ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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戦慄の楽譜〈おいおい死んだわ人間〉

 

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ…!

 

 顔面蒼白で立ち尽くす降谷さんのインカムから、風見さんの声が聞こえる。

 

 向こうでも爆発を確認したようで、「聞こえますか降谷さん!降谷さん!」と焦ったような声も聞こえる。

 もしかしたら館内に公安の人員もいるかもしれない。

 もはや一刻の猶予もない。

 

 降谷さんを置いて、俺は瞬時に「黄衣の王」として早着替えする。

 人にして高身長で、触手を持つ青ざめた人間体だ。

 

 そのまま念話を発動。

 館内、そして周辺10kmにいる全員へ、ハスターの瞳を通して語りかける。

 

【警告する。間も無く、極大の怪異がこの場所に降臨する。これは神よりの警告である】

【堂本音楽ホール内の人間種に告げる。危険のため、全員を転移により一時避難させる】

 

 脳裏に繰り返し語りかける俺の声に、一時演奏が中断する。

 狼狽える客達がざわめきを発している。

 

 10km内の人間には最初の一節だけを放送した。

 これを受けてできるだけ遠くに逃げてほしいが、時間があまりにも無さすぎる。

 対応は難しいだろう。

 

 俺は一息ついてから、ホール内の舞台上に触手をうねらせながら降臨した。

 客達が一斉にざわめき、動揺が広がっていく。

 舞台上の秋庭さんが恐怖したように数歩後ずさる。

 

 TVで映ったこともある本物の神の姿に、客達は動揺していくらか立ち上がる人の様子も見える。

 俺は内心の焦りを務めて押し殺し、指示を繰り返した。

 

【繰り返す。この場所に危険な怪異が降臨する。脱出の時間はない。これより、転移により全員の退避を強制的に行う】

 

 思わずと言った様子で工藤君が念話で叫んだ。

 

『何があったんですか黄衣さん!?』

『ごごごごめん説明の時間ないみんな死ぬ指示に従って!』

 

 きっと火事の中、家に犬が取り残された飼い主はこんな気分なんだろう。

 も、もうダメだぁ…おしまいだぁ…!

 

 ニャルは相変わらず席でグースカしてるし。

 俺は激しくむしゃくしゃした。

 蘭ちゃんが不安そうに工藤君に寄り添っているのが見える。

 

【身の回りの荷物を手に持て。堂本ホール敷地内の庭に転送を開始する。繰り返す。身の回りの荷物を手に持て】

 

 慌てる客達の反応はまちまちだった。

 どちらにせよ、コートやロッカーのものは諦めてもらうしかない。

 

 というか、ここから離れるのだって初撃でSAN値直葬されないようにするためでしかない。

 もしトルネンブラさんが完全顕現したら、どちらにしろほぼアウトだ。

 俺は万が一のための準備でSAN値防壁を貼る余裕もない。

 

 まだ状況が把握できていない客が呆然としているが、本当に時間がない。

 仕方ないので転移を開始する。

 空間がぐにゃりと歪み、中の人間が全員近場の庭に放り出される。

 着地を気にしている余裕もなかったので、転んでしまった人もいたかもしれない。

 

 残ったのは、俺の雑な転移魔術を弾いた工藤君と、急いでホールに入って来た降谷さん。

 そしてグースカニャルだけだ。

 

 俺の亜空間内に星の精が入ったまま震えているが、もうこのままでいいだろう。

 本当にもうタイムリミット直前だ。

 

 諸伏さんは音色を聞いたら最悪霧散してしまうから、外に放り出させてもらった。

 

 俺は日本一帯に無言で全力の防護魔術などを構築した。

 ああ、毛先だけの顕現であってくれ!

 もうあと5、4、3、2、1。

 

 

 不可思議で美しい音色が、ホール内に響き渡った。

 

 

 降谷さんと工藤君が驚愕と共に弾けるように顔を上げる。

 美しい旋律がホールの中央の空間に、丸ごと包み込むように出現する。

 まさに神の音色。

 深く穏やかに心に染み込む甘やかな響きは、脆弱な人間種の魂を捕らえて溶解させる。

 

 工藤君は俺が防護魔術を張ったので無事だ。

 しかし、防護のなかった降谷さんがふらふらと音色に魅了され、トルネンブラさんへと近づいていく。

 

 俺は化身の繋がりを通じて、降谷さんの精神を強化した。

 その上で軽く声をかけて静止する。

 

「気をしっかり持て、まだ完全顕現じゃないし弾けるはずだ」

「………ッ、すまない」

 

 降谷さんが頭を押さえて荒い息を吐く。

 落ち込んだ床ぺろトルネンブラさんとは一味違うからな。

 音色に魅了されれば魂の無事は保証できない。

 

 しかし、トルネンブラさんも随分テンション高ェ感じだな。

 なんか初手から凄くバイブス上げてる感じなんだが。

 

 いつも通りちょっと顔見せてすぐ帰るかと思ったのに、どんどん顕現して来ている。

 想定地域より広域で影響が出てしまいそうだ。

 最低限のSAN値防壁は張ったが、後々治療が必要かもしれない。

 

 そのとき。

 極めて低いマジギレ声が耳を穿った。

 

「クッッッッッソうるさいんですけど…この子守唄野郎の仕業ですか……?」

 

 ゆら、と眠りこけていたニャルが空中を浮遊して触手をざわざわと揺らめかせている。

 完全にキレてしまっている。

 燃え上がる三眼を見開き、怪物としての姿を隠そうともせず凄絶に嗤っている。

 

 トルネンブラさんの方も、起きたニャルに不快感をあらわにした。

 不意に激怒の音色に変わり、弦を引き絞るようなギリギリとした不快な音色を響かせる。

 

 それを聞いて、ニャルが怒髪天をつくと言った感じにいきりたった。

 

「へぇ。白痴すやすやソング如きが僕に逆らおうって話ですか?立場わかってます?」

【──────】

「は?あなたのロートルな音楽は聞き飽きたってだけでしょう。ヨボヨボのお遊戯会に新しい風を吹かせたんですから、感謝してもいいと思いません?」

【────!!!!】

 

 だめだ、完全に開戦のゴングが鳴り響いた感じだ。

 終わりですね。大変ありがとうございました。

 

 トルネンブラさんが全ての身体をこちらに押し込んで、無理やりに地球上に完全顕現した。

 

 ぶわり、と神の音色で空間が満たされていく。

 その極大の神性が怒りとともに叫びを上げる。

 

 ニャルも本性を現して不定形の触手だらけの姿に変わり、形容し難い咆哮を発する。

 

 ああああああここで喧嘩すんな馬鹿ァァアアアアア!!!!

 俺氏発狂である。

 

 俺は呆然とする降谷さんと工藤君をラリアットで捕獲。

 二人から全力で距離をとって駆け出す。

 

 さっきから俺の処理領域全部突っ込んで準備していたものが、無事無駄じゃなくなったということらしい。

 無駄に終わる方が平和でよかったんだが!

 

 降谷さんがグエッとなりながら喘ぐように口を開いた。

 

「な、何をするんだ!?」

「はーいこれはもう終わりです緊急避難プロトコルを開始しまーす!」

「黄衣さん口調がヤケなんだけど人間見捨てたりしないよな!?」

「俺の生きがいを捨ててたまるか!!『彼方より来たりて饗宴に列するもの』主権限領域接続!全球仮想凍結!系統樹保全システムを駆動しろ!」

 

 俺の声を受け、声なき声が応答する。

 

【彼方より来たりて饗宴に列するもの(Feaster from Afar)の状態移行。主権限領域外を閉鎖します。プログラムの組み替え…成功しました。全球仮想凍結を施行します】

 

 コナン君と降谷さんを俺の神域内に抱え込んで隔離する。

 諸伏さんは仮想凍結に巻き込んでしまうが、その方が安全なはずだ。

 俺は走りながら必死で魔術を構築した。

 

「ハイパーボリアが滅びて俺も懲りたんだ!旧支配者が完全顕現したら追い出せない!なら!地球を持って俺が逃げ出せばいいんだって!」

 

 ニャルが星系殲滅級の魔術を装填する。

 トルネンブラさんがそれに応えるように、権能を攻撃的に組み替えて表出せんとしている。

 

 その埒外の規模を肌で感じ取ったのか、神域内部で降谷さんが土気色の顔をして絶句した。

 

 俺は叫んだ。

 

「うおおおおおお地球上で戦うやつがあるか馬鹿者ォォォオオオ!」

 

 瞬間。

 系統樹保全プログラムが、光と共に全世界を飲み込んで停止させる。

 別名「父上に泣いて縋って地球の時を止めてもらって夜逃げする作戦」。

 

 地球全土を仮想凍結して、そのまま地球だけを神域内に隔離。

 俺が身一つで逃げ出す、完全敗北撤退用の魔術機構である。

 

 父上お願い地球の時を止めて!

 ああ待ってヨシヨシの時間はなくて、そう、緊急で!

 ありがと父上愛してる!!!

 

 俺が地球をしまい込んだことで地球外に放り出されたことを気にも留めず、ニャルとトルネンブラさんは盛大に喧嘩を始めた。

 炸裂する破壊の光を背に浴び、ジュッと俺の触手が焼け爛れる。

 

 

 そうして、俺は号泣で地球を抱えて逃げ出したのだった。

 

 わーーーん覚えてやがれ!!!

 

 

 

 

 

 

 五時間後のことである。

 

 「工藤君!気づいた!?」と虚ろな様子で起き上がる工藤君に声をかける。

 星の精も「クスクス!!」と工藤君を覗き込んで心配そうに声をかけた。

 

 バッと起き上がった工藤君が、周囲を見渡す。

 

 ここは暗い堂本音楽ホールの敷地内の庭だ。

 遠くには仮設テントが設置されて、そこで消防と警察が行ったり来たりしている。

 まだ堂本ホールは燃えていて、黒煙をあげているようだ。

 

 頭痛が残っているのか、頭を振る工藤君に俺が声をかけた。

 

「すまん工藤君。俺がいきなり神域に放り込んだから気絶させてしまって」

「いえ……」

 

 まだ頭が回ってないのか、行き交う警察官をぼんやり眺めている。

 救急車も何台も出動していたが、今は怪我人と発狂者は運ばれたので、ここに残っているのはテントで簡易検査をする人だけだ。

 

 周囲の客達を眺めているうちにスイッチが入ったのか、バッと目を見開いて俺に迫った。

 

「蘭は!?!?」

「おお、初手それは青春だねぇ、すごく心配してるから会ってやって」

「ニャルさんは?」

「まだ戦ってる。太陽系の復旧もあるし、しばらくは帰れないと思ってくれ」

「………帰れない?」

 

 やや嫌な予感のするような顔で、疑問符を浮かべる。

 星の精が「クスックス!」と自慢げに触手で上を指差した。

 星の精は分かる!友達に教える!!えへん!

 

 見上げる夜空に、星々が無かった。

 月もない、晴れた夜空にぽっかりとした暗闇だけが広がっている。

 

 工藤君はすごくギクシャクした様子で改めて俺をまじまじと見た。

 「ど、どういうことですか?」と固い声を出す。

 

「今、俺の神域内に地球のあった状態に極めて近い環境を構築して避難してる。つまり、地球は俺の腹の中にある、みたいな」

「それ、大問題になりません?」

「星も太陽も月も全部消えます。ギリ衛星の類は持ってこれたからGPSは生きてると思うけど、惑星探索機とかは置き去り。そもそもニャルとトルネンブラさんの戦闘に巻き込まれて壊れてるか」

「潮の満ち引きとかは……?」

「月がないから弱まりますね。長引くとやばいし、細かい問題はこれからポコポコ出てくるとは思うから、早めに二人がバトルやめてくれると嬉しいなと思う次第」

 

 俺の言葉に、工藤君が「あ゛ーーー」と変な声を出した。

 降谷さんも同じ声出してたんだよな。

 

 日本の広い範囲に神の音色が響き渡り、一時的狂気に陥る人が多発。

 特にホール外にいた人間は大音量を浴びて、7割ほど病院送りになってしまった。

 

 しかも今、全世界で月と星が消失した異常が起こってるから、もはや世界中パニックと言っていい。

 

 しかも、全球仮想凍結から逃げてからここまで来るのに二時間ほどかかった。

 だから二時間分、全ての時計が狂っている。

 なにせ外の宇宙では通常通りの時間が進行しているのだからな。

 こっちこそ凄まじい大問題だ。

 

 あまりの事態に、降谷さんは遠い目をしてフラフラと公安の人員と合流すべく消えていった。

 SNSでは月も星も消えたと大騒ぎになっている。

 夜が明ければ、時計のズレも明らかになることだろう。

 仮想環境だから全世界昼と夜が同時に来るし、温度は大まかに区分けしたが、長引けば異常気象には見舞われるだろう。

 

 工藤君がキリリとした顔で頷いた。

 

「俺、蘭のところ行ってきます!俺にできる範囲のことじゃないんで諸々任せました!」

「見捨てないで!!!俺頑張ったよね!?外なる神降臨で知的生命体が生き残ったんだよ!?!?史上初レベルの快挙だよこれは!!!」

「ははは、蘭の無事を確認したら戻りますから。ガチ泣きしないでくださいよ」

「ううー星の精!工藤君がいじめる!」

 

 星の精は「クッス…?」と動揺しているようだ。

 友達が意地悪?友達はそんなことしないよ…?

 すごく信頼されているようで何よりである。

 

 というか、俺はこの後太陽系の再建業務も待っている。

 天の川銀河も現在進行形で破壊されているし、流石に大変すぎるので太陽系だけ先に作ってちまちま修理していくしかない。

 いや、まずデブリを掃除してからか。

 

 おお、ニャル野郎。どうしてお前は暴れるの。

 いや今回はトルネンブラさんも最初からクライマックスだったし同じことか。

 

 やはり父上しか勝たん。

 そのように俺は確信したのであった。

 





・系統樹保全システム
実は165話「降谷零の燻る憎しみ」でハスターが言及してたやつ。
地球持ってスタコラサッサ。
ハイパーボリア壊滅で泣いて泣いたハスターが作った最後の切り札。
地球側もダメージでかいから使いたくない。
惑星丸ごと瓶詰め概念。

・ニャル&トルネンブラ
まだ地球のあった場所でバトル中。
罵りあってる。

・ヨグ=ソトース
突然号泣ハスターが泣きついてきて愛してるって言ってくれたからにっこり。
どうした息子?ニャルに虐められた?
あいつをペンッ(爆散)てしてやろうねぇ。
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