どうやら今回はFBIとの合同捜査らしい。
前世知識だと、こういうことは法律上そう気軽には行えないのだが。
この犯罪多発都市では割と頻繁に行われるあたり、その魔境具合を示している。
日々数えきれぬ組織犯罪、ローンオフェンダーと戦う現実が法を進化させたのだ。
悲しいことだ。
春になると畑で爆弾は取れるし。年中庭木に拳銃はたわわに生ってるし。
ともかく。
場所は警視庁。
大きな会議室を借りて、警官達が集まっている会場が遠目に見えてきた。
俺は廊下をぶらつきながら、コナン君に苦言を呈した。
「コナン君、相手は手榴弾を持ってたんだろ?大立ち回りしすぎだぞ。心配したじゃんか」
「星の精もいるから流石に銃弾は受けないように気をつけたよ。スケボーはダメになっちゃったけどさ」
「博士作のスケボーが壊れた?……妙だな」
自己修復ぐらいすると思ってたのに。
コナン君が「いや博士のことなんだと思ってんの」と胡乱な顔をする。
星の精も爆発を思い出したのか、「クッス…」と怯えて縮こまっている。
悪いやつ…白黒の車吹っ飛ばした……。
悪いやつなのに連れてく人いなくなった……怖い……。
警察が負けたのが星の精のショックになっているらしい。
いや、今まで警察の扱いが悪い人のところに来るナマハゲみたいなモンだったのが変な訳だけど。
なんにせよ、俺達もビジターカードを胸につけて会議室へと入る。
すると、こちらを確認したジョディさんがやってきて話しかけてきた。
先に会場入りしていたらしい。
「ああ、お久しぶりね、黄衣探偵」
「どうも。赤井さんは元気?」
「元気も元気よ。潜入先で作った恋人とイチャイチャしてタバコ吸って昼間っから酒かっくらって。やってられないわよ」
ジョディさんが大きくため息をつく。
降谷さんの手により組織がほぼ掌握されてから、FBIでは情報統制が解禁されたらしい。
それに伴い、赤井秀一は生きていることが知らされた。
流石に沖矢昴のことを伝えられたのは少数らしいが、組織の静かな解体は進んでいるということだろう。
今でもその時の感動を思い出して、キャメル捜査官が「赤井しゃん…!」と涙ぐんでいる。
確かに赤井さんの死亡偽装でFBIはお通夜みたいな空気になってたからな。
ジェイムズさんもやってきて、深々と頭を下げて俺に礼をする。
どうやら米国の方から俺の正体を聞いているらしい。
特に言及するつもりはないようで、それだけでジェイムズさんは去っていく。
おそらく下手に刺激するなと本国から言われているのだろう
俺としてもありがたい限りだ。
俺も席に着く。
先に来ていた世良さんが「おーい、こっちこっち」と呼んでくれたからすぐに場所はわかった。
ニャル、俺、コナン君、世良さんの並び順だ。
ニャルは隔離のため端っこ。
星の精もコナン君のポッケの中でキリリと触手を引き締めている。
今回、降谷さんと諸伏さんは裏方で会議を含めて表には出ない。
というか、ニャルが羽虫の殺し合いに興味を持ってしまったから引っ込められず、降谷さんの姿のまま動き回るからだ。
つまり降谷さん本人が出てこられなくなってしまったというわけだが。
俺はこそっとニャルに囁いた。
「ニャル、大人しくできるか?退屈になっても空間畳まないって約束できる?」
「え!?空間畳むのもダメなんですか!?」
目をまん丸にきてギョッとした様子を見せたので、俺はニャルのほっぺを引っ張った。
「会議終わりまで我慢な。会議終わりに俺手作りのマフィン渡すから、それまで降谷さんのふりだぞ」
「仕方ないですねぇ。まあ15分ぐらいなら我慢しましょう」
「早い早い早い」
外なる神のくせに飽きるの早すぎだろ。
「三時間は見といてくれよ」というと、ニャルがうんざりしたような顔でため息をついた。
自分が会議出る言うたんやんけ!!
さて、まあ会議の話を聞いていくとしよう。
実は同様の事件がアメリカであったらしく、FBIは犯人を追っていたとのこと。
犯人と目されているのは元ネイビーシールズの男。
中東の戦争に参加し、2005年にシルバースターを授与したという戦場の英雄だ。
まさに、狙撃には一家言どころではなくある人物ということだ。
しかしその翌年、交戦規定違反で剥奪され、疑惑の英雄とも呼ばれている
除隊後は投資に失敗、妻が薬物に溺れて死亡、妹も婚約破棄を苦に自殺。
なんとも、儘ならぬ悲劇であることよ。
ニャルが降谷さんのふりをして、質疑応答の時間を利用して発言する。
どこか柔らかで、奥にわずかばかりの闇が見えるバーボンの気配を纏っている。
「今回あなた方FBIの動きが早かったのは、そのティモシー・ハンターが日本に入国していたのをそちらで確認していたということですか?」
「…ああ。二週間前に日本へ立ったことは確認が取れている」
「へえ」
ニャルはうっそりと笑った。
つまり「そんな危険人物をわざわざ日本に輸出したということか」「その上で日本に知らせず、勝手に捜査していたのか」と言外に香らせているのだ。
降谷さんエミュレート完璧すぎだろ。
コナン君が半笑いで肩をすくめている。
本物の生き霊が来ててもおかしくない再現度だったからな。
目暮警部があせあせと前へ出て「まあまあ」と場を取り繕った。
怒ってる上司が海外からの客に喧嘩売ってる構図だもんな。
そりゃ胃の一つも痛くなる。
「ともかく、すでにティモシー・ハンターとその妻をノイローゼに追い込んでいた記者はアメリカで殺されていたということですね」
「こちらで湾内を捜索していますが、目立った痕跡は見つかっていません」
白鳥警部が言葉を繋いだ。
犯行現場は近場のビル屋上で、そこからライフル狙撃をしたのだと思われる。
屋上から空薬莢とサイコロが見つかっている。
コナン君が「MK-11か。SEALsで採用されたセミオート狙撃銃。元SEALs隊員が使うのにはうってつけってわけだ」とひとりごちた。
周りに俺らしかいないとはいえ、立派な怪異系小学生になってしまわれたようだ。
世良ちゃんに「物知りだねコナン君って」と棒読みのツッコミを受けて、コナン君が滝汗を流す。
そして急いで話題を逸らしにかかった。
「せ、世良の姉ちゃんはどうして被害者を尾行してたの?」
「あの藤波って男が僕の同級生の親戚と結婚するって話が出てたみたいでさ。身辺調査を依頼されてただけだよ。まあ、詐欺師みたいだから結婚しなくて正解だったかな」
「ふぅん」
コナン君がチラリとニャルの様子を伺う。
ニャルは表面上穏やかな安室透そのものに見えたが、机の下で手から魔術式を放出している。
内容は「暇」と魔術式自体に書き連ねてあるだけの謎魔術。
いや魔術未満。
大量の暇の文字が魔力を纏って七色に輝き踊っている。
俺たちのような魔力を視覚的に感知するものでないと見えないが、大変に鬱陶しいエレクトリカル暇パレードである。
文字を無駄に滑らかに踊らせるなし。
コナン君はうむうむ頷いた。
ニャルの様子から、今回の一件が怪異関連の危険性のあるものではないらしいと理解したのだろう。
露骨につまんなそうにしてるもんな。
正直で良いニャルだ。
ともかく、地道な捜査を続けていくしかない。
まだあと三人も候補が残っているし、そのうち二人は日本に滞在中だ。
長々とした一時間半の会議が終わり、俺は休憩場所の箱に空き缶を捨てて帰ろうとする。
すると、背後から声がかかった。
ジェイムズさんだ。まわりに他のFBIを連れず、ひっそりとここに来たようだ。
「この度はご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。まさか貴方が我が国の事件に巻き込まれてしまうとは」
「ジェイムズさん。いえいえ、仕方ないですよこればっかりは。ただ、これは人の事件であるため、今回神として力を貸すことはできません」
「もちろんですとも。貴方の寛大な御心に感謝を。貴方が人類の自由を尊重していることはよく聞き及んでおります」
深々と騎士のように礼をする。
なんというか、この人も元セガールみたいなスペックなことよ。
さぞ昔ブイブイ言わせてたんだろうなという優秀さが見え隠れしている。
日本に滞在するFBIのまとめ役で、俺の正体について情報も受け取っているのだろう。
俺は困って頬をかいた。
「ううむ。自由の結果悲劇も起きてるんだが…悲劇を無くそうと思ったら俺が全部管理しないといけないし、そうすると文明の発展がすんごく遅くなるし。正直今でも迷ってる気持ち」
「私などでは神の決断に口を出す権利などとてもとても。ただ、貴方の決断により今の社会はあるのです。すなわち、今の私もね」
「だったら、嬉しいんだけれど」
ちょっとばかりしんみりしつつ。俺が窓から夜の東都を見下ろして……。
と、思ったら暇が爆発したニャルがコナン君を2つに増やしていた。
コナン君二体が仰天してお互いを凝視して「わぁあああああ!?」と叫び声を上げている。
待て待て待て待てニャル野郎ぶっとばしてやる!
俺は大慌てで二人の場所に駆け戻り、コナン君を一つに戻してニャルをポカっとやった。
ニャルは「増えたら楽しいと思った。後悔も反省もしていない」などと供述したのだった。
・スケボー
自己修復機能は備わってない。
普通に車輪を格納し、水陸雪全てに対応して太陽光のみで自動車と同じ速度で爆走するだけ。
子供が楽に持ち運べるぐらい軽い。
・米国の対応
逃した米国の犯罪者が神を巻き込んで狙撃事件起こしたって聞いて卒倒してる。
赤井秀一を駆り出して絶対仕留めるつもり。