ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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パッとしない閣僚会議と感謝の言葉

 

 やはりというべきか、世間は大混乱に陥っていた。

 

 何せ全ての時計が二時間遅れている。

 まだ真夜中のうちから日は高くなるだろう。

 急な発狂をきたした患者で病院もパンク状態。

 

 トルネンブラ顕現が帰宅ラッシュの時間に重なったのも不運だった。

 あらゆる交通事故、墜落死等々が多発したのだ。

 

 無論だがこの異常事態に政府も声明を発表する予定だ。

 

 まだ真夜中のうちから偉い人が膝を突き合わせて、事態把握のための特別会議を開いている。

 立て付けとしては変則的だが閣僚会議になるらしい。

 

 もちろん、疲れた降谷さんと俺も参加している。

 

 

 首相官邸の大きな会議室だ。

 関係省庁の偉い人などが集まり、皆揃って落ち着かなさそうに視線を配っている。

 

 見知らぬスーツ姿の男性が、ハンカチで汗をしきりに拭いながらまず口を開いた。

 官僚の人かもしれない。

 

「対象事象発生時刻は18:25、JAXAから正式な報告があったところによると、地球以外のすべての天体が、えー、何らかの原因により確認できなくなっているとのことです」

 

 この現象は全世界で同時に観測されている。

 また、一部地域では不可解な太陽の消失も確認された。

 今の地球は全地域が夜であり、しかも夜空に星々も姿をなくしてしまっている。

 ぽっかりとした暗闇だけが広がり、国民の不安は高まっているようだ。

 

 偉い人たちがざわめいている。

 特に偉い、なんて名前だったか?ああ、宮古さんだ。

 防衛大臣。

 怪異対策について会合があったと以前降谷さんから報告を受けていたんだった。

 

 防衛大臣が口を開く。

 

「怪異が関わっているのは明白なのでしょう。わざわざ会議に神々がお越しくださっている。我々だけで話をするのではなく、早く神のご意見を伺おうでありませんか」

 

 慌てる進行役が宮古君!と静止した。

 

 割と俺に敵対的な人らしい。

 一言で言えば「神が人の政治に口突っ込んでくんな」派の人というか。

 まあ、俺も同じ意見だから気持ちはわかるんだが。

 

 防衛大臣の言葉に、降谷さんが立ち上がって応える。

 アトラック=ナチャの糸で織られた白いローブが衣擦れする音が、どこか会議室の空気を引き締める。

 

「まず、今一番皆様が気になっていることからご説明します。この事態はいつまで続くのか。これは不明です」

「不明?未来を見通す神が?」

 

 口に出したのは防衛大臣だ。

 他の皆も疑問に思ったのか、チラチラと視線が行き交う。

 降谷さんが頷いた。

 

「はい。この件の引き金となったのは、『外なる神』───すなわち、僕たちよりも強大な存在によるものだからです」

 

 同格の未来を見ても意味がない。

 その言葉に、お偉いおじさんたちが不安そうに目配せし合っている。

 

「まず発端からお話ししましょう。複数の証言がある通り、堂本音楽ホールにて、外なる神の招来を求める魔術が発動しました。神はこれを感じ取り、観客を避難させ周辺に注意喚起しました」

「テロリズムの結果だと?」

「いえ、偶然の側面が強いでしょう。人間種が願った程度で呼べるものでもありません」

 

 父上なら偏在する性質上割と呼べるが、他は極めて呼びづらい。

 特に目覚めの神グロースとかすごく気ままだから、招来に成功した知性体とか居ないんじゃなかろうか。

 

 会うと辻バフしてくれるから体の疲れが取れて嬉しいんだがな。

 あまりに我が道をゆく過ぎて、進行方向に星があるとぶっ壊してそのまま通るからな。

 それで惑星シャッガイが滅んだぐらいだ。

 

 降谷さんは透明な瞳で言い切った。

 

「妻たる神は現在、邪悪な外なる神を食い止めて戦闘中です。戦闘が終わりこの星の安全が確保されるまで、この異変は解除されません」

「……今、この星はどうなっているのでしょうか?」

 

 おずおずと切り出したのは、農林水産省の人だ。

 そりゃ気候天候のこととなると、一番影響を受ける分野になる。

 気になるに決まっているか。

 

 降谷さんは冷淡に事実のみを述べた。

 

「今現在、地球は神の体内に格納されています。神々の戦闘に巻き込まれ、星ごと破壊されるのを防ぐための処置です。ここは神の腹の中であり、故に星も月も太陽もありません」

 

 またざわめきが起こる。

 というより、よくわからない、理解できないという側面が強いのだろう。

 

「腹……というのは?」

「神隠しを想像するとわかりやすいでしょう。神の配慮により、飛行中の旅客機や衛星、国際宇宙ステーションを含めて神域内に取り込んでいます」

「そ、それは…その、問題はないのですか?」

「基本的に人類種の生存には問題ありませんが、それは短期的にのみです」

 

 これは地球にとってもかなりのダメージを伴うものだ。

 

 太陽と月がないことで海流や世界の気温の変化で異常気象が頻発。

 長引けば農水産物は大ダメージを受けることが予想される。

 

 光はないと困るので仮に設置したが、日本を基準にした昼夜設定が敷かれている。

 国外では急に昼夜逆転になってしまったから、そちらも健康被害は避けきれないだろう。

 

 自転も公転も機能していないのでそちらの影響も未知数。

 神域に取り込まれ「動く意味が取り除かれた」ために運動エネルギーがリセットされた形だ。

 

 少なくとも自転の停止で大気の循環は大きな影響を受けるだろう。

 

「現在は僕が地球全域の大気循環の調整をしています。そのため、黒い大気が混じることをご了承ください」

「………なる、ほど」

 

 想像がつかないのか、言葉は尻すぼみだった。

 なお、降谷さんの元気がないのはこの大気循環の調整のためである。

 俺が演算域を貸しているが、地球全域の風を「いい具合」にするなんて繊細なこと、ぶっつけ本番で神経が削れぬはずもない。

 

 降谷さんはしおしおの覇気を隠して淡々と言葉を述べた。

 

「その上、この神隠しのために二時間の時間的凍結を行いました。世界のすべては二時間遅れていることをご留意ください」

 

 降谷さんが書類を読み上げるように温度のない声色を出す。

 本人はいっぱいいっぱいなんだがな。

 なんだかそれがかえって神の代理人らしい冷徹さにみえるのが悲しいところ。

 

 本当はすごく頑張って地球を維持してるのに。

 

 話を聞くに連れ、閣僚たちの顔色がどんどんと悪くなっている。

 状況があまりに手に負えないことに気づいたのだろう。

 質疑応答の時間なのに誰も何も言わない。

 というか、問うべき言葉を探しているのか。

 

 とどめを刺すように、降谷さんが念を押した。

 

「いずれにせよ、神々の戦いが収まった後、砕けた太陽系の修繕を完了するまで戻ることは不可能です」

「…………」

 

 ついに会議室はお通夜みたいな空気になってしまった。

 規模がバグってて口を出せる部分がないに違いない。

 俺でもやれることもうニャルに祈るぐらいだもんな。

 

 

 そのまま、ぽつりぽつりと外縁部をつつくようないくつかの質問を交わした後。

 俺たちは退散した。

 

 みんななんとなく反応が鈍くて思考停止している感じだ。

 気持ちはわかるんだが結構大事だから、もう少しシャキッとして欲しい気持ちである。

 「いうてホントにござるか?」みたいな空気を感じるというか。

 ワイが嘘吐いとる言うんか。おこである。

 

 さて、門の創造で探偵事務所へと帰還する。

 

 工藤君は今日は蘭ちゃんたちと一緒に過ごすらしい。

 蘭ちゃんたちは俺のお守りアクセサリーをつけていて全員無事だったが、やはり精神的に不安定になったのは間違いないからな。

 発狂して泣き叫ぶお客さんの間で救急車を呼んでくれたりしたらしいし、本当に強い子やで。

 

 諸伏さんも霧散せず頑張ってくれたし、本当に良かった。

 

 探偵事務所に帰ってきた俺たちの姿を見て、マモーさんとどんよりとした顔つきの諸伏さんが歓迎してくれた。

 神の音楽を聴いたせいでブルブルにしょげかえったナイトゴーントがお盆を持って震えている。

 

 マモーさんが柔らかい笑みと共に一礼した。

 

「おかえりなさいませ。紅茶にいたしますか?」

「ありがとう、いただくよ。諸伏さんは落ち着いた?」

『うぅ、まだ脳裏で音楽が響いてる……あ゛ーーゼロ助けて!』

 

 諸伏さんが発作のように降谷さんに縋り付いた。

 それを降谷さんが迫真の表情でよしよしする。

 

「ヒロは頑張った。俺でも黄衣君に声をかけられてなければ危なかった。あれはやばい。本当にやばい」

『ゼローーーあーーー!!』

「でも、つくづくあの場に呼び寄せられたのは幸運だったな。あの爆発でものともしない『音楽を押し留め高めるための空間』に呼ばれたから、これだけの被害で済んだんだ」

 

 もし外で呼び出されていたら、もっとずっと発狂者が出ていたはずだ。

 

 トルネンブラさんの方も建物の意図を悟り、気を遣ってあの中に収まっていたようだし。

 外の余波も最小限で済んだ。

 

 まあ、その最小限で大量の発狂者が出たわけだが。

 

 ふと探偵事務所の窓の外から眩しい朝日が差し込んでくるのが見えた。

 時計は午前3時。

 二時間の遅れが強く示されている。

 

 降谷さんが窓際に寄って、わざとらしく伸びをして遠い目をした。

 

「いい天気だなあ〜〜〜」

「ヤケにならないでくれ。外なる神襲来において最善の結果を引いたんだぞ、人間は。ムンビなんて吹っ飛んでるからな」

『………ん?吹っ飛んでる?』

「月を助けた覚えはないです。仕方ないね」

 

 流石にあの場面でムンビを助けるほど余裕はなかったからな。

 もしかしたらニャルが慈悲を与えてるかもしれないから、それを祈るのみである。

 

 うーん、アリンコ扱いだったし無理かなぁ。

 でも飼育ケージを遠くに転移させておくぐらいはやってても。

 いや、あいつがそんな気を遣うわけないか。

 

 おや。

 ハスターの瞳に何かメッセージが届いている。

 

 星の智慧派ほか、各魔術団体からだ。

 こんなハイパーボリア時代の神に捧げる正式文を出すとかなんなんだ?

 

 すごく長い。要約すると……。

 「神ありがたい」「流石神」「一生推す」?

 おう、いいってことよ。

 

 スマホの方にも公安信者さんからのメッセージが届いている。

 レシートみたいな長文メッセージで目が滑りそう。

 とりあえず賛美されているらしい。

 

 俺はちょっとだけ良いことをした気持ちになって、しょぼくれた降谷さんの肩をバンバン叩いてこの感謝の文を見せてやることにしたのだった。

 





・公式発表
凄まじく危険な超巨大怪異が出現したことによる影響、として臨時で記者会見が行われた。
今のところ現状の詳しい発表に留め、原因である外なる神対決には触れなかった。
多分順次発表していくと思われる。
おそらくトルネンブラは神ではなく「極めて有害な怪異」扱い。

・世界各国
それぞれの怪異対策機関が「外なる神降りてきてた!もう終わりや!!」と言ってててんやわんや。
はぁ!?鼻息で銀河を消し飛ばす類の化け物?
そんなもんおったとしてワイらが無事でいられるわけないやろ!?
事件の桁が違い過ぎて皆頭が硬くなっている感じ。
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