ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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鳥取クモ屋敷の怪〈巣〉

 

 ぎっしぎっしと、軋む階段を登っていく。

 

 到着した武田家で当主に迎えられ、俺たちは現場となった蔵に来ていた。

 蔵は昔から怪異の住まいだ。

 物の集積地であり、それすなわち財であり、財には自然が宿る。

 

 当主は有名な人形師らしく結構儲けているようだし、もしかしたら多少の怪異品もあるかもしれない。

 豪勢な様子が家のあちこちから垣間見えてもいるしな。

 

 俺たちの今回の身分は公安の調査員だ。

 到着前にスーツに着替え、死体発見の現場となった蔵の調査をスタートする。

 

 蔵は二階建てで、数年前建てられたにしては傷んでいるようだった。

 

 降谷さんが壁を手でなぞって眉間に皺を寄せた。

 

「壁の高いところまで何かが擦ったような跡がある。巨大で硬質なものが通ったんだろう」

『床には血の滲み。入り口は施錠していたのに壊されている、と。役満だなこりゃ』

 

 慎重に上がって行くと、埃っぽい空気が俺たちを出迎えた。

 皆気味悪がって掃除もできておらず、埃だらけらしい。

 一昨年取り壊す工事もあったらしいのだが、奇妙な事故が相次いで頓挫したとのこと。

 

 倉の二階からは話し声がしている。

 当主が別途雇った探偵だと聞いている。

 話のわかる人だといいのだが、と俺は少しだけ身構えた。

 

 部屋に入ると、見慣れた西の高校生探偵がギョッとした顔で振り返った。

 

「こ、黄衣サン!?それに工藤!ということはつまり…」

「黄衣さんやないの!安室さん達も、元気しとった?」

「おお、当主が言ってた探偵さんって君らのことだったんだな。久しぶり、服部君に和葉ちゃん」

 

 ほっと安心して俺は息をついた。

 彼らなら俺が心配する必要はないだろう。

 

 服部君はますます顔を青くさせて立ち上がる。

 

「俺以外の探偵はいないって聞いとったんやぞ!ということは黄衣サンは公安側で動いとるってことや!」

「はーい。超危険任務でーす。やばいでーす」

「帰るぞ和葉」

『何をいつまでもビビっとるんや。そのためにワイがいるんやろがい。アトラック=ナチャの娘程度、ワイが蹴散らしたるわ』

 

 スマホから聞こえるのはチクタクマンの声だ。

 そりゃニャルラトホテプの化身にして現代機械文明の主・チクタクマンが本気を出せば、アトラック=ナチャの娘程度退けるのは容易だろう。

 

 不意にニャルがひょいと俺の後ろから出てきて、顔を明るくした。

 さっきまで暇すぎて俺の触手であやとりしてたのに、気分を持ち直したらしい。

 

「あ、化身じゃないですか!最近どの化身も見ないなと思ってましたけど。ちょうどいいところに来ましたね!」

『………あかん。ワイ急用思い出したわ』

「僕より上の用事なんて無いですよね?よいしょ」

 

 可愛らしい掛け声とともに、ニャルが手に持っていたスマホにチクタクマンを強制転送した。

 俺の買い与えたスマホだ。

 俺とのメッセージのやり取り用なのだが、今はもっぱらゲーム開発用機として使われている。

 

 「あっあっあっ」と脳を弄られた人みたいな声でチクタクマンがドナドナされた。

 ニャルは大満足でうんうん頷く。

 

「僕ちょっと遊んできますね!すぐ戻ります!」

「いてら。チクタクマンはちゃんと服部君に返却してやれよ」

「うーん」

 

 生返事で去っていくあたり、確率は五分五分だろう。

 降谷さんが静かに震えて黙祷している。

 俺は沈鬱に服部君へと頭を下げた。

 

「立派な最期だったと思ってやってくれ」

「工藤!!これお前からなんか言うたれや!!」

「悪い服部、ニャルさんは自然災害の類だから…運命だったとしか……」

 

 和葉ちゃんが「え、結局どう言うことなん?」と疑問符を乱舞させている。

 別に生きていくのに必要ない知識だから補足はいらないだろう。

 

 流石にニャルも残骸ぐらいは残すと思われるので、そこからなら俺でも復旧が可能だ。

 頑丈な化身がロストすることならないはずだし、可哀想なチクタクマンの無事を祈るしかない。

 

 「あいつもおらんようになったし、余計に俺ら帰るしかないやんか。生身でこんなとこ居れるかボケ」とぼやいている。

 そりゃ人喰い巨大蜘蛛が彷徨いてる現場に居られるわけないわな。

 

 服部君は息をついて頭をかいた。

 

「この蔵、絶対なんか住んどんで。当主さんは人間の仕業やと思っとるみたいやけど。こっちは普通の依頼やと思ったから和葉連れてきたんや。やってられるかいな」

「アタシは別に大丈夫やよ?自分の身ぐらい守れるし」

「アホぬかせ。相手は人間大の蜘蛛やぞ。丸齧りされておしまいや」

「う……そ、そんなんおるん…!?」

 

 デカ蜘蛛の存在を示唆され、和葉ちゃんが怯んだ。

 それよりも、毒蜘蛛に噛まれて娘になってしまう方が問題だしな。

 諸伏さんがニコニコと前へ進み出る。

 

『よければ俺が安全な場所まで送って行こうか?調査員は足りてるし、駅まで送って行くぐらいなら構わないぞ?』

「なら和葉、お前は先に帰っとれ。ここの怪異は女性を狙うんや」

「平次はどないするん?」

「俺は前金もろとるから最低限依頼はこなさなあかんからな。すぐ帰るから心配すなや」

 

 不安そうな和葉ちゃんの頭にぼすっと被っていた帽子をかぶせて、服部君はそっぽを向いた。

 ぽっと和葉ちゃんが顔を赤らめる。

 青春だなぁ。

 

 諸伏さんが和葉ちゃんを送っていくと、一気に人数が少なくなって閑散とした印象を受けた。

 ニャル呼び戻そうかな。いや場が混沌とするだけか。

 

 コナン君が派手に壊された2階の窓を覗いて深刻な顔をする。

 窓の周辺には蜘蛛の糸が垂れ下がっていた。

 

 そのあたりで、蔵に駆け込んでくる影が一人。

 

 タイラーさんだ。

 先ほど武田家前で別れたままだったのだが、何か焦っている様子だ。

 「なんやあんた」という服部君の声に返事をすることもなく、俺の前までやってきて頭を下げた。

 

 降谷さんが安室の皮を被って問いかける。

 

「何かあったんですか?」

「……美沙を探してくれませんか!?僕が帰国した直後から、行方不明になっているみたいなんです!」

「なんですって?」

 

 話は簡潔だった。

 

 美沙というのは、数年前土砂崩れにあって大怪我を負ったロバートさんを助けた女性のことのようだ。

 当主の娘ではあったが、父に辛く当たられて心を病んでいた。

 だがロバートの看病を通し、二人は絆を育み。

 美沙さんも明るくなっていった。

 

 しかし、ロバートさんが帰国した直後から姿が見えなくなった。

 だが立て続けにその母が怪死し、その失踪は有耶無耶になって今に至るという。

 

 俺は静かにロバートさんに問いかけた。

 

「その土砂崩れって、どこで遭いましたか?」

「近くの崖の方ですけど…」

「案内してください。手がかりがあるかもしれませんから」

 

 

 

 

 

 山中で、迷いやすいため紐で木を括りながら登って行く。

 

 土砂崩れの上にはすでに草木が生い茂り、すっかりその痕跡が見えなくなっていた。

 俺たちはロバートさんの案内に従って、土砂崩れ当時の現場に来ている。

 本当にすぐ近くのことらしく、徒歩で10分もかからないような場所だった。

 

 その現場に到着して、降谷さんは思わずと言ったように息を呑んで空を見上げた。

 

「これ、は………!?」

 

 コナン君には見えていないらしく、「なにかあるの?」と聞いてくる。

 俺が次元に焦点を合わせられるように魔術を付与すれば、コナン君と服部君も同じく息を呑んだようだ。

 

 そこには巨大な、あまりにも巨大な蜘蛛の糸があった。

 

 まるで高層ビルのようなそれが、異次元の彼方から山を覆うように伸びている。

 これぞ旧支配者アトラック=ナチャの紡ぎ出す世界最大の構造物。

 永遠に終わることのない、天に聳えるごとき「巣」である。

 

 俺は「巣」の様子を確認し、ため息をついてロバートさんに声をかける。

 

「やっぱりな。蜘蛛が土砂崩れの様子を見に来たんだ。それで、ロバートさんを助けに来た美沙さんを噛んだ」

「あの……蜘蛛とは一体?」

 

 困った様子のロバートさんに、皆が黙ってことの次第を見守っている。

 俺は少しだけ言葉を整理してから、慎重に口を開いた。

 

「……アメリカだとUAP(未確認異常現象)って呼ぶんだっけ。あれだよ」

「!!!まさか美沙は攫われたんですか!?」

「攫われた、か」

 

 攫われたと言えるかもしれない。

 あちら側の領域に、存在を攫われたのだ。

 

 アトラック=ナチャの娘を見つけられれば、俺が人間に戻せるかもしれない。

 この娘はどうやら奇行をしているようだし、まだ人としての意識が残っている可能性が高いからだ。

 

 だが、それは正気であるという意味とは別である。

 母を含めた多数の人を食い殺して、本人が正気に返りたいかも別問題。

 だがロバートさんがいるのなら、もしかしたらわずかな可能性において縁になるかもしれない。

 その程度の話だ。

 

「全力は尽くすよ。怪異の危険性はアメリカでも有名だろうから、確かなことは言えないけどな」

「いえ。ありがとうございます。美沙をよろしくお願いします!」

 

 また涙目で深々と頭を下げられ、俺はアトラック=ナチャの巣を見上げた。

 

 降谷さんがひっそりと俺に耳打ちする。

 

「柄にもないが、多少同情した。人間に戻せるものならば戻してやりたい気がする」

「珍しいな、降谷さんがその手の私情を見せるなんて」

「僕とて脛に傷があるからな。人外になると本当に人の気持ちがわからなくなって後悔するんだ。主に君の奥方のせいだが」

「すまん。たしか諸伏兄をワンキルしたんだっけ」

「やめてくれ…本当にやめてくれ……」

 

 降谷さんのトラウマを抉ったのか、しおしおと小さくなった。

 

 人間に戻してやりたい、か。

 つまり現実を直視しろということだ。優しいのか厳しいのか、基本は安らかに看取ってやろう派の俺とは違う視点であることは間違いない。

 

 今後は山狩りの必要があるだろう。

 

 

 不幸にも人喰いの化け物になってしまった女性を、信じて待つロバートさんのためにも。

 





・諸伏さん
和葉ちゃんとありったけ恋バナした。
あの西の高校生探偵をどうからかってやろうか思案してる。

・ニャルニャル
チクタクマンに夫との進展について相談してる。
「こんなにラブラブなのに我が夫が僕に手出さないんですよ!変じゃないです!?」
『そら…いや…地球上で元気な邪神っ子が誕生しても敵わへんからちゃいます?』
「そんなの邪魔ならプチッと潰せばいいじゃないですか。それか遠いその辺に捨てるか」
『人間の価値観やとなぁ、そらあかんのや』
「どうして!?!?!?」
チクタクマンはいい仕事してる。
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