ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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同人魔術本作成のススメ

 

 机に向かって原稿を書いている今現在である。

 

 時刻は夕方に入る前、午後4時ごろ。

 

 「何書いてるの?」と学校から帰ってきたコナン君がランドセルを下ろしながら俺に聞いてきた。

 星の精も元気にポケットから飛び出て事務所内を二足歩行で駆け回っている。

 

「おかえり。自費出版で同人本を出そうと思って。原稿練ってるとこなんだ」

「珍しいね、本を出すんだ」

 

 今は白い紙に何をどの順で載せるかの構成などを書き殴っているところだ。

 まだ図形と矢印と走り書きの文字しかないが、それだけでコナン君はピンときたらしい。

 流れを指さして問いかけてきた。

 

「複数の別の効果を持つ魔術を結合するときの仕組みを書いてるの?」

「え、コナン君わかるの!?」

「ブレスレットの仕組みとそっくりだから。流石、制作者が同じなだけあるね」

 

 ほええ…と俺は思わず慄いた。

 INTで殴ってくる探偵は着眼点が違う、ということらしい。

 

 そう、これは古エイボン式魔術中級者に向けた魔術本だ。

 中級者の足場固めのためのノウハウ本。

 

 本の大半は魔術式の綺麗で実践的な組み方で占められている。

 

 先人の記載通りに魔術式は組めても、オリジナルとなると途端に効率が落ちるとか。

 どうしても組み上げ速度が遅いとか。

 そういうよくある悩みに対応して素早く思った通りの魔術式を自在に組むための技を詰め込んでいるところだ。

 

 理念自体はハイパーボリアの時代からあったものだ。

 それに従ってコナン君のブレスレットの魔術編集ソフトウェアも作成されている。

 つまりは、ハイパーボリアの知恵者達が生み出したノウハウの集積のまとめ本ということになる。

 

 当時は多少本も出ていたのだが、散逸しちゃってるし、オーガナイザー前提のところもかなり大きいからな。

 だから、手作業で組むときのコツを改めてまとめ直した形である。

 

 コナン君が興味深げに原稿をパラパラと眺めた。

 

「凄いね。でもたぶん間違いなく出版差し止めになるから頑張りすぎないようにね」

「い、いや、親しい人に配るだけだし…金銭のやり取りはないから…」

「公安にマークされるよ。諸伏さんも黙ってないで言ってあげれば良いのに」

『いやぁ、黄衣が頑張ってるから今はそっとしておこうかと』

「酷い…俺のやる気はどこへ行けば良いの…ちくしょう。全部公安に献本することにしよう」

「君永さんが喜ぶね」

 

 隣で仕事中の諸伏さんが生ぬるい顔で息をついた。

 

 俺がシクシク泣いていると、星の精が帰宅時のおやつ用グミをもぐつきながら俺の原稿を覗きに来た、

 

【ゲタケダ?】

「星の精も魔術に興味あったりする?」

【ゲタッ!】

 

 星の精は力瘤を作るような仕草をした後、激しく触手を蠢かせた。

 どうやら魔術を使っているつもりらしい。

 

 俺が星の精の触手の先から星のような煌めきが出るようにしてやる。

 すると「ゲタッゲタ!!」と喜んて星を振り撒き始めた。

 

 仕事中の諸伏さんを星まみれにして遊んでいる。

 「モニターが見えないんだけど」と諸伏さんは困り果てたようだ。

 うむ。そのまま星まみれになっているといい。

 

 俺は気を取り直し、改めて胸を張って宣言した。

 

「ところで、俺実は昼から知性を上げて活動しています。具体的には地方のちょっと良い大学出ぐらい」

「気付かなかった……」

『俺も……』

 

 二人とも全然寝耳に水という顔をしたので、俺はいよいよいきりたって暴れた。

 

「いままでの俺は凡人の中でも抜けてる方!そこからの大幅躍進だぞ!?」

「でも出版差し止め気づいてなかったよね?」

「真実は時に人を傷つける……」

 

 俺はメソメソと顔を埋めて泣いた。

 具体的には現在INT13から14の間程度。13寄りかな。

 人類限界値は18だが、16あたりから飛躍的に頭脳のスペックがおかしくなっていく。

 18は具体的にはアインシュタイン。あとコナン君もこの領域になってきた。

 

 ともかく俺のINTは大幅躍進だというのに!

 なお、人格とはまた別の指標なので、俺がポンなのは据え置きである。

 悲しいね。

 

 せっかく頑張って地道にINT低下の自己呪詛を改良したのに。

 なぜ俺のポンは直らないのか。

 

 涙に濡れていると、星の精が血液グミを俺に分け与えてくれた。

 「クスクス」と言って大盤振る舞いして三つもくれる。

 

 星の精の美味いもんやる。悪い黄色は元気出せ。お前悪いけどいいやつ。

 

 概ね優しいけど悪い奴扱いで心が凹む、そんな俺である。

 ややメソメソしながらグミをもらってもぐもぐ口に含む。

 星の精には色々あげてるけど、血液グミが一番ロングセラーで安定したおいしさらしい。

 

 良い星の精にはお返ししようねぇ。

 素早く作成したのは新作、血液パイだ。

 血液成分をサクッと層にして、ジェル状の血を挟んだ軽い食感の仕上がり。

 

 星の精が訝しげにパクッと口に含み。

 次の瞬間ほわぁ…!と幸せそうに満面の笑みになった。

 

【グスッ、ゲタゲタゲタッ!】

「おーけー、グミ缶出しな。ひとまず十個入れてやろうな」

 

 血液パイを缶に入れてもらって、星の精は喜び勇んでコナン君の頭の上に陣取った。

 コナン君が「美味しいもの貰えてよかったね、星の精」とに声をかけている。

 星の精はクスクスゲタゲタ言って喜びをコナン君に伝えている。

 

 そう言ってる間に、俺も原稿の構成が完成した。

 

 レイアウトが決まればそれでいいからな。

 構成さえ完成すれば、INT制限を取り外して思考を文章と図案に書き起こし、それをレイアウト通りに流し込むだけだ。

 じょろりと原稿データを完成させ、軽く手直し。

 崩れている箇所を修正してから、それを電子データへと変換。

 

 要したのはほんの数秒だ。

 途中で飽きてきて横着したともいう。

 

「よし、原稿完成!マモーさん!そっちのオーガナイザーに送るから確認してもらえると助かる!」

「畏まりました、微力ながらお力添えいたします」

「あ、僕も見たい!」

『俺も俺も!』

 

 マモーさんがニコニコですっとんできた。

 頼み事すると本当に嬉しそうにするんだよな。

 頼んでるこちらが申し訳なくなってくる。

 

 コナン君にはブレスレットに転送してプレビュー機能をちょいと付け加えておく。

 これで原稿が大画面で確認できるだろう。

 諸伏さんは脳内に送ったら可哀想なので、印刷して手渡しする。

 

 マモーさんが数ページペラペラとめくってから、導入箇所を指差した。

 コナン君も同様にすごい速さで読み進めていく。

 

「………神よ。この前提知識は一般的ではありません。ハイパーボリアの有識者ならばピンときますが、現代の魔術師には理解が難しいかと」

「おお、なるほど。ありがとう、修正するよ」

「黄衣さん、これ、58pの図解。この説明よりこっちの部分の図解を入れたほうがいいかも。多分躓く人多そうだし」

「たしかに……よし!図解作り直します!」

 

 そのように夢中で作業すること一時間。

 

 魔術本原稿作成はつつがなく完了し、原稿は一般的な印刷会社に入稿された。

 30部の印刷で、ハードカバーの300pだ。

 

 箔押しエンボスの表紙に本文フルカラースピン付きはかなり高くついたが。

 自費出版という響きに酔っていた俺は満足していたので気にならなかった。

 

 出来上がったものは俺が一冊手元に残す以外は、全て公安に献本した。

 事情を何も知らなかった降谷さんがしょっぱい顔で受け取ったがそれはそれ。

 

「君、怪対関連法32条指定図書を作成しないでくれないか」

「いやぁ、販売のためではないし公安への献本ならいいかなと。魔術を知ることは怪異対策のためになるし」

「まったく……あとこれ本当に中級者向けか?」

 

 降谷さんは大層訝しげな顔をして首を捻った。

 

「どこから嗅ぎつけたのか、現時点で星の智慧派からDDoS攻撃に見紛う量の閲覧問い合わせが来てるんだが」

「ひえ。ナイ神父が漏らしたのかも。あの人ニャルの動向命懸けで探るために俺の周囲見張ってるし」

「それは……苦労を察してあまりあるが……黄色の印の兄弟団の方も懇願してきている。こちらは協力関係を築いている以上、無碍にはしづらい」

 

 降谷さんが大きなため息をついた。

 苦労かけて済まんね……でも無料書籍一冊渡すだけで莫大な貸しになるから、割とお得ではあるかもしれない。

 俺自らが執筆した魔術教本とか、彼らにとっては聖書の原本に等しいからな。

 

 ちなみに、今後規制を拡大し、ネクロノミコン.pdf等のネット無料配布も罰則の対象になる予定らしい。

 銃の作成動画規制と同じだ。

 いよいよ俺の献本先が公安にしか無くなってしまう。

 

 降谷さんがブスッとしたまま頭をかいた。

 

「まあいいさ。副総監がこの本をお待ちかねだ。首が長くなりすぎてろくろっ首になりかけている」

「公安信者さん元気?」

「本の話聞いてからずっと元気だ。警視庁の己の部屋に置くらしい。専用の神棚を作っていた」

 

 お、おう………。

 俺はちょっと小さくなった。

 別にいいんだけどね。熱意が怖い時ってあるよね。

 

 降谷さんはぴらぴらと手を振って笑った。

 どうやら警視庁に帰るらしい。

 

「じゃあ、また何かあった教えてくれ。降谷さんも感想聞かせてくれよな」

「四則演算で苦戦している人間がフェルマーの小定理に足を突っ込んでも火傷するだけだ。期待はしないでおいてくれ」

 

 そう言って、降谷さんは背を向けて去っていく。

 四則演算と言っていたが、降谷さん分数と整数の混合計算までは行ける感じなのになぁ。

 プライドエベレストが祟って魔術に対する自信がすっかり折れてしまったらしい。

 

 ナムナム、と降谷さんの後ろ姿に黙祷すれば、後頭部を黒い風がベシッと叩いてきた。

 変な同情すんなということらしい。

 

 まあ、なにはともあれ。

 ちょっとした趣味として確かな実感を得て、俺は手元に残した本の背表紙を撫でたのだった。

 





・魔術書「魔術式構築のためのいろは」
現代日本語300p。正気度喪失なし。
把握時間6週/斜め読み10時間
習得呪文:なし
古エイボン式呪文習得者は魔術の複数同時使用が可能になり、消費MPが半分、発動速度1.5倍になる。

・怪対法32条
魔術書を金銭取引してはいけない、とする法律。
出版業界が大反対してた。本物の魔術書かどうか見分けつかんのに罪になるのか!
定義としては「実際発動可能な魔術が載ってる本」になる。
オカルト雑誌涙目大反発。
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