ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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銀翼の奇術師〈黒い風の顕現〉

 

 動機を確認すれば、やはり恨みはたくさん買っていたようだ。

 

 短気な東都民のことを思えば、割と誰が殺していてもおかしくない。

 とはいえ、ここは空の上。

 科学捜査の手が及ばないとなると、ここから先は打ち止めだろう。

 

 コナン君も犯人はわかっているが口に出すつもりはないようだ。

 降谷さんがそっとコナン君に声をかける。

 

「証拠が提示できないということか」

「うん。逆に言えば、証拠となるものは明らか。既に目暮警部には伝えてあるから、向こうで押さえてもらうのは容易だと思う」

 

 たぶん逃げ切るつもりはない、ということか。

 計画性はあるがどこか刹那的な、凝っているのに杜撰な東都民らしい犯行だった。

 

 しばらくして、函館が近づいて短いフライトの旅が終わりに近づいてくる。

 

 そのあたりのことである。

 

 突如機体が振動し、次の瞬間急降下した。

 

 悲鳴があちこちから聞こえてくる。

 揺れと、浮遊感。明らかにまずいと思われる空気だ。

 すごい勢いで高度が下がっているのが魔術で確認しなくてもわかった。

 

 降谷さんが椅子にしがみつきながら、CAさんに叫んだ。

 

「コックピットの機長が倒れている!早く確認してくれ!」

「えっ!?わ、わかりました!」

 

 キャビンアテンダントさんが慌てて駆け出す。

 

 降谷さんが風を操作し、風の手で飛行機を持ち上げた。

 下から強制的に持ち上げられ、一旦機体が安定を取り戻す。

 おそらく先ほども機体内の大気を眼として認識して、コックピット内を遠隔で覗き込んだのだろう。

 

 キャビンアテンダントさんがコックピットの中に声をかけるが、返事がないので扉を開ける。

 

 中ではやはり、機長さんと副機長さん苦悶に呻いて倒れ込んでいた。

 倒れた機長さんが操縦桿を押してしまったらしく、そのせいで機体が急降下していたのだ。

 

 慌てて入り込んだ諸伏さんが座席を下げて操縦桿を元通りにする。

 同時に降谷さんが上向きの風も解除したようで飛行機多少ぐらついただけで通常の運行を取り戻した。

 

「すまないがすぐに先ほどの医療従事者を呼び戻してくれ。青酸系毒物を摂取したんだ。 命が危ない」

「は、はいっ!」

 

 降谷さんの声に、キャビンアテンダントさんは慌てて駆けていく。

 様子を見にきた舞台俳優さんたちも息を呑んでことの次第を見守っている。

 

 俺が副機長さんを背負って、諸伏さんが機長さんを背負って外に出る。

 リクライニングシートをいっぱいまで倒し、機長さん達をそこに寝かせる。

 

 機長さん達は苦しそうに呻いている。

 可哀想に、完全なる流れ弾だ。

 

 コナン君が深刻そうな顔で考え込んでいる。

 

「どうして……」

「た、確か亡くなったお客様と機長はお知り合いだとかで、一度コックピットでお話になられていました」

 

 お医者さんを連れて戻ってきたキャビンアテンダントさんさんが、そのように思い出したことを補足してくれた。

 

 おそらく、そのとき毒をなんらかの理由で摂取してしまったのだろう。

 即死しなかったのは幸運だ。

 だが、これでは操縦は不可能。

 

 俺でも治療は可能だから、乗り合わせていた医者の人が調子を見た後に、少しだけ体の苦痛と負担をとってやった。

 なんにせよ安静にしたほうがいいだろう。

 

 諸伏さんが難しい顔をして俺に声をかけた。

 

『黄衣の方で機長さんを起こしたほうが良くないか?パイロットがいないのはあまりにまずすぎる』

「あんな長時間ひどく苦しんだ人を無理に起こすのは……限界まで頑張って操縦してたんだろうし」

「だが実際、操縦者がいない旅客機は地獄への片道切符に違いない」

 

 降谷さんの言葉に、俺は俳優さん達に声をかけた。

 

「皆さん、飛行機の操縦経験がある方はいらっしゃいますか?」

「なら俺が」

 

 新庄さんに化けたキッドが手を上げた。

 俺は頷いて、安全のために他の人を席に戻らせる。

 風が強いから、できればシートベルトをしておいてもらったほうが安全だからな。

 

 キッドが軽くコックピット内を確認してニカっと笑った。

 

「幸い、ILS(計器着陸装置)は着陸までインプットされてるみてーだし、管制に指示を受けながら自動操縦に任せるくらいはできそうだぜ」

「流石だな。本当に経験があるのか」

「セスナなら。怪盗はなんでもできなきゃ話になりませんのでね」

 

 優雅に一礼する姿の心強いことよ。

 降谷さんが「あと運転経験のあるものはいるか?」と俺たちを見渡した。

 

 コナン君がむすっとした顔をして手を上げた。

 

「僕は一応ハワイで運転体験させてもらってる。って言ってもあくまで地上での話だけどね。といっても、この体じゃろくに操縦桿も動かせないけど」

「俺も前に機長と副機長が敵スタンド使いに殺害された時、着陸までやりきったよ。ISL付いてない古い機体だったし自分でな」

「何を言っているのか一ミリも理解できない」

 

 降谷さんにぴしゃりと非難されてしまった。

 本当のことなのに俺が妄言吐いてるみたいな空気になり、俺はむくれて唇を尖らせた。

 

「ともかく、キッドと降谷さんで運転すればいいと思う。俺らは席で念話繋いでるよ」

「いや……僕は運転経験もなければ知識もないぞ」

「天候が悪い。向こうは強風だろうから、操縦者以上に降谷さんの風でのサポートが重要になると思う」

 

 降谷さんは渋面を作った。

 つまり大っぴらに風を使うということだから、後々公安で巻き取るから仕事が増えることを意味している。

 

 諸伏さんが「頑張れゼロ!負けるなゼロ!」と気の抜ける声援を送った。

 

 何はともあれ二人をコックピットに送り込んで、俺たちは席につく。

 一応念話でグループ通話の状態にしたし、向こうの管制との会話が聞こえるようにもした。

 

 降谷さんが管制塔とやりとりしているのが聞こえる。

 

『こちらスカイJ865便。聞こえるか』

『こちら函館空港管制塔。どうしたスカイJ865便』

『緊急事態だ。機長と副機長が意識不明になり、現在代わりに乗客の僕ともう一人がコックピットにいる』

『な……本当なのか!?』

 

 管制官はあまりの非常事態に絶句したようだ。

 まず乗客が勝手にコックピット入って通信してる時点で終わり中の終わりだ。

 

 ボタンを押さないようにと指示を受け、相手方はバタバタと騒がしい空気に包まれた。

 

 コナン君が念話越しに降谷さんに話しかけた。

 

『どうするの?どんどん風が強くなってる。力を使うとなると身分を明かすことになると思うけど』

『仕方ない。乗客の安全を考えれば、僕が力を振るうのが最善だ。当然、向こうにも話は通す』

 

 それが日本国民のためでもある、と降谷さんが固唾を飲んだようだった。

 万が一の時には乗客だけでも助かるように、乗員乗客約180人全員を風で守るつもりなのだろう。

 今の黒い風の規模ならば十分に可能だろうが、俺もその時は補助に回ったほうがいい。

 

 諸伏さんが前の席からこちらを振り返って眉を下げた。

 

『なぁ、俺が管制塔に行って公安と橋渡しをしようか?』

「ん、でも流石にここからだと距離があるぞ。飛行機のが早いと思うけど」

『軽く管制塔を呪呪呪ってして、それに乗って瞬間移動できる気がする。怨霊式移動術』

 

 忍々と謎に印を組む諸伏さんにちょっと笑いつつ、俺は頷いた。

 たしかに原理上十分に可能だろう。

 

 俺のゴーサインを受けて、諸伏さんか「ふんぬ!」とやっぱり謎の掛け声とともに消え失せる。

 コナン君が半笑いで肩をすくめた。

 

「なんか諸伏さん、平常運転だね」

「せやな」

 

 ………まあ。

 今、多くの人が幽霊になるかもしれない状況にあって。

 理性とは別に、信念と信条とは別に、その怨念は悲劇を歓迎しているに違いない。

 

 空港が近づいてくる。

 霧のように黒い風を纏った異様な機体は、管制塔からも見えているのだろう。

 

 『あれが…怪異の力…!?』と息を呑んだ管制官の声が聞こえてくる。

 たくさんの消防車両が位置について、万が一の時のために放水を待っている。

 

『こちらの風の状況は最適になるよう操作している。強風の影響は心配ない』

『了解。こちらからも確認できた。慎重に指示に従ってくれ』

 

 怪盗キッドが指示を受けながら順調に機首を下げる。

 

 その時。

 

 自然の雨雲から、激しい落雷が打ちつけた。

 黒い風の加護があるとはいえ、それは風と方向を主軸とするもの。

 落雷を防ぐことはできず、稲光が窓から派手に差し込んでくる。

 

 もちろん飛行機に落雷があったところで主翼の放電索もあって感電することはない。

 だが一瞬機内の明かりが途切れ、すぐに復活する。

 

 向こうの声が響く前に、キッドが悲鳴のような声を上げた。

 

『オートパイロットが復活しない!』

『ッ、着陸中止だ!機首を上げろ!』

 

 荒い動きで飛行機が機種を上げて、何とか衝突を防ごうとする。

 だが、無理な動きで左右にブレた機体が照明に接触。

 金属のポールが端のエンジンに衝突した。

 衝撃でエンジンが爆発し、右翼が半分にへし折れる。

 

 それでも黒い風の補助があり、機体は空を飛び続ける。

 普通ならとうに墜落している状況で、黒々とした加護を纏って大空を舞う。

 

 「なぜあれで飛んでいられるんだ…?」という管制の呆然とした声がこちらまで聞こえてくる。

 そりゃ飛んでないと不都合だからな。

 明日の新聞の一面は決まったようなものだが、ぱっと見禍々しい黒い風が変な書かれ方しないといいのだが。

 

 折れた翼からは燃料はドバドバ落ちてるし、燃え上がった滑走路は使えない有様だ。

 再び舞い上がったはいいものの、ここからどうすべきか。

 何時間でも浮いてはいられるが、降谷さんの集中力がどこまで続くかにかかってくるだろう。

 

 と、そのあたりで公安も管制塔に到着したらしい。

 諸伏さんの活躍で連絡体制も整ったようで、いくらか降谷さんが指示を受けている。

 

 そして最終的に、俺に念話で指示を仰いだ。

 

『僕が完全顕現して、飛行機を垂直に降下させる方針で決まった。それなら滑走路の燃えてる箇所を無視して着陸できるからな』

『なるほど。GOGO!全然承認ですよ俺は。乗客の命は降谷さんの双肩にかかってる!』

『上等。完璧にこなして見せるさ』

 

 自信家らしい解答だ。

 それに降谷さんの精密操作は人単位だろうから、ここまでの巨大物の着陸は初めてだと思われる。

 後これ多分着いた瞬間全員保護だからキッドはどうやって逃げる気なのか。

 

 コナン君がシートベルトを締め直して、犯人たるメイクアップアーティストさんをちらりと横目で確認した。

 

「あの犯人、逃げようとしないね」

「逃げる場所がないからじゃないか?」

「それもあるだろうけど、自暴自棄になってるかもなって」

 

 それはなんとも、悲しいものだ。

 これは彼女の本意ではないとはいえ、罪は重くなることだろう。

 

 莫大な風の君主が、函館の空に顕現する。

 黒い暴風が渦を巻き、幾重もの触手のようにスカイJ865便を捉える。

 通常の雷雲は消し飛ばされ、ただ本来ならざる暴虐性を孕んだ疫病の風だけが、その牙を抜いたまま空を満たした。

 

 ゆっくりと、推力を失った飛行機が垂直に降下していく。

 

 

 それはある種の神の奇跡として、人の目には映ったかもしれなかった。

 





・黒い風
風の操作はかなり器用で、ハスターより上手いぐらい。
現在は祟る系の雨風の神と扱われていて、神座神社に祠がある。
ちゃんと公式HPにも載ってる。
たまにふらりと立ち寄っては中で和んでいるため、霊感のある人が時折視線を感じるとか。
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