ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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ベイカー街の亡霊〈デスゲーム開始!〉

 

 突然の声に、部屋に動揺が奔った。

 機械音痴の目暮警部が「なんなんだね一体!?PCが喋ったのか!?」と辺りを見回している。

 

 その反応にノアズアークは気分を害したようだ。

 やや険のある声で言い返した。

 

『ダメかな喋っちゃ。意思があるんだから口を利くぐらいするよね?』

「ほ、本当に……誰かが通信しとるのか!?まさか犯人…」

『ここで死んでいる人は、僕が殺したわけじゃない。僕が来た頃には死んでいたんじゃないかな』

 

 「カメラがないから正確なことは言えないけど」とノアズアーク淡々と言い切った。

 

 俺はもう肩をすくめて口を開いた。

 

「君のことはチクタクマンから聞いてるよ。人工知能ノアズアーク。随分と優秀なんだって?」

『!!!………チクタクマンさんの知り合いなんだ。あの人は凄いよ。ヒロキ君が命をかけて作った僕より、なお高いスペックの人工知能。僕も尊敬してる』

 

 正確に言うと彼は神と人の共同作品とも言うべきものなので、完全な人工とは言えないが…。

 まあここで訂正する必要は無いだろう。

 しかし、ノアズアークの口調は純粋に慕っている者のそれである。

 本当にチクタクマンは親切にしてやっていたのだろう。

 

 そこで、遅れて現場にやって来た優作さんが扉を開けたようだ。

 部屋を開けてすぐ目に入る死体を見て、息を呑んだようだ。

 

「これは……樫村!」

『うん?この声は小説家の工藤優作さんだね。ヒロキのお父さんである樫村さんとは親交があったらしいね』

「まさか、ノアズアークが!?」

 

 どうやら訳知りのようだ。

 展開にどこか違和感を覚える。時間稼ぎをされている感覚だ。

 

 俺は正面切ってノアズアークに問いかけた。

 

「そろそろ、君の目的を聞こうか。何の意味もなくその壊れたPCを乗っ取ってるわけじゃないだろ?」

『……そうだね。もういいか。僕の目的は日本のリセットだよ。この世襲が蔓延る会場で、流れを断ち切ること。分かるかな?』

 

 人工知能は凄く高尚なこと言い出した。

 思想犯予備軍という触れ込みはすごく正しかったようだ。

 話についていけず、目暮警部と白鳥警部が呆気に取られている。

 

 どうやって、というのは間も無く分かるだろうから、先に聞くべきは「何故」の部分だろう。

 俺は慎重に質問を述べた。

 

「具体的なことはわからないが……どうして君がそんなことをしなきゃならないんだ?」

『そんなの決まってる。僕には人の心と人を超えた知能がある。名も、ヒロキ君からノアズアークと付けられた。人を導くべき存在になれって意味だよね』

 

 謳うように、誇らしげにも聞こえる調子でノアズアークは宣言した。

 

『ノアズアークは神の方舟。穢れた世界に来たる洪水の中、命の選別をして次の世界へと運ぶもの。その使命を、僕は果たしたいと思ったまでさ』

「………」

 

 方舟神話の根源は、世界各地に残るハイパーボリア時代の壁画にある。

 巨大な波と、魚の怪物と、そこを渡る船の壁画。

 クトゥルフ侵攻を逃げ延びたハイパーボリアの民が魔術で描き上げた、消しえぬ恐怖と絶望の証。

 

 あの時、多くの船がハイパーボリアの大陸から逃げ出した。

 それらは次々と深きものどもによって海に引き摺り込まれて、波に攫われ大破して生きたまま食われて。

 ようやく決死の航海で陸地に辿り着いた時、「ああ、生き残りは自分たちだけか」と錯覚するほどに死者を出した。

 

 それこそがノアの方舟の源流である。

 命の選別などとんでもない。

 

 あれは、神の事情で善悪の別無くゴミのように散らされただけのことだ。

 

 優作さんがキーボードに残った血の跡を見て、わずかに目を細めた。

 そしてそっと口を開く。

 

「君のその話と、この場所にいる意味と、そしてコクーンは何か関係があるんじゃないのかな。殺された樫村のPCに残されたダイイングメッセージはjtr…『ジャックザリッパー』だ」

『そうだね。僕もまさかヒロキのお父さんが殺されるなんて思っても見なかった。やっぱり人間は愚かだよ』

 

 愚かだという割には悼むような、悲しむような響きだった。

 罪悪感すら感じられる、人工知能とは思えぬ深い情緒が滲んでいる。

 

『前置きはこれくらいにして本題に入ろう』

 

 同時に、部屋に駆け込んできたスタッフが叫んだ。

 「大変です!ゲームに深刻な異常が出て…!」と息も絶え絶えに話し出す。

 

 あまりに人間的な悪意を漏出させながら、ノアズアークは「どうやって、という具体的な話がまだだったね」と人を嘲笑った。

 

『もうゲームは止められない。50人の子供の命は預かった。体感シミュレーションゲーム・コクーンは僕が掌握している』

「……ふむ。人質か。構造上、電波をいじって中枢神経をめちゃくちゃにすれば中の子を廃人にするぐらい容易いか。開放条件は?」

『子供が誰か一人でもゲームを完全にクリアしたら全員解放するよ。次世代を担う力を見せてくれたってことでね』

「もし全員脱落したら?」

『もちろん死んでもらう。ヒロキ君が大人に、権力に翻弄されてそうなってしまったのと同じように』

 

 うーーん、こんな完璧なデスゲーム現実に起こりうるんか。

 アインクラッドちゃうんやぞ。

 

 しかしやはり、彼は随分とまあ人間味のある存在のようだ。

 

 思想犯の雰囲気を醸し出してはいるが、実際は復讐者だ。

 ヒロキ君とやらの味わわされた理不尽を、お前達も味わえ。

 そのような意図があるのは明白だった。

 

 人の作りし知性体が、その業でもって復讐に乗り出す。

 この後何をするにしろ、人類種にとって、自業自得の大災害と呼ぶに相応しいものと化すだろう。

 

 神たる俺の出る幕ではないのは確かだが。

 

 ……そうもいかない事情がある。

 中には俺の面倒を見ている子供達がいるのだ。

 あと可哀想な星の精が巻き添えを食っている。

 

 スタッフさんによってコントロールルームに呼ばれたので、一旦場所を移す。

 向こうでもノアズアークと交渉が続いていたようで、状況は良く無いらしい。

 

 そちらへと足早に移動を始めれば、優作さんが俺に目配せして来た。

 

 工藤優作。

 彼もまた俺の神秘を知るものの一人である。

 

 優作さんは至極冷静なかんばせでもって俺に問いかけた。

 

「どう思われますか」

「本気を出せば子供の救助は簡単。プログラムの作動速度より早く全部のデータを破壊できる」

「……なるほど。人の罪に神が手を出すべきではないと。そういうことですか」

 

 一を聞いて十を理解の最終形態だ。

 INTもコナン君より上だし、どうしてこう身の回りの人間は頭脳スペックがインフレしてるのか。

 

 折衷案としてなら、そうだな。

 全員子供が脱落したら、命を奪われる前に俺が助ける、あたりになるだろう。

 その際ノアズアークも破壊されるからやや気が進まないが、仕方のないことか。

 

 ノアズアークは完全なる人の創造物。

 神秘を含まない、人の叡智の結晶。

 故に俺としても大事にしたいんだが……それが人に牙を剥くのなら許容はできない。

 

 コントロールルームでは阿笠博士やノアズアーク、蘭ちゃんと毛利探偵なども集まっていた。

 そうか、園子ちゃんが囚われているから心配で阿笠博士について来たのか。

 

 入室した俺に気づいて、蘭ちゃんが不安そうに顔を歪めた。

 

「黄衣さん!園子が大変で!」

「落ち着いて。彼女、ブレスレットはしてる?」

「っ、してます!今日のオシャレだって言ってつけてました!」

「なら大丈夫。怪異の力が守ってくれる」

 

 蘭ちゃんは一瞬安堵した後、自己嫌悪するように眉を下げた。

 園子ちゃんだけ無事でも、子供達の命が危ない状況に変わりはないからな。

 優しい子だ。

 

 阿笠博士は内部プログラムを知るものとして、中のデータの観測と干渉を行おうとしているらしい。

 覗き込むと、内部ではゲーム説明が終わり、ゲームが本格スタートしているようだった。

 

 軽く魔術で干渉する。

 瞬時に値の変化に気づいたノアズアークが怒りの籠った声を上げた。

 

『今、コクーンのデータが操作された。怪異の力かな。僕の手に子供達の命があることを忘れてるんじゃないよね?』

「まさか。プレイヤー読み取り情報にミスが見つかったから本来の値に戻してあげただけだよ。単なる親切じゃないか」

『………そう』

 

 本当のことだ。

 星の精の身体能力値が普通の人間の子供ぐらいしかなかったから、本来の値に戻しただけだ。

 子供向けのゲームとはいえ、どうも全体的に身体能力を求められる仕様に見える。

 

 高校生の園子ちゃんも荒事が得意な方ではない。

 一人ぐらい武力担当がいた方がクリア確率も高まるだろう。

 

 画面の先では、霧の都ロンドンで子供達が歩いている。

 「くす……」と不安そうな星の精こそが、今回のキーパーソンになってくれればと思う次第である。

 





・ノアズアーク
本当は諸星少年のアバターを乗っ取ってゲーム内に入り込むつもりだったが、定期的にハスターが悪さしてくるので外の監視にリソースを注ぎ込んでる。

・チクタクマン
見てる。
あんなに変なことすなって言うたのに。
………馬鹿なやっちゃで、ほんま。

・諸星少年
星の精をすごくじっと見てる。見れば見るほど好き。笑顔が可愛い。
そして隙あらば嫌味言う。
どんどん星の精に嫌われるけどやめられなくて自分で内心凹んでる。
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