ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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鳥取クモ屋敷の怪〈悲劇の芽〉

 

 鳥取県の現地、絡繰峠にやってきている。

 

 ハイエースに乗っての車の旅だ。

 山道をどんどこ進んでいくのは、入りくねった変わり映えしない景色にどうしても車酔いを併発する。

 

【ゲタゲタッ!ゲッタゲッタ!】

「星の精は調子いいみたい。新しいバッグは気に入った?」

【ゲタ!!】

 

 星の精は博士が作ってくれた新作旅行用バッグに入って至極上機嫌だ。

 コナン君の問いかけに触手を揺らして盛り上がっている。

 

 中は血液パックのほか、小さな机と犬用のベッドを内蔵している。

 謎の超技術で中が揺れにくくなっており、中で学校の宿題もできるような仕掛けだ。

 加えて非常に軽くて、コナン君が肩にかけても全く負担にならない。

 

 俺の情報提供で内部は星の精の苗床に似せてあり、居心地もいいはずだ。

 星の精も新居が大層気に入っているようだ。

 

 俺も星の精のテンションにニコニコしていると、隣のニャルがうっとりと肩に寄りかかってきた。

 

「ねぇ我が夫。僕の触手美味しいですか?」

「わからん。わからんが噛みごたえはある。無限スルメみたいな。旨みはある気がする」

「本当ですか!嬉しいなぁ」

 

 嬉しがるポイントあっただろうか。

 ニャルスルメ。俺も触手でガジガジしているが、噛めば噛むほど再生する。

 

 実は今回、珍しくニャルが同伴している。

 

 俺の触手ガジガジに味を占めたらしく、常に触手出しっぱなしで俺に「齧っていいですよ?」とアピールしながら常時ひっついてくるのだ。

 非常に可愛いがかなり厄介だ。

 齧らないと暴れ出すかもしれないし。

 

 仕方なく俺はニャル封印役として、現在ハイエースの後部座席でニャルと共に隔離されていると言うわけだ。

 

 諸伏さんは運転手で、降谷さんは助手席。

 コナン君を含めて彼らは皆俺を見えないことにして触手イチャラブを無視している。

 泣くぞオラ。出るとこ出てやる!

 

 若干静かな車内のままコトコト車に揺られること数時間。

 鳥取県絡繰峠の手前で、約束通り公安の人員と落ち合うことになった。

 

 山に入る前の小規模な街だ。

 この先は山が続き、人口の少ない村規模の場所があるばかりだ。

 ここには大きな病院があり、地域の医療を一手に担っている。

 

 待ち合わせのチェーン喫茶に入ると、すでに公安の人員が待っていたようだ。

 

 怯え切った女性捜査官と、それに付き添う形の男性同僚が席に座っていた。

 

 降谷さんの姿を見て、二人とも慌てて敬礼したようだ。

 女性の方は哀れなほど震えていて、視線をしきりに周囲に配って警戒している。

 降谷さんがやや目を細めて固い声を出した。

 

「ご苦労。怪異を目撃したのはそちらだな」

「はい。ですがまだ彼女は精神状態が……」

「分かっている。だができる限りの情報が必要だ。無理をせず、口に出せる範囲の情報で構わない」

 

 こんなSAN値がガリっと削られている人に無理をさせなくとも、と思ったのだが。

 降谷さんの冷徹な表情の奥に、暖かな気遣いが見え隠れして言葉を引っ込める。

 

 きっとこれを病気休職するであろう彼女の功績にするつもりなのだろう。

 「非常に危険な怪異相手にここまで暴いて上司へと伝え、かけがえの無い成果を残した」と、そのように職場に復帰する縁を与えているのだ。

 

 降谷さんらしい気遣いだが、その気遣いの方向性は仕事命の一部の人にしか効果がないというか。

 なんとも不器用な人であることよ。

 

 後ほど公安から正式に治療依頼が来るだろう。

 SAN値が回復したとして、傷付いた心を癒す時間が必要なのは確か。

 そのとき、この功績が選択の手助けになるのなら悪くはないかもしれない。

 

 女性は精一杯勇気を振り絞って口を開いた。

 

「あ、あの、私……相方だった坂井さんと一緒に、この先の絡繰峠に赴いたんです」

 

 辿々しく、必死に言葉をまとめている。

 

 怪異調査は順調とは言えなかったらしい。

 この辺にあると言う「蜘蛛の巣穴」は見つからず、無為に時間だけが過ぎていく。

 それは当然のことだ。

 次元をまたがる蜘蛛の糸を人は視認できない。

 

 仕方なく、彼らは森の中で絡繰峠の調査と、付近の村落での聞き込みをメインにすることにしたらしい。

 

 伝承では、この辺では昔女性に化ける大蜘蛛が出たらしい。

 それを火矢で焼き殺して以来、祟りを恐れてそこには祠を建てていた。

 だが、最近祠を壊して以降、首だけになった死体が出るようになった。

 

 震えながら女性は地図の一点を指差した。

 

「私たちがそれに会ったのは件の蔵の持ち主…武田家の付近の山中です。なにか、山の中に大きなものが擦ったような跡ができていて。大きな怪異を警戒して車に戻る、と、途中に」

 

 そこで言葉を続けられなくなって、「ううぅ」と涙を堪えてうずくまる。

 

 降谷さんが「そうか。すまなかった、君の証言は無駄にはしない」と頷いた。

 男性同僚が深く頭を下げる。

 

 昔出たと言う女性に化ける大蜘蛛は、おそらくアトラック=ナチャの娘だろう。

 女性に化けるのではなく女性が蜘蛛に変じたわけだが、このくらいの伝承変化はよくあることだ。

 本当に変化の魔術を習得していた可能性もなきにしもあらずだが。

 

 祠は……正直偶然だろう。

 その程度でアトラック=ナチャの次元に渡る糸を封印できるなら俺がしている。

 

 今回の一件は毒蜘蛛がアトラック=ナチャの糸から降りてきたことに端を発するはずだ。

 

 この女性の相方という人物は、すでに頭部以外が喰われた状態で発見されている。

 祠が壊された時期に前後して、誰かが毒蜘蛛に噛まれてアトラック=ナチャの娘になった。

 それで人を食い散らかしているのだろう。

 

 しかし、これは非常に不可解なことでもある。

 

 その後、証言者を送っていく車を見送ってから喫茶店を出る。

 諸伏さんが俺に静かに問いかけてきた。

 

『どう思う、黄衣?』

「妙なとこだらけ。脳みそが大好物のはずなのに手付けてないし、アトラック=ナチャの手伝いもせずにほっつき歩いてるみたいだし。加えて数年前から活動してるにしてはほとんど犠牲者が出てない」

 

 アトラック=ナチャの娘は大喰らいだ。

 下界に降りてきたならすぐにバレる。

 謎が深まり、俺はうーんと唸った。

 

 ニャルが肩を含めて興味なさそうに俺に手を絡める。

 

「奇行なんて羽虫にはいつものことじゃないですか。アトラック=ナチャの奉仕種族は羽虫が原料でしょう?なら多少の奇行はありますよ」

「あーー、人としての意思が残ってるパターンか。ありそうで困る。あの蜘蛛覚えてろよ」

 

 俺の言葉にニャルの顔が一瞬輝いた。

 

「サッカー!!!……いや、あの蜘蛛の邪魔は気が乗りませんね…むむむ」

「と、この通りニャルが気を使う相手だ。皆心してかかるように」

「厄介すぎないか???」

 

 降谷さんが眉間に皺を寄せて頭痛いポーズをした。

 コナン君も沈鬱な顔で俯いている。

 

 

 

 そのまま本日のメインディッシュ、武田家へ向かうわけだが。

 

 道中、珍妙な同行者と出会うことになった。

 

 山のど真ん中をてくてく歩いてる白人男性がいたのだ。

 カメラを首から下げて野山を楽しみながら呑気に散策している。

 

 車を停めて、諸伏さんが日本語で声をかけた。

 

『この辺は熊が出て徒歩は危険だぞ。近くに車はあるか?』

「え、そうなんですか!?しまったな…バスを降りてから写真撮影を兼ねて徒歩でずっと来ていたら道に迷ってしまって」

 

 思ったより流暢な日本語が返ってきた。

 だが、流石に怪異で死者も出ている山中で歩くのは放って置けない。

 降谷さんが頷いたのを見て、諸伏さんが声をかける。

 

『なら乗ってくか?どこか目的地があるなら送ることもできるかもしれないぞ』

「本当ですか!私は実は武田という家を訪ねていまして!ご存知ですか?」

『!それは奇遇だ。俺たちもそこに向かっている最中なんだ。乗せてくよ』

 

 情報収集の好機と見たようだ。

 諸伏さんはニコニコと人の良さそうな一般人を装って男性を車に招き入れた。

 

 後部座席ではニャル触手と俺触手が出っ放しなので素早く引っ込める。

 ニャルはしまう気がなかったので俺が無理やりニャルの中に突っ込んだ。

 「えっちですよそれはえっちですよ!?!?」と叫ばれたが気にしない。

 

 外なる神のえっちはよう分からん。

 

 男性が乗り込んで、コナン君の隣に腰を下ろす。

 コナン君がさりげなく星の精バッグを遠ざけた。

 バッグからは「グゴゴゴ…」と小さくいびきが響いている。

 不審でしかねーなこの車。

 

「僕は写真家のロバート・テイラーです。あなた方は?」

『俺は日色ヒカル。俺たちは黄衣探偵事務所の所員なんだ。あっちが所長の黄衣ハスタ』

 

 ロバートさんは目を丸くして瞬いた。

 「おお!探偵!クールですね!」とにぱっとしてからやや不安そうに眉を下げる。

 

「では、武田家で何か事件があったんですか?」

「それは流石に守秘義務があってお教えはできませんので……すみません。テイラーさんはどのようなご用で武田家へ?」

 

 圧の強い笑みを浮かべた降谷さんが話題を逸らす。

 それに気付くことなくロバートさんが頷いた。

 

「僕は数年前、武田家の方に命を助けられまして。それで、そのお礼を言いに来たんです」

「へぇ、それはそれは」

「その時は僕も日本語が喋れませんでしたから。会ってびっくりさせたいんです」

 

 嬉しそうに語るロバートさんに、俺はなんとなく柔らかく笑みを浮かべた。

 

 しかし。

 

 隣で俺に頬を擦り寄せるニャルラトホテプがニタリ、と悍ましい邪悪の滴る顔で嗤ったのを見て。

 俺は瞬時にロバートさんの経緯をハスターの瞳で確認した。

 

 それで、心の底から後悔した。

 

 ロバートさんの再会は最悪の形で叶うだろう。

 俺は無言でニャルのほっぺを引っ張った。

 

「むみーー!?にゃんれふか急に!」

「別にぃ。ニャルが邪悪な顔してたから」

「ひどい!僕何も悪くないのに!?」

 

 俺たちの夫婦漫才に、ロバートさんが「仲がいいんですね!」と微笑ましそうに笑っていたのだった。

 





・ロバートさん
祠が取り壊された時期に、土砂崩れに巻き込まれて重傷を負い、武田家のある女性に助けられて看病された。
あの優しい日々を思い出し、告白しようと思って来日した。
───その女性が、人を喰らう蜘蛛になっていることも知らずに。

・公安の女性
相方が目の前でバリムシャ食われてトラウマ。
恋人の男性同僚がいたからなんとか持ち堪えられている。
多分決意を新たに復職する強い人。
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