ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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鳥取クモ屋敷の怪〈神の慈悲〉

 

「ひとまず、この辺り一帯に魔術を張る。たぶんこの巣の入り口から遠くにはいかないはずだからな」

 

 俺がそう言って、土砂周辺にガリガリと魔術式を書き込んでいく。

 

 草木でとんでもなく書きにくいが、黄色いカラースプレーを具現化して使用すれば比較的楽に作業を終えられた。

 別にこんなの無くても術式発動は容易だが、アトラック=ナチャへのポーズも含まれている。

 術式がアトラック=ナチャの娘への危害への予兆を派手にアトラック=ナチャへと伝えるのだ。

 ロバートさんに何が起きているかを視覚的に把握してもらうためでもある。

 

 なお、人の山林にラッカースプレーは器物損壊なので、魔術で調合した雨で落ちるスプレーであったり。

 

 降谷さんがおずおずと俺に近づいて耳打ちした。

 

「すまない、僕が風を使って捕獲を試みていいか?風の触覚の精度を高めたくて、練習の機会を狙ってたんだ」

「へぇ、いいよいいよ。やってみるべし。この魔術式はアトラック=ナチャ向けだし、そのまま使えるしな」

「助かる」

 

 降谷さんも魔術式の内容を読み取って提案して来たのだろう。

 魔術の方がからっきしだが、権能の制御は目を見張るものがあるんだよな、降谷さん。

 俺の化身なのにどうしてこんなに魔術が苦手なのか、分からない点も多い。

 

 たぶん「科学技術の観点から理論立って思考する」ことに慣れすぎて魔術の思考回路に慣れていないのだとは思うが。

 その点でコナン君の切り替えはあまりにすごい。

 阿笠博士はバグっている。

 

 まあそれはともかく。

 魔術式の中央に立ってもらって、降谷さんが黒い風を表出した。

 

 立ちこめる黒く染まった風は山々を吹き抜け、大気と混じり合って降谷さんの手足となる。

 20km四方に展開された風に、降谷さんが意識を集中する。

 同期して、魔術式がMPの余波たる光を放出した。

 

 その幻想的な光景に、ロバートさんが「What!?」と目を白黒させている。

 

 降谷さんがその双眸を見開いた。

 

「見つけた。ここから15km先。獲物を探してる。隣の集落が近い。念のため拘束してこの場所に連れてきたいが、かまわないか?」

「おっけー。総員構えて。人間大の大蜘蛛が来まーす」

「構うわボケ!?俺は無手やぞ!?!?」

 

 服部君の思わずの怒りの声に、コナン君が半笑いで余裕の表情をした。

 「仕方ねぇな。俺がそばにいて守ってやっから」と煽り笑い。

 「腹立つわぁ毛利の姉ちゃんに有る事無い事吹き込んだろか?」と服部君がいきりたった。

 

 愉快な高校生組のようだ。

 まあ、黒い風が拘束しているなら特に気にすることはないだろう。

 

 そして改めて、俺はロバートさんに向き直る。

 

「美沙さんを見つけました。もう、美沙さんではなくなっていますが、会うつもりはありますか?」

「な、なにを……」

「美沙さんは、ここにいた蜘蛛に噛まれ、蜘蛛の怪異になった。あなたを助け出すときに」

「!!!」

 

 それは偶然だったはずだ。

 土砂崩れに巻き込まれて重傷を負ったロバートさんを助けようとして、美沙さんはこの場所に長く留まった。

 女のみを狙う毒蜘蛛は、そこにいた美沙さんへと噛み付いたのだ。

 

 帰国後にそれは「羽化」し、蜘蛛の化け物へと変じることになった。

 

 説明を聞いたロバートさんは「まさ、か……そんな!」と声をあげた。

 

 まあ、詳しくは見てもらったほうが早いだろう。

 SAN値防壁も構築完了。

 黒い風に囚われ、暴れることは叶わない。

 

 降谷さんが頷いて、風を運ぶ。

 

 しばらくのち、黒い風の繭が空から降りて来る。

 中から絶叫が聞こえる。女性の金切り声だ。

 鬼気迫る大音量が、渦巻く風に紛れてその怨念を伝えて来る。

 

 繭が、そっと地上で解かれる。

 

【ぎゃああああああああああああ!!!】

「ッ!!!」

 

 喉まででそうになった叫び声を、ロバートさんは懸命に押し殺した。

 

 それは巨大な蜘蛛だった。

 女性の顔がついている。

 見覚えのない顔は蒼白で、恨みと狂気に満ちていた。

 風に巻かれて上手く動けないのを怒りに変えて、無茶苦茶に足を振り回して涎を撒き散らしている。

 

 それは絡新婦(ジョロウグモ)の伝承の一つ。

 恐ろしき人喰い蜘蛛。

 アトラック=ナチャの娘である。

 

 ロバートさんが絶叫した。

 

「美沙!!!」

【あああぁぁぁどこだ…おのれ……許さないぃぃい……気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い腹が減った…早くいかないと…やだやだやだ】

「美沙!僕だ!ロバートだ!!」

 

 叫ぶロバートさんを引き留めて、これ以上近づかないようにする。

 ここから先は安全が担保できない。

 アトラック=ナチャの娘は八つの目全てでロバートさんを捉えた。

 

【おまえ…お前お前お前お前お前!信じてたのに!喰ってやる許さない許さないおなかへったもう食べたくない助けてごめんなさい】

「な、美沙、なにを……」

「少々失礼」

 

 背後から記憶を探って当時を情報を共有する。

 どうやら本人に該当する記憶がないらしいから、念のための確認だ。

 

 蜘蛛の方の記憶とも付き合わせていく。

 蜘蛛は成ってから3年も経過しているというのに、まだ正気が残っているようだった。

 

 本来脳を啜るアトラック=ナチャの娘が頭を食わないのも、親のもとで仕事にあたろうとしないのも、まだ正気であるからだ。

 必死でそれを否定する人格があるからだ。

 

 

 記憶を探ると。

 さてはて、それはたわいもない、あまりにもくだらない誤解であった。

 

 

 ロバートさんは日本語が分からず、ローマ字で美沙さんと交流していた。

 美沙さんは父親から辛くあたられ、心を病んでいた。

 別れ際で悲しくて、ロバートさんはそれを振り払うように急いで家を後にした。

 

 光のような人だと残した「shine(輝く)」という単語を、子供騙しの「死ね」と受け取った。

 誰かに相談すれば、笑いと共にすぐに誤解は解けただろう。

 少し立ち止まって考えれば、すぐに誤解だと分かっただろう。

 

 そういう環境に美沙さんは無かった。

 蜘蛛に噛まれて夜な夜な見る夢でアトラック=ナチャに奉仕を迫られ、衰弱した美沙さんの最後の背を突き落としたのは、たったそれだけのことだった。

 

 ガチガチと巨大な歯を噛み締め、アトラック=ナチャの娘がロバートさんを喰おうとしている。

 苦しみに謝罪を繰り返しながら、助けを求めている。

 

 息を呑んで凍りついた俺の隙間を、ロバートさんが静止を振り切って駆け寄った。

 そうして巨大な蜘蛛の足を抱きしめた。

 

 美味しそうな肉の匂いに、蜘蛛がロバートさんへと貪りつく。

 腕に食い込む歯に「あああぁ!!」と苦悶の声を上げながら、それでもロバートさんは離さなかった。

 降谷さんが風を操作して、蜘蛛の歯がこれ以上食い込まないように全力で庇護する。

 

 そして、破れかぶれにロバートさんは叫んだ。

 

「美沙さん!僕が帰ってきたのは君に伝えることがあるからだ!」

「離れて!そのままじゃ食われる!」

「愛してる!三年前からずっと好きだった!結婚してくれ!!」

 

 食欲に駆られたアトラック=ナチャの娘が、それでも僅かな理性の中で唸る。

 

【裏切り者ぉぉ…裏切り者ぉおおお……】

「それでいい!愛してるのは君だけなんだ!そのためなら……君のためなら……食われたっていい」

 

 そこにどれほどの思いが込められているか、俺には分からない。

 異国の地で重傷を負った彼がどれほど心細く、そこに見出した絆がどれほど得難かったか。

 余人でしかない俺には分からないのだ。

 

 アトラック=ナチャの娘は首を振って、巨体を揺らして呻いた。

 

【許さないぃ…もうやだ、もうやだ…助けてロバート…お腹すいた…】

「僕が一緒にいる。何も心配することはない」

 

 なんでもする、と。

 文字通りそのような決意が宿っているのを見て、俺は助け舟を出さざるを得なかった。

 

「ならば叶えましょう。その愛をヨスガに奇跡をカタチにしましょう。神たる俺が願いに力を与えましょう」

 

 謳うように奇跡を読み上げ、極大の魔術を織り上げていく。

 降谷さんが風の操作をしたまま俺に軽口を叩いた。

 

「できるのか黄衣君。あれは結構キているぞ」

「まだ生きてるんだ。深きものどもと違ってそうデザインされた生命というわけでもなし。やりようはいくらでもある」

 

 人間が蜘蛛に変わるなら、蜘蛛が人間に変わったってなんの問題もないだろう。

 たかが毒蜘蛛程度のリデザインで、俺の魔術が阻まれる道理もなし!

 

 処置は丁寧に的確に。

 大きな大きな蜘蛛は、巻き戻るように人間に戻っていく。

 人への変容と肉体の書き換えが主だ。

 精神にかかった変容も本能に関わる部分が大部分だったので、その辺を処置すれば完成である。

 完治は数年後になるかとは思うが、それは病院に任せればいいだろう。

 

 受け入れてくれる病院を探すのは骨だろうが、それは公安に頑張ってもらうとして。

 

 「美沙!」とロバートさんが血だらけのまま美沙さんを抱え上げようとして、腕から派手に出血した。

 慌てて腕は俺が治しておく。

 復元するように腕が直る様を構うことなくロバートさんが美沙さんを揺さぶっている。

 

 コナン君がちょっと居心地悪そうな顔をした。

 

「なんかロバートさん、美沙さんのためなら『餌』の確保も躊躇わない雰囲気あったね…」

「愛で狂うタイプの人間ってやっちゃな。ま、それくらいでないと人喰い巨大蜘蛛に愛を叫べへんし、まぁええんとちゃう?」

 

 服部君の言葉に俺は頷いた。

 お似合いのカップル、ということだろう。

 

 今後、公安の保護下に置かれて面倒ごとも増えるだろうが。

 あれほど愛が重そうな彼がいるのなら、問題はなさそうだ。

 

 巣の周りには、特に何も手を加えず、俺たちはその場を離れた。

 

 巣に手を出せばアトラック=ナチャが怒るし、辺りを囲っても位置は頻繁に付け替えられるから意味がない。

 きっとまた何かあったとき、蜘蛛の恐怖は再来するだろう。

 こことは違う場所で、こことは違う形で。

 

 車に戻ると、先にニャルがチクタクマンととも戻っていた。

 ニャルは俺にゴロニャンと擦り寄って俺の胸を人差し指で撫ぜた。

 

「子供は二人がいいです♡」

「に、人間が滅びた後で頼みます…まだ仕事が忙しくて…」

「仕方ないですね!僕は待てる邪神なので待ってあげましょう!」

 

 しおしおのチクタクマンが服部君のスマホに戻って「あかん…ワイの本体全く話通じへん」と嘆いている。

 話通じたらニャルじゃないんだよなぁ。

 

 そのように、俺たちは愛の偉大さを噛み締めつつ、二人を公安の人員に託したのであった。

 





・風の触覚
降谷さんの権能を用いた技。
魔術の進捗はイマイチだが、権能は万全以上に使いこなせる。
そうして自信をつけて再び魔術に挑み撃沈。
そんな悲しいサイクルである。

・美沙さん&ロバートさん
今後公安の保護観察下におかれる。
ドラマ1クール分の紆余曲折のあと結婚する模様。

・公安
複数人を食い殺した元怪異が実は人間の変容したもので、人間に戻したので保護してくれって上司に言われて白目剥いた。
公安の人員食われてるんで絶対嫌だが、本人が悪くないのはわかるし上司の命令は絶対だし神の判断もあるし嫌とは言えない悲しき公務員の性。
外部協力者として公安の代わりに危険な場所に送り込んだろ!(憤怒)
裏ではドロドロの別のヒューマンドラマが進む模様。
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