ムーンビースト達はきちんと情報を提供してくれた。
ムーンビーストAが身振り手振りを交えてわたわたと話し出す。
「ゲッゲッゲッ」と意外と理路整然とした語り口だ。
彼らが清水麗子から提案されたのは、現金輸送車襲撃の実行犯二名の暗殺である。
金を独り占めしようとして、ムーンビーストに後腐れなく始末させようとしたのだろう。
俺の法に背く提案を受けたムーンビーストは驚愕。
断ると、それはもう手ひどく罵られたらしい。
「触手の短小な救いようのない野郎ども!」とか、「拷問下手な低脳ッ!」とか。
憧れの人にすごい勢いで罵倒され、ムーンビーストはとてつもなく傷心だった。
しょげかえったムーンビーストがしおしおになったままか細い声を上げる。
【ゲッゲッ……】
「凄く傷ついたって言ってる」
『具体的には?』
「人間で類似する単語で言えば、『Fラン卒のキモいハゲデブが私に口利くこと自体が加害だと思わないの?』ぐらいの感じ」
『凄いな…相手が神話生物でなければ何らかの法に触れそうなレベルの罵詈雑言だ』
流石の諸伏さんも同情的だったようだ。
それから振られたムーンビーストは達お互いに慰め合い、地球への不法侵入の手前本国に帰ることもできずに廃屋で同居すること二ヶ月弱。
ようやく将来への展望を見据え始めたあたりで、俺たちに呼び出されたというわけだ。
【ゲッゲッゲッ…】【ゲッゲゲ】【ゲ……】
ムーンビースト達は涙ながらにそのように語った。
というかガチ泣きだった。
泣くんだこいつら…色も変わるし、色々新しい知見を得ることができた気がする。
加えて恋心に目が眩んでの地球への不法侵入の件がある。
コナン君が眉を下げて俺を見上げた。
「あんまり酷い罪にしないでやって。まだ更生できるよ」
「でもこいつら他の知性体文化的に拷問してるよ」
「人間は同種に拷問するじゃん」
コナン君はどうしてそんな本当のことを言うの。
なぜか降谷さんまで憮然として口をへの字に曲げた。
「仕事で止むを得ず拷問をする奴だっている。情状酌量の余地は欲しい」
「それ自白って受け取ってもいいのかな安室さん」
「僕はしてない。あくまでそう言う人間がいるかもと言う話をしているのであってだな」
汚い大人が言い訳をこねくり回している。
マモーさんが「やはり神無くては人は邪悪な獣でしか無い…」と悲しそうに漏らした。
「まあともかく。俺は特に罪に問うつもりはないよ。でも本国での地球侵入の罪がどう扱われるかはちょっと不明かも」
ムーンビーストが帰りたがらなかったあたり、最悪死刑かもわからん。
俺としても、彼らの法を止める意味はない。
まあ、俺が「こいつらは神の元で奉仕活動をすべきだと判断した」とか言えば、一応命だけは助かるかもしれないか。
とはいえ半グレムンビ三体が地球にいたところで困るだけなのが玉に瑕。
公安の怪異回収業務に使えるかな、ぐらいである。
俺が考えをまとめていると、服部君がひょいっとコナン君を覗いてきた。
「そういや工藤、『YOU CRY』の方はもう解けたんか?」
「『YOU CRY』?なんだそりゃ」
「……なるほど、俺の方にだけヒントがあったっちゅーことか」
服部君は依頼主からの「YOU CRY」という追加のヒントを話した。
コナン君がすうっと目を細めて、怜悧に思考の光を灯した。
「略称だな。YOU、パッと思いつくのは横浜海洋大学だ。ここからも近い」
「俺も同意見や。CRYの方が解けんけどな。よっしゃ、なら行ってみるか。ムンビ?さん方もよろしゅうな」
服部君がそそくさと車を降りようとするので、マモーさんが声をかける。
「なら横浜海洋大学までお送りしましょう。我々はその後ムーンビーストを仮屋に案内したあと合流いたします」
「お、おおきに」
「助かるよ。もう証拠はかなり揃ってるから不必要な気もするけど…依頼人の提示した場所ぐらいは巡らないとな」
降谷さん達とも頷きあって車は緩やかに発進した。
そのあたりのことである。
突如。
車後方から、三発の発砲があった。
パン、パン、パン、と言う乾いた音。
リアウィンドウを貫いて、一発が不運にも俺の脳天を貫いた。
「かッ…」
「黄衣さんッ!」
血飛沫が窓ガラスに飛び散り、座席を濡らす。
コナン君が焦りの叫びを上げた。
この程度なんともないけどな、心配してくれるのは嬉しい限りだ。
どうやらこの車の後方に張り付いていた不審なバイクが発砲したらしい。
俺は血を吐きながらバタバタした。
「おげー!みんな伏せて!」
「手遅れの状態で喋るなや!?!?」
「チッ、依頼主のゲームか!?チクタクマン、服部君を守ってくれ!」
『言われんでも守っとるわい!』
【ゲゲゲッ!?!?】【ゲェッ!!】
頭から派手に出血する俺を見て、ムーンビースト達が震え上がった。
頭を抱え込んでぶるっぶるになりながら悲鳴をあげている。
曰く、「神が傷つけられた!怒りを買った!もうだめだ!」「星ごと滅ぶ!俺たちも死ぬ!おわりだ!」と縮み上がっている。
勝手に終わらせるなし。
しかし本当になんなんだあのバイク。
突然発砲してきて、周囲の車も怖がって引いてしまっている。
流石に警察が来るのも時間の問題だろう。
仕方ないので魔術で軽く制圧しておくとするか。
そのように俺が意識を向けた、瞬間。
上空から、バイクに向かって大きな鳥籠が降って来た。
美しい銀の鳥籠だ。
細かな装飾が張り巡らせてあって、まるでファンタジー作品のような美しさだ。
それは音もなく走行中のバイクを掬い取った。
がちゃん、とカゴの閉まる音ともに、不審なバイク二台が囚われる。
ニャルの魔術だろう。
叫び声を上げる男達をそのままに、ずるりと次元の裂け目に吸い込まれていく。
空間から滲み出すように俺の隣の席に現れたニャルが、ニタリと迫力のある笑みを浮かべた。
「我が夫を苛立たせた。羽虫が豆鉄砲持っていきがってる。これはもう弄り倒すしかないですよね」
「おう待て、重要参考人だから喋れなくなると困るんだわ」
煌々と燃える三眼を見開くニャルを静止する。
可哀想だからムンビを大切にね。
あまりの恐ろしさに、赤紫超えてドス黒い色になってきたムンビが座席に張り付いている。
チクタクマンも気配を消して、降谷さんもコナン君の後ろに隠れて震えている。
ニャルは不満そうに「仕方ないですねぇ、ならどうぞ」と手の中からミニチュア鳥籠を渡してきた。
小人にされた男達が中で気絶している。
そーっとコナン君の後ろから顔を出した降谷さんが「黄衣君、風見にそのまま直送してくれ。サイズは戻さなくていい」と指示を出す。
「え、あー、戻してやるから正直に喋れって?」
「単なる時短だよ。タイムリミットは一応今日の10時だからな。刻限は守るべきだろう?」
そのように笑って肩をすくめた。
怖い公安だこと。
鳥籠を風見さんへと魔術で直送して、気を取り直して横浜海洋大学へ。
風見さんは「これ、これを事情聴取するんですか!?対価は元の姿に戻すこと!?それは流石に違法捜査過ぎるのでは!?」と動揺していた。
どうやら小さくしたのが降谷さんだと勘違いしているらしい。
瓶詰めはニャル系列の伝統芸だから仕方ないね。
ニャルは遊べない気配を感じ取り、ブスッとして俺を睨みつけた。
「僕のおもちゃが無いです。そこのムンビを一匹もらってもいいですか?」
「だめ。ムンビが怖がってるだろ」
「僕を崇めてるんですから、おもちゃになるのは光栄なことでしょう?」
ニマァ、と悪質な笑みを浮かべてニャルがムーンビーストをみやる。
ムーンビーストの怯え具合を見るに、遊びを捧げはしても自分が拷問されるのはノーサンキューなのだと思われる。
俺は慈悲のこころでもって助け舟を出した。
「ニャルぅ、そんなことより俺この仕事が終わったらニャルの作ったマフィン食べたい」
「!!!わかりました!家で作って待ってますね!!」
ビャンっ、とニャルは撤退していった。
これでよし。
ムーンビーストは三匹ともるーー、と涙を流している。
まあ、先ほどの銃撃事件は公安がよしなにしてくれるだろう。
俺たちは車通りが減ったところでこっそりリアウィンドウに魔術修理をかけた。
俺自身の形も直しておく。
血のシミはチクタクマンがいつのまにか綺麗にしてくれたらしく「芸が細かいやっちゃな」と出血について面倒臭がられた。
だって撃たれたのに血の出ない人間なんていないじゃろ。
そうこうしているうちに横浜海洋大学の入り口に到着。
これで、一生分の怖い思いをしたムーンビーストとお別れである。
マモーさんが深々と一礼して俺たちを送り出す。
星の精がようやくコナン君のポケットから出て辺りを見回したようだ。
【クス……?】
怖いのもういない…?
星の精は見慣れぬムーンビースト達に怯えていたようだ。
でも星の精は神話生物界のグリズリーなので、もし出会ってたらムンビの方がよっぽど命の危機を感じてたと思われる。
うむ、可哀想なムンビがこれ以上恐怖に晒されず良かったと考えるべきだろう。
そのように俺は納得して、俺は頷いたのだった。
・星の精
凄く獰猛で襲われたら死あるのみの宇宙グリズリー的ポジション。
もちろんムーンビーストも食う。
・半グレムンビ達
旧支配者相手にこのレベルで致命的に不敬してても助かるの…!?
人間、半端ねぇ…ッ!!!
若者達は世の不平等に慄いた。