ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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意味深なオルゴール〈縁を渡る小舟〉

 

 特定したオルゴールの元の持ち主のものと思われる家に連絡を入れると。

 相手方は「是非とも来てくれ」と歓迎する姿勢を見せた。

 

 第一の関門は突破と見ていいだろう。

 

 俺たちは女子大生さんと一緒に、隣県の相手方の家へと向かうことになった。

 

 そこは広めだが普通の日本家屋に見えた。

 地方地主、ぐらいの規模感だろうか。

 とてもあのオルゴールを入手できるような財力があるとは思えないが、はてさて。

 

 迎えてくれたのは奥さんと息子さんの二人だった。

 

 ぺこりと会釈して家内に案内される。

 すでに電話で事情は説明してあるから、どうもどうもと挨拶するだけですんなりと話も進みそうかに見えた。

 

 なんとなく落ち着かない様子の奥さんが進み出て、女子大生さんのオルゴールを見て口を詰まらせた。

 

「それでその、オルゴールには入ってらっしゃらなかった?ええと、その…」

「……オルゴールには代えのシリンダーしか入ってなかったですけど…?」

 

 困ってる女子大生さんの姿に、奥さんは明らかに落胆した様子を見せた。

 

 奥からもう一人、神経質そうな男性が姿を現す。

 感じ悪そうに鼻を鳴らし、高飛車に言った。

 

「どうせその女がかっぱらったんだろ。なにせ時価2億円と言われる切手なんだから」

「………切手?そんなもの見た覚えは…」

「ふん。口ではどうとでも言えるさ」

「兄さん!なんて事言うんだ!」

 

 玄関で出迎えてくれた息子さんが注意するも、男は鼻で笑うばかりだ。

 なんとも感じが悪い。

 

 奥さんがぺこぺこと頭を下げて補足した。

 

「その。おじいさまは生前切手集めが趣味でして。その時、父が集めてた切手の中に高価なものがあったのです」

「それが無くなっちゃったの?」

「……そうよ坊や。家人全員で探したけど見つからなくて。もしかしたら持ってるかもって、あの子は疑ってるのよ」

 

 コナン君の質問に、奥さんが大きなため息と共に答える

 俺は追加でオルゴールについても聞くことにした。

 

「オルゴールに関しては何かご存知ですか?高価なものとお父君から伺っているのですが」

「さぁ……前に温泉地の民芸品店で買って、気に入って流していたのは覚えておりますが。そんな価値のあるものではありませんよ」

 

 なるほど、と俺は頷いた。

 これは本当に売り手を含め、本人も家族も全員がオルゴールの価値を知らないパターンのようだ。

 

 まあ、それは当然想定されうるシチュエーションだ。

 

 良縁を結ぶアーティファクトが悪用されてはいけないからな。

 なるべく良縁に乗って人手を渡るように組み上げたから、そうなるのも無理はない。

 

 そうして今、縁を通して女子大生さんの手の中にあるということは、彼女もまた人に恵みを与え、恵まれる存在なのだろう。

 

 母君は少しだけ憂鬱そうに視線を落とした。

 

「3年前亡くなったおばあさまが、『春よこい』を琴でよく弾いてらしたんです。おばあさまが亡くなってから、おじいさまはめっきり塞ぎ込んで。そこにポケベルでおばあさまと同名の人から連絡が来たって、大層喜んでらしたわ」

「なるほど」

 

 女子大生さんが「さっきも生前って……秋悟さん、亡くなられたんですか!?」とショックを受けたように立ち上がりかける。

 

 大学生活が苦しかった時、この秋悟という名の男性とのやりとりで、彼女の心も救われたのだと言う。

 その相手がもうすでに亡くなっていたというのは、やはり衝撃を隠せないらしい。

 やや涙ぐんで俯いている。

 

 諸伏さんがコソコソとコナン君に声をかけた。

 

『なあ少年。あの欠けた「春よこい」のシリンダーを見せてくれるか?』

「どうぞ。思った通りだよ。いろはにほへとで読んでみて」

『あーー』

 

 俺も話を聞いて、オルゴールに仕組まれた暗号を理解した。

 

 昭和の時代に作られた「春よこい」のシリンダーは音がかけている。

 シリンダーを見ると、わざと金具で捩じ切ったような跡が確認できた。

 

 その捩じ切られた音をいろはにほへとで読むと、『イハイ』……つまり位牌になる。

 

 本気でオルゴールは蚊帳の外のようだ。

 逆に平和でありがたい限りだが。

 

 心配してついて来たマモーさんが「こ、このオルゴールのピンを切り取るとは……なんたること!後付けのシリンダーだからいいものの!」と戦慄している。

 まあマモーさんの立場ならそうだろうな。

 

 軽くたどったところ、なかなか波瀾万丈な4億年の旅をして来たオルゴールのようだし。

 ハイパーボリア崩壊の最中、オルゴール一つ持って逃げ出した住民が、今の中国付近にたどり着いて遺跡を建造。

 そこの御神体としてオルゴールを祀っていた。

 

 しかしその文明も戦乱と疫病で消え失せ、土の中へ。

 17世紀に掘り出され、旅の共にとそれを持って海を越え、日本に持ち込まれた。

 それは人手を転々として、大した価値も付けられないまま優しさのみを介して今の今まで受け継がれて来た、というわけらしい。

 

 よくもまあ壊れず散逸せず完品で来たものだ。

 一種の奇跡とすら言えるだろう。

 

 女子大生さんと奥さんとの話はいつの間にか盛り上がり、是非ともご飯を一緒にと言う話になった。

 夫さんもやってきて、質問攻めの様相を呈してきた。

 

 女子大生さんの言葉から、ほんの少しの情報でも二億円の切手の在りかを探ろうと必死なのだろう。

 息子さんだけは頑張って止めようとしているが、皆が金に目の眩んだ状態では、なんとも儚い抵抗でしかなかった。

 

 女子大生さんは気にしてないようだが、あまりみていて心地のいいものではない。

 それに俺のオルゴールを放っておくとはちょっと切手にジェラシーもある。

 

 なんだよ、俺のオルゴール放って2億円ぽっちの切手の話ばっかしやがって。

 いや怪異品は取引禁止だから実質0円なのは本当なんだけどさぁ。

 

 ともかく、助け舟を出すべく俺は夫さんに話しかけた。

 

「そういえば、二億円の切手の在処に心当たりがあるのですが。もしご存知ないようならお教えしましょうか?」

「ほ、ほんとうですか!?!?」

 

 お、食いついたようだ。

 先ほどの位牌についての推理を披露すれば、我先にと家人達が位牌めがけて駆けていく。

 

 取り残された女子大生さんに、息子さんが深々と頭を下げた。

 

「失礼なことをして申し訳ありません。祖父の切手を当てにして散財をして、家計が火の車みたいで。あの、母と兄さん達はよく注意しておきますので」

「いえいえ、気にしないでください。私も秋悟さんの話ができて嬉しいんです」

 

 にこっと明るい微笑みに、息子さんがやや頬を赤らめさせた。

 

 コナン君が俺にこっそりと声をかける。

 

「ねぇ、去年の12月6日に死んだはずのおじいさんが、去年のクリスマスに春菜さんと待ち合わせしてたって変だよね」

「だな。たぶん誰かがおじいさんに代わってやりとりしてたんだ」

『絶対そこの息子さんだろ。一人だけ訳知りっぽいし』

 

 とはいえ、証拠はない。

 縁を繋ぐオルゴールはきちんと機能しているようだ。

 二人で話す女子大生さんと息子さんは、なんとも幸せそうに見えた。

 

 やがて、またバタバタと家人達がかけてきて、夫さんが涙ぐんで俺の手を取る。

 

「見つかりました!ありがとうございます!なんとお礼を申し上げていいか!」

「お名前を伺ってもよろしいですか!?」

 

 現金な一家の心はすっかりほぐれたようだ。

 俺はやや引き気味で、改めて名乗ることにする。

 この人ら、女子大生さんの名前だけ聞いてあとはアウトオブ眼中だったからな。

 金の呪いとはかくも強いものよ。

 

「俺は黄衣ハスタと申しまして、探偵をしております」

「え………本物?」

「ははは。俳優もしていると言う意味では、本物と言って構わないかと」

 

 顔は隠してないはずだが、もしかしたらそっくりさんだと思われてたのか、それか二億円に目が眩んで思考の外だったか。

 奥さんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして目を見開いた。

 

 「早くおっしゃってくださったら依頼しましたのに!」「どうぞどうぞ、お食事も持ちましたので!」とすごい勢いでくるっくる回る手のひらである。

 

 でも、オルゴールの話がそっくりそのまま残ってしまったな。

 諸伏さんと頷きあって、オルゴールの方も決着をつけておこうと向き直る。

 

 これを女子大生さんに丸投げというのは流石に無責任だし。

 

「改めて。残ったオルゴールについてお話ししてもよろしいですか」

「かまいませんが…それは言った通り民芸品店のお土産で……」

「こちらは怪異物品になります。国への正式登録が必要な、一定程度の怪異を保証された品です」

「!!!」

 

 一家が息を呑んだ。

 

 怪異品とは世間では不吉の象徴とされている。

 家にあった怪異品によって死亡したなんて事件も起きていて、「得体の知れない不気味な危険物」というイメージが先行している。

 

 もちろんいい効果のものもあるわけだが。

 素人には見分けようもない以上、それは概して恐ろしいものだと言う印象が強いだろう。

 政府の印象操作の影響もあるのだけれど。

 

「これには人に福を齎す効果が備わっています。春菜さんは返品を希望していますが、いかがしますか?」

「い、いえいえ。そちらにお持ちになっていてください。せっかくおじいさまがお渡しになったんですもの。ですよね貴方!」

「あ、ああ。切手を見つけてくれたんだし、我々はそれで十分さ!なあ!」

 

 ミッションコンプリート。

 いかにも「福は齎す。だが対価は…わかっているな」みたいなトーンで説明したからな。

 

 普通、この手のアーティファクトは効果発揮のためにかなりのエネルギー源を要求する。

 俺のオルゴールが例外と言えるから、まあ嘘は言っていないのである。

 

 

 

 俺たちは少しの手続きのあと、正式に女子大生さんの所有物になったオルゴールを手渡した。

 

 大事そうにオルゴールを抱える女子大生さんの顔は、故人を思い少しの憂いと寂寞に満たされているようだった。

 

 マモーさんが名残惜しげにオルゴールをガン見している。

 仕方ないから後でマモーさんの分も新しく作るか、と俺は思案した。

 新曲と、マモーさんの生きた時代の流行曲のシリンダーも付けておくとしよう。

 

 女子大生さんは柔らかく微笑んで、俺に声をかけた。

 

「このオルゴール、いい人との出会いをもたらしてくれるんですよね?」

「そうだよ。大事にするといい。きっと君をいい人に会わせてくれるから」

「もう会わせてくれました。秋悟さんがいたから、私は大学を辞めずに心を強く持てました。それに……」

 

 女子大生さんは言葉を切った。

 もしかしたら、あの息子さんのことを思い出しているのかもしれない。

 別れ際にアドレスも交換していたようだし。

 いいことだ。春の空気を感じる。

 

 俺はオルゴールに魔術隠しの加護を付与。

 加えて女子大生さんに厄除けと幸運の加護を与えて、それで様子を見ることにした。

 

 たまにはシリンダーを変えて俺の曲も聴いてくれるといいのだが。

 音楽魔術になってるので心も安らぐぞ!

 

 やや春の空気に当てられたコナン君が、スマホをぽちぽち操作している。

 画面を見るに、蘭ちゃんにメッセージを送っているようだ。

 「見んなよ!」と怒られたのでさっと撤退。

 諸伏さんと一緒に「春よこい」の鼻歌を歌って誤魔化した。

 

 星の精が「くすくすく!」と小さい声で一緒に歌う。

 

 暖かくなって来たし、俺もニャルとデートでもする頃合いかな。

 

 

 そんな、爽やかな風の吹く、ちょっとした出会いであった。

 





・降谷さん
オルゴールが女子大生の手にあると知って目を剥いた。
「見つけた地雷を除去せずそっと海に放流したのか!!!」と雷を落とした。
だってぇ、二人の思い出の品っぽかったしぃ。
爆発しにくいよう処理はしたもん!
ぶつぶつ。

・マモーさん用オルゴール
マモーさんの知ってる当時の流行曲3つと、ハスター書き下ろしのマモーさん用曲2つのセットのたった一つの品。
いつもありがとうって言って渡したら全身の水搾り出す勢いで泣いた。
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