朝である。
昨晩、俺が出ている間に銃撃事件があったらしい。
ホテルに行ったらもぬけの殻だったのだ。
降谷さんに電話したら「勿体無いから君は信州牛を食べていてくれ」とのこと。
偽らざる本心で日本の高級牛を無駄にするなど許し難いと思っているのは伝わってきた。
工藤君も帰ってこないし、俺は一人、もそもそと信州牛のステーキを食べていたわけである。
夜が明けてから詳細は判明した。
昨晩、大和警部達が銃を持った男に襲われたらしい。
運の悪いことに、近場にいた歩美ちゃん達が銃声を聞いて来てしまったので危険で下手に手出しができず。
子供達を守るのを優先したため、犯人を取り逃したとのこと。
山ではまだ捜索が続けられているようだ。
ブレスレットをしていなかった元太君が足を撃たれ、病院に運ばれたらしい。
俺氏、すごくおこである。
は???
犯人がよぉ、俺の面倒見てる子供に手ェ出すとか舐めとんのか???
というか絶対俺が暴れ出すことを懸念して教えなかったろ!!!
俺がいきりたつと、降谷さんがため息をついた。
『イラつかないでくれ。これは人間の事件なんだろう。君は大人しく美味しいもの食べてるだけでいいんだ』
「良くないですー。痛かったろうに、絶対暴れてやるぞ。本気だぞ」
『やめてくれ!メチャクチャ怒ってるじゃないか!!僕まで心がささくれ立って来た!』
すごく非難されてしまった。
仕方ないだろ俺の地雷なんだから。
いくら人間でもやっていいことと悪いことがある。
俺を銃撃しても爆破しても別に全然許すが、子供はダメだ。
「工藤君達は今どこに?」
『……未宝岳の炭焼き小屋だ。犯人捜索中のため、勝手に下山しないよう指示が出ている』
「ひとまず元太君だけ治療に行って、その後未宝岳に行くよ。すごく怒ってます。大和警部も襲われて。本性出してやるこんちくしょうめ」
『君、ガチキレても発言のトーンが変わらないの怖いぞ……怒りが伝播して頭がグラグラする。僕まで怒りが湧いてきた』
「そう。犯人はクソ。然るべき裁きを与えるべき」
『然るべき……裁き………いや待て僕を洗脳するな!もういい切るぞ!』
俺はムッスーと頬を膨らませた。
化身がいうこと聞かない。なんでや。
まず、俺は元太君の運ばれた救急病院に足を運んだ。
太ももを撃たれて派手に出血したらしい。
大動脈損傷で、工藤君が頑張って処置していなかったら命も危なかったとのこと
きっととても痛かったろうに、すごく可哀想なことだ。
まだ朝早く、面会時間ではないため会いに行くことはできない。
というか面会許可は出ていないか。
俺は病院の外からこっそり該当の病室を覗き込んで、魔術を発動させた。
部屋には看護婦さんがいるようだ。
ちょうどいい。
わざと畳んであるズボンのポケットに入りっぱなしのいい感じの石を光らせておく。
それを看護婦さんに発見させると同時に、パキッと石を砕いてから元太君を治癒する。
「それが傷を癒したのだ」という演出だ。
これで急に傷が完治しても後腐れないだろう。
ちなみに石は元太君が道中で拾った本当に普通のいい感じの石である。
後は未宝岳にある炭焼き小屋に向かうわけだが。
転移を使ってから、山を道路に沿って歩く。
規制線が張られていて、交通規制が敷かれているようだ。
諸伏兄とか顔パスできる人はいないかとキョロキョロすると、ふと、後ろから声ががなかった。
「おや………ッ!?!?貴方は…ッ!」
驚愕しているのは見知らぬスーツ姿の男性だ。
その怜悧そうな双眸を目一杯見開き、男性はしばしのけぞった後に慌てて俺に一礼した。
「これは失礼。まさかこのような場所で貴方に会えるとは、思っても見ませんでした。私は内閣衛星情報センターの長谷部と申します」
「なるほど、俺のこと知ってる人か」
「今回盗聴されたデータに、降谷零警視正についてのデータが入っていましたので」
俺は瞬いた。
なるほど、そりゃ大問題だぁ。
人の姿をした異形が体制側の要人だったなんて情報、公開されたら変な憶測を呼びかねない。
「しかし、こちらにはどのようなご用件で?」
「俺が面倒を見ている子達がここにいるからさ。保護しようと思って」
「なるほど。ではどうぞ、お入りください。皆には私から通達いたします」
「ありがとう!助かるよ」
そそそ、と規制線を跨いで俺はペコペコした。
長谷部さんが少しだけ表情を緩めて笑う。
「しかし本当に人らしくあられるのですね。その力は人を容易く救い、滅ぼすものと聞いておりますが。こうして接していて人にしか見えません」
「まあ、意識して人らしくしてるからな。俺みたいなものはちょっとでもボロが出ると怪物になる」
「なるほど。我々に対しそのようにお気遣いしていただき感謝いたします」
なんというか、すごく真面目な人のようだ。
軽く別れの挨拶をしてから山小屋を目指してトコトコ歩いていく。
皆の位置は分かっている。
彼らも下山中のようだし、のんびり途中で行き会えるだろう。
彼らは二手に分かれた、というかバスに乗るメンツと大和警部の車に分かれたようだ。
少し迷ってから、大和警部達に事情を聞くことを選択する。
大所帯だから分かれるのは当然か。
その瞬間。
凄まじい爆発が、耳を穿った。
慌てて跳躍すれば、ちょうど、崖下に墜落する諸伏兄を、諸伏さんが浮遊キャッチしているところだった。
降谷さんが犯人を狙って風で捕縛しようとしている。
────なるほど?
俺はその前に、逃げる犯人を頭上から触手で縛り上げた。
長大な触手玉は小ぶりな一軒家程度の大きさだ。
限定顕現。
人の頭ほどもある無数の瞳がぎょろぎょろと周囲を見渡す。
俺はせせら笑った。
「っ!?!?!?」
【うーん、流石に許容範囲を超えるかな。殺しはしないけど……どうなっても構わないってことだよな?】
今の俺はちょっぴり顕現ハスターである。
いつもは爪先をほんの少し出してる触手の毛先を、手首まで出すぐらいの気持ちだ。
SAN値防壁も完備。
犯人を摘み上げ、触手全ての目をギョロリと睨み据えた。
乱杭歯の生えた口を裂けるように開き、ケタケタと嗤う。
俺は丁寧に触手を使ってフードを脱がせ、ヘルメットを外した。
それは昼に会った、林という隠れ公安であった。
俺の視線という特大の呪詛を受けて、泡を吹いて脱力する。
でも正直俺の気持ちはこれでは晴れない───
「待ってください黄衣さんッ!!!」
【ん、工藤君?】
駆け寄って俺を見上げる、強い光が俺を捉えている。
「彼はこちらで引き取ります。まだ拳銃の出所や動機、盗んだデータの隠し場所など聞きたいことが山ほどありますから」
【良ければ吐かせようか?今ならなんでもしゃべるよ!】
「できれば証拠能力のある証言が欲しいですね…ともかくその超デカ星の精みたいな姿はやめてください。星の精が怖がってます」
【むしゃくしゃぁ!!!ワレェ!どこにも行けない怒り!!!】
「落ち着いてください。コナン姿の時膝に乗せて撫でていいですから」
【!?………男に二言はないな?】
工藤君は失敗したかな?みたいな顔で渋々頷いた。
俺は林という男をぽいっと捨てて、人間体に戻る。
捨てた男を降谷さんがキャッチしたようだ。
星の精は言葉の通り木陰でガタガタ震えていた。
ショックを受けているようだ。
「黄色……ほしのせーより大きい。強そう。許されない。ほしのせーに隠れていいもん食って大きくなった」
『いや元から大きいんだと思う。あ、兄さん怪我ない?』
「景光、助かったよ。キーホルダーは持っているとはいえ、凍った川の下に閉じ込められたら残機が尽きる。お前とお揃いも…まぁ、悪くはないが」
『冗談でもやめてくれ!幽霊は辛いんだ。兄さんにそんな目にあって欲しくない!』
星の精が「ヒゲ…きょうだい居た…?」と困惑している。
ん?諸伏兄のことなんだと思ってんだ今まで。
大和警部が少しだけ慎重に俺に向かって口を開く。
「助かった。そいつはそれなりに暴れたんでな。手榴弾も持ち出していた」
「みんなが無事で良かったよ。こいつは警察である大和警部達に渡しとく。工藤君に説得されちゃったし」
「……ところでなんだが、こいつは無事なのか?」
降谷さんに俵担ぎされながら白目をむいてガクガク痙攣する林を指差された。
俺は頷いて腕を組んだ。
「しばらく経てば喋れるようになるよ。不定の狂気には突っ込ませなかったからな。でも運の悪いことばっか起こるかも」
『俺の呪呪呪が鼻で笑える呪が見える』
「解除しといてくれ。巻き込まれるこっちが迷惑だ」
「うす………」
俺はしょぼんとした。
諸伏さんもどうしてチクったりするの。
せっかく特盛セットをつけておいたのに。
そのように、ひとまずの決着を見たのである。
・ハスター
人間には駄々甘なので、余裕で族滅10回分の怒りでも人間は殺さない。
人間LOVE。最推しコンテンツ。
・ニャル
ハスターの強いむしゃくしゃを感じ取って顕現しようとしてたが、ハスターに「誤報ですおかえりください」って言われてブスくれて帰った。
羽虫が!羽虫がまた我が夫を虐めた!
・星の精
黄色でっかい…なんで…星の精は小さい…。