鮫谷さんが射殺された。
俺たちがついた時にはもう死んでいて、発砲を聞いた付近の歩行者が通報した後だった。
警視庁はすぐそばで、急行した目暮警部達が死体を取り囲む中、俺たちは野次馬をかき分けて近づくしかなかった。
死体を見て、愕然とした顔の毛利探偵がまだ脳裏に焼き付いている。
毛利探偵は「ワニの話が終わった後、一緒に少し喫茶店にでも」とついてきていたのだ。
それかまさかこんなことになるとは、思っても見なかった。
俺の持ってるバッグの中で、星のオウムがショックを受けて震えている。
昨日、ナラトゥースによる狩りと生死の作法教室を受けたばかりだ。
星の精が軽く痛いことをするだけで人は死ぬ。
ぼんやりとしていた「死」の概念が正しい知識形になり、大層ナイーブになっているらしい。
昨日の夜とかコナン君ずっとクスクス話しかけられてたからな。
友達は死なない?星の精を置いてかない?絶対に?
などとどう答えても無限ループ。
さらに普通に「僕も流石に寿命が来たら死んじゃうなぁ」と答えて大泣きされるという。
星の精、成人まで300年はかかるからなぁ。
人生100年時代とはいえ、人間には荷が重かろう。
星の精は納得できないあまり、その晩ずっとコナン君の頭に張り付いて泣き寝落ちしたのである。
まあそれはともかく。
憔悴した毛利探偵が目暮警部、工藤君と話をしている。
俺は降谷さん達に声をかけた。
「降谷さんは犯人、心当たりある?」
「残念ながら心当たりしかないな。鮫谷警部には僕が仕事を振ったのだし」
「うん?」
俺がパチクリと瞬くと、降谷さんは深いため息をついて髪をかき上げた。
「10ヶ月前、日本の情報収集衛星の電波を不正に受信した輩がいてな。そこに含まれる機密を全世界に公表すると脅されている」
「要求は?」
「司法取引制度の議論停止と撤回。これ、かなりの機密情報だから軽々に口に出してくれるなよ」
「俺秘密を守るのは苦手だ……どのぐらい秘密?世界がアザトースの夢であることに比べると何段階上?」
「撤回する。大して秘密じゃなかったようだ」
降谷さんは覇気を失ってしおっとしてしまった。
そんな、アザトース云々なんて公然の秘密なんだし自信を持てばいいのに。
咳払いして、横の諸伏さんが言葉を続けた。
『鮫谷警部は隠れ公安なんだ。というか、改革準備室自体が、かな。で、内閣調査室と連携して動いてたわけだ』
「なるほど。事件は事欠かないなぁ。アフーム=ザーの件もまだ落ち着いてないのに」
つまり犯人は司法取引制度に反対する人間、ということのようだ。
俺は空を見上げて目を細めた。
つられるように諸伏さんも空を見上げて、ほうと息をつく。
『今は見えないな。昨日の朝はギリ肉眼でも見えたのに』
「その辺はアフーム=ザーの気分次第だからな。少なくとも、もう肉眼で見える位置まで近づいてきてるわけだ」
アフーム=ザーは既にかなり近くまで迫ってきている。
冷気の影響が出ないように俺が太陽系を覆っているが、もっと近づけば話は違ってくるだろう。
昼間でも見える、煌々としたかの冷気の炎。
それは既に昨日から学会を含めたあらゆるところで騒ぎになっている。
「昼間にやけに強い星あかりが見える」と。
子供達が今頃、天文台でその話でも聞いていることだろう。
天文学界隈で今一番ホットな話題だからな。
まあ、あんまり見てもらっても困るから俺の方で注意喚起とSAN値防壁は組ませてもらった。
あのシャイ野郎が皆の視線を受けてUターンしてくれないかとも期待したが。
流石に羽虫の視線程度で引き返すことはなかったようだ。
傍迷惑な奴め。ぶん殴ってやる。
降谷さんが肩すくめて言った。
「おかげで各国政府はおおわらわだ。僕も今日朝からあちこち動いて目が回りそうだよ」
「お疲れ様っす!!!ちなみに今何体?」
「ギリギリ三体で回している。君の言い方に合わせるなら、①が公安業務、②が政府対応、③で君の監視係と言った形だ」
「俺の信頼性の無さよ」
思わず憮然とすると、「君は割とポンコツ直情型だから信用が置けない」と返答があった。
泣くぞオラ。
「そういや工藤君は?」
「あちらで蘭さんに謝っているようだ。今日のサッカー観戦は中止にすると言っていた」
「あらま。せっかくのデートなのに。まあ、身近な人が死んでたらそういう気分にはならないわな」
特に蘭ちゃんは鮫谷警部と話したこともあるわけだし。
ままならないものだ。
さて、そんなわけで俺たちは長野県警までやってきた。
俺は捜査協力として、目暮警部についてきたわけである。
長野組は元気にしているようで、受付まで迎えにきてくれていた。
なお、星の精は少年探偵団に預けるつもりだったのだが、すごく喚いたためオウムの姿で一緒にきてもらっている。
もう絶対工藤君の隣を離れないつもりらしい。
蘭ちゃんも一緒で、彼女にもよく懐いているようだ。
若き夫婦の子供みたいにも見える気がする。
「ほしのせーはね!強い!蘭ねーちゃん護る!」
「嬉しいわ。星の精ちゃんはかわいいね」
「げた!友達も感謝しろ!」
「はいはい。星の精も勝手にどっか行かねぇようにしろよ。オウム攫いに遭うぞ」
「!?ほしのせー攫われるの嫌…」
後ろの高木刑事が「あの口調、絶対あの鳥……」と言いかけたので、佐藤刑事がぴしゃりと叱った。
「あれは黄衣君の連れてるただのオウムよ。コクーンの時のことは気にしないこと」
「りょ、了解です……」
そうだよ。
コクーンの時にいた女の子は人間の可愛い星野星子ちゃんです。
別人ですよ別人。
降谷さんはふらりとお手洗いに行くふりをして風見さんと接触中。
黒い風はトイレなんて行かないアイドルだからな。
俺もだけど。
大和警部が軽く笑って口を開いた。
「悪いな、わざわざ来てもらっちまって」
「いんや。10ヶ月前に遭ったっていう雪崩の時のこと、まだ思い出してないんだろ?俺が治療したのにすまない」
「別にショックで回路が通ってねぇだけだろ」
あの100階層ニャルダンジョンのクリア後、俺は満身創痍の大和警部を治療している。
その時に欠損部は全て癒したのだ。
故に目の方の古傷も治療済み、視力も復活している。
だが記憶の方があやふやなのは、単にまだ脳の回復に魂が追いついていないのだろう。
肉体から魂への伝播は、本来長い時がかかるからな。
由衣さんが「敢ちゃんたらすぐ無理するのよ!」とポコポコ怒っている。
現在、彼女の正式な苗字は上原でなく大和である。
職場では今のところビジネスネームを使っているらしい。
受付で騒いでいる人らを注視する工藤君と毛利探偵を横目で見ながら、諸伏兄がすっと俺たちを先導した。
「それでは、刑務所の方に移動しましょうか。道中、10ヶ月前にあった件について事情を説明します」
「ほしのせー、悪いやつの檻にいくの?怖い……」
「心配ありませんよ。彼らは皆更生を目指して内部で暮らしていますから」
諸伏兄が工藤君の肩で震える星のオウムを撫でた。
「すみません」と蘭ちゃんがややぺこりとする。
ううむ、夫婦の子供感がすごい。
お、少年探偵団諸君らが工藤君にメッセージを送ってきてくれたようだ。
みんなで大きなパラボラアンテナの前でピースしている写真だ。
可愛いことである。
外は冬で、もうすぐ雪に変わりそうなどんよりとした天気だ。
もしアフーム=ザーが到着すれば、ここは生命の死に絶えた極寒の地へと早替わりする。
ああいやだ。
あの野郎ぶちのめしてマッチの火にしてやる。
そのように、敵意を燃やす俺なのであった。
・ヨグ=ソトース
そわそわ待機中。
息子に祈られた気がしたので腕まくりしてスクワットしてパチパチ虹色に弾けてる。
のに、ニャルに喧嘩売られてメンチ切った。
・ニャル
ハスターがむしゃくしゃした気配を感じ取って呼び出し待機してる。
ふーーん火遊びも雪遊びも嫌いじゃないです。
毟ってアイスバーにしてやりますよ。
………ん?なんで副王がいるんです出番ないですよ引っ込んでてください。
あ゛?