ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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時の番人の刃〈タウィルさん来訪〉

 

 そして本日。

 朝一番で、保科家の執事と名乗る男性があらわれた。

 「保科家の当主の夫」とされる人物を引き連れて。

 

「本日はよろしくお願いいたします。私は執事の青梅と申します。こちらは保科家の旦那様である保科多羽様です」

「………」

 

 ぺこっと多羽と名乗る男性が頭を下げる。

 その顔は仮面と包帯、フードで覆われて見えなくなっている。

 

 もう絶対タウィルさんじゃんけ。

 放射状に放たれる魔力がすでに人間の規模ではないのである。

 俺は深々と丁寧に頭を下げた。

 

 マモーさんが額に汗を浮かべながら慎重に慎重に、茶を置いて退散する。

 

 執事さんがニコニコしてその異様な姿をフォローする。

 

「旦那様は以前負った怪我が顔に残っておりまして。このように顔をお隠しになっています。どうかお気になさらず」

「そうでしたか。いえ、よくお越しくださいました。俺は黄衣ハスタ。こちらは弊探偵事務所の所員になります」

 

 俺の挨拶に合わせて降谷さんと諸伏さんが頭を下げた。

 向こうも忙しいだろうに、降谷さん達も仕事を切り上げてわざわざやってきてくれたのだ。

 

 父上が来るだけだからそこまで気にすることはないと言ったのに。

 全部の予定を後回しにして駆けつけてくれたというわけだ。

 

 なんとなく心苦しい気がしないでもない。

 降谷さんは「これ以上大切なことはないから気にしないでくれ、いや本当に」と真顔だった。

 

 執事さんが紙を一枚、机の上に置いて俺に見せてくる。

 

「黄衣探偵にお願いしたいのは、二年前から保科家に来る脅迫文なのです」

「……拝見いたします」

 

 なんでも。

 二年前から毎年、差出人不明で来る不気味な手紙らしい。

 差出人名は「時の番人」。

 「時の流れを冒涜する輩」という名目で、当主である奥さんの保科瑠華子さんを殺害すると脅迫しているのだ。

 

 実際は毎年奥さんは無事だったらしいが…。

 とはいえ、奥様の誕生会に来る人が減ってるから、実害がないといえば嘘になる。

 50回目の誕生日の今回こそ、ボディーガードを兼ねて犯人を捕まえてほしい、ということらしい。

 

 時の番人、ねぇ………。

 

 俺がついタウィルさんをまじまじと見てしまう。

 タウィルさんは慌ててパタパタと手を横に振って無実を訴えた。

 違うらしい。

 

 いや、人間を殺す程度のことでヨグ=ソトースの化身が予告文を送るわけないんだけど。

 

 俺は手紙を懐にしまい、頷いて執事さんに返事をした。

 

「承知しました。では、誕生会に合わせて伺わせていただきます」

「本当ですか?いやぁ、よかった!黄衣探偵は本当にお忙しいので、予約が取れてよかったです!」

「ははは。今回はよろしくお願いいたします」

 

 俺の事務所は死ぬほど依頼が来るからな。

 執事さんも予約を取るのに苦労したのだろう。

 今回予約が取れたのはタウィルさんが運命操作したからこそだが。

 

 ぺこぺこしながら執事さんが立ち上がって帰ろうとすると、タウィルさんが「先に行け」のポーズをした。

 

 困った様子の執事さんが「え…ですが……」とためらう。

 そのままタウィルさんは無理やり執事さんを事務所から追い出した。

 

 俺と話がしたいらしい。

 

 執事さんを外に追い出すと、タウィルさんはパッと花の飛ぶような気配を出して俺の両肩をバンバンした。

 

「……!……!!!」

「タウィルさん久しぶり。父上元気?」

「…!………っ!」

「そんな。この歳になってもう大きくはならないよ。タウィルさんも門番お疲れ様。外なる神用タルトあるよ!俺手作りですまんが」

 

 マモーさんに持ってきて貰えば、タウィルさんは驚いた様子でしげしげとタルトを見た。

 人間用のお菓子は初めて体験するらしい。

 

 しばらく迷ってから、胸の辺りが服ごと変質して巨大な口になる。

 ガバリと、タルトを皿ごと丸呑み。

 バリムシャァ!と咀嚼してから、突如腕を千手観音のように生やした。

 

 そして全部の手でサムズアップしている。

 千手サムズアップ。美味しかったらしい。

 

 思念波で会話するタウィルさんの声は俺以外には聞こえない。

 コナン君にこっそり「なんて言ってるの?」と聞かれる。

 

「あー、また見ないうちに大きくなったか?って聞かれた。親戚のおじさんじゃないんだから。三億年かそこらで大きくならないって」

「凄い……思ったより正月の親族の集いだった…」

 

 俺にとって親戚のおじさんぐらいの距離感だからな。

 

 なお、降谷さんと諸伏さんは失礼にならないよう90度のお辞儀のまま頭を上げず口も利かずを続けている。

 別にタウィルさんはそんなの気にしないが、存在の格でいえばミジンコと太陽だからな。

 降谷さんの念の入れようは理解できる。

 

 いかに化身といえ、副王ヨグ=ソトースの抜け毛一本は規模が違う。

 余裕で俺よりでかいまであるし。

 

 実は、コナン君は俺のお気に入りポジションとしてあらかじめ話を通してある。

 

 タウィルさんは改めてコナン君を見て、実に人間らしい手つきでわしゃわしゃした。

 千手観音の手がみるみる2本に戻っていく。

 俺はタウィルさんに気になっていた疑問をぶつけることにした。

 

「ところで、保科家当主の夫って言ってたけど、どうしたんだ?」

「………!………!」

「へぇ、存在を時の流れに割り込ませたのか。でもわざわざ夫?子供とか作ってないよな?」

「………」

 

 ぷい、とタウィルさんはそっぽを向いた。

 おいおい、おいおいおいおい。

 

 ことの次第を遠隔で見守っていたニャルが「オエーーー!」と鳥が目を剥いて嘔吐するような仕草をとった。

 

 ヨグ=ソトース、割と小さき命と交わりがちなんだよな。

 一回人間と交わった時は本当に可哀想であった。

 肉体はヨグ=ソトースの系譜を継いでいる触手まみれなのに、魂が人間だからな。

 生きながらにして魂が損壊していく子が二人できてしまったし。

 

 流石にその時は俺もめちゃくちゃ泣いて抗議した。

 ヨグ=ソトースは気まずげにそっぽ向いて無言だった。

 

 こうなれば最終手段だ。

 俺は触手型に戻り、全部の目をうるうるさせてタウィルさんに詰め寄った。

 

【俺の弟妹は作らないよな?俺の方が可愛いもんな?俺だけで十分だよな?】

「!!!……!!!」

 

 タウィルさんはショックを受け、心を入れ替えたように震えて俺を抱きしめてたくさんヨシヨシした。

 よし。これで平気だろう。

 

 まだ遠隔ニャルはオエー鳥のままのようだ。

 念話で「あなた達ほんとそっくりですよ」と罵声が飛んでくる。

 アァン?拳で語るって話か???

 

「そういえば、殺害予告の件。あれってなんか知ってるか?」

「………???」

 

 タウィルさんは腕を組んで首を大きく傾げてしまった。

 どうやら人間のいざこざはよく分からんようだ。

 

 そうなると差出人の「時の番人」ってかなり挑戦的になってくるな。

 タウィルさんの妻の殺害に「時の番人」の名を使うとは。

 

 本物の時の門番、窮極の門の主に対してこんな文言を送るのは俺ですらできない。

 度胸だけで世界が取れる勢いである。

 

 タウィルさんは俺を意味もなくヨシヨシして、一息ついて、またヨシヨシを繰り返して。

 俺、そんなにヨシヨシされるとそろそろすり減るんだが。

 

 まあ、何にせよ違和感なく人間社会に紛れ込めたなら何よりである。

 

 そしてそのあたりではっと何かに気づいた様子を見せた。

 バッグを持ち直し、アセアセと俺に手を振って去っていく。

 どうやら次の予定があることを思い出したらしい。

 

 ちゃんと保科家の旦那の役も全うするつもりらしい。

 

 体格は完全に成人男性だが、なんかやけに全体的に可愛い動作が多い。

 地球に降りるにあたり、女の子のモーションをラーニングしてしまったのだろうか。

 

 完全にタウィルさんの姿が見えなくなってから、降谷さんが俺に声をかけてきた。

 

「彼が君の父君である時の大神……なのか?」

「正式には化身だけどな。昔から俺にはフレンドリーだよ」

「なんか子供を作るとかいう言葉が聞こえた気がしたが」

「父上、貞操観念がゼウス神なんだよ。しかも子供には興味がない。せめて星座にはしてやってくれよ」

「星座こそいらないだろう……」

 

 降谷さんがジト目で俺を睨みつけてくる。

 星座いいじゃん。短い寿命から解き放たれて空を見れば会えるようになるし。

 

 諸伏さんとコナン君がヒソヒソしている。

 「俺らも星座にされるかも」「気をつけなきゃね」などと陰口を叩いている。

 泣くぞオラ。

 

 まあタウィルさんの潜り込んだ家に行くのは二週間後だ。

 

 それまでに身だしなみを整えて、何が起きてもいいように情報を集めるとしようか。

 





・タウィル・アト=ウムル
窮極の門の守護者。化身。
ヨグ=ソトースよりも人間味があるかも。
ハスターに対しては三歳ぐらいの甥っ子にする雰囲気で接してくる。

・ヨグ=ソトースの子二人
ラヴクラフト作『ダンウィッチの怪』を参照。
旧支配者とは比べ物にならない貧弱な子が生まれた。
死亡済み。
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