コナン君が事件に巻き込まれたらしい。
彼を迎えにいつもの通りに警視庁へと向かう。
この辺は慣れたものだ。
目暮警部が「すまないね、黄衣君」と出迎えてくれたのでぺこりと挨拶。
コナン君に加えて少年探偵団も一緒だ。
星の精オウムバージョン付き。
後ろの高木刑事が星のオウムにつつかれて困っている。
高木刑事は嫌われているわけではなく、喝を入れられているらしい。
「声出せ!ほしのせーの真似しろ!」と熱血コーチ星のオウム概念が誕生している。
高木刑事もきちんと「押忍!」って言ってるし、可愛いの塊かよ。
ともかく。
俺はわあっと駆け寄ってくる子供達をヨシヨシした。
そして目暮警部に声をかける。
「刑事さんが撃たれたんですよね?」
「そうだ。被害者は奈良沢治警部補と言ってな。もともと捜査一課におって、班は違うが正義感のあるいいやつだったよ」
その死を悼むように目を伏せたので、俺もしばし黙祷する。
警察官、本当に殺されがちなんだよな。
そしてそんな殺されがちな警察官すらも怯える魔の部署が怪異対策課。
人手不足に拍車がかかるとはこのことよ。
コナン君がそっと俺に囁いた。
「この事件、怪異は関係してくる?」
「うん、俺も来る前に調べたけど関係ないから安心してくれ」
「ほんとに?黄衣さん物事を過小評価する癖があるからなぁ」
「うっ……いや確かにちょっと関係するけど、そんな気にしなくていいと思って」
「やっぱり」
コナン君に半目で睨まれつつ、少年探偵団も大いに盛り上がっている最中だ。
俺が来たということは、何か美味いもんをくれると掘り込まれてしまったらしい。
元太君が「この近くにうまそーなひつまぶし屋見つけたんだ!行こうぜ!」と意気揚々としている。
光彦君が若干困った顔で引いている。
「でもそれって結局うな重ですよね?」
「全然違ぇだろ!光彦はなにも分かってねぇ!」
「歩美、ハンバーグのお店がいい!」
「ほしのせーも!ほしのせーも食べる!」
「星の精も食べられるように豆や米の出るお店にしましょう!」
俺は子供達の前で「注目!!」と声を出して手を叩いた。
「盛り上がってるとこ悪いが、今日は忙しいから食事会は無しだ。親御さんにも話してないし、みんなお家の美味しいご飯を食べておいで」
子供達はしょぼんとしてトーンダウンした。
だが、家族とのご飯も美味しいことを思い出して気を持ち直したらしい。
星の精は憮然としてもごもご悪態をついている。
「ほしのせーは友達とご飯たべる。くす。美味しいの。わいわい」と言いながらまた高木刑事を無意味につついた。
高木刑事が困り果てている。
さて、皆を警視庁からハイエースで送っていくのもすっかり慣れたものだ。
俺も経験を積んで車の運転がスムーズにできるようになったし、嬉しい限りだ。
子供達は車の中で即興歌「美味しいハンバーグ」を歌っている。
やっぱり妙に耳に残るので溢れんばかりの音楽センスを感じる今日この頃。
親御さんともすっかり顔馴染みで、子供たちを送っていけば親御さんも大層喜んでくれた。
「黄衣さんもいつも面倒見てくださってありがとうございます!」と頭を下げられ、俺はいえいえと謙遜した。
いや実際コナン君の死神に巻き込んでる疑いがあるし、この辺は謝罪も兼ねて臨機応変にな。
一人づつ送り届けてから、ちょろっと親御さんと世間話して帰ることとする。
そのように少年探偵団を送り届けた後。
あらかじめ打ち合わせの約束していた降谷さんとの会合のお時間がやってくる。
降谷さんの仕事で何かあったらしく、彼らが事務所に来たのは深夜も明け方に近くなった頃だった。
マモーさんには先に帰ってもらっていたが、コナン君はすでに撃沈していた。
頑張って起きていようとはしたのだが、子供がそんな明け方まで起きていられる道理もなし。
ソファの上で星の精を枕に寝こけている。
星の精も枕にされたままそのままの幸せそうに爆睡している。
まあ、人間に枕にされたぐらいで星の精はなんともならないから気にするほどのことでもない。
もしゃもしゃの触手を蠢かせてグゴゴ…といびきを響かせている。
そんな中、現れた諸伏さんと降谷さんのペアがやけに暗い顔をしていた。
俺は立ち上がって二人を迎え入れ、声をかけた。
「お、遅かったな二人とも。お疲れ様。どうしたんだ?」
「少しばかり問題が発生した。これは僕たちが口外したとは誰にも漏らさないでほしい」
前置きがあったので、俺は慎重に頷いた。
改めて皆の分の紅茶を入れてから、俺もソファに座り直す。
「どうしたんだ?」
「小田切警視長とその子息が今回の事件の被疑者として挙がっている」
なんと、小田切警視長に限ってそんなこと。
小田切警視長は刑事部の部長さんだ。
自他共に厳しそうな人で、立場もありかなりとっつきづらい方である。
息子さんがいることは知らなかったが、別に年齢を考えれば変なことでもない。
だが犯人か。
身内の犯行かもしれないとなれば、降谷さんたちが穏やかではいられないのも当然か。
だが、それは杞憂というものだ。
俺は紅茶を口に含んで冷静に言った。
「小田切警視長達は無関係だと思うよ」
「なに?怪異関係だとは聞いていたが、すでに犯人を特定していたのか?」
「ちょっと妙な事案だったから、深く探ってるうちに名前と顔だけね」
そう言って俺は肩をすくめた。
俺の「妙」の言葉に二人の視線が鋭さを増す。
「具体的には?」
「犯人、ジョーク宗教を本気で信じてる狂信者だった。危険性は低いと思う」
「………は?」
降谷さんと諸伏さんが疑問符まみれになってしまったので、俺もキチンと補足する。
俺もコナン君が巻き込まれたと聞いた段階で調査はしていたのだ。
犯人は事件現場で奇妙なものを残していた。
それは儀式用の紋様が描かれた紙片で、俺もそれはハスターの瞳ですぐに察知したから調べたのだ。
明らかに魔術に類するのに全然データベースにヒットしないから困ってたんだが。
なんのことはない、全くの出鱈目だったというわけだ。
知らん非実在神格を敬う謎術式が、意外とちゃんと魔術式の文法に則って書き込まれていた。
元はネットで知識ある魔術師がジョークで気晴らしに作った出鱈目魔術だろう。
高度な空飛ぶスパゲティモンスター教みたいなものだ。
おお神よ降臨したまえ!って招来呪文の構成を踏襲してスパモンを呼び出そうとしてる感じだ。
変なイタズラするんじゃないよ全く、真に受けた人が出ちゃっただろうが。
そのような話をすれば、降谷さんはすごく困ったような顔で眉を下げた。
「あー、犯人が本物の魔術を使える可能性は?」
「もちろんある。だから継続的に監視しつつ様子を見たほうがいいかな、ぐらい」
「なるほど。だが身内の犯行でないと知られたのは大きな収穫だな」
「ははは。証拠はないけどね」
俺がカラカラと笑うと、諸伏さんがまだ考え込んでいるようだ。
「フライングスパゲティモンスター教狂信者……?」と宇宙から帰って来ていない様子を見せた。
気持ちはわかる。俺もかなり疑問符だったもん。
いや本当にね。
誰だよ偉大なる神にして慈悲なる救い手モジョスって。
弱そうな名前しやがって。
そんなんに祈って左腕の障害が治るわけねぇだろ。
そんなふうにブツブツ俺が言っていると、降谷さんが咳払いした。
「ともかく、今回の件は公安は監視に留める。小田切警視長のこともあり、公式に君に情報を下ろすことはできない」
「了解。身内のことがかかったら警察も慎重にならざるを得ないからな。仕方ない」
「君はコナン君がかっ飛んで行かないように押さえておいてくれ」
「無茶をおっしゃる」
コナン君は寝落ちてしまって、ブランケットを被ってぐっすりだ。
星の精枕は寝心地がいいらしく、起きる気配はない。
ソファで寝たから明日体がバキバキかもしれないが、休日だから問題なかろう。
たぶん俺が起こさなかったことを怒られるが、正直コナン君も聞いた話だけだしな。
もう本題は終わったらしい。
降谷さんがポツリと雑談がてら話を振ってくる。
「そういえば、明日元刑事部の男が結婚式を挙げるようで、毛利探偵も出席するらしいな」
「へぇ。こんなタイミングとはまた、物々しい警備になりそうだけど…まあ逆に何があっても安全でいいか」
結婚式はいいものだ、と。
この時はそう呑気に考えていた。
だが翌日入って来た第一報は、毛利蘭が倒れて病院に運ばれ、そこで記憶喪失になっているというものだった。
・結婚する元刑事部の男
鮫谷浩二。通称ワニ。
隻眼の残像で未婚のまま殺されるはずの男。
ちょっとした運命のかけ違いで結婚が間に合った。
まぁ隻眼の残像編で結局殺されるんだけどな……。
・毛利探偵
刑事時代の同僚のワニの結婚式に凄く喜んで、結婚式のお祝いの品とかをプレゼントした。
末長く幸せにやれよ!と祝ってる最中に発砲事件が起きて、蘭が記憶喪失で感情のジェットコースター。