まずは高島町3-5-8だ。
コナン君曰く、最近この辺は再開発で町名が変わったとのことで、俺が古い地図を出力すればすぐに目的地に辿り着くことができた。
そこにはホテルの廃墟があった。
どうやらすでに営業していないようで、荒れ果てた敷地内に人の姿は見当たらない。
【クス……】
星の精が昨晩見たホラー映画を思い出して震えている。
廃墟で肝試し中に化け物に襲われるって物語だったもんな。
コナン君がポケットに手を突っ込んでたくさん撫でてやれば、星の精は少し安心したようだ。
でも冷静に星の精の方があの化け物より強いと思う俺である。
入ると中からは人の気配がした。
降谷さんがわずかに重心を落とし、目を細める。
「一人。恐らく素人。依頼人の使わした人間か、もしくは一般人」
『ホームレスか?棲みつくにはある程度環境が整ってるし』
しかして、出てきた男はやや見窄らしい身なりの男だった。
「なんだあんたら?業者の人?」と首を傾げる姿はただのホームレスに違いない。
俺が前に進み出て軽く笑いかけた。
「ああ、騒がせて悪いな。俺らはちょっと調査中の探偵だよ」
「へぇー、ここもうすぐ取り壊されるんだよ。壊される前に来ておけてよかったな」
聞き込みがてら話をするに、三つの変な出来事があったことがわかった。
彼はずっとここに住んでるホームレスで、4月4日に変なものを見たんだという。
まずは「空を舞うでかい鳥」……話題の怪盗キッドを見ることができて、ホームレスさんも喜んだらしい。
同日、不動産屋が地下の部屋を閉めた。
さらに朝停まっていた新品の車が、夕方戻ると中古車になっていたのも妙だったから覚えていると。
礼を言って、ホームレスさんと別れる。
俺は腕を組んで口をへの字に曲げた。
『うーん、怪盗キッド何やってんのやら。連絡する?』
『そうだな。当事者に話を聞くのが一番早いだろう』
降谷さんの言葉をうけて、コナン君と諸伏さんがあえて肉声で発言する。
「僕はちょっと地下室調べてるよ!」
『なら俺も少年についていくとしますか』
それぞれ別れて行動を開始する。
星の精が「クスクス…」とまだ恐怖を引きずっているらしくしょげかえっている。
降谷さんがため息をついた。
『すでに風見には連絡を入れてある。依頼人の素性を追わせているが、松田が何やら喚いていたな』
『え、このID型爆弾解体させろって?』
『そうだ。どうせ起爆しても無傷なんだしやらせろと煩かったから、追加の任務を渡しておいた』
『かわいそ……松田さんって給料支払われてんの?』
俺の質問に、降谷さんがうーむとやや考える仕草をする。
『今は新しい銀行口座が作られて振り込みもされてる。扱いは基本変わらないが、昇進が無いな』
『あー……辛いが、幽霊の性質を考えたら仕方ないか』
『それと、福利厚生の各種保険、結婚等の給付金がない。あと年金は対象外。これは僕もだが』
意外としっかり考えられているらしい。
幽霊や黒い風に保険なんて必要ないから自然だろう。
それと公的年金なんて65歳から一生涯貰えるから、降谷さんなんて国民扱いした場合65歳以降永劫もらえることになってしまう。
ひでーバグだ。
そういえば俺、身分を偽装したから各種税のほか、国民年金保険料も支払ってる気がするが。
まあいいか。
人間が暮らすためのお金になるのだし。
実質俺が扶養してると思えばもっと払ってもいいぐらいかもしれん。
いやでも制度の穴になっても嫌だしのちのち相談するか。
俺は降谷さんもグループに入れてから、念話をキッドに繋げる。
『よーっす、キッドさんや。今いい?』
『おわっ!?!?びっくりした!何だよ急に』
『なんか4月4日に怪盗の仕事した時、なんか変なことあった?』
『あー、あれか。なんか仕事中おかしな連中に銃撃されたよ。警察って風にも見えなかったし、おおかた俺に顔を見られたと思って撃ってきたんだろうよ』
「勘弁して欲しいぜ」とキッドはぼやいた。
軽く言えるってことは、そこではキッドは無事だったということらしい。
降谷さんが目を三角にして怒りのこもる思念波を送った。
『君、また盗みを働いたのか』
『仕方ねぇじゃん挑発されたんだから!我が社の警備システムは抜けないって!深山商事の本社のダイヤがナンボのもんだってんだ!』
『君はな、本当にな、警察出動も費用がかかるって知ってるか???』
お怒りの気配を感じ取り、キッドは素早く戦略的撤退を決めたらしい。
「今ちょっと忙しいから、話は今度な」という声を最後に返事が聞こえなくなった。
向こうも忙しいということらしい。
念話で居留守を使うとはやりおるわ。
そのあたりで「黄衣さん!」と俺を呼ぶ声が聞こえたので、地下に急行。
地下では、バッグに入れられた目出し帽とガバメントが発見できたとのこと。
星の精が目出し帽を指さして「クスクス!クスクスクス!!」としきりに何か言い募っている。
悪い奴の服!星の精は賢いので知ってる!
悪い奴がつけてる!!
偉い星の精だねぇ。撫で撫でしようねぇ。
ともかくホームレスさんの発言からすると、ここで何者かが逃走車を乗り換えたようだ。
領収書も入っていて、そこに4月4日に横浜市で買い物をした記録が記されていた。
日付も一致している。
降谷さんがそっと俺に声をかけた。
「黄衣君。建物の外が警察に包囲されてる。恐らく神奈川県警だな」
「ふむ。ずらかる……には表に車が停めたままだな。困ったな」
「仕方ないよ。車は諦めて逃げよっか。今日1日のことだし」
盗聴器も組み込まれているから、公安に釈放してもらうと相手に疑念を抱かせるだろう。
ならば逃げて、警察の捜査自体を公安に巻き取ってもらって無罪放免にしてもらった方が話は丸い。
面倒なことだ。
いっそ人に爆弾くっつけた罪でしょっぴいてやりたいが。
なんか他の罪が隠れてそうなので、もう少し深掘りしたい気持ちである。
降谷さん達も同じ気持ちらしく、静かに首を振って俺の苛立ちを静止した。
「門の創造」を使って転移する。
先ほどのホテルに警察が踏み込むのが遠目から確認できた。
その上、上空を舞うキッドの姿も見えている。
どうやらキッドも仕事中で忙しかったらしい。
少し一息つくために、俺たちは近場のカフェに身を寄せることにした。
星の精が無意味にマッスルポーズをして胸を張っている。
怖い場所の探索を終え、星の精は一回り大きくなったということらしい。
とりあえずコナン君がわしゃわしゃ星の精を撫でつつ、人目もあるのでポケットに突っ込み直す。
その時ちょうど、俺の渡されていたスマホに着信が入った。
GPSで俺たちが休憩していることを察したらしい。
通話を繋げると、余裕に満ちた声がこちらまで聞こえてくる。
『やあ。謎は解けたかな?』
「ホテルの廃墟で目出し帽やらは手に入れたよ。ご満足かな?」
『それにしても口数が少ないようだが?』
「普通、GPSと盗聴器はセットだからな。実際今のあなたの口調からして仕掛けられてるみたいだし。あなたも、そんなこともわからない迂闊な探偵に仕事を振ったつもりもないだろ?」
『ククク、違いない。期待しているよ』
口調の端々から強いナルシスト性が透けて見える。
「絶対自分が捕まるわけない」というか…デスゲーム主催者めいた自信だ。
依頼人が笑いと共にゆったりと話しかける。
『ところで、工藤君も一緒だったとは驚いたよ。他の三人は指紋が読み取れないし、あらかじめ対策をしていたのかな?』
「まあな。探偵が現場を荒らすのは御法度なんでね」
『……まあいい。第二のヒントといくとしよう。「夜のカフェテラス」だ。健闘を祈る』
勝手に話すだけ話して、ぶつりと通話が途切れる。
諸伏さんが難しい顔をして息をついた。
『あの椅子、指紋認証装置になってたってことか。というか俺指紋ないんだった』
『僕もだ。人間体の作成において指紋まで再現していないからな。後々困る場面も出そうだ…何かいい案があるといいんだが』
『というかさっきの、僕だけ現場を荒らす間抜けな探偵みたいに聞こえてすごく不服なんだけど。黄衣さん変な言い訳でっち上げるのやめて』
ブスくれたコナン君に注意をうける。
星の精も「クス!!!」と俺を叱りつけたため、俺はしおっと小さくなったのであった。
・依頼主
ムンビとは全然関係ない普通の悪い奴。
盗聴器からなぜか頻繁に子供のクスクスという笑い声が聞こえるので気味悪がっている。
・人外の税金事情
きちんと払うもん払ってる。
探偵事務所は法人化もしてて、細かい部分は税理士に任せている。
ハスターの俳優業は芸能プロダクションに所属して全て任せてる形。
超有名になってからもそのまま。お金に頓着しないし事務所も気を遣って融通利かせてくれるしでそのままにしている。
降谷さん達は基本公務員の扱いだが、細部が調整されているようだ。