ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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シカゴから来た男〈黒い風の顕現〉

 

 本日は子供達を連れて、東都で講演を開始した「ポールとアニーのアニマルショー」を見に来た次第である。

 

 メンツは少年探偵団にコナン君と灰原さん、そして阿笠博士と俺。

 諸伏さんと降谷さんは今回はお休みだ。

 

 諸伏さんと降谷さんは最近連れ立って出掛けることが増えた。

 諸伏さんによると、来週の11月7日までは別件のためあんまり探偵事務所の作業に参加できない状況が続くらしい。

 まあ完璧に出ずっぱりというわけでもないようなので、それまではコナン君と俺で仕事を回していけばいいだろう。

 

 サーカスも終わり、人波に合わせて出口から外へと出ると、昼の光が目に差し込んで痛いぐらいに眩しく感じる。

 

 しかし、こういうクラシックなサーカスもたまには楽しいものだ。

 子供達も十分に楽しめたようで、ストラップも購入して大はしゃぎしている。

 コナン君がふと、白いライオンのついたストラップを眺める志保ちゃんに話しかけた。

 

「そういや灰原、明美さんは今日は来てねぇんだな」

「お姉ちゃんならまたあの男のところよ。いい加減あんな男のことなんて忘れればいいのに」

「ああ、あの赤井秀一って人か。そういやなんであの人日本に居るんだ?潜入捜査が失敗したってことは命を狙われてるんだろ?」

「また性懲りも無く組織を追ってるんじゃない?体を小さくされたのにちっとも懲りてない誰かさんみたいに」

「うっせ」

 

 軽い雑談のはずがブーメランになって返ってきたらしい。

 コナン君は唇を尖らせてそっぽをむいた。

 

「まあ、世界中で暗躍する彼らを追跡するための拠点として日本を選んだ理由までは分からないけどね」

「それは組織のトップが日本人だったからじゃねぇか?今は知らねーけど」

 

 「は?」と灰原さんが驚愕に目を見開くと同時に、子供達が二人を取り囲んだ。

 「二人してまたなに話してるんですか!」「うな重食いに行くのか!?」と集られて、コナン君が苦笑いして肩をすくめる。

 

「何でもねぇよ、昼飯どこ行くかまだ決めてなかったなって話してただけで」

 

 その言葉に乗ったのは阿笠博士だ。

 ピンと人差し指を立てて「そうじゃな、ではここで、今日のお昼ご飯を決める権利をかけてクイズじゃ…」と言いかけたものの。

 最後まで言わせてもらえず、子供達がわあわあと議論を開始した。

 

「うな重!うな重!」

「僕この近くに美味しい中華屋さんがあるって前聞きましたよ!」

「歩美、アイス食べたい!」

 

 おお、可愛い子達だ。

 あとうな重は高いから却下な。

 

 わちゃわちゃと盛り上がる少年探偵団から逃れた志保ちゃんがコナン君へと詰め寄っている。

 

「ちょっと!何でそんなことあなたが知ってるのよ!」

「諸伏さん情報だよ。この間ソイツが昔持ってたっていう屋敷を黄衣さんに購入してもらったところ」

 

 にかっと笑ってコナン君がサムズアップするので、俺も無駄にキメ顔を作ってニヒルに微笑んでみる。

 

「ふっ、一生レベルの借金を背負って長野の山奥にある別荘を買っちまったぜ…」

「いやあなた黄衣さんに何させてるのよ」

 

 真顔で志保ちゃんが突っ込んだ。

 この傍若無人な小学生探偵にもっと言ってやってください…。

 

 とはいえ、いくら大富豪烏丸蓮耶の建てた別荘といっても建設当初の値段を考えればはるかに安価にはなっていた。

 

 前所有者がここで殺されたということで、相続した現在の所有者も気味悪がって早く手放したがっていたし。

 そもそもが山奥なうえ、屋敷につながる唯一の橋も落ちてしまい、アクセスは最悪。

 加えて40年もの歳月による経年劣化であちこちが傷んでいた。

 

 そのため、あの規模の物件としては格安と言っていい部類になってはいたのだ。

 

 一応、まだ各種購入手続きが終わっただけだから、今度またコナン君と正式に行く予定である。

 

 

 

 と、出口からしばらく行ったところで、TVカメラと取材陣に囲まれた白人男性が目に入った。

 阿笠博士も騒ぎが目に入ったのか「なんじゃ?」と顔を上げている。

 

 俺も自然とその人だかりを見て、おお、と思わず目を見張った。

 

 注目の的となっている白人男性は普通の老紳士にみえるが、よく見てみればINT(知性)とEDU(教養)の高さが素晴らしい。

 加齢により衰えてはいるが、STR(筋力)もCON(持久力)もキッチリと鍛え上げられた痕跡が見える高値である。

 あえていうなら、元セガールと言ったところか。

 

 取材陣の様子からして、この元セガールは今俺たちが見ていたサーカスのオーナーさんらしい。

 いやこんなハイスペックなオーナーさんなんている?と俺は若干首を傾げた。

 

 特殊部隊を引退後に気ままにサーカス団のオーナーしてたとかか…?

 

 などと疑問に思っていると、俺のスマホに着信があった。

 今流行りのTWO-MIXの曲がスマホから流れ出す。

 

 失礼、と言い置いて子供達から少し離れて電話を取る。

 

 通話が繋がった途端、降谷さんが挨拶もなしに本題を切り出した。

 

「すぐに来られるか?」

「!」

 

 切迫した声だ。

 かなりの非常事態を思わせる。

 

「問題ないよ。今行く。どこに行けばいい?」

「位置情報を送る。なるべく目立たず、かつ早急に来てほしい」

「分かった」

 

 電話を切って顔を上げれば、コナン君たちは何故か元セガールの白人男性をみんなで取材陣の群れから救出しているところだった。

 やばいな、話に置いていかれている。

 まあいいや。どうせ離脱するんだし。

 

 ひとまずコナン君に「俺、ちょっと降谷さんに呼ばれたから行ってくる!」とだけ伝えて走りだす。

 コナン君が慌ててこちらに振り返る。

 

「え、ちょっと黄衣さん!?」

「すぐ戻るから!」

 

 スマホに送られてきた位置情報を見ると、ここからさほど離れていないビルを指し示していた。

 調べてみると今は使われていないらしく、画像を見ると工事中なのか一部鉄骨が剥き出しになっていた。

 

 ここからだと走った方が早い気がするが、降谷さんは目立たないようにと言っていたし。

 仕方ない。

 人目避けの魔術を張りながら走って現場に向かうとしよう。

 

 

 

 

 

 と、言うわけで15分ほど全力疾走して、ようやく現在ビルの真下に辿り着いた。

 

 入り口は路地裏の方に面しているらしく、シャッターが並びどこかうらぶれた雰囲気が漂っている。

 空き缶が転がっていて、植木は伸び放題。

 なんとも、近寄りがたい場所である。

 

 ひとまず上に上がって、誰もいないようならもう一度電話をかけることにしよう。

 

 エレベーターは動かなかったので、廃ビルの横にある非常階段を登っていく。

 悪ガキがいたのか、階段にはスプレー缶で落書きした跡が残っていた。

 

 ゆっくりと階段を進んでいくと、3階部分に通りかかった時、諸伏さんの「こっちだ!」という声が中から聞こえてきた。

 

 ドアは施錠されていないようで、そのまま開けて真っ暗な奥へと進んで進んでいく。

 足音が広いばかりで壁の少ない内部に反響して、妙な心地がする。

 

 そうして角を曲がると、壁にもたれかかるような形で佇む人影が一つ。

 

 パーカーを目深に被った降谷さんだ。

 隣には浮遊霊スタイルの諸伏さんがヤンキー座りをして「よ!」と右手を上げた。

 

 よく見れば二人ともごそっとSAN値が減っている。

 これは多少なりとも発狂したに違いない、という減り具合に事の重大さを否応なく突きつけられる。

 

 降谷さんがこちらを振り返ったのだが、フードを被っていてよく顔が見えない。

 

 しかもなんか降谷さんのフードの中…頭部が不定形にモゴモゴと動いているんだけど……。

 

 もはやこの段階で嫌な予感しかしなくて背筋を嫌な汗がつたう。

 降谷さんが硬質な声を出した。

 

「急に呼び出してすまない。こちらも緊急事態だったんだ」

「うん。もう見るからに緊急事態だし、それも仕方ないと思う」

「……」

 

 その不気味に蠢いてる頭で何もないわけないもんな。

 「ひとまず、経緯から説明する」と降谷さんは感情の抜け落ちた声で言及を避けた。

 

 本題には触れたくないらしい。

 

 フードも取らないまま降谷さんはその辺に転がったドラム缶に腰掛ける。

 相変わらずフードに隠された頭部がモゴモゴと動いていて、俺は心臓が張り裂けそうな心地になった。

 

「今朝、君永課長と君の処遇の件について話し合った」

「お、おう」

「その際少しばかり方針の違いがあって話が平行線を辿ったんだが」

「なるほど」

 

 ものすごくマイルドな言い方をしていることだけは伝わった。

 肩をすくめた降谷さんが皮肉げに言葉を続ける。

 

「それで冷静さを失った彼女が、僕に虹色に光る腕のようなもので攻撃してきたんだ」

「ひえぇ…!」

 

 たぶんそれ魔術「ヨグ=ソトースのこぶし」だろ…!

 消費したMPによって威力が変わってくるが、それでも人間ぐらい軽くミンチにできる攻撃魔術だ。

 

 やっぱり俺も怖がらず同席すべきだったと後悔に苛まれる。

 

「だ、大丈夫だったのかそれ!?」

「それが、頭に直撃して僕もこれまでかと思ったんだが、そこで不思議なことが起きたんだ」

「ふ、不思議……?」

 

 降谷さんがフードをゆっくりと取り、ついにその姿があらわになる。

 

 そこにあるはずの頭部の上半分が綺麗に消滅していた。

 かわりに黒い風のようなものが渦を巻いて、その濃密なエネルギーを示している。

 モゴモゴとフードが動いていたのは、この渦巻く風がフードを押し上げていたからだったらしい。

 断面は肉と骨と脳漿とがどろりと見えているが、不思議とそれは常に新鮮に形を保っているようだった。

 

 黒い風には疫病、飢餓、厄災の力が練り込められ、不純な大気と混じり合いえもいわれぬ不快感を抱かせる。

 

 もし一度でも吹き荒れれば、そこに災いを撒き散らす黒い大嵐。

 厄災の化身。

 

 これ即ち、外なる神ニャルラトホテプが変化が一つ。

 

 「黒い風」の顕現である。

 

 

「ぎゃーーーー!!!!!出たッッッ!!!」

「君が!!叫ぶことないだろ!!!」

 

 俺が思わず叫ぶと、降谷さんが憤懣やるかたなしと言った様子でいきりたった。

 

 仕方ないじゃん!

 俺のSAN値は秒間で回復するとは言え、減らないわけじゃないんだから!

 

 しかし同時に降谷さんが魔術を脳天に受けても平気だった理由も察することができた。

 黒い風は基本的に自然現象であり、体力や生命力という概念を持たない存在だ。

 

 だから、「ヨグ=ソトースのこぶし」のダメージを受け流すことができたんだろう。

 

 ちなみに、黒い風は昔にニャルラトホテプが俺の眷属と言い張るためだけに作った化身である。

 実際は俺と何一つ関係ないのだが、この姿で遊び回って無意味に俺の評判を下げるなど奴はやりたい放題であった。

 なんか思い出したら腹立ってきたな。

 

 まあそれはいい。

 

 降谷さんは沈鬱な様子で黄昏ているようだ。

 頭の上半分が竜巻になったんだからそりゃSAN値の一つも減ろうというもの。

 

 俺は姿勢を正して話の続きを仰いだ。

 

「僕がこんな姿になったからなのか、課長は余計に激昂してな。僕はできる限り人目につかないように逃走するのにかなり苦労した」

『うっかり庁舎で目撃した人が廊下で倒れたりしてさ。もう本当に大変だった…』

 

 諸伏さんが情報を付け加えてくれる。

 真昼間の警察庁に出現する神話生物か。考えただけで地獄絵図そのものだな。

 

 二人も発狂しながらよく逃げられたものだ。

 庁内で銃撃戦が起きても仕方ない状況だったろうに。

 

「で、ここまで来れたは良いんだが、一つ問題が発生したんだ」

『そう』

 

 二人が揃ってコクコクと頷いた。

 ごくり、と思わず生唾を飲んでしまう。

 この状況でさらに問題…だと……?

 

 降谷さんが苦虫を千匹ぐらい噛み潰したような顔をして───顔の上半分がないから想像だが───肩を落とした。

 

「………かれこれ二時間、元に戻れないんだ。今晩はバーボンとして仕事があるのに」

「Oh」

 

 降谷さんが自分でそう言ってから、両手で顔を覆った。

 諸伏さんはしきりに降谷さんの背中をさすっているが、幽霊状態なので特に何の効果もないように見える。

 

 バーボンとしての仕事がどうあれ、頭竜巻状態の人間に人権はないに違いない。

 イケメンも台無しだし。

 

 降谷さんは縋るような目つきで───これもやはり想像だが───俺を見た。

 

「君の魔術でどうにかならないか?このままは流石に仕事に支障が出る」

「んー、魔術で直せなくもないけど、今後を考えると降谷さんが自分で人型に戻った方がいいと思う」

「僕が?」

 

 どこか訝しげな顔をしている。

 そりゃ自分で散々試して直らなかったんだから呼んだのに、ということだろう。

 

 だが、今後「再びこういう状況になる」ことも見越して行動しておいた方が降谷さんも助かるはずだ。

 

 俺は咳払いしてから言葉を続けた。

 

「本来ニャルラトホテプは無形だ。なりたい姿が自分の姿なんだ。だから、降谷さんが元に戻れないのはニャルラトホテプとしての自覚が足りないだけだと思う」

「……僕はアレに取り憑かれてるだけで、アレそのものなわけじゃないが」

「いや」

 

 俺は言葉に迷って、一度話を切った。

 これを言うのはとても残酷なことだ。

 

 だが、それを突きつけねば話は始まらないし、今後の降谷さんのためにもならない。

 

「あなたはニャルラトホテプだ。自覚がないだけで、もう降谷さんは人間じゃない」

「ッ……違、」

「というか、頭が竜巻の人間はいないと思う」

「…………。それはその通りだが、君に言われたくない案件過ぎて頭がおかしくなりそうだ」

 

 ぐうの音も出なかったらしく、降谷さんは意気消沈した。

 というか君に言われたくない案件って何やねんワレ。喧嘩売っとんのか。

 

 気持ちを切り替えたらしい降谷さんが、「自覚だな、自覚」と言ってむむむむと唸りだした。

 

「ヒロ、俺のことバーボンって呼んでくれないか?」

『え、急にどうした?』

「いや。たぶんアレは俺がバーボンやっている時の性格を基礎としてると思うから、その雰囲気でやってみようかと」

『なるほど。よしきた』

 

 諸伏さんは無駄に細かく立ちポーズを工夫してから、その辺に落ちていたパイプを拾って何故か背中に背負った。

 降谷さんにピシャリと「早くしろ」と言われて、迷った挙句やっぱりパイプを背負いながらいい感じに壁に背を預ける。

 どうでもいいが何だそのパイプ。

 

 そして「バーボン、仕事か?」と目を細めて言う。

 降谷さんが黙ったまま手に力を込めた。

 

 瞬間。

 

 しゅるり、と黒い竜巻が有機物のようにくねり。

 実に気持ち悪い感じの動きで降谷さんの頭部は人間の頭へと戻ったのだった。

 

「戻った……!戻ったぞ!!!!」

『やった!やったなゼロ!!良かった!!!』

「ああ!ああ!!!」

 

 ひしと二人が抱き合って喜びを分かち合っている。

 半分以上泣いているが、まあそれは突っ込まないほうがいいだろう。

 

 念のためスマホで今日のニュースを見ると、「警察庁に不審者侵入か、白昼堂々の犯行」などとビッグニュースが躍っていた。

 勤めていた警察官に被害者多数、とのこと。

 記者会見がもうすぐ開かれるらしい。

 

 念のためニュースを二人に転送すると、喜びの空気が一転、完全なお通夜になってしまった。

 

 まあ、今後の後始末に関しては俺の管轄外だ。

 どうも黒い風の影響である疫病は発生していないようだし、さほど心配することもあるまい。

 

 ピロン、とメッセージアプリが通知音を鳴らしたので見てみると、コナン君からの連絡であった。

 そういえば置いてきた少年探偵団はどこで昼ごはんを食べたのだろうか。

 

 開いてみると、ジェイムズ・ブラックさん(誰?)を誘拐犯から助け出したことと、その件で警視庁に行くことが記されていた。

 この30分かそこらの間に…?

 

 ひとまず「お見事!」とスタンプを送って、俺はスマホをしまったのだった。

 




・コナン君
すぐ戻るって言ったじゃん!!!(憤怒)
安室さんからの緊急呼び出しということで、大事件の気配を察知して非常にブスくれている。

……実際にはすぐなのだが、ヨグ=ソトースの捩れにより時間の流れが一定ではないので起きた誤解である。
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