ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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瞳の中の暗殺者〈愛と怒りと〉

 

 本日はデートの予定である。

 

 蘭ちゃんの記憶を戻すため、工藤君とトロピカルランドを回るのだ。

 二人のラブラブ遊園地デートが開催されるということで、俺も自然と気合が入る。

 

 バッチリおしゃれして蘭ちゃんの家に迎えに行く工藤君の笑顔はキラキラとこの上なく眩しかった。

 「行ってくる!」と言って笑う姿すら輝いている。

 

 おお、幸せにおなり……。

 俺は涙を拭って、臍を曲げた星の精をヨシヨシと宥めた。

 

 星の精はまた友達が一人で大きくなってしまったことが不満らしい。

 でも現実問題、蘭ちゃんの記憶を元に戻すためだし仕方ない。

 

 そうしたやりきれない思いを抱えているらしい。

 俺の膝をベシベシと叩いて「グスッ!」と激しく憤っている。

 

 工藤新一と毛利蘭というカップルの逢瀬に俺たちなどというおじゃま虫がついていく道理はない。

 諦めなされ。

 

 俺が星の精をもしゃもしゃしてやれば、星の精はますます憤ってゲタゲタと文句を言い始めた。

 おおよしよし、鎮まれ星の精。

 

 ちなみに、今は加護を切っている。

 昨日、コナン君が頑張って証拠を集めている間、俺は丸一日蘭ちゃんを守っていたわけだが。

 今日はコナン君へと守護の役目をバトンタッチしたからだ。

 

 というか、工藤君に「蘭が眩しすぎるんですけど。マジで。いや元から眩しいけど、そうじゃなくて」とガチトーンの注意を受けてしまった。

 流石にデートの邪魔をするわけにはいかないので加護を切った形だ。

 工藤君の魔術でだって十分以上に守れるのだから、俺の加護に拘泥する必要はない。

 

 蘭ちゃんが派手に発光してる状態でデートに送り込むのは普通に外道だしな……。

 

 

 

 そんなふうに星の精を宥めつつ、しばらく事務作業をしながらマモーさんが入れてくれた紅茶を飲んでいると。

 来客が一人、俺の事務所を訪れた。

 

 「すまない、少しいいか」と、固い声を出して入ってくるのは降谷さんだ。

 俺は立ち上がって彼を歓迎した。

 

「どうした?何か問題でもあったか?」

「いや。君からの情報で例の偽狂信者をヒロに探らせていたんだが。蘭さんが太陽のように発光していると連絡があってな」

「あー、もう解除したよそれ」

 

 どうやら昨日一晩輝いていたのを、魔術の確認のためにメガネをかけていた諸伏さんが見てしまったらしい。

 

 加護が重なりすぎてメガネなどで正面から注視したら目を焼くかもしれないし、注意喚起しておくべきだったか。

 太陽を直接見てはいけないの理論だ。

 

 二人で来客用のソファに座り、話し合いの姿勢をとる。

 降谷さんは胡乱な顔をしてため息をついた。

 

「やっぱり君か。蘭さんが狙われていたことは聞いているからある程度は仕方のないことだとは思うが。というか君、苛つきすぎだぞ」

 

 降谷さんは「職場で缶コーヒー握りつぶしてしまったじゃないか」と迷惑そうに顔を歪めた。

 どうやら蘭ちゃん襲撃の怒りがダイレクトに伝わってしまっていたようだ。

 

 降谷さんに怒られてなるべく回路を閉じるようにしてるしているが、怒りのあまりそれを突き抜けてしまったのだろう。

 

 多分会議の途中で憤怒のまま缶コーヒーを唐突に握り潰すパワハラ上司になってしまったのだろう。

 黒い風の握力だと缶はアルミの塊になったと思われる。

 

 おいたわしや部下さんたち……。

 

 ナムナムと部下さんの冥福を祈れば、「全面的に君のせいだが」と怒られてしまった。

 俺がお漏らししたせいなのはホントなので深く陳謝するなどする。

 降谷さんが再び馬鹿でかいため息をつく。

 

「それで、君も調査したんだろう?奴は魔術を使えるのか?」

「軽い呪詛系魔術をすこしだけな。恋に障害はつきものだから、いいアクセントになるって程度だよ」

 

 俺の方で犯人の思考と来歴は全て洗ってある。

 もし脅威になるようなら、あの場で即座に確保していたからな。

 そうでないのは、その程度のものだという意味に他ならない。

 

 降谷さんは眉間に皺を寄せて困ったような顔を見せた。

 

「君が人類の味方なのは、人類にとってこれ以上ない幸運だな」

「………」

 

 全知全能にほど近きもの。

 宇宙に君臨する最上級の旧支配者。

 

 謳うような響きを伴って、その実どこか固く警戒を滲ませた言葉が紡がれる。

 

 この世界が俺の善意で成り立ってることに、改めて危機感のようなものを抱いたのかもしれない。

 そりゃそうだ。

 世界が一人の独裁者に委ねられているとしたら、心配するのは当然のことだ。

 

 降谷さんが静かに目を伏せて肩をすくめた。

 

「実際、倫理問題を無視した場合君に不可能はあるのか?」

「他の旧支配者とのバトル…すなわち権能の話が出てくると問題が難しくなるけど。俺一人で地球が舞台、つまり怪異のルール程度だけならなんでもできるな」

「ふむ。前から思っていたんだが、権能とはなんだ?僕も手触りとしては理解しているが。怪異の持つルールや魔術との違いがいまいちわかっていない」

 

 降谷さんの質問に、俺はうーんと首を捻った。

 かなり根本的な話だが、こういう話となると規模がデカ過ぎて魔術教本にも載っていないかもしれない。

 

 俺は改めて脳内で説明をまとめ上げ、口を開いた。

 

「まず前提として、世界は創造神アザトースが眠りの中に見る夢でしかないわけだが」

「開幕僕の繊細な神経がささくれだった」

「早い早い。で、魔術ってのは夢の主人であるアザトースに呼びかけて夢を変えてもらう技術を指す」

 

 もっと言えば、魔術とはアザトースを納得させる行為だ。

 「それはそうだな」と思ってもらえれば基本なんでも通ると思っていい。

 細かくて大規模な変更をしてもらうには、それだけ意識を向けてもらわないといけないから大声で話しかける必要あり。

 そのコストが魔力となる。

 

「対してルールってのは自分の夢を世界に捩じ込んで小規模に改変することだ。マイルールってやつだな」

「では権能は?」

「ルールのでかい版。理屈はルールと一緒だけど、夢の主がでかいから権能もでかい」

「なるほど」

 

 納得してくれたらしい。

 俺はメガネと学位帽を具現化し、出現させたホワイトボードにまとめを書き込んだ。

 

「だから、魔術の方が基本的には強い。創造神のお達しが全てに優先されるからだ」

「だが、そんなに魔術が万能であれば万人が使用するはずだ。権能やルールが幅を利かせるのはなぜだ?」

「それは魔術はアザトースの匙加減ひとつだからだな。魔術戦ってのは、ようは審判にアザトースを据えた討論大会なんだ」

 

 敵と同じ土俵で戦わないといけないし、独特で理解しづらく、コストも高い。

 自分ルールを敷けるならそっちの方が早いことも多いだろう。

 

 降谷さんはやや笑って言葉を落とした。

 

「その扱いづらい魔術を極め、君は全能を手に入れたというわけか」

「うーん、まぁそうなるけど」

 

 降谷さんはまだ悩ましさを内に秘めているようだ。

 

 降谷さんを安心させるにはどうしたらいいだろうか。

 政治の世界に携わるようになって、心労も増えた分や、やや疑心暗鬼な部分が出てきているのだろう。

 

 バーボンとしてその手の裏は見飽きているはずなのだが……。

 元々後ろ暗い連中を相手にするのと、真っ当な面社会の薄汚さを見るのはまた別の話ということか。

 

 少し迷ってから、のっしと立ち上がった。

 動揺する降谷さんの隣に行き、「降谷さん、少し良いか?」と断ってからその隣に座る。

 膝の上の星の精はソファにそっと寝かしておいた。

 長話が退屈だったのか、今では星の精はぐうぐうむすむすとふて寝をしている。

 

 緊張する降谷さんを前に、俺は彼の魂を露出させた

 

「君……何を……!」

 

 化身との繋がりを拡張する。

 自意識が飛ばないように魂の周りを強化。

 俺の演算領域を貸し出して、そのまま俺の得ている観測情報を降谷さんに共有する。

 

「………な…………ッ」

 

 そこには過去があり、現在があり、未来がある。

 魔術というもののあり方が見えて、宇宙の奥行きが示され、外なる神の権能が我が事のように感じられる。

 今、工藤君が犯人に発砲されて命懸けの追いかけっこしているのも見えたことだろう。

 

 ………なんだと。許さん。

 あの犯人デートまで邪魔しやがったのかぶっ転がしてやる。

 

 俺がいきり立つと同時に降谷さんが「やめてくれ君の怒りは苛烈すぎるんだ!!」と絹を裂くような悲鳴をあげた。

 俺は反射でしゅんと怒りを引っ込めた。

 すまん…そんな声を出させるつもりはなかったんだ……。

 

 降谷さんが耳元で爆音のアラーム鳴らされた人みたいな涙目で俺を睨んだ。

 俺は愛想笑いして繋がりを平常時のそれを戻し、距離をとった。

 

「今のは事故でして。ええ。申し訳ございませんでした…はい」

「なんであの場面だけで親友をゴミのように殺されたシーン並みに怒り狂えるんだ???しかも君の表出された怒りはちょっとした怒りというだけ。神独特の精神状態とかか?」

「まあ、単に俺が怒りっぽいだけ」

 

 サイコパス見るような目で見られてしまった。

 う、うるせー神の勘気なんてそんなもんだろ!!

 それより俺の強い自制心を誉めてくれ!!!

 

 より不安にさせてしまった気がするが。

 俺の怒りだけでない部分も見えただろう。

 実際、降谷さんも頭をかいて眉間に皺を寄せている。

 

「君、人間のこと好きすぎるだろう。猫好きだってもう少し控えめなはずだ」

「少なくとも人間を悪いようにはしない。そういう気持ちを込めました」

「君がホラー映画苦手な理由がわかった。映画で犬が死ぬのがダメな人と同じ理屈だな?」

「人間が酷い目に遭ってるの地雷です」

「創作作品の大半が該当するだろ。それでよく俳優やれたな。というか探偵業は良いのかそれ」

「実は全然良くない」

 

 でも目を背けるのも違うので頑張って向き合っている、そんなアトモスフィア。

 俺は腕を組んでうむうむと誇らしげにした。

 

 降谷さんは頭が痛いポーズをする。

 

「しかし工藤君また暴れてたな。ヒロの方も心配だし、僕は現場に向かう。君はどうする?」

「俺は……うん、やらかしそうな気しかしないから必要があったら呼んでくれ」

 

 俺が微笑むと、降谷さんがごくりと息を呑んだ。

 フィルターを通さない、俺の先ほどの怒りを思い出しているのだろう。

 

 俺との存在量の違いもあるから、誤解している部分もあるんだが……。

 まぁ、俺自身本来結構苛烈な性格なのは間違いないからな。

 丸いやつが長年宇宙ヤンキーやったりしないとも言う。

 

 ただの旧支配者が外なる神ニャルラトホテプと8000年ぐらい殴り合ったりもしないだろう。

 

 まあ、それがあって今ニャルとこんな関係だから、やはり多少のバイオレンスは恋のアクセントとなるのに間違いない。

 

 ハスターの瞳に映る工藤君もなんだかラブラブで、噴水でいい空気の中蘭ちゃんの記憶も戻ったようだ。

 平和的に蘭ちゃんと連携攻撃を決め、犯人をサッカーボールで薙ぎ倒したのが見える。

 

 世は全てこともなし。

 愛は世界を救う。

 

 そのように、俺は確信と共にニコニコしたのであった。

 





・ニャルラトホテプ
ビックラブを感じてハッとして顔を上げた。
我が夫と…ラブラブするチャンス……?
今別の星の羽虫で邪悪な遊びしてるとこ。

・降谷さん
この苛烈で気分屋な神が人間を子猫のように溺愛してるのはマジで奇跡的な確率だと思って、ほっと一息ついてる。
人の意識が強いから人視点。
自分が神との間のクッション役としてしっかりしないとと決意を改めた。
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