蘭ちゃんが退院した。
コナン君はしばらく毛利探偵事務所に通うとのことで、家を空けがちになるだろう。
今日は少年探偵団も引き連れ、大所帯で気晴らしの買い物だ。
星の精も心配してオウム姿で蘭ちゃんのところにやってきている。
蘭ちゃんが少年探偵団を見て微笑んだ。
「あら、また来てくれたのね」
「蘭さんの一大事ですから!僕らがボディーガードするんです!」
「我ら!」
「少年探偵団!!!」
「と、ほしのせー!心強い!!!」
決めポーズをとる少年探偵団ペット付きの姿である。
星の精は手前でばさりと翼を広げてカッコよくポーズを決めている。
可愛いね。
蘭ちゃんはクスリと笑った。
志保ちゃんは明美さん&沖矢さんと一緒にやや離れた位置から見守っている。
遠目から見ると二人の娘みたいに見えるような気がする。
などと考えたのが悪かったらしい。
志保ちゃんはギロっとアイスピックの如き鋭い視線で俺を睨みつけた。
「滅多なこと考えてるんじゃないでしょうね、貴方…」
「まっさかぁ。俺は無害な一般人ですよ…」
誤魔化してコナン君の後ろに隠れるなどする。
コナン君が冷や汗を垂らして「僕を盾にするのは虐待っていうんじゃない!?」と逃げ出そうとした。
誰しも我が身は可愛いものだ。
昴さんが「我々はついでに寄っただけですので、これで失礼します。蘭さんも体にはお気をつけて」と一礼する。
「ありがとうございます、ええと、沖矢さん」
「いえ。お気になさらず。貴方は殺人犯に狙われているかもしれない身。くれぐれも油断されないよう」
そのように言い置いて、志保ちゃんを置いて二人は去っていく。
志保ちゃんは今日一緒に銀座を巡る予定だから残っている。
蘭ちゃんの様子を見にきたらしい沖矢さんだが、去っていく後ろ姿は「明美……」とイチャイチャな様子であった。
明美さんも「大……昴くん…」と頬を染めて幸せそう。
虫唾が行きすぎて志保ちゃんが震えている。
多分降谷さんと大層赤井さんの悪口で盛り上がれるだろう。
さて。今日の行き先は銀座の予定だ。
現地で英理さんとも待ち合わせる手筈になっている。
今は英理さんは毛利探偵事務所に滞在しているらしいのだが、仕事があるから午前は出ていて現地集合となったのだとか。
彼女の料理は偶然毛利探偵とご相伴に与ることになった経験があるが。
凄い……こう、……悲しい味だった。
でもビヤーキーの作った晩餐よりは美味しかった。
そのぐらいのフォローしか出てこない。
都会で売ってる人間の食材で作った最低ラインの味というか。
伸び代はある。そう思うことにしよう。
そこからはみんなで遠足だ。
トコトコと駅へと向かう。
上機嫌で歌を歌う少年探偵団たちに、蘭ちゃんの表情も自然と明るくなる。
一応高木刑事も護衛役に遠くから離れてついてきている。
蘭ちゃんが優しく微笑んで少年探偵団に声をかける。
「そのオウムさんはみんなのお友達なの?」
「そうだぞ!少年探偵団の一員だ!ちゃんと探偵バッジも持ってるんだぜ!」
「星の精は持てないのでコナン君に持っててもらってますが…今度博士に星の精用のバッグも作ってもらうのでずっと持ってられますね!」
「ほしのせーは仲間!友達いっぱい!」
星の精は胸を張ってとても誇らしげにふんぞり返った。
最近は学校帰りに少年探偵団と遊ぶのが日課になっているからな。
サッカーも嗜むし、少年探偵団として事件にも出くわしている。
みんなとトリックを頑張って見つけて犯人を捕まえたこともある。
探索者星の精(プレイアブル)?うーん。
学校にいるのも探偵団は知ってるようで、さりげなくプリントの余りをもらってくれたりフォローしてもらっているらしい。
星の精も友達が増えて何よりだ。
蘭ちゃんが星の精を優しく撫でてやる。
星のオウムはクルルルル、と喉を鳴らして嬉しそうにした。
駅に到着して、電車を待つ。
星の精は見られると面倒なので、素早くコナン君のポケットの中にもぞりと入り込んだ。
明らかにポケットが膨らんで尻尾が飛び出しているが、露骨に見えているよりはよかろうよ。
まもなく、電車がやってくる。
のんびりする俺たちの後ろから、不意に。
悪意の手が伸びた。
「………え」
蘭ちゃんが押されて、蘭ちゃんが線路に転落していくのがスローモーションで見える。
落下の際に頭を打ち、くたりと蘭ちゃんの体が脱力する。
少年探偵団が驚愕の表情で悲鳴をあげた。
彼女のつけている「被害を逸らす」ペンダントは、些細な接触で発動しないようにセーフティが組まれている。
例えば拳による攻撃は弾くが、じゃれ合いで体を押すような動作は除外する、といったものだ。
そのギリギリ、押す動作に該当してそれは「被害を逸らす」魔術からすり抜けた。
迫る電車に、コナン君が蘭ちゃんを助けるべく線路に身を躍らせる。
蘭ちゃんはコナン君に任せておけばいいだろう。彼に渡してあるブレスレットを使えば、魔術で如何様にでも助けられる。
この位置だと人混みが邪魔で犯人を捕まえられないのが少し厄介だ。
魔術を発動するには証拠が足りないし。
だからこそ憤りは倍以上にある。
俺は人混みに紛れていく男を本気で睨みつけた。
あのクズ野郎、いい加減にしろよ……。
遠慮なく視線に呪詛を編もうとして、ギリギリと踏みとどまる。
コナン君がこんなに頑張って法の下に裁こうとしているのに、俺が勝手なことをするわけにはいかない。
緊急停止した電車が通過していく。
無事コナン君は退避スペースに飛び込めたらしく、
二人とも擦り傷はあれど無事だ。
蘭ちゃんは頭を強く打っているらしく、光彦君がすぐさま呼んだ救急車で病院に運ばれて行った。
同時に志保ちゃんも警察に連絡したらしく、近付いてくる駅員さん救急車の音に辺りは騒然となったのだった。
病院にて。
高木刑事はド叱られていた。
「何をやっとるんだ高木ィ!!!」
「すみませんでしたっ!!!」
怒り心頭の目暮警部を、俺は遠くから眺めてひえぇと身を縮こまらせた。
ホームの人混みに邪魔されたからあれは仕方ない。
だが、人命がかかっていて仕方ないでは済まされないのも確かだ。
加えて星の精は犯人にご立腹だった。
「信じられないくらい酷い奴!ほしのせーは怒った!白黒の車もあいつを怒る!」
「本当ですよ!許せません!」
「蘭お姉さんにあんなことして…酷い…」
少年探偵団も同意見のようだ。
星の精はポコポコブツブツ言って、やっと目暮警部から解放された高木刑事にいちゃもんをつけた。
「おまえ白黒の車!アイツ早く連れていく!」
「う、うん。僕たちも全力で捜査に当たるよ」
「蘭ねーちゃんが動かないになる!ほしのせーも頑張る!お前も頑張る!」
「押忍!!」
星の精すごく喋るやんけ……。
目暮警部が「また例の変な生き物がいる…」みたいな顔で俺を胡乱な表情で見た。
喋って返事するだけのオウムでーす。怪しげな怪異ではありませーん。
志保ちゃんが部屋の端で、それでも心配そうに蘭ちゃんを見ている。
声はかけない、その複雑な心境を示しているようだった。
警部たちが出ていってから、俺はコナン君にそっと声をかけた。
「コナン君、そろそろ反転攻勢を掛けないと危険なわけだけど、どうする?」
「ひとまず米花サンプラザホテルに証拠を探しにいくよ。黄衣さんは…蘭のそばにいてやってほしい」
「分かった。俺がいる限り蘭ちゃんが死ぬことはないよ。この黄衣の王が必ず守ろう」
これは旧支配者としての約束だ。
即ち必ず履行される。絶対の決まり事。
期限は蘭ちゃんの記憶が戻るまで、としておくか。
コナン君が頷いて走り去っていく。
そのまま米花プラザホテルに行くつもりなのだろう。
俺は玄関口から談話室へ戻った。
すると園子ちゃんもお見舞いに来ていたようで、ばったりと会うことになった。
「あ、いいところに来た!黄衣さん!」
「園子ちゃんどうも。どうしたんだ?」
「新一君に連絡とってくれない?蘭、トロピカルランドのことなんか覚えてるみたいだから!」
「!!」
蘭ちゃんは本当に心の強い子のようだ。
何がきっかけかは分からない。
それでも、この命を狙われている状況にあって、それでも己と向き合っているからこそ記憶が戻ろうとしているのだ。
俺は優しく頷いて、長椅子に座る蘭ちゃんと目線を合わせた。
「思い出したら辛いこともあるかもしれないよ?」
「このままじゃダメだと思うから、私も。本当のことが、知りたいの」
俺は蘭ちゃんに微笑んで、優しく手を取った。
丁寧に加護を付与していく。
ならば俺に否やは無い。が、親御さんにはきちんと話を通しておくべきだろう。
許可がもらえたらコナン君を高校生に戻して、チケットなどを手配して。
行くとしたら明日だろう。
その時、事態に決着がつくのだろうから。
・蘭ちゃんに盛った加護一覧
傷を負わない加護
病にならない加護
魔術を身に受けない加護
毒物を無効化する加護
体を捕らえられない加護
命を落としたとき、そのダメージをハスターが肩代わりする加護
ほか184個。
・コナン君
蘭が眩しくて見えない(物理)