を展開した、

 

 3Dで映し出した360度の地図だ。

 

「ともかく、今のイゴーロナクの位置は魔術でたどってここ。大英博物館に腕が残ってるのに逃げ切れるわけないんだよな」

「だから腕を取り返しにきたんでしょうけど、浅はかでしたね。というかなんで日本にいたんでしょう。位置全然違うじゃないですか」

「単に波長の合うやつを優先したか、地球内であればまあええやろの精神だったか」

「んー……イゴーロナクなら後者な気がしますね」

 

 すごくイゴーロナクが馬鹿にされている。

 いや普段からニャルはことあるごとに他の旧支配者と外なる神を馬鹿にしてるけど。

 

 ちょっと同情しつつ、俺は星図に光で軌跡を示して航路図を作った。

 

「俺はこのルートから追い立てるから、ニャルが先回りして挟み撃ちにしてくれ」

「わかりました。隠れてバア!そう言う趣向も悪くないですね!」

 

 そう言い合ってお互い宇宙空間に跳躍。

 本性を現して高速航行を始める。

 

 俺は一般に星間宇宙の帝王、と呼ばれている

 これは俺の高い移動能力を示す言葉だ。

 

 地球では風の支配者、エントロピーの化身として扱われることが多いが。

 宇宙の一般的な解釈では、旧支配者ハスターは星間宇宙での「移動」力そのものを権能とする超広域で活動的な存在なのだ。

 

 だからこそ、俺の奉仕種族たるビヤーキーも埒外の移動能力を生得的に持ちうる。

 

 権能を用いてトップスピードで宇宙を奔る。

 ニャルは魔術で適当に転移したようだ。

 奴の魔術は変幻自在だから、イゴーロナクが転移の予兆を感じ取るのは不可能だろう。

 

 あんな粘土捏ねるみたいに魔術が使えるのはわけわからんが、そもそも魔術の根本はアザトースにある。

 夢に浮かぶアザトースの意思のかけらを魔力と呼び、それを用いて夢を変えることを魔術と呼ぶ。

 

 ニャルはアザトースのメッセンジャーであるがゆえ、息をするように魔術が行使できるのだろう。

 

 予定通りの進路で追い立てる。

 時間がかかる工程だが、時間加速魔術は使わない。

 旧支配者にとってそれは全身から爆音鳴らし立てながらかくれんぼしてるみたいなもんだからな。

 あまりに目立つ。

 

 と、そのあたりでニャルから連絡があった。

 

『こっちは位置につきました。あとは驚かせて四肢を捥ぐ。楽しいですね!』

「そうだな。このデブ野郎思う存分蹴ったくってやる」

 

 ことは非常にスムーズに進み、イゴーロナクの姿が攻撃射程圏内に現れた。

 奴は慌てた様子でバタバタと逃げ出したようだが、その体からは細長い通信の糸が伸びている。

 どうやら地球にまた思念を送っていたらしい。

 

 気に食わんなぁ。

 

「範囲指定、数量指定、展開規模計測。想定破壊区域に危険なし。──『魂の撃滅』」

 

 銀河団規模の攻性魔術「魂の撃滅」が吹き荒れる。

 範囲がでかいから、当然イゴーロナクは防御魔術を組みながら攻撃密度の薄い方向に逃げていく。

 

 イゴーロナクは返す手で俺に「死の呪文」で消えぬ火を放つが防壁でキャンセル。

 奴は基本的に格下を蹂躙することしかしないので、戦いが下手なんだよな。

 

 いや、格上に食ってかかってる神話的狂人が俺って説も無いではない。

 

 そして合流地点へ到着。

 ニャルは邪悪そのものの姿で飛び出して、イゴーロナクの片足と片腕をもぎ取った。

 

 決死の仕草でイゴーロナクが抵抗し、めちゃくちゃに魔術を振り撒いている。

 しかし既に初撃でニャルが撒いた封印系が作動しているのか、弱々しいそれは片手間に打ち落とされて無効化されていく。

 

 死に物狂いで暴れるので、俺も残った手足を捥いで手の中で遊ばせた。

 ゲームセット。

 俺は首を傾げてニャルに声をかけた。

 

「別にいいんだが、どうして最初に全部もがなかったんだ?」

「それは…我が夫の分も残しておいた方がいいと思って…。僕だけがっつくのは失礼でしょう?」

 

 ニャルは恥じらって上目遣いでこちらを見た。

 もしゃもしゃの触手の中から燃え上がる三眼が上目遣いでこちらを見ている。

 

 ニャル…親切で良いニャルだなぁ!!

 俺はニャルのもしゃもしゃの触手をたくさん撫でた。

 もしゃもしゃは激しくのたうち、歓喜したようだ。

 

 さりげなくイゴーロナクが逃げようとしていたので、その中年体型の胴体を魔力の紐で結んで球の形に整える。

 サッカーボールの模様も手作業で描いて、骨の位置を調整してボール重心を整えて。

 

【──!!!───!!!】

 

 イゴーロナクが必死で命乞いをしている

 ボールが喚くでない。鬱陶しい。

 

 出来上がったボールを触手でポンと蹴れば、良い具合に転がった。

 よし!完璧!!!

 

 ふと見るとニャルの方は見事なゴールを作成していた。

 

 魔術で編んだネットが張ってあって、骨で組まれた美しい彫刻付きのゴールだ。

 先っぽに手のひらがそのまま残っていて、ベロンと舌を出したイゴーロナクの口がブルブル震えている。

 

 ニャルはワクワクとゴール前に陣取った。

 

「よし!いつでも来ていいですよ!」

「毎回思うけど本当ニャルはセンスあるよなぁ!俺感動したよ!」

「えへへ。即興物だから恥ずかしいですけど。我が夫の丁寧なボール作成技術もかっこいいですよ」

 

 いちゃ…いちゃ…と仲良し夫婦のスポーツ大会の始まりである。

 

 そのあとしばらく、俺たちはサッカーを楽しんだ。

 ニャルは飽き性だから20分ぐらいのものだろう。

 それでも十分すぎる楽しみになった。

 

 最後はボールを恒星に蹴り込んで、ぼっと燃える花火を二人で楽しんだ。

 風情があって素晴らしい。またやりたいものだ。

 

 そのように、俺たちは地球に帰還したのだった。

 





・マモーさん
あまりのトラウマど直球に胸が張り裂けそうで一睡もできなかった。
明かりの弱まった空に、エラーの浮かぶオーガナイザー。
旧支配者が地球にて暗躍し、神はその対処に出たまま帰ってこない。

・星の精
マモーさんが尋常でなく震えてるのでゲタゲタ言って慰めてた。
星の精撫でるか?元気出る?グミいる?くっつくとあったかくていいぞ?

・黄色の印の兄弟団
有力な魔術師達がハスターの瞳の異常に「!?!?」ってなってる。
ハスターの瞳に異常がある時は凶兆の知らせ、という伝承がある。
発症の意味はハイパーボリア滅亡から来ているが、一般的にはニャルが悪さしている時が多い。
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