ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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銀翼の奇術師〈空の上の殺人〉

 

 舞台中、無事にキッドは捜査を撹乱したらしい。

 

 どうやら中森警部に盗みのタイミングを誤認させる目的だったようだ。

 うまく警察を翻弄し、逃げ切ったらしい。

 

 同時に開催された劇は素晴らしいものだった。

 性格は酷いが実力は確かな主演女優の牧さんの熱演は、実に見応えがあって感動的だった。

 

 俺は星の精に手をぎゅっと握ってもらって、なんとか加護の付与をせず耐え切ることができた。

 でも小さき命が苦しみ悲しみ悲劇の中で息絶えてて、全俺が前が見えなくなるぐらい涙した。

 なんでそんな酷いことするの……。

 

 俺は休憩スペースで座ってコーヒーの残りを飲みながら、コナン君に声をかけた。

 

「怖い話だったね…怖いことばっか起きたし」

「でも栄光の時も描いてたじゃん」

「あんな千年もない一瞬の栄光は栄光と呼ばない。人間は人生の9割幸せでなきゃまず無理」

 

 俺はくしゃくしゃな顔で涙を拭った。

 星の精も「グズッグズッ」と震えている。

 

 大きいのが動かなくなった…悲しいがたくさんあり過ぎたから?

 友達も動かないになる?

 

 悲しんでる人外ばっかの空間に、コナン君はため息をついたようだった。

 

 俺のこの有り余った加護をどこへ放出すればいいのか。

 俺はとりあえず隣のコナン君をドバドバ祝福し、俺はコナン君に蹴り飛ばされたのであった。

 

 

 

 その間、諸伏さんと降谷さんがちょろっと中森警部に助言していた。

 誤認しすぎて怪盗キッドの動きに気付かない様子だったので、ちょっとしたテコ入れだ。

 

 その甲斐あって、大捕物は舞台を邪魔することなく観客の喝采の中幕を閉じた。

 

 その後は牧さんも大満足で、俺たちを打ち上げに呼んでくれることになった。

 断ろうかとも思ったが、舞台は違えど俺も俳優の立場を取るもの。

 

 「あなたの意見を伺いたいんです。天才と呼び称されるあなたの演技にご指導願いたくて」と言われてしまえば、下手に断れば角が立つ。

 

 多分彼女本人は指導とかは全然考えてなくて、単に俺…俳優黄衣ハスタと親密にしていた事実さえあればそれでいいのだろう。

 強かな人だ。

 

 

 そんなわけで函館行きの飛行機、18:15発。

 これから函館の大沼湖畔にあると言う別荘で、俺たちは一泊することになる。

 

 函館は深きものどもの関係で色々複雑な心境になる場所だが、今回は関係ない。

 ビジネスクラスのふかふかとした座席に座り込み、俺は降谷さんに声をかけた。

 

「仕事の方は忙しくないのか?向こうに一泊になっちゃうけど」

「僕は分身してるから問題ない。それにキッドがどう出るか不安だしな」

『俺はナラトゥース大先輩が仕事引き受けてくれた。やっぱ時代はナラ先輩なんだよな』

 

 相変わらず、旧支配者ナラトゥースは公安の心をガッチリ掴んでいるらしい。

 基本は平のエージェントという扱いだが、超危険な案件を率先してやってくれているおかげで公安の人員の保護に大きく役立っている。

 

 ちなみに、この間のアトラック=ナチャの件もナラトゥースを導入する方向で話は進んでいた。

 しかし「高度に政治的だと思われるのでハスターに投げた方がいい」と助言された結果、俺に回ってきたのだという。

 

 たしかにアレは俺とアトラック=ナチャの協定に基づく部分も多かった。

 対応は的確なのだが、すごく優秀なのが鼻につく今日この頃。

 

 なんだよナラ先輩って!

 俺を差し置いて人間と仲良くなるとか許されませんわよ!

 

 俺がポコポコ怒っていると、隣のコナン君が「どうどう黄衣さん、落ち着いて」と適当な声をかけてくる。

 ポッケの星の精は爆睡モード。

 触手をはみ出させながらイビキを響かせている。

 怖い話で疲れたらしい。

 

 遅れて、舞台俳優の新庄さんがやってきた。

 ステータス的には露骨にキッドだ。

 牧さんの指輪にそっとキスし、そのまま去っていく。

 例のスターサファイアに触れていて、俺とコナン君は自然とそこに目が行った、

 

 牧さんは少しだけ体調が悪いようだ。

 そっけなく新庄キッドを追っ払い、牧さんは寝る姿勢に入った。

 

 前席の公安の二人がソワっと居心地悪そうにしているので、コナン君が小声で二人を覗き込んだ。

 

「どうしたの二人とも。なんか様子が変だけど」

『いや……あの人、萩、俺達の同期にすごく声が似てて。軽薄そうなとこも。いや本当に、来世かもぐらいには似てる』

「見たとこ中身はキッドなんだがな。凄く落ち着かない。俳優の道を選んだ萩ぐらいには似てる。気に食わないから強風で飛行機遅延させてやろうか」

「やめて。安室さん風を悪用しないで」

 

 憮然とする降谷さんが舌打ちして窓の外を眺めた。

 

 

 そうしている間に、飛行機が空へと飛び立った。

 何度見ても人間の文明の発達の素晴らしさを感じさせる輝きに満ちている。

 文明の光が夜の街を照らして、眼下に広がっている。

 

 諸伏さんが顔を上げて、ぼんやりと呟いた。

 

『ところで、ゼロと飛行機ってどっちが速いんだ?』

「なんだその小学生みたいな質問。僕は風として移動する場合は普通に急いで時速400km程度だ。時速900kmの旅客機には及ばない」

 

 「まあ、恒星風に転身すれば別だが」と自慢げに降谷さんが笑う。

 こうして見ると黒い風は俺に比べだいぶ出力が低い。

 

 俺は顕現するだけで時速2300kmとかその辺の風が吹き荒れるからな。

 まあ、黒い風の本領はその疫病だから比較する必要はないのだが。

 周囲の被害を考慮しなければもっと速度が出せるだろうし。

 

 ぼんやりとお疲れっぽい目をした降谷さんが遠くを眺める。

 

「そうだな…飛行機と並走したら楽しいかな…」

「やめてね安室さん。怪異に並走される旅客機は普通にパニックホラー映画だからね」

『最後尾に齧り付いたゼロが機体に入り込んで一人ずつ乗客を食ってくのか。怖そう。ハリウッド映画にありそう』

「主演にベルモットを添えてやれ。僕がきちんと悲鳴を上げさせる」

 

 疲れた公安が下らない話で盛り上がっている。

 元気そうで何よりである。

 

 降谷さんが黒い風の玉を外に出して、窓の外を並走させた。

 完璧に飛行機に速度を合わせた、なにげに器用な技を見せている。

 諸伏さんが「今作終わりに出てくる怪物の卵で次回作の伏線のやつ?」と窓の外の黒玉を見て呟いた。

 

 すっかり変なホラー映画が出来上がっているようだ。

 たぶんタイトルは「Black wind(黒い風)」とかその辺だろう。

 

 

 ふと見ると、新庄さんに化けたキッドが白けた様子で肩を落としていた。

 俺はこっそり念話で話を聞くこととする。

 

『どうしたんだ?なんかしょげてるけど』

『さっきスターサファイア確認したらさぁ、偽物だったんだよあれ!そうじゃないかとは思ってたけどさぁ!』

『おお、お疲れ……。加護もっといる?』

『いらない。名探偵にゲーミングキッドって馬鹿にされたからいらない』

 

 キッドは断固たる口調で言い切った。

 そんな本当のことを言ってしまったのかコナン君は。

 可哀想に、キッドは完全に臍を曲げてしまっている。

 

 

 さて。そのあたりのことだ。

 

 

 牧さんの苦悶の叫びが、機内に響き渡った。

 

 倒れ込んだ女性の体に、俺は咄嗟に駆け寄ろうとした。

 しかしすでに毒は彼女から命の灯火を奪い去っていたらしい。

 魂が目の前で霧散していく。

 

 これは怪異によらない殺人事件だ。

 俺が奇跡を大盤振る舞いして何がなんでも命を助けるのは、道理が通らない。

 

 チョコレートを渡したマネージャーさんが、戦慄したまま目を見開いて呆然としている。

 

 降谷さんが近づいて、冷静に死体を検分した。

 

「もう亡くなってます。青酸系毒物。そこのチョコレートを食べた瞬間に倒れたことを考えるに、その際毒を摂取したことは間違い無いかと」

「他の人たちもチョコは食べてたし、牧さんは食べるチョコに迷ってた。あらかじめ手に毒が付着していた線が濃厚だと思う」

 

 コナン君も軽やかに参戦した。

 小学生の皮が完全に剥げているせいで、ギョッとした視線が四方八方から向く。

 それを誤魔化すべく、俺はやや大きめの声を出して立ち上がった。

 

「念のため医者と、機長に連絡を。そこのキャビンアテンダントさん。すみませんが急病の呼びかけをお願いします」

「は、はいっ!」

 

 医者が死亡の判断を下したと言う事実が大切だ。

 あとは現場保存のために、皆を後ろの席に移らせる必要があるだろう。

 

 スカイJ865便はつつがなく函館へと向かっている。

 天気はだんだん悪くなり、重く立ちこめる雲で月は見えなくなっていく。

 

 俺は陰鬱な気分になって、大きくため息をついたのだった。

 





・ナラトゥース先輩
皆から敬称として先輩と呼ばれて頼りにされている。
皆に頼りにされて輝いている願望器。
でも旧支配者案件は何かにつけて断る。命は惜しい。

・ゲーミングキッド
七色に光る。
意図して光らせているわけではなく、溢れ出る膨大な旧支配者のMPが光となって魔術式に照り返し、七色に見えているだけである。
木っ端神話生物が見たら恐れ慄く。
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