第二のヒントは「夜のカフェテラス」である。
その意味は1888年のゴッホの絵より、横浜の観光スポット「馬車道」であると推察できる。
ここまでコナン君の思考は0.5秒。
次いで降谷さんと諸伏さんも理解して、置いてけぼりの俺が取り残される。
そんなスラスラ知識が出てこないんだよなぁ
INTを上げたって基礎EDU(教養)の差が出る一幕である。
悲しいので、俺は星の精と一緒に首を傾げて「クス?」「くすくす?」と鳴き声を出しておいた。
星の精もよくわかんないもんな。
俺と同じだよな。
馬車道へ向かう道すがら、念話で情報を交換し合う。
俺は最新のデータとして、黄衣②の得た情報を話し出した。
『そういやぁ、別働隊によってムーンビーストとの関係性がわかったから報告しまーす』
『どうだった!?』
降谷さんが目を見開いて迫真の表情をした。
そりゃ降谷さんにとっては、野生の爆弾魔なんかよりムーンビーストの方がよっぽど脅威と認識されるだろうよ。
俺はえへんと咳払いした。
『なんかね、サークル仲間だったんだって』
『………なんだって?』
『ムンビの魔術通信網で知り合ったサークル仲間に会いに来たらしいよ』
ムーンビーストは魔術を用いて、限定的に星間通信魔術網を張り巡らせている。
ようはネット回線のようなものがある、というべきか。
それを用いて相互に交流したり、お見合いしたり、情報交換したりする。
それは魔術を使えれば誰でも接続が可能だ。
もちろん、人間の魔術師なら問題なく接続できる。
『魔術師の名前は清水麗子。オシャレでいけてる拷問を考案して発信するインフルエンサーとしてムンビ界隈では有名だったらしい。モテたとのこと』
『人間が…神話生物にモテるのか……?』
『思念波だけだからね。波長がね、ムンビにモテる要素で満ちてたんだと思う』
流石のムンビも、人間の見た目に惚れるのは少数派すぎるからな。
人間で言うケモナーより厳しいと思う。
あえて言うなら触手ガチ恋勢ぐらいのアレ。
コナン君が難しい顔をして首を傾げた。
『それで地球に来てたと。魔術師に変なこと手伝わされてたりしないよね?』
『暗殺には誘われたらしい。でも地球で暴れると怖いからって断ったら、すごく罵られて捨てられたってメッチャ凹んでたよ』
諸伏さんが「人間、ヒキガエルに倫理観で負けた…」と沈鬱そうに俯いた。
俺も眉を下げてうむうむと頷く。
『こう見えて人間は宇宙平均でかなり下の方な悪い種族だから…ムンビ、同種に対して拷問とかしないし』
『悪口やめてくれないか。君、人間好きなんだろう。もうちょっとこう、良いところを列挙してくれ』
『諦めない、めげない、執念深い。特に執念深さは特筆できる』
『なぜ悪口を重ねた』
降谷さんにジロリと睨みつけられてしまった。
いやでも、穴蔵に住む俺を退治しようと年280回のペースで30年挑んできた男もいるし。
尊敬はしている。
ともかく、後でくだんのムーンビーストたちとは合流予定だ。
降谷さんたちも話を聞きたいと思うだろうし、最重要証言者に違いない。
そんな話をしていれば、無事に馬車道まで到着した。
降谷さんがわざと肉声で話し出す。
「風見から連絡があった。どうやらこの馬車道で4月4日に現金輸送車襲撃事件があったらしい」
『なるほど、ホテルにあったあの目出し帽はその際使われたものか。ガバメントも』
「一人、銀行員が死亡もしているようだ。詳細は以下の通りになる」
4月4日、犯人である西尾と伊藤の二人が現金輸送車を襲撃した。
彼らは死者一名を出して逃走した。
その際に怪盗キッドの逃走経路とぶつかり、銃撃戦になったようだ。
そして後日仲間割れが勃発した。
西尾はライフル銃で狙撃され死亡。
同じ日に埠頭で事故を起こした伊藤が逮捕され、車の中からはライフル銃が見つかっている。
「これで気になるのは車の油圧計に細工がしてあったことと、清水麗子が真犯人として挙げられていることだな。その清水も取り調べ中に自殺したようだが」
『伊藤の事故は清水が意図した可能性がある、と。金の独り占めが目的か?』
「ああ。それに西尾の狙撃も。現場の状況からして、伊藤が撃ったのは間違いはないが……」
「というか清水って件のムンビサーの姫じゃん。怪しい以外の言葉がない」
俺の言葉に一気に真面目な空気が霧散する。
諸伏さんが「ムンビサー。拷問をメインに活動してるところかな?」とほわほわ想像を巡らせた。
俺はコナン君にゲシっと足を蹴られ、ややうずくまるなどした。
そうして俺を虐めたコナン君が、十字路の向こうに服部君の影を見つけたようだ。
どうやらそこで店を開く占い師さんに話を聞いているらしい。
その腕にはミラクルランドのIDがつけられているのが見える。
コナン君が走り寄って手を振った。
「服部!」
「っ工藤!っそれお前もか!?」
まろび出る工藤の文字に、降谷さんがすごく威圧的な顔でニコッと瞬時に横入りした
「久しぶりだね服部君。僕は安室だよ。覚えてるかな?」
「お、おう…あ、あ、安室サン…ちゃいますん、俺は『ご苦労』いうたんやって」
諸伏さんが霞む暗黒のオーラを放ちながら先出し安室を炸裂させた降谷さんである。
ちょっとしょげた諸伏さんが「ゼロまで俺の十八番奪う…」としおしおしている。
服部君はコナン君の後ろに隠れて「俺は無実やろ!?なあ工藤!?」とまた自爆したようだ。
まあ、間違っても降谷を誤爆されたくない気持ちもわかるので俺は触れずにそっとしておくこととする。
咳払いして服部君に聞いてみる。
「ところで何を聞いてたんだ?」
「ああ、念のため4月4日の現金輸送車襲撃事件について、この占い師さんが何か見てへんかをな」
『データはワイが調べたるさかい、生の声っちゅーやつを仕入れとるんや』
スマホからチクタクマンの声がしている。
相変わらず便利な対話型生成AIみたいになってるニャル化身である。
するりと視線を感じて振り向くと、占い師さんがカッと目を見開いて俺たちを凝視していた。
おお、「卜占」の魔術に霊視持ち!
ちゃんとした占い師さんだ。
卜占は限定的に未来を直感する魔術だ。
実行自体は楽なのだが、ヨグ=ソトース系魔術でその意味を読み取るのが結構難しい。
未来と向き合う強い心も必要だ。
占い師さんは恐る恐る俺を見上げて頭を下げる。
「あの……わたくしに何か……」
「いや。4月4日の現金輸送車襲撃について俺たちにも教えてくれないか?」
「……???強く大いなる何者か…私が語らずとも御身が直接見ることができるのでは…?」
それはそうなんだけど、それじゃ証拠にならないねん。
どうやら俺の正体に気づいているわけじゃないらしい。
大層困った顔の占い師さんが、おずおずと口を開く。
なんでも、占い師さんも4月4日の昼過ぎに事件を目撃したらしい。
すごく手際が良くて、一人撃たれたのも一瞬のことだったとか。
それ以外目撃することもなく、事件は嵐のように過ぎ去っていった。
「おお、強きものよ。これでよろしかったでしょうか」
「なるほど。手慣れてたのか練りに練った犯行だったのか。ありがとうね。あ、これ一応情報料」
時間をとってしまったし、営業妨害の慰謝料を兼ねて少しばかりお心付けをする。
すごく遠慮されたが、無理やり押し付けておくこととする。
コナン君がキョロキョロと辺りを見回して心配そうに声をかける。
「そういえば和葉ちゃんがいないけど、まさかID付けられてねぇよな?」
「こんなけったいな依頼に連れてくるわけないやろ。ただでさえあちこち怪異だらけやしな」
『かなり迷っとったやんか。連れてきて遊園地デートしよ思とったんちゃうか?』
「………黄衣サン、このしょーもない化身の人格考えたのあんたやろ。どないしてくれんのや」
なぜか俺の責められが発生し、俺はしおっとした。
チクタクマンが心の服部君勝手に食ったのに、俺が悪いことになった!
星の精が長く伸ばした触手で俺を撫でてくれる。
嬉しいけど往来もあるので程々にね。
と、そのあたりで俺たちの横に車が到着した。
俺たちが持っているよりさらに大きいワゴン車だ。
マモーさんの手配した運転手が運転しているようだ。
中にはマモーさんと、コートを羽織って軽く変装した気持ちになっている隠しきれぬムーンビーストの3体が鎮座している。
素早く逃げ出そうとした服部君を引っ掴んで、皆で中へと入る。
ムーンビーストは全員健康に悪そうな赤紫色だった。
皆震えてマナーモードのスマホみたいになっているし、鼻先の触手は縮れてクルンクルンになっている。
そんな、向こうでも大した圧力はかけてないのに怯えなくても。
隣でニャルが「羽虫遊びしたんですよね?調子乗ってません?」とか圧迫面接はしてたけどさ。
路駐と見間違われるといけないので、運転手さんが車を発進させる。
緩やかに動き出す車の振動を感じながら俺はパンパンと2回ほど手を叩いた。
「えー、みなさん。何か質問あったらご自由にどうぞ」
「知らんヒキガエルに何を聞けっちゅーんや!?!?」
「おっと失礼。このヒキガエルは今回の件に深く関係するヒキガエルです」
「黄衣さん説明が大雑把だよ」とコナン君に叱られるなど。
コナン君と服部君が情報交換する間、降谷さんが特に気にせず質問を始めた。
「君たちに清水麗子に頼まれたという暗殺の詳細が知りたい」
【ゲッゲゲ!】【ゲゲ!】【ゲッ!】
ムーンビーストは命懸けの表情…?で、触手を動かし、我先にと一斉に話し出したのだった。
・依頼主
なんかカエルみたいな鳴き声が盗聴器に入り込み出して疑問符しかない。
お前らカエルと話しとんのか???
・ムーンビースト達
実は元来鳴き声は出せない。
魔術で思念波を発声するときにゲッゲッゲッという音が付属してるだけ。
ムンビサーの姫に恋して遥々地球まで密入国して、ハスター激怒系一発アウト犯罪に加担させられそうになって驚愕。
断ったら罵られて振られて呆然としてたところを不機嫌な神二人に呼び出されて死ぬほど詰められた。
何もいいことがない。