ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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水平線上の陰謀〈ダゴンの陰謀〉

 

 夕方5時からはウェルカムパーティである。

 

 風に溶け込んだまま、降谷さんが姿を表さぬよう周囲に警戒を配っている。

 正式な乗客じゃないからこうせざるを得ない、ということらしい。

 

「ほんと器用だな降谷さん。通常の大気に体を紛れ込ませてステルスとか」

【僕は魔術が上手くないからな。こういう小技は大事だろうさ】

 

 耳元に降谷さんの声が届く。

 どうやら自らの体たる風を揺らして、小さく指向性のある音にする技術を身に付けたらしい。

 この海域一体に体を溶け込ませて監視もしているようだし、本当に多才な人だ。

 たぶんこの会場内の雑談も全て聞いてるだろうし。

 根がハイスペなんだよなぁ。

 

 コナン君がやや考え込んだ上で降谷さんに話しかけた。

 

「秋吉さん、もう一人の犯人は動くと思う?」

【日下を押さえれば、おそらく。彼女の復讐はまだ終わってないからな】

「あの人が罪を犯してたのは間違いないけど、証拠が足りないのが歯痒いね。というか黄衣さん、『犯人達』って口を滑らしてたし」

【黄衣君はいつもガバガバだ】

 

 俺は「やんのかオラ!」といきりたつなどした。

 たしかに事件の説明の時うっかり口を滑らせてたけどさ!

 これは事故なのじゃよ!

 

 それに、今回俺はほぼ推理にはノータッチなので正直何もわからない。

 ほんとほんと。ハスター嘘つかない。

 

 二人は俺を全然無視して「ここで尻尾を現してくれないと面倒なことになるか」「だね。できればここで確保しておきたいけど」と会話している。

 

 なお、星の精はコナン君のポケットで引き続き少年探偵団と交信するのに夢中で何も聞いてないようだ。

 「クス、クスクス!」とはい・いいえで答える原始的な交信だ。

 長電話にハマる昔の若者みたいにずっと喋っている。

 うむうむ、健全に成長しているようで何よりである。

 

 

 ちなみに、このパーティは正装なので窮屈なスーツを装着中である。

 

 すっかり体力も回復したらしい園子ちゃんが、蘭ちゃんと一緒に会場に入ってきたのが見えて、俺は二人に駆け寄った。

 

「もう体はいいか、園子ちゃん」

「大丈夫よ。すぐ見つけてもらったし、体が冷えただけだしね」

「ならよかった。あんまり無理はしないようにな」

 

 そう言って軽く体力回復の魔術をかけておく。

 加護未満の軽い術だから頼りないが、こういう時はそっと様子を見るものだろう。

 蘭ちゃんはまだ心配そうだ。

 

 俺がごそごそと園子ちゃん分のお守りを取り出そうとして、園子ちゃんに静止される。

 

「いいのいいの!あんまり頑丈に守られちゃうと京極さんに飽きられちゃうわよ。女は時々ピンチになるぐらいがちょうどいいの!」

「う、うぅん……気をつけてね。ほんとに」

「分かってるわよ!この園子様に任せなさい!」

 

 園子ちゃんはウィンクした。

 あえて明るく振る舞ってるのは明らかだ。

 俺が背負いすぎないように、加護を振り撒きすぎないようにしているのだろう。

 

 本当に、このご令嬢には敵わない。

 

 

 

 さて、時間だ。

 ウェルカムパーティが始まって、壇上にて船長達が挨拶を始める。

 しかしその直後、たちまち混乱が露呈した。

 

「八代社長が殺されたって本当ですか!?」

「まだ殺人犯が捕まってないんですよね!?!?」

「み、皆様!落ち着いてください!」

 

 もともと、社長の刺殺に会長の行方不明は客たちの間でも噂になっていたようだ。

 そこにやってきたヘリは胴体に「警視庁」と記されているし、着陸を窓から見ている客たちも大勢いた。

 物々しい警官たちが沢山現場検証にやってくるわけで、噂に伴う不安はピークに達していた、ということらしい。

 

 目暮警部の隣にいた毛利探偵が俺に駆け寄ってきて、小さく「黄衣、すまねぇが…」と頭を下げる。

 俺は頷いて、ゆったりと壇上に上がった。

 

「ご安心ください!現在、ここで起きた事件等については我々の方で捜査が進んでいます!」

「あれは…黄衣ハスタじゃないか?この船に乗ってたのか」

「わぁ!本物初めて見た!」

 

 俺がわざと壇上近くで声を出せば、一気に客たちの雰囲気は好奇の眼差しに変わった。

 声に安心感を覚えるように魔術を練り込んである。

 

 こういう時、俺の知名度は重宝するものだ。

 

 ついでとばかりにコナン君がさらっと後ろにシール型スピーカーを貼り付け、蝶ネクタイ型変声機を取り出した。

 このスピーカー、ここまで小さいのに肉声に聞き違えるレベルの綺麗な音出すんだよな。

 さりげなく阿笠博士は音響機器に進出できると思う。

 

 あとは推理ショーである。

 

 そこからはいつもの通り、滔々と流れていく。

 やや考え込むような顔の毛利探偵が少しだけ気になるか。

 なんにせよ、俺はスピーカー役をまっとうするだけだ。

 

「そう。だから犯人は日下さん、あなたですよね?」

「………はは、まさか、そんな。誤解です。僕は」

 

 動揺する犯人を警官達が取り囲んで。

 その上でなお、毛利探偵は真っ直ぐに秋吉さんを見つめている。

 

 おや珍しい。すでに毛利探偵も、コナン君と同じ結論に達していたようだ。

 これにはコナン君もびっくりしたらしく、目を見開いて毛利探偵を見ている。

 

 あの犯人、妃弁護士にすごく似ている気はしていたが。

 慎重に立ち回る毛利探偵は、INT差すら超えて真実に辿り着くというわけか。

 刑事としての経験と証拠集めの確かさから来るものだな。

 どうやら事件後精力的に情報を集めていたようだし。

 

 日下という男は不意に「近寄るな!」と警察を振り払った。

 そして凶悪に嗤って、懐からスイッチを取り出す。

 

「お前達動くな!動くと爆弾を爆発させる!」

「!?!?落ち着きたまえ!」

 

 目暮警部が驚愕に叫んだ。

 おやまぁ、この逃げ場のない海上で爆弾とは、面倒臭いことをしおってからに。

 「近寄るな!」と日下が周囲を威嚇する。

 

 日下はナイフも所持していないから人質を取るのは不可能。

 とすると………ッ!

 

 俺はすう、と目を細めた。

 最悪のタイミングだ。

 

「悪い降谷さん、万一のために爆弾を封じておいてくれ。俺は外に行く」

【ッ、まさかもうダゴンの軍勢が来たのか?】

「タイミングの悪いことにな」

 

 ダゴンとの契約が不履行となったことで、その罰を与えに来たのだろう。

 あるいは奴らも虎視眈々とこの時を、契約違反になる時を待っていたのかもしれない。

 

 混乱する人混みに紛れて外へ出る。

 もし何かあっても、コナン君がいれば問題なかろうよ。

 

 誰もいない夕暮れのデッキの先頭に出る。

 海には特に変わったところはないように見えるが、海の深いところでは包囲されているだろう。

 風に混じって周囲を警戒する降谷さんでも見つけられない、深海に潜んでいる。

 

 俺は化身をほどき、豪華客船を包み込む巨大な触手姿に早変わりした。

 頭から胸まで出した程度の顕現である。

 もちろん人間が見てしまわないよう、人間向けの認識阻害は完備している。

 ついでに海一帯にも認識阻害をかけて、ダゴンを目撃してしまう人が出ないようにする。

 

 細やかな魔術が瞬きの間で完成する様子に、降谷さんが吐息を漏らした。

 

【相変わらず流石だな。これほどの規模の魔術を、コンマ秒にも満たない速度で発動するとは。魔術の神の名は伊達ではないということか】

【褒めてもなんも出んぞー。ところで魔術勉強が気軽にできるゲームアプリ作るから試遊たのむ】

【出てるじゃないか】

 

 気の抜ける雑談をしつつ、俺の臨戦体制をうけてニャルも盛り上がってきたらしい。

 不定形の触手ボールみたいな姿になって、俺の頭部にへばりつき激しく触手をうねらせている。

 

 降谷さんが凄く訝しげになってしまった。

 

【ところで、これで船を襲う奴がいるのか……?死ににくるのと同義じゃないか】

【たぶん深き者どもがさっき水上を確認したばかりだから、まもなく全員が浮上してくると思う。つまり飛んで火に入る夏の虫】

【オラオラ!僕が全部プチッと潰してやりますよ!我が夫、見ててくださいね!】

 

 降谷さんがどんよりとした声色で「人間は生かしておいてくれると助かる」と呟いた。

 人間は生かすに決まっとるやろがい。

 いや、ニャルはついでに人間もプチプチしそうだから見張っておかないといけないけど!

 

 さて、間も無くのことだ。

 

 大量の魚どもが水面に姿をあらわした。

 槍を持ち、厳しい顔つきで深海より急浮上している。

 

 そして船に絡みつく旧支配者ハスター、外なる神ニャルラトホテプを見てカチンコチンに硬直した。

 

 一気に覇気が萎えてしおしおになっていく。

 俺の人間向けSAN値防壁が効いて発狂者はいないようだ。

 「おいどうするよこれ」「間が悪かった気がする」みたいな表情で深きものどもが顔を見合わせている。

 船の側面に顔を出した巨大な影、ダゴンが遅れて状況に気づいたらしい。

 

【─────!?!?!?】

 

 大慌てで撤退を指示している。

 ニャルラトホテプが無数にある口でゲラゲラと嘲笑した。

 

【やだなぁ、逃すわけないじゃないですか。ほらプチッとな!】

 

 瞬間。

 プチッ、という軽い声と共に、50の深きものどもがめしゃりと潰れて赤い体液を海に撒き散らした。

 

 ニャルのなんとなく魔術だ。

 その時の気分によって組成がまるで異なるので、防ぐには極めて高度な解析力が必要な呪詛である。

 

 ぷち、ぷち、とニャルが口にするたびに深きものどもの血で海が汚れる。

 魚どもは慌てて海の深みに逃げて阻害の加護を使おうとするも、俺が海に干渉しているために逃げられない。

 パニックの中、「海に頭をぶつけて」狂乱状態に陥っている。

 

 これは海に鉄の性質を与えて封鎖しているのだ。

 潜れないまま、どんどんとニャルは深きものどもを虫のように潰していく。

 

 ダゴンが憤怒に咆哮した。

 俺は嘲笑して触手を揺らした。

 

【お前たちの被害なぞ知るかよ。ゴミのように死に絶えるがいい。お前達のような害魚が地球にいること自体が間違いなんだ】

【─────!!!】

【知らんな。では、ミンチのお時間だ】

 

 たまには風を使うか。

 降谷さんを含んだままの風を励起、圧縮、圧縮、圧縮。

 白熱する雷と変えて、そのままダゴンの内部に転送した。

 

 もちろん船にはなんの影響も与えないように注意している。

 

 瞬時に解き放たれた熱量によって、ダゴンは内側から爆散。

 そのまま肉片一つ残さず消え失せた。

 

 ……………?

 あれ、クトゥルフの加護を考慮して強めに作ったのに、加護のあまりかかってないダゴンだったらしい。

 ミンチになる前に消えてしまった。

 

 俺はむしゃくしゃしてニャルに抱きついた。

 

 ニャルはすでにプチプチを完了していたようで、なんだなんだと俺に擦り寄った。

 

【あいつが想定より弱っちかった!せっかくミンチにするつもりだったのに!】

【なんと!空気の読めない雑魚ですね!よしよし、我が夫も傷つきましたよね】

【にゃるーーー!】

 

 降谷さんが「あまりに傍若無人すぎて怪異に同情する時が来るとはな…」と頭痛のしているような言葉を残した。

 なんでや。魚如きに情を傾けるのは裏切りやで。

 

 内部でも無事にひと段落ついたらしい。

 降谷さんが爆弾の起爆装置を風でロックしているうちに、逃げようとした日下をコナン君が殺人シュートで仕留めたようだ。

 いや仕留めたら事案だが、あれは仕留めたという表現でいい気がする。

 

 もう一人の犯人、秋吉さんも毛利探偵が取り押さえたらしい。

 こちらも爆弾を仕掛けていたようだが、後ろから捻り上げて起爆装置を取り上げたようだ。

 毛利探偵……有能な人……!

 

 すなわち、世は全てこともなし。

 

 魚の死骸を魔術でさらりと片付け、魔術によって異常は隠し通された。

 

 船は通常通り優雅に運行し、爆弾満載のまま近くの港に寄港したのであった。

 





・ダゴン
クトゥルフの大きめの落とし子のようなもの。
沢山いる。
爆散してお亡くなりになったが、下拵えは済んだのでダゴンの中では超有能なやつ。
日本有数の財閥たる八代グループを15年も脅せたのはかなりの収穫だった。
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