今日の依頼は神奈川県のお金持ちからのものである。
テーマパーク・ミラクルランドに長期滞在中の金持ちらしい。
その人物はミラクルランド併設のホテル最上階ロイヤルスイートを貸切にして、俺たちを待っているとのこと。
随分と豪勢なことだ。
依頼内容は秘密で、当日直接会って話すと言われている。
コナン君がぼんやりと地面を眺めながら口を開く
「どうして受けたの、こんな怪しげな話」
「茂木さんがこれと同じっぽい依頼を受けてから、連絡取れないからね」
「っ、茂木探偵が!?」
茂木さんは黄昏の館の一件で知り合った探偵だ。
ハードボイルドな探偵物っぽい性格で、なかなか俺としても憧れの人ではある。
探偵としてかくありたいものよ。
降谷さんはコナン君とは逆にホテルを見上げて目を細めた。
「それで、生きているのか茂木探偵は」
「生きてるよ。でも、ならどうして連絡を断ってるのか気になるだろ?」
『怪異が関わってる可能性はないのか?』
「関わってるような、関わってないような……ムーンビーストが周りをうろちょろしてるっぽいけど、関係無いような」
直接的な接触がないのは確かだが、無関係と言い切るには周辺にちらちら見える、そんな雰囲気。
諸伏さんが「ムーンビースト?」と首を傾げた。
ムーンビーストは月棲獣とも呼ばれる、ヒキガエル型の神話生物だ。
ドリームランドの月に住んでいて、拷問が好きな残虐な性格をしている。
いや残虐な性格っていうか、ニャルの気を引こうとしてたらそれが文化になった的なところがあるけど。
降谷さんが眉間に皺を寄せて指で揉みほぐしている。
「彼らのことは僕も基本的な知識はある。ニャルラトホテプの化身だった時代に流入したからな」
「あー、ニャルのペットだもんな、ムンビ。飼育ケース内のアリの巣の扱いだけど」
「あんなものが日本で蠢いているなんて、考えたくもない。前途多難だな、全く」
まぁ、ムンビがどう関わってくるかは今はいい。
ホテルの入り口へ向かうと、スタッフさんが迎えに来てくれていた。
「ようこそお越しくださいました!」とホテルの中に案内される。
「おや、連れてこられたのはお子さん一人だけでしょうか」
「妻は都合がつかなかったんです。せっかくのお招きに申し訳ありません」
「……いえいえ!さあ、こちらの部屋です」
少しだけ意味深な間を挟んで、スタッフさんが改めて俺達を部屋へと案内した。
事前に神話生物絡みの疑いがあると知っていて、子供達を連れてくるわけないからな。
ニャルは余計に事態が混沌とするからお留守番。
いつも通り星の精がコナン君のポッケにいるが、それぐらいである。
部屋にある椅子は結構数があって、俺たち四人だけだと少しだけガラガラに見えた。
椅子に座って大人しく待つ。
次に配られたのはミラクルランドの1日フリーIDだ。
腕に巻きつける時計式で、腕時計にも見える少しごついデザインだ。
降谷さんが少し目を細めてから、そのまま腕につける。
俺もせっかくなので腕に巻いてみる。
ごついIDなのでなんとなく服から浮くが、なんだかオシャレになった気持ちである。
「IDは今日10時まで有効です。ミラクルランド内部で食事も無料になりますので、依頼後にお楽しみになってください」
「それはありがたい。それで、依頼人の方は?」
質問に答えず、スタッフさんは無言で入り口の鍵をかける。
カーテンをすべて閉めてから、部屋のモニターに明かりがつく。
厳重なことだ。
モニターに映る人影が一瞬揺らいでから、ボイスチェンジャーを通したようにざらついて聞こえる。
『初めまして。私が今回君たちの依頼主だ。君たちにはある事件を解いてもらいたくてね』
「………その事件というのは?」
『それを掴むのもまたあなたの仕事だ。ヒントは出すから、それを元に推理してもらいたい』
俺たちの腕試し、ということらしい。
ますます雲行きが怪しくなってきた。
それにしても公安組二人の落ち着きは素晴らしい。
こういうパターン何千回もこなしてきたみたいな裏社会慣れを感じさせる。
というかデスゲーム慣れだなコレ。
裏社会ってそういうのたくさんあるんかな…。
謎の依頼主がせせら笑って肩を揺らした。
『あなたで五人目だよ。前任者の探偵は依頼を達成できなかった』
「それはそれは。俺たちはその分気合を入れるとするよ」
『そうして欲しい。もし君たちも成し遂げられないようなら……』
画面が切り替わって、薄汚れた打ちっぱなしの個室を映す。
窓もないそこに、見慣れぬ一人の男が座っている。
男は「報告書は出しただろう!解放してくれ!」と大声を上げるが、それに応えるものはいない。
しかし目の前で男が腕につけるIDがカウントダウンしていき、状況は変わった。
ピッピッ、という電子音に男が焦りを見せる。
思わず男を助けようとハスターの瞳で現在地を特定しようとするも、対応地なし。
過去の映像であることがわかった。
画面の向こうで閃光と、爆発と。
吹き飛んだ景色の映った瞬間、映像が途切れた。
『つまり、君たちもこの探偵の後を追うことになるということだ』
「そんなに念を入れなくても全力で当たるのに。焦りは人の頭脳の働きを阻害するぞ?」
『私はせっかちでね。君たちには命に代えてでも仕事をまっとうして欲しいんだ』
まあ、俺たちは全員物理無効だから問題ないんだがな。
星の精だけ少し距離をとってて貰えばなんの苦労もせずに外せるだろう。
あ、星の精がコナン君のポケットでブルブル震えてるせいでコナン君の腹が振動している。
可哀想に、友達が動かないになる危機に怯えているのだ。
チラッと先ほど映っていた映像を見るに、茂木探偵もこの案件に関わっていることが推察された。
………なんとも、気に食わない流れだ。
コナン君に爆弾をつけるなんて、不届きにも程がある。
『そこについているのはプラスチック爆弾だ。今夜10時までに解決できなければ、君たちもまた吹っ飛ぶ。ああ、もちろん解決時には好きなだけ探偵料を支払いましょう』
「それはありがたい。こんなの、大金をいただかねば割に合わないからな」
そのように皮肉を飛ばせば、ふふふ、と依頼主は笑ったようだ。
『あなた達の動きはすべてモニターしている。GPSが組み込まれていて、警察に駆け込んでも無駄だというのは、ご理解いただきますよう』
「駆け込んだりしないよ。爆発物を警察署に持ち込んでも迷惑なだけだし」
『ははは、そうこなくては。第一のヒントはTAKA3-8。頼みましたよ、日本で最も高名な探偵さん』
ホテルを出てすぐ、俺は念話を皆に繋いだ。
『相談会!!たぶんこれ盗聴器も入ってるよね!?』
『僕なら組み込む。GPSだけなんて片手落ちだ。怪しまれないよう適度に肉声でも会話しよう』
『そうだね。黄衣さんついてこられそう?』
『頑張ります……』
『クスクス!』
なんか今星の精も紛れてなかったか?
しまった、間違えて星の精も巻き込んでしまっていたらしい。
星の精はやる気と決意に満ちてメラメラと燃えるような気炎を発している。
星の精が友達を助ける!あの悪い奴をぐるぐる巻きにする!
それにしてはなんかやけに触手が萎びているが、もしかしたらポッケの中で泣いていたのかもしれない。
それでも、だからこそ星の精は立ち向かうのだ!
『おお、星の精……大きくなって』
『というか黄衣君、また凄く苛立ってるだろ。僕の精神衛生上良くないからやめてくれ』
『だってコナン君に爆弾つけられた。絶許』
『俺が代わりに呪呪呪しようか?怖い呪呪呪できるぞ?』
『それは俺が自分でできるからいい』
『……………』
『ヒロが酷いショックを受けたじゃないか!ほら!』
『ごごごごめんね諸伏さんの呪呪呪も素敵だよ?俺のより人間らしい怨念に満ちてて俺は好きだな!』
俺たちがわちゃわちゃしていると、怒りのコナン君の渾身の子供のふりが炸裂。
「黄衣さん!あの暗号って何を指すと思う?僕わかんないや!」と圧の強い声がかかった。
大人三人で姿勢を正して、「そうだな」「うむ、考えねば」とわざとらしく頷きあう。
大人が遊んでてすまねぇな…。
・ムーンビースト
ニャルラトホテプを崇拝していて、ニャルの気を引く催し祭事のために残虐な文化が発展した。
当のニャルは駆り立てる恐怖の方が好きなのか、割と放置気味。
「ただの拷問じゃダメなんですよ。そこに遊びとドラマがないと。あのアリンコ達はそれがわかってないんですよね」