ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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神の苦しみ、人の苦しみ

 

 長野にある山菜料理の名店に来ているなり。

 

 俺と諸伏兄はその和っぽい門をくぐり、予約の諸伏です、と受付に声をかけた。

 

 今回の俺の活躍のお礼、と言う名目である。

 だが大和警部と由衣さんは仕事でおおわらわだったし、降谷さんと諸伏さんも同様に後処理に追われていた。

 工藤君は蘭ちゃんと長野観光デート。

 毛利探偵は葬儀の出席のため急いで帰宅となると。

 

 俺と諸伏兄だけが残ってしまった、というわけだ。

 向こうもそれを押して誘っているようだ。

 何か話したいことがあるのは間違いない。

 

 ここは上品な日本料理の店だ。

 そこは個室の人気店で、予約が取れたのは偶然だったと言う。

 内容も、お任せコースのみと言う格式高い雰囲気だ。

 お品書きに記された値段に目が飛び出そうになりながら、俺はおずおずと座った。

 

 その向かいに諸伏兄が座り、静かな空気の中料理が来るのを待つ。

 諸伏兄がそっと口を開いた。

 

「景光の様子はどうですか?」

「人格的に安定してるよ。恨みは抱いてるようだけど、人間的範疇にとどまるかな」

 

 彼自身、生者に恨みを抱いている節は出会った時からあった。

 しかしこれは死者だからというより、三年の間長い苦しみに晒されたが故の人間的な歪みだろうと思う。

 あの苦しみにおいて、皆がいつも通り暮らしているのを目にしたらそりゃ多少の恨みぐらい抱くだろうさ。

 

 諸伏兄が僅かに視線を下げて、湯呑みをじっと見た。

 その苦しみに思いを馳せているのだろうか。

 

「……あの子は誰を恨んでいるのですか」

「特定個人ってわけじゃない。いわゆる『どうして俺だけがこんな目に』ってやつだからな。境遇からすれば健全じゃないか?」

「そう、ですか」

 

 深刻そうに視線を揺らす諸伏兄に対して、俺は言葉を続けた。

 

「気になるのは存在規模の方だな。だんだんと大きくなってる。実在できる時間も否応なく長くなってる」

「つまり、景光は死ねないと?」

「そこまでは言えないかな。所詮人間の霊体だから、ちょっとした攻性魔術で霧散するし。俺たちみたいな不滅とは根本的に段階が異なるよ」

 

 俺はウェイターさんが運んできたなんだか香り高い茶を飲んで、息をついた。

 相変わらず諸伏兄の雰囲気は暗い。

 

「ようは神話生物みたいに死ねなくて七転八倒、苦しむことはないってことだから、安心してくれていい」

「その言い回し、あなたはそうした経験があると言うことですか?」

「……まあ、昔の話だよ」

 

 誤魔化したのに、諸伏兄がやけに真っ直ぐに見つめてくるので、俺は続きを語らざるを得なくなった。

 俺、この手の自分語り苦手なのに!

 

「あー。俺たちは不滅で不変なんだ。それは肉体に限った話じゃない」

「魂もそうだと言うことですか?」

「うん。もっといえば「精神」からしてね」

 

 要は永劫こういう性格、ということだ。

 

 タイムスパンが長いから、人間から見れば卑屈になったり改心したり見えるかもしれない。

 だが長い目で見れば全く性格は変わらない。

 精神は魂の一要素であるからして、魂が不変であるのなら、性格だって同じくなのだ。

 

 もうずっとずっと前から、俺はこの性格だ。

 例外はニャルぐらいなもの。

 あれは千変万化だから決まった性格がないのだ。

 今は降谷さんをベースにしているからすごく話が通じる方だが、場合によっては超邪悪我儘マンになる。

 

 俺は運ばれてきた何やら上品な先付けを口に運んで、一息ついた。

 

「まあなんだ。だから、人間が思うより辛くはないってことさ」

「己の不死性が時をもって心を癒すと。随分残酷な話に聞こえますが」

「そうでもないさ。人間だって、若い日の苦しみが、老いた日の疼く古傷になっていることはしばしばある」

 

 そういう意味で、ヨグ=ソトースはこの世で特に偉大な神と言えるだろう。

 あらゆる生命に忘却という癒しをもたらす、慈悲深い神である。

 

「というわけで、諸伏さんの報告は以上。これからも継続して確認していくから、何かあったら知らせるよ」

「ありがとうございます。お礼と言っては不十分ではありますが、ここの会計は私が支払わせていただきます」

「!?!?!?」

 

 俺は思わず瞠目した。

 今食べてるコース4万5000円もするのよ???

 俺がぶんぶん首を振ると、諸伏兄は断固とした口調で頷いた。

 

「これは初穂料の類ですのでお構いなく」

「いやぁ………そうかぁ、奉納かぁ」

 

 奉納金と言われたら神たる俺は黙って受け取るしか道はない。

 だがそのまま受け取りっぱなしというのは沽券に関わる。

 

 俺はズイと亜空間から菓子箱を創造して出した。

 黄色の印とともに緩いイカさんのキャラクターが踊るオリジナルデザインだ。

 「つまらないものですが」と言って差し出すなどする。

 

 諸伏兄が瞬いた。

 

「これは?」

「俺の加護詰め合わせパック。大福型で、食べると一時間効果が続く。各効果は中の紙を見てもらえれば分かるかと」

「受取拒否はできますか」

 

 なんで???????

 

 俺が諸伏兄を凝視すれば、諸伏兄は咳払いして胡乱な顔をした。

 

「単なる心付けですので、そんな一瞬で即物的に返されるのは認識違いです。おまけに消費者金融も驚愕の高配当とは…」

「そこをなんとか!」

「……わかりました。あなたを困らせるつもりはありませんので。これは敢助君達と食べます。しかし、人を軽々に甘やかさないようにお願いします」

「うす」

 

 怒られが発生し、おれは触手全部をしおっとさせた。

 人間、みんななんか俺に厳しい……。

 

 同じデザインの紙袋も出して渡しておく。

 実は俺がコソコソと作った贈答用のここだけのデザインだ。

 中身が長持ちして、もっていて疲れにくく軽くなる加護などがかかっている。

 よし!!!受け取ってくれた!!!

 

 俺のガッツポーズに、諸伏兄がジト目でこちらを睨みつけた。

 

「あなたは人間に甘すぎます。気軽に手を伸ばしすぎているともいえましょう」

「だって……赤ちゃんには可愛い服を贈りたいだろ?当の赤ちゃんはデザインなんて一ミリも気にしてないかもしれないけど!」

「つまり自己満足と」

 

 厳しい言葉が突き刺さり、俺は撃沈した。

 そうだね………そのとおりです………。

 俺は全身をしおしおのヘニャヘニャにすると、諸伏兄が大きなため息をついた。

 

「それは人間のためにも、何よりあなたのためにもなりません。人は怠惰な生き物です。そのうち歩くことすら忘れ、あなたに乳母車を押してもらおうと喚き立てるようになるでしょう」

「………まぁ、な」

「とはいえ。あなたに助けられた私が、それを言うのはとんでもない傲慢でしょうがね」

 

 僅かに自嘲が顔に滲む。

 そんなの気にすることはないのに。

 俺は君たちが生きていてくれるだけでこの上なく嬉しいのに。

 

 そんなままならぬ気持ちを抱えながら、俺は瞳を伏せたのだった。

 





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諸伏兄「だからそれが安売りだと言っているのですが」
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