ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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謎めいた乗客〈被害者の会〉

 

 バスジャックから20分。

 

 とりあえず二度目の試し行動に出て見事犯人に見つかり、コナン君は吊し上げられた。

 これには流石の諸伏さんも身体を固くし、少年探偵団が悲鳴をあげ、隣の志保ちゃんが息を呑んだ。

 犯人は銃口をコナン君へと向けて、陰惨に微笑んで見せた。

 どう見ても見せしめに殺す気満々だ。

 

 諸伏さんは万が一に備え、反撃のため飛び出そうと僅かに四肢に力を込めたのだが。

 

 その前に新出先生(偽)がたまらずと言った様子でコナン君を庇ったのだ。

 

 彼はかなり切迫した声で、身を挺して拳銃の前に身体を滑り込ませた。

 その必死さに嘘はみえなかったし、コナン君を助け起こす手つきは優しかった。

 

 なんというか、神話的恐怖案件かとも疑ったが実は意外と良い人なのかも、と思い直しつつ。

 俺はコナン君に乱暴をした犯人にこっそりガンをつけるなどした。

 

 今晩SAN値がごっそり減るような悪夢を見るが良い…。

 私怨である。

 

 もちろん、無事に席に戻ったコナン君には諸伏さんの雷が落ちた。

 

『少年!!!!いのちをだいじに!!!』

『やっぱり後ろの席に共犯がいると見て間違いないな。諸伏さんはどう思う?』

『それは俺もそう思うけど!俺の話を聞こうね!?』

『無駄よ。江戸川君はいつもこう。人の話なんて聞きやしないのよ』

『……志保ちゃんも苦労してるんだな…はぁ』

 

 諸伏さんと志保ちゃんが謎に分かり合っているが、当のコナン君は思考に没頭してまるで聞いていないようだ。

 傍若無人ここに極まれり。

 

 しかし、今まで言い出せずにいたがいよいよこの新出先生(偽)の正体が分からなくなってきたな。

 この際だしみんなに聞いてみようとワイワイと話し合う諸伏さんたちに話題を投下してみる。

 

『そういえばなんだけど。この新出先生、新出先生じゃないんだよ、コナン君は気付いてた?』

『なにそれ。哲学の話?それともキッド?』

『いや、キッドとは能力値が違うし、別人だとは思うけど。でも誰か別人が変装してることは間違いないと思う』

 

 俺が軽く調べた限り、魔術を使っている形跡はない。

 だから基本は変身ではなく変装で間違いないのだが……。

 

 俺の言葉に、諸伏さんが考え込むような仕草をした。

 

『まさかベルモット…なのか…?』

『ッ!!』

 

 息を呑んだのは志保ちゃんだ。

 震えを大きくしてなるべく身体を隠そうと努力している。

 

 明美さんが難しい顔で「聞いたことあるわ。変装の名人、って話ぐらいだけれど」と付け加えた。

 同意するように諸伏さんが頷く。

 

『ああ。ハリウッド女優で、千の顔を持つ魔女の異名で呼ばれている女だ。その変装術であらゆるところへ潜入する厄介な幹部だよ』

『千の貌……』

 

 ちょっと嫌なワードを聞いてしまい、俺はつい眉間の皺を深くしてしまう。

 

 俺の探査は基本的には信頼が置けるが、例外が一つある。

 それはニャルラトホテプの化身である。

 アレらが本気で化けた場合はほとんど人間と見分けが付かず、化身本人にすらその自覚がない場合もあったりする。

 

 よっぽど大丈夫だとは思うが。

 でもニャル野郎だしな…と若干疑心暗鬼になりかける。

 よく見ると新出先生(偽)のAPP(容姿)も非常に高い。

 

 やっぱニャル野郎か?ニャル野郎なのか?

 うーん分からん。

 

 悶々と考えていると、諸伏さんが先程の件について首を捻った。

 

『でもなんで組織の人間がコナン君を庇うような真似をしたんだろうな。ベルモットは見ず知らずの子供を助けるような女じゃない。冷酷で、悪辣な女だ』

『それとも、組織とは別件とか?』

『あんな本人と寸分違わぬ変装ができるなんて、あとはルパン三世ぐらいのモンだぞ。ルパンが日本に入国した話も聞かないし』

 

 うーん、と皆が頭を悩ましてみたが、答えは出ないようだった。

 話がひと段落したことを察したのか、諸伏さんがか細い声で話題を変えた。

 

『それより、さっきから後ろのライの視線が…すごい突き刺さってくるんだが…』

『あら。大君熱心ね』

『はぁ!?もう一人黒の組織の仲間がバスに乗ってんのかよ!?どうなってんだよこのバス!』

 

 コナン君が思わず吹き出した。

 あ、そう言えばコナン君には情報共有をしてなかったな。

 諸伏さんがフォローの言葉を発する前に話し始めたのは志保ちゃんだ。

 憎悪すら感じる震える声で、志保ちゃんが奥歯を噛み締める。

 

『ッあの男まで居たの!?お姉ちゃんを使い潰した挙句捨てておいて、まだのうのうと!!』

『お、おい灰原?』

『志保、志保、お姉ちゃん気にしてないから…』

『でも全部あの男のせいで!!!なにがFBIよ!』

『うーん、この場にゼロが居なくて本当によかった。収拾がつかなくなって別の事件が起こるところだった』

 

 「赤井秀一殺人事件かぁ」などと諸伏さんが遠い目をしている。

 どうやら問題はかなり根深いらしい。

 コナン君が目を白黒させながらも、会話の断片から情報を整理して口を開いた。

 

『その赤井秀一って人は前に組織に潜入捜査をしていたけど、NOCであることがバレてFBIに戻ったってことか?』

『おお、よく分かったな少年』

『潜入捜査官らしいことは話の流れでわかったし、それを灰原が知ってるってことは組織に正体がバレた以外考えられねーからな。というかさ…』

 

 コナン君がやや声を潜めて話し出す。

 まぁ、この会話は魔術による念話だから声を潜めたところで意味はないのだが。

 

『まさか、明美さんがあの時どう考えても達成困難な任務を課されて殺されたのって…』

『あー、まあ、ライのせいだろうな。組織って連座制なところあるし』

『……加えて安室さんにも相当な恨みを持たれている、か』

『そうだけど。それはその、深い事情があってだな』

 

 キレの悪い諸伏さんの返事に、ふーん、とコナン君がやや面白くなさそうに足をぶらつかせた。

 なんか被害者の会みたいになってきたな。

 一人「違うの!大君は本当は優しくてね!!!」と明美さんが必死でイメージアップを図っているのが涙ぐましい。

 

 なんにせよ、今は遠くの組織より近くのバスジャック犯である。

 コナン君が思考を切り替えるように明るい声を出した。

 

『ひとまず、今までに分かったのは二つ。このバッグの中身は爆弾ってことと、後部座席の内の誰かがバスジャック犯の仲間ってこと』

『誰が共犯かはもうわかってるのかしら』

『見当はついてるよ。あのガムを噛んでる人。あの人の腕時計が起爆スイッチの可能性が高い』

 

 諸伏さんが目を細め、ため息をついた。

 

『それは面倒だな。俺と少年で拳銃を持った男どもを取り押さえても、爆弾のスイッチを押されちゃ意味がない』

『なら、私が実体化するのはどうかな。私でも人を取り押さえるくらいならできるわ』

『ダメだよ。組織の人間の前で明美さんが姿を見せるわけにはいかない』

 

 色々案を出し合っているので、俺もおずおずと自分のできることを発言してみんとするなり。

 

『ならとりあえず、俺は爆弾が爆発しても被害が出ないように魔術を編んでおいていいか?』

『それは助かる!頼んだ、黄衣さん!』

 

 コナン君からのゴーサインを受け、俺は頷いた。

 バスジャック犯の対応はコナン君たちに任せれば問題あるまい。

 俺は乗客そのほかの安全を担保する単純作業に従事することにしよう。

 

 わいわいと協議を重ねるコナン君たちの会話から一旦離脱して、魔術発動に専念する。

 

 ひとまず、前回と同じ轍を踏まないように、車内に魔術師が居ないかどうかの確認から始めるとしよう。

 「ハスターの瞳」にて範囲内に魔術師、もしくは神話生物が居ないかの簡単な確認を行う。

 

 ちかり、と視界が瞬き、瞬時に情報が反映される。

 どうやら俺以外に魔術に習熟している人間はいないようだ。

 

 新出先生(偽)だけが懸念だが、俺の探査を掻い潜るほど小細工を効かせたニャルラトホテプなら、この局面で文句を言ってくることもないだろう。

 

 次に乗客全員のデータ収集に入る。

 

 大気を媒介に乗客の霊体構成、時間的結合、物質組成その他を記録していく。

 

 加えて、周辺情報も軽く浚っておけば完璧だ。

 道路上でこんな大きな爆弾が爆発すれば、周辺の建物や周りを走る車にも被害が出る恐れがあるからな。

 時の神ヨグ=ソトースの表皮を辿って、今後バスが通る経路と周辺の交通状況を予測データとして取得、格納しておく。

 

 爆弾本体もきちんとデータを取って監視状態にしておくのがいいだろう。

 

 最後に魔術の組み立てだ。

 

 術式構成は伝統的な古エイボン式を採用した。

 塔のように魔術式を円柱状に重ねていくもので、省スペース省エネ発動速度良しと良いことづくめの方式である。

 まあその分、頭が物理的に爆発するほど制御が難しいという難点はあるが。

 

 今回は『奇跡的に爆発しても死者は出なかった』と言う形で因果操作する方式を採用した。

 もちろんバスは横転するが、幸運にも後続車両は避けることができて玉突き事故も起こらなかったという結果に収束させるのだ。

 

 周辺建造物と歩行者ももちろん対応済みだ。

 爆発と同時に軽い魔術障壁が発生し、怪我や破壊を防ぐ仕組みになっている。

 

 まあ、流石にバスの近くを走る車は傷つくが。

 そちらは発生した損害に応じて幸運が舞い込む補填の魔術を仕込んである。

 災い転じて福と成すということで納得してもらうとしよう。

 

 これでよし。

 全て組み終わってから、俺は全体を最終確認して頷いた。

 未来情報の取得を深追いしすぎてつい時間がかかってしまったが、これくらいなら許容範囲内だろう。

 

 軽く人差し指を折り曲げて、魔術を発動する。

 魔術はきちんと発動し、バス車内に術式が展開していく。

 うむうむ。善きかな善きかな。

 

 ちなみに、コナン君だけはこの魔術の対象外となっている。

 彼はブレスレットの効果で魔術が通らないし、そんなことしなくても無傷で凌げるからだ。

 

 なんて考え事をしていたら、隣に座っていた諸伏さんが何故か立ち上がった。

 そしてコナン君の「早く!」という叫び声。

 

 不審に思った俺が顔を上げた瞬間、高速を走っていたバスが急ブレーキを踏んだ。

 

 !?!?!?

 

 凄まじいブレーキ音と共に、身体が前へと激しく投げ出されそうになる。

 乗客達が手近なところに掴まって悲鳴をあげた。

 俺はといえば、何の準備もしていなかったため前の座席に強かに顔をぶつけて散々な有様である。

 コナン君も事前に声をかけてくれれば良いのに…。

 

 バスが停止するのと同時に、ジョディ先生と諸伏さんが駆け出した。

 諸伏さんが後ろの席の女を捻り上げ、ジョディ先生が狼狽える拳銃持ちの男に馬乗りになる。

 残りの一人はコナン君が麻酔銃で昏倒させてKO、ゲームセットである。

 

 素晴らしい連携プレイに手を出す暇も無かった。

 

 しかし現在も魔術で収集中の爆弾のデータに顕著な変化があり、俺は目を見開いた。

 具体的には爆弾があと1分で爆発するっぽい。

 オーマイガー。

 

「コナン君!この爆弾、後1分で爆発する!さっきの衝撃がトリガーだったかもしれない!」

「え…嘘だろ!!」

 

 すると、捻り上げられている共犯の女も似たようなことを喚き、それが確かだということを確信したようだ。

 コナン君の「みんな逃げて!!!」という声を皮切りに、乗客全員で慌てて逃げ出すこととなった。

 

 相変わらず怯えている志保ちゃんの腕をコナン君が掴んで、「何してんだ、いくぞ!」と力強く引っ張る。

 それに明美さんも加わって声をかけた。

 

『志保!早く!』

「で、でも…」

「何心配してんのか知らねーが後でどうとでもする!心配すんなって!」

「っ…!」

 

 どうでもなる、ではなくどうとでもする、と言い切るあたりが彼らしい。

 

 志保ちゃんがコナン君のその力強い瞳に目を見開き、呆然として手を引かれるがまま立ち上がる。

 あーーいけませんお客様!蘭ちゃんという恋人がいる身分で他の女をたらし込むなど!

 旧支配者ハスターが許しませんよ!

 

 しかし、こりゃあと20秒じゃ脱出必要距離に間に合わなさそうだ。

 因果操作で怪我がないように帰結するとは言え、怖い思いは少ない方がいいだろう。

 

 軽く時間の流れにアクセスして、時間を少しばかりゆったりとなるよう調整する。

 

 我が父なる神ヨグ=ソトースの表面をちょっとつねる感じの雑な魔術だ。

 俺が息子だからか何なのか、ヨグ=ソトースはこの手のやや無礼な魔術を俺が使っても特に何も言ってこない。

 ニャルラトホテプが俺の真似して使った時は虹色に激しく明滅する泡のようなものが顕現して大騒ぎになったのに。

 

 今思えばとんでもないクソガキの遊びしてたな俺たち……。

 

 バスの外に出ると、周囲には警視庁の面々がぐるりと取り囲んでいた。

 どうやらジャックされたバスの後ろを付けていたらしい。

 

 次々と泡食って飛び出してくる乗客に、流石の刑事たちも困惑したらしい。

 右往左往する佐藤刑事に、コナン君が「もうすぐ爆弾が爆発するんだ!逃げて!!」と叫んだ。

 

 そうか、ここから警察車両が脱出するとなるとさらに時間がかかってしまうな。

 時流操作魔術を更新して、さらに猶予時間が取れるように変更した。

 

 乗客全員が脱出に成功して、きちんと安全が確認できた時点で魔術を解除。

 帳尻合わせをきちんと整えてから、俺はようやく息をついた。

 

 爆弾が爆発し、凄まじい爆風と衝撃、そして轟音が響き渡る。

 

 燃え上がるバスを遠目に見つめながら、草むらに身を伏せていた諸伏さんが頭を上げた。

 そしてへらりと俺に笑いかけてくる。

 

『まったく、散々なスキー旅行だな。今日の晩飯は豪勢にしよう』

「そだね…でもここまでしてまだ問題が一件解決しただけっていうのがまた」

『へ……あ』

 

 さっと諸伏さんが青ざめた。

 

 背後にはいつのまにか例のライと呼ばれた明美さんの彼氏さんが立っている。

 というか見ないうちに何故かスキーヤーの格好になっているが、何故。

 俺が魔術に没頭している間になにがあったんだ?

 

 ライは朗らかに「大丈夫ですか?」と諸伏さんを助け起こして、そのまま去っていった。

 

 「お前そんなキャラじゃないだろ…!」と諸伏さんがボヤきながら息をつく。

 どうやら助け起こされた際にメモを渡されたらしい。

 手の中のそれを周囲にバレないようにズボンのポケットへとしまっていた。

 

 流石潜入捜査官同士、こういう情報交換はスマートでかっこいいな。

 

 そんな中、新出先生(偽)はコナン君に怪我がないかをしきりに確認しているようだ。

 やっぱり悪い人のようには見えなくて、俺はうーんと首を捻ったのだった。

 




・ベルモット
ニャルラトホテプではない普通の千の顔を持つ魔女。
原作通り割とマジにコナン君を守ってハラハラしている。
クールガイ(怒)無茶しないの(憤怒)
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