ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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柔らかなお疲れ様会

 

 コナン君は大満足状態で帰宅した。

 

 犯人の追いかけっこの末に蘭ちゃんが記憶を取り戻し、大勝利状態での帰宅だ。

 そりゃピカピカの笑顔で当然だろう。

 

 毛利探偵や妃弁護士も安堵の涙を流したようで、抱きしめあってその無事を喜びあっていた。

 最愛の一人娘が自分のことを何も覚えておらず、命を狙われる身になった。

 それはどれほど彼らの心を痛めただろう。

 彼らの愛が報われて、これほど嬉しいことはない。

 

 そして犯人も逮捕されている。

 多少の魔術はできるようだが、所詮はよわっちい呪詛程度。

 拳銃があったためトロピカルランド内での乱射は避けたいな、ぐらいのものだ。

 

 工藤君も周りに配慮してか、最終的にはサッカーボールで片をつけたようだし。

 なんというか、愛の勝利で俺も心があったかくなるというものよ。

 

 俺の様子に、やや難しい顔をしたコナン君が口を開いた。

 

「だからニャルさんがここにいるの?」

「そう。俺も愛を感じたくなって呼んだんだ。俺とニャルは相思相愛なので」

「その通りです!」

 

 にゅっと飛び出たニャルが胸を張った。

 その様子には誇らしさが溢れている。

 

 現在は事件解決を祝い、探偵事務所でささやかな打ち上げパーティを開いている最中だ。

 降谷さんと諸伏さん、マモーさんなんかも集まって、皆で楽しく飲み食いしている。

 

 蘭ちゃんは今頃家で家族団欒だろう。

 毛利探偵を慮ってそこに加わらなかったコナン君への、せめてもの労りの形である。

 

 諸伏さんが生ぬるい顔で黄昏れた。

 

『少年ってば突然駆け出すし遠慮なく魔術ぶっ放すし、俺は後片付けを思ってずっと胃がキリキリしてたよ…』

「ご、ごめんなさい……。でもあれは緊急事態でね?」

『わかってる。わかってるから止めなかった。けど俺の悲しみが成仏できずにずっとここにいる』

 

 ぐすっ、と諸伏さんが泣き真似をしながらでかいチキンにかぶりついた。

 降谷さんは時折かかってくる電話対応で席を外すが、そこまで忙しそうでないあたり、諸伏さんが上手くやったのだろう。

 コナン君が「あ、あの、星の精撫でる?」と星の精を売り渡した。

 星の精の売買は禁止やで。

 

 星の精は撫でられる気満々で二足歩行モードでポーズを決めている。

 

 ニャルが「ふーん、記憶喪失ですか」と難しい顔をして考え込んだため、つい俺も顔を向ける。

 珍しい反応だ。羽虫の事柄に気を向けるなんて。

 

 ニャルが若干不安そうに俺に意見を求めた。

 

「記憶喪失になっても、別人扱いじゃないんですね」

「ん?どゆこと?」

「羽虫が記憶喪失になったら、記憶がある前の羽虫とは別人だと思っていたのですが」

 

 ニャルが「うーん」と唸るので、電話から帰ってきた降谷さんがフォローを入れる。

 

「人間社会では一般的には『根っこは変わらない』…つまり同一人物だとされるな。記憶喪失の恋人と新たな絆を結び直し、愛を深めるという題材は多い」

「!!!なるほど、だから必死になって記憶を戻そうとしたり、交流したりするわけですか!」

 

 得心がいったのか、ニャルはパッと顔を明るくした。

 そして机に座って行儀よく血液チキンを食べている星の精を掴み上げ、猛然とわしゃわしゃし始める。

 

【!?!?!?】

「いい羽虫ですね!触手の艶があって掴み応えがある!ふふふ!今の僕は機嫌がいいのでたくさんヨシヨシしましょうね!」

 

 最近無害だから星の精も油断していたのだろう。

 突然の捕獲に恐怖が蘇り、細かくバイブレーションし始める。

 

 なんとかニャルを取り押さえるべく、俺は人質交渉に乗り出した。

 

「き、記憶喪失について何をそんなに気にしてるんだ?ニャルの知り合いもそういうのになったのか?」

「いえ。単に僕も定期的に記憶がぶっ飛んでいるので」

「!?!?!?」

 

 俺が驚愕に目を剥いて硬直する。

 そんな俺に気づくことなく、ニャルは上機嫌そうにピンと指を立てた。

 

「ほら、僕これまで我が夫の『光』の摂取が少なかったじゃないですか。だから宇宙の終わりを迎えるたびに個体がリセットされた影響で記憶が半分以上吹っ飛んでたんですけど」

「ッ、ッ、!?!?お、俺全然気づかなかったよ!?」

「別人だと思われて我が夫に嫌われたらやだなと思ったので、魔術で仮想演算解決してました。でもそっか、心配することなくて、ただの恋のスパイスだったんですね!えへへ、なんだぁ」

 

 ぴと、とニャルが擦り寄って頬を染めた。

 

 俺は頭が真っ白な状態で一心不乱でニャルをヨシヨシし始める。

 なにそれ。次の宇宙への移行が不完全だった?ということはつまり毎回再誕していたに等しくて。

 

 ニャルは幸せそうだったが、俺はあまりに感情が莫大過ぎて言葉が出てこない。

 なんなら変化が解けて、服の下から触手が飛び出てきている。

 

 なかったの記憶!?半分以上!?

 どこからあるの!?出会いは、出会いは覚えてる!?

 

 静かにパニックを起こしている俺に、コナン君が同情的に「だよね、すごくびっくりするよね…」と声をかけてくれた。

 優しい。経験者の重みが詰まってる。

 隣の公安二名はナムナムしてるだけだというのにな。

 

「つまり何度生まれ変わってもこの性格か。凄いな。何が凄いとは言わないが」

『おお神よ、人類に救いあれ。何となくで滅びたくないですはい』

 

 見ろよこの感じ。

 俺はニャルを抱き込んでメソメソした。

 ニャルは幸せそうに丸くなって俺にされるがままになっている。

 

 丸まったタイミングで解放された星の精が、ピャッと逃げ出してコナン君の後ろに隠れた。

 ガタガタと震えて「グスッ…グスッッッ!」と恐怖に泣き言を漏らしている。

 コナン君が優しく肩…肩?を撫でてやった。

 

 そのあたりでマモーさんが締めのデザートを運んできてくれる。

 

 カクテルグラスに入ったおしゃれなゼリーだ。

 品のいいトッピングが施されており、まるでホテルに出るフルコースのそれのよう。

 

 マモーさんは最近修行しなおして、料理魔術を習得したらしい。

 現代のプロのレシピを魔術に落とし込んだ作りたての料理達は実に美味しそうだ。

 

 このために料理人を幾人も雇って念入りに出来上がりを詰めていったとのこと。

 凄まじい熱意だ。

 定年後の趣味に打ち込む人みたいにマモーさんは生き生きと目が輝いている。

 

「ミックスベリーのゼリーです。我が神よ、どうぞ」

「マモーさん本当料理上手になったなぁ!流石、努力家なだけある!チキンもとっても美味しかったし!」

「身に余る光栄でございます」

 

 さらっとそつのない言葉だが、めちゃくちゃ嬉しいのだということが雰囲気で伝わってきた。

 いつもマモーさんにはお世話になっているから、こういう小さな返礼は欠かさないようにしないとな。

 

 降谷さんがふむ、という顔でゼリーに手をつけて言った。

 

「前々から気になっていたんだが、宇宙の終わりの時、僕はどうなるんだ?今の僕に寿命がないのは重々承知だが、その場合化身は役目を終えて消えるのか?」

 

 その言葉に、諸伏さんがやや暗い顔をして俯いた。

 親友を一人残していくのはやはり辛いのだろう。

 

 俺は降谷さんの懸念するところを洗い出して、むむむと頭を回転させて言葉を紡ぐ。

 

「基本、次の宇宙も続投だ。俺の権能に付随する人格、つまりは俺の一部だからな。とはいえ、旧支配者と違って死ねないわけじゃないから心配はしなくていい」

「僕の化身も時々勝手に扶養から外れて野垂れ死にますからね。まあ、飽きたらいつでも声かければいいと思います」

「そ、そうか。そんなフランクな感じなんだな……」

 

 降谷さんが若干困ったように眉を下げた。

 

 実際、化身は手や足の延長線上だ。

 失われたとしてまた生えてくる。

 それが失われた当人と全く同じかは、高度に倫理的な話になってくるが。

 

 降谷さんは真面目な顔でキリリとした。

 

「ヒロ。僕の手足の一部になる気ないか」

『文字通りの意味で!?俺は前向きに検討するけど松田は突っぱねると思う!』

「あー、今幻聴が聞こえてきた。『何が悲しくてパツキン大先生の子分にならなきゃなんねーんだよ』って聞こえてきた。念話か?」

『俺も聞こえた気がする。念話かもしれん』

 

 解像度高い松田さんが二人の間で共有されているようだ。

 まあ、仲良きことは良きことなり。

 

 降谷さんが思い出したように付け加える。

 

「あ、国際会議の日取りが決まったから、君も事前打ち合わせに参加してくれ。日本でのそれと違って失敗しても隠蔽できないからな」

「うす。がんばります」

 

 俺は再びニャルを無心で撫で回した。

 ポンを防止するにはどうしたらいいのか。俺は彫像になるしかないのか。

 誰か教えてくれ、神様仏様ニャル大明神様。

 

 いやだめだ、ニャルはこいつはこいつでポンというか、スピードとライブ感の中で生きてる奴だったわ。

 化身も気軽に人間にやり込められてぐぬぬってしてる。

 

 ニャルはゴロニャンと俺に擦り寄り、心の底から幸せそうにした。

 

 何とかなるといいな、と俺はほろりと涙を流し、猫を可愛がるみたいにニャルを撫でまくったのだった。

 





・諸伏さん
化身の化身になるのは割と前向き。
割と親友至上主義。瓶詰めよりはあり。
兄が寿命で亡くなった後、親友が生に飽くまで付き合う程度幼馴染として当然のことだ。
この人も大概友情が重い。

・降谷さん
人間寄りなので「化身にならないか」は冗談。
親友を地獄の友連れにする気はない。
人間が滅びた後どうしようかな…とライフプランを設計中。
なんとかして人間をリデザインするとかか。どうせ黄衣君も乗ってくるだろうし。
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