ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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闇サイトの恐ろしさ

 

 降谷さんに呼び出されて、俺は警視庁までやって来ている。

 

 いつも使っている会議室に案内され、俺は怪対課の刑事さんにお礼を言って入室した。

 この部屋は怪異対策課によって人払いもされていて、他の部署の刑事さんは近寄らない。

 

 入室すると、降谷さんの他に珍しく松田さんもいるようだ。

 「よ」と気軽に挨拶されたので俺も「よすよす」と挨拶し返す。

 

 今回の主題は昨今の裏サイトに関するものらしい。

 ポケットWifiに繋いだPCの画面にアングラサイトが表示され、降谷さんがそれを俺に提示した。

 

「この間話はしたが、やはり裏サイトを通した怪異品事件が後を経たない。ゆえに、君にも協力を仰ぎたい」

「もちろんいいとも。これは……怪異指定品売買か?」

「ああ。盗難品売買や海外からの不正輸出入もある」

「税関すり抜けかぁ。メガネの配布量を増やすか、それとも機能追加か。悩むなぁ」

 

 俺は腕を組んで唸った。

 

 怪異指定品の取引が禁止されてから、こうした闇サイトでの取引が急激に増えた。

 不正な輸出入に税関も大忙しで、禁止されればされるほど欲しくなる人の性を強く感じざるを得ない。

 

 税関も頑張ってはいるのだが、やはり人手に限りがある。

 麻薬と一緒で、どんな手で隠されているかわからない以上、漏れるのは仕方ないことだ。

 

 悩ましい限りである。

 

 降谷さんがPC画面を操作し、掲示板のような場所を表示した。

 「それと、今回の本題はこっちだ」と言って一つの書き込みをアップに映す。

 

 うわ!?と思わず俺はのけぞった。

 

 嘘八百の魔術知識がずらりと並んでいる。

 ちょっとあってる部分もあるのがさらに始末に負えない。

 こんな知識で魔術を使用すれば大火傷では済まない。

 爆弾解体ゲームの知識で爆弾を弄るようなもので、吹っ飛ぶより他に道はないだろう。

 

 降谷さんが深刻そうな顔をして言葉を続ける。

 松田さんもどこか陰鬱な空気を漂わせていて、話がこれだけでは無いことを予感させた。

 

「特にこの記述。これを悪用した自殺サイトで事件が起きていてな。すでに集団自殺が起きている」

「ちょ……眠るように死ねる怪異?バカな、これ自分の肉体から魂を引き剥がす魔術だよ!?」

 

 動揺して俺は言葉をもつれさせた。

 

 確かに肉体は眠るように穏やかに機能を停止するだろう。

 でも実際は生の魂が外に放り出され、耐え難い苦痛の中崩れていくだけだ。

 

 そのように説明すれば、降谷さんも視線を下に向けてやや沈黙したようだった。

 

「やはり……そうか。僕もそんな気はしていたが」

「諸伏さんは極めて強い魂だったから魂のままでも正気を保てたけど、こんなの普通の人がやったら一ヶ月もしないうちに発狂コースだ!」

 

 静かに瞳を伏せて、降谷さんは俯いた。

 ハイパーボリアの時代は幽霊がほとんどいなかったため俺も知見がなかったが、今なら俺も理解できる。

 

 幽霊とは、割と本気で地獄の状況だ。

 塩をかけられたナメクジの如く、魂は静かに苦痛の中干からびていくしかない。

 

 降谷さんが真っ直ぐに俺を見た。

 

「ちょうど、松田がそうして自殺を図った女子高生の魂を保護している」

「保護?ここにいるのか?」

 

 俺は目をぱちくりと瞬いた。

 松田さんはポッケに片手を突っ込みながら渋面を作って頭をかいた。

 

「ああ、偶然街で出会って、こんな時間に外を出歩いてる未成年かと思って注意したんだよ。そしたら……あー、今別室に待機しててもらってる。こう、なんとかしてやってくれねぇか」

「うーーーん」

 

 俺は難しい顔で黙り込まざるを得なかった。

 保護ということは、一応ギリ正気なのだろう。

 

「選択肢はいくつかあるけど。つまり、蘇生するか、その場で解放するか、いっとき現世に留まってお別れさせてから解放するかだけど」

「事件は二週間前のことで、本人の肉体はすでに火葬されている」

 

 降谷さんの言葉に、俺はますます呻いて「ご本人はなんて?」と問いかける。

 

 ハイパーボリアの観点なら、魂が正気ということはまだ生きているという共通認識を得られる。

 当然、肉体を復旧させるのが倫理的に正しい。

 

 だが現在の日本の価値観だと火葬も済んでいるとなると、通常死亡したと見做される。

 生き返りなんて実現すれば、世間は誤解と共に良くない魔術への傾倒や神の奇跡に縋るようになるだろう。

 

 松田さんが困り切った様子で眉を下げた。

 

「家族に会いたい、帰りたいっつって泣いてるんだ」

「うぉおおお……!!!」

 

 俺は頭を抱えて咆哮してから、決断した。

 これは逆に人間に判断を任せるのは酷だ。

 俺が独断で全ての決断を握った方が問題は少ないだろう。

 

 神がそう独断で決めたのだから仕方ない。

 そのように思ってもらうべきだ。

 降谷さんもそのように思ったからこそ俺に方針もなしに相談したのだろうしな。

 

「仕方ない。本人の願いだし、俺が肉体を復旧する。このことを口外しないように家族と本人には呪詛は刻ませてもらうけどな」

「……世間にはどう公表するつもりだ?」

「そっくりさんだった、じゃだめか?」

「身元不明遺体か。違法捜査も甚だしいな。だが、俺たちが言えたギリじゃないか」

 

 降谷さんは自嘲したようだった。

 

 実際、諸伏さんと松田さんと状況は一緒だ。

 俺の力でできることなら助けたい。

 だがそれが広く知らしめられた時、神に縋る声は無視できないほどに大きくなる。

 限られた人だけが助けられる不平等と、感じる人も出てくるだろう。

 特に、死者蘇生とあらば人の悲願であるがゆえに。

 

 俺は無限に人々を助けられるが、そうして待っているのは自立を捨てた未来に他ならない。

 難しいものだ。

 

 「ともかく連れてきてくれ。処置をするよ」といえば、降谷さんが外で待機する刑事さんに指示を出した。

 

 しばらく。

 小さくノックして、高校生ぐらいの女の子の幽霊が入って来た。

 純朴そうな子だったが、青ざめて震えて不安そうで、唇を噛んでなんとか頑張って歩いていると言った風体だ。

 

 まあ、再犯は考えなくても良いだろう。

 

 幽霊でいることは苦痛を伴う。

 寒く、この上なく飢えて乾いて苦しむ。

 肉に守られず急速に魂が損壊していく悍ましい感覚は、生き地獄に違いない。

 

 俺はできるだけ優しく声をかけた。

 

「良くきてくれたね。座って。リラックスしてくれていいよ」

『あ、あの!ごめんな、さいっ!私、ほ、本当に、後悔して…!』

 

 開口早々、女の子は必死で言い募った。

 震えて震えて、荒い息で瞳を潤ませながら言った。

 

 確かに彼女は軽率だった。

 怪しげな自殺サイトの記載を信じて、集団でそれを実行した。

 当然、愚かしいと人はそれを非難するだろう。

 

 だが、それだけの苦しみが彼女にあったことを思えば、こんな仕打ちを受ける道理はないだろうと、俺は思うのだ。

 

「安心して。息を吸って。悩みがあったんだろう?苦しんで死にたくなるほど悩んでたんだ。まさか、死んだ先がもっと苦しいなんて分かるはずないもんな」

『………う、ぅぅぅ…!』

 

 女の子はただでさえ腫れぼったい瞳で、ぼたぼたと泣いて泣いてうずくまった。

 

 二週間か。

 見たところとんでもなくSAN値も減っているし、発狂してからなんとか持ち直したのだと思われる。

 諸伏さんによると「胃の中からちょっとずつヤスリで中身を掻き出されてる感覚」とのこと。

 

 女の子は泣きながら叫んだ。

 

『こんなことになるなんて思ってなくて、誰も、寒くて、苦しくて、ずっとずっと誰も私のこと見えなくて、怖くて!!!』

「よしよし。もうこんな怪しい情報に手を出しちゃダメだぞ。約束できるな?」

『うぅぅ……!うん………!』

 

 魂に触れて多少熱を込めて寒さを楽にしてやる。

 ついでにこのことを口外しないように軽い誓約魔術をかけておく。

 

 そうして本題、魔術「肉体の付与」を発動。

 幽霊を受肉させる。

 本来は死体などが必要だが、俺が賄って生前と同じものを出しておいた。

 今回だけのサービスである。

 

 受肉した彼女にコーンスープの缶を出して手渡す。

 力が入らなくてプルタブが開けられないようだったが、松田さんが代わりに開けてくれたようだ。

 

 「ほらよ」と言って松田さんがほかほかの缶を渡す。

 

 女の子がコーンスープを飲んで、泣きじゃくりながらひたすらごめんなさいと言い続けていた。

 

 その後は怪異対策課の人が別室に連れて行ってくれた。

 女の子のいなくなった部屋で、松田さんが「はーー」とため息をついてパイプ椅子の背もたれに体重を預けた。

 

『そうなんだよな、幽霊は腹減るのがマジで死ぬほどキツい。限界をはるかに超えて腹減って気力だけで動いて死ぬ。いやもう死んでっけど』

「…………保護者への説明はこちらで行う。君はこのサイトへの対策と集団自殺の再発を防いでほしい」

「了解。流石に罠すぎるもんな。ひとまず、この情報に関しては俺が継続的に消去しておく。怪異指定品売買はメガネに透視機能を付加しておこうかな。隠しててもこれなら怪異品を見つけ損なわないだろう」

「助かる。というか透視は別の意味で税関が死ぬほど欲しがるだろうがな」

 

 「あの界隈はマジでイタチごっこだしな」と松田さんが肩をすくめて言った。

 どこも苦労しているということだろう。

 

 降谷さんが陰鬱な顔をして松田さんにチラリと視線を向けた。

 松田さんが「鬱陶しいんだよメンヘラ男」とピシャリと言う。

 素早くいきりたつ降谷さんに、「俺の自業自得にうじうじすんなっての」とだけ返した。

 

「缶コーヒー買ってくる。話進めといてくれや」

「………ああ」

 

 お通夜状態の降谷さんと二人っきりにされ、俺は焦った。

 ワタワタフォローしようとして「気にするな」と固い声を出されてさらにワタワタ。

 降谷さんは大きくため息をついた。

 

「話は変わるが、君宛に国際会議の出席のお願いが来ている。国連の臨時組織で、国際未確認異常対策機関…つまりUNOAPで日本も知見の協力が求められている」

「お、なるほど。俺も行った方がいい感じ?」

「会議に顔を出すかはともかく、技術的な話をする際にいてもらえるとありがたい。矢面に立つのは僕でいい」

「了解。めっちゃ助かる。黒子役やります」

 

 国際社会の対応はまだまだ手探りの状態が続いている。

 俺としても知見の共有はやぶさかでもない。

 

 難しい問題の山積に、俺は肩を回して気合いを入れ直した。

 

 神でしか解決できない問題は多々ある。

 神が解決してはいけない問題も多々ある。

 

 その塩梅が難しくて、俺はへにゃりと机の上に伸びたのだった。

 





・税関用メガネ
改良品。
メガネをかけると、怪異品がスーツケース越しなどでもピンクのネオン光の縁取りとして見える。
とってもわかりやすいので、どうか麻薬などにもこの機能が欲しいと現場から懇願の声が上がっている。

・自殺サイト「安らかに死ねる方法!」
超罠サイト。地獄への片道切符。
ハスターが消去したが、人が死を求める限り根本的には解決しない。
それこそ、「楽園」の再来でもない限り、苦しみのある限り、死は人を誘惑する。
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