本日はベルツリータワーに観光に来ている。
俺とコナン君、星の精の三人だけだ。
目的はコナン君の蘭ちゃんとのデートの下見である。
コナン君を工藤君に戻して送り出してもよかったのだが、俺が個人的に見に行きたかったのでついてきた形である。
俺は都市の絶景を眺めながら、満足に頷いてコナン君に問いかけた。
「どうコナン君?良さげ?」
「意外とまだ混んでてゆっくりできる雰囲気じゃねーし、道中の単なるイベントって感じかなぁ」
「なるほど確かに。いい感じになるには騒がしすぎるかもな」
とはいえ、併設のショップ街を巡るだけでかなり楽しめるだろう。
この混み具合じゃタワーからの景色はおまけにしかならないが。
それはそれで、遊園地のアトラクションみたいで楽しいものだ。
人でみっちりの展望エリアは時間指定チケットで、その辺りも遊園地感を加速させる。
星の精が透明なままコナン君の頭に乗っかって「クスックスッ!」と笑っている。
このために食事抜いて遊びにきたもんな。
クスクス声も雑踏で目立たないし。
星の精は時折浮かんで、人波の上からベルツリータワーの絶景を楽しんでるようだ。
俺はガラス張りの足元から下を見てつぶやいた。
「俺もニャルと来るのはしばらく先かなー。人が多すぎて潰そうとするかも知れないし」
「はは、物騒。ニャルさんいつもはどうしてるの?夜は家に帰ってくるのは見てるけど」
「大抵は地球外で遊んでると思う。前はキャンプファイアーして一人で盛り上がってた」
「え、意外と平和」
コナン君が目を丸くして言ったので、俺はチッチッチ、と人差し指を振った。
平和でもなんでもない。
クトゥグアとアフーム・ザーから毟ってきた炎を混ぜるとどうなるかとかの実験に勤しんでたからな。
極低温と極高温の権能が衝突し、時空が歪んでエネルギーが変な方向に収縮。
大爆発を起こすなどしていた。
「というわけでニャルは惑星ごと吹っ飛んで、一昨日不機嫌なまま帰ってきたわけだ」
「ニャルさん……何故そんなことを」
「何故とかね、理由とかいう軟弱なもので外なる神は動きません。ただそう思った時行動に移すのみよ」
「暴走族かな?」
コナン君がくしゃくしゃの顔になってしまったので、俺は重く頷くにとどめた。
まあニャルに限っては暴走族に近い。
スピードの世界で生きてるからだ。
でも他の外なる神も大抵フィーリングだから似たり寄ったりではある。
と、そこにひょいと現れたのは、降谷さんの姿をしたニャル野郎である。
ニャルはきょとんとした顔で俺の肩に顎を乗っけた。
「僕がどうかしました?」
「うおっ、びっくりした。ちょうどお前が一昨日大爆発した話してたんだよ」
「ああ、あれ。クトゥグアには本当に失望しました」
「クトゥグアのせいではないと思う。それはそれとして、どうして降谷さんの姿になってんだ?」
俺の質問に、ニャルは肩をすくめて心底困ったみたいな顔をした。
どうやら訳ありのようだ。
「この辺に良いおもちゃがないか探しにきてたんですけど、いつもの女性型でいると鬱陶しい羽虫がぶんぶん周囲を舞うんですよ。潰さず追い払うののめんどくささったらないです」
「鬱陶しい羽虫を潰さず我慢できてえらいぞ!」
「ふふふ。そうでしょう。僕もずいぶん寛容になったものです」
非常に自慢げなニャルを盛大に褒めそやす。
コナン君が胡散臭いものを見るような顔をしたが、特には気にしない。
ニャルが満足しているという事実が世界を救うのだ。
「それで、代わりにあの元化身の姿を借りることにしたんです。あんま変わらなかったんですけどね。一応気持ちこっちのが楽かな…」
「なーるほど。ニャルもお疲れ様。これから俺たちショップ街に行くけど、ニャルも来るか?」
「行きます!デートですね!」
降谷さん姿で言われても困るが、まあ実質は変わらないか。
ぱあっと花が咲くような笑顔で言われては否やも言いづらい。
降谷さんはいつも仏頂面だが、安室の皮被ってるときのような無邪気な笑みをみると、女の子によくモテそうだなと感じる。
ニャルがモテると事案にしかならないわけだが。
コナン君が「ニャルさん達って、普段どんなところに遊びにいくの?」と怖いもの見たさみたいな顔で聞いてきた。
素早くニャルがメガネもしてないのにメガネを上げる動作をした。
「よくぞ聞いてくれました!この話は長いですよ。音声概算しておおよそ3億五千万年ほどかかります」
「僕それ聞き終わる前に死んじゃうけど…」
「ならデータ送信ですね。ほいさほいさ」
ニャルがコナン君の持ってるブレスレットに異様な熱量のデータを転送する。
俺らの今までの遊んだ履歴集のようだ。
あっ、待って!これ俺の悪行も包み隠さず書かれてるやんけ!
「あっあっあっ、違うんですコナン君、俺は多少尖っていた時期があっただけでね!」
「これ二千年前の記録だけど。黄衣さんの時間感覚だと一週間前ぐらいの話だよね?」
言い訳させてもらおう。
ヤディス星人という好奇心旺盛な種族が地球に来て人間を実験台にしようとしたから、ちょっとぷっつんしただけなのだ。
それにみんなに人間性を説かれて成長した今なら、そんなことしない。
本当だ。信じてくれ。改心したんだ。
コナン君から極寒の視線を浴び、俺はニャルをポコポコ叩いた。
ニャルが「羽虫遊びの何が悪いんです?」と首を捻っている。
そのときふと、英語の会話が聞こえてきた。
日本人ばかりのここでやや珍しい響きだ。
「築三十年ですが、このベルツリータワーのため景色は抜群、資産価値は五つ星ですよ!」などと話を盛り立てている。
猫撫で声の男で、話し相手は品の良さそうな外国人夫婦である。
俺は渋面を作ってコナン君に問いかけた。
「どう思うコナン君」
「三十年は古すぎだろ。ギリ詐欺とは…言えないぐらい…?面倒臭ぇー。妃弁護士なら戦えるかもしれないけど」
「世の中悪い人ばっかだな」
俺達の会話に「細かい嘘ついて何が楽しいんですかね。つくならもっと劇的な嘘の方が楽しいのに」とニャルが疑問符を浮かべている。
悪いニャルは頬つねってやろうかな。
と、その瞬間。
突如破裂音のような音と共にベルツリータワーの分厚いガラスが割れて、破片が辺りに散らばった。
同時に詐欺師の男が胸から血を流して倒れる。
心臓破裂による即死だ。
どしゃりと崩れ落ちた死体と吹き出す鮮血に、一拍遅れて周囲の観光客が悲鳴を上げる。
星の精がベタンッとコナン君の頭に張り付いて震え出した。
「ッ黄衣さん!車のキー貸して!スケボーで追いかける!」
「はいよ。俺は目暮警部呼んでおく。適宜魔術を使って爆走スケボーは見られないようにな」
「わかってる!」
慌てて星の精がコナン君のポケットにジャストインする。
今は絶対に置いていかれたくないらしい。
走り出すコナン君の姿を見送ると、その後を急いで追う人影を一つ目撃した。
世良さんだ。
世良さんがついているなら安心だろう。
俺はスマホを取り出して110番へと連絡を入れる。
現場はパニックで、客達が逃げ出そうと我先に取りエレベーターへ殺到していた。
その中でカモにされていた外国人夫婦は腰を抜かして死体を前に怯えていたので、保護して俺の方で椅子に座らせておく。
後のち警察が事情を聞くのに居てくれた方が話がスムーズだからな。
ニャルが目をキラキラさせて死体をつっつこうとしているので、べしっとはたいて止めさせる。
俺はニャルに厳重注意した。
「降谷さんに変な疑いかかるから!俺の化身困っちゃうから!」
「!!!そっか、そうですね。我が夫の化身を困らせるのは良くないことですね。この死体を歩かせてパニックホラーを作るのはやめておきます」
本当に碌でもないことをしようとしていたようだ。
俺が胸を撫で下ろして警察の到着を待っていると、間も無く目暮警部と高木刑事がやってきた。
鑑識さん達を連れて素早く現場を封鎖し、保存作業をしていた俺達に近づいてきた。
やや表情が硬い。
降谷さんの姿のニャルがいるからだ。
目暮警部が硬い顔で一礼して口を開いた。
「これはどうも、現場保存にご協力いただきありがとうございます」
「いえいえ。僕らは偶然現場に居合わせた身としてできることをしたまでです」
ねえ、と俺に視線を向けるニャルは、安室の皮を被った降谷さんにしか見えない。
「今の僕は一般人だから触れるな」という強いメッセージが言外に感じ取ることができるようだ。
目暮警部は「し、失礼しました。それでは我々は捜査に入りますので」と言って去っていく。
俺は目をまん丸にして瞬いた。
「え、ニャルお前降谷さんの真似上手いな」
「僕の人格のベースとして学習済みですからね。それっぽく振る舞うくらい造作もありませんよ」
ニャルはまた大層自慢げな顔をする。
俺は今度こそニャルをヨシヨシすることにした。
今なら人目はないし、よーすよすよすとしても見咎められることはあるまい。
ニャルは大満足で花を散らすような笑顔を見せたのだった。
・ニャルの科学実験!
Q:目覚めをもたらす外なる神グロースを砕いて、その破片をアザトースにぶち込んだらどうなるの?
A:むずがったアザトースの寝返りを受けてニャル消滅。復活まで800年かかった。
このような実験を不定期に開催する。
何故かそういう悪さの後のニャルは、外なる神によってハスターの下に輸送されてくる。
管理を任された気がした(ハスター談)