ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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天空の難破船〈疱瘡神〉

 

 本日、大事件が起きた。

 俺は深夜に呼び出され、西多摩市の国立東都生物研究所まで駆けつけることになったわけだが。

 

 そこではすでに救急車も消防車も退避していて、だというのに未だ轟々と燃え上がり火の手が上がっている。

 放置された現場は、さもありなん。

 

 俺たちのような人外以外が立ち入るには危険すぎる、凶悪な死地だからだ。

 

 降谷さんがこちらへと駆け寄って、火の手を見上げて冷淡に口を開いた。

 その身体には黒々とした災厄の風を纏っている。

 

「すでにあたり一帯の住人の隔離と検査体制が整っている。君の作ったアーティファクトで一人ずつ検査して行っている。陽性者は別室で待機してもらう予定だ」

「了解。こっちは今から処理だよ」

 

 よいしょ、と。

 俺は魔術を編み始めた。

 

 始まりは本日21時50分ごろ。

 

 七人組の武装勢力に、この国立東都生物研究所が襲われた。

 狙われたのはここで研究していた危険なウイルスのようだ。

 男達は研究員を拉致して扉を開けさせ、ウイルスのアンプルを盗んで行った。

 

 その盗んだ細菌が、問題だったわけで。

 

 俺はチラッと降谷さんを振り返って口を開いた。

 

「それで、主任研究員はなんて言ってた?」

「這いつくばって君に許しを乞うてたさ。抵抗して人間種を傷つけるわけにはいかなかったとな。イ=スの偉大なる者だったかあのいつぞかの熱愛夫婦と同じ。危険はないのか?」

「まあ、イ=ス人がどうしようもなかったって言うなら本当だろう。彼ら、すごく頭いいし、悪意がないから」

 

 術式を細かく調整して、魔術を構築した。

 黄の印を用いた正式な権威の付与である。旧神程度の権能を祓うのには十分すぎる。

 

 ここには、ウイルスを媒体にした旧神が保管されていた。

 一般には疫病神、もっと言うなら「疱瘡神」と呼ばれるものだ。

 

 世間では天然痘の神として恐れられているが…。

 コイツはどちらかと言うと「人が体調不良になる原因、元凶、悪いもの」という概念を持つ旧神である。

 

 ウイルスの姿をしているのは、古い時代の魔術師が「かの神の原因はこれだ!この病だ!」と概念的に封印したからだろう。

 それが今に至って、魔術師が遺跡から採取したのだと聞いている。

 

 しかし魔術的封印が解かれ、ここにあった凶悪なウィルス群の全てがその旧神の影響で活性化している。

 爆発による高熱にも負けずに広範囲に飛んでしまったからな。

 そのせいで消防にも警察にも救急にもすごい被害が出ている。

 

 到着した時、駆けつけた救急隊員と消防員が地面に転がって内臓でそうなほど血混じりに嘔吐していた。

 神性に増強された疫病に侵され、虫の息だったと言っていい。

 

 慌てて俺が治療を施さなければどうなっていたことか。

 事件直後に事態に気付いたイ=ス人が俺に直接連絡して来なければ、もっと被害が増えていただろう。

 

 降谷さんが手の中に黒い厄災の塊を生み出して、ため息をついた。

 

「人と共に疫病神の科学的研究をするのは構わないが、警備が脆弱すぎるな」

「畑で爆弾とれるもんな。封印施設が自生の爆弾程度で吹っ飛んでもらっちゃ困るよな」

「その通りだが発言に悪意が見える。この件はコナン君に報告させてもらう」

「なんで!?!?!?」

 

 俺はいきりたってブーブーとブーイングをした。

 俺に怒られが発生するのに!コナン君を持ち出すのは卑怯だ!

 彼、最近己の見た目の有益性に気付いて飴と鞭の要領で撫でさせたり撫で制限したりするんだよな。

 

 悔しい…でもかわゆ……。

 

 降谷さんが肩をすくめて半笑いになった。

 

「ひとまず、一帯のウイルス・細菌の制御権は僕が奪取できた。このまま取り込んで無力化を図るつもりだ」

「サンクス、頼んだ。諸伏さんは?」

「ヒロならナラトゥースと共に被害状況を確認している。今本部では報道について小田切警視長が対応しているはずだ」

 

 一応、あくまで爆発事件だけを報道して、バイオテロには触れないように報道規制を敷くつもりらしい。

 

 そうして話している間に、キュッと術式を構築完了。

 貴重なウイルス群を殺すことなく、ここに残っていた神性の破片を滅ぼしておいた。

 

 降谷さんのインカムに連絡が来ている。

 

『降谷さん、消防の防護服対応が完了しました。突入は可能ですか?』

「ああ。こちらも問題ない。ナラトゥースとヒロはまだ中だが、特に気にする必要はない。消火作業に入ってくれ」

『了解しました』

 

 可哀想な第一陣が七転八倒で救急病院行き。

 それを助けようとした人も次々倒れて死屍累々。

 これを怪異というよりバイオテロの恐ろしさとして捉えたようで、皆かなり慎重になっている。

 

 多臓器不全で内側から腐って黒い血を吐いて苦しむ様子は、俺の魔術で回復したと言っても精神的に冷静ではいられないのは当然だ。

 

「じゃ、俺は主任研究員のイ=ス人に話を聞いてくるよ。人間相手じゃ話せないこともあるだろうし」

「すまない。僕は警視庁に戻るから、終わったら連絡してくれ」

「オーケー。というか、そのまま警視庁に戻ったらばっちいものが来たみたいな扱い受けそう」

「やめてくれ。僕は疫病の嵐だぞ。取り込んだ貴重なウィルスのサンプルも後日研究所に返却する予定だし、消毒されたら困る」

 

 嫌そうに身をすくませたが、ちょっと想像がついたのか渋面を作った。

 

 まあ、病の旧神に比べたって黒い風の方が権能としては強いからな。

 制御をミスするはずもないのは理解できる。

 だが人の心はままならないもの。

 

 降谷さんは渋々と言った様子で上に指示を仰いで、「僕は汚くない」とむっつりしながら部下たちの方へ駆けていった。

 

 

 消防車の放水がはじまったようだ。

 裏口から煤だらけのナラトゥースと諸伏さんが逃げ出してくるのが見える。

 

『うぉぉお俺らが中にまだいるのに!俺らにはダメージないからってゼロ容赦なさすぎだろ!』

【ギャウゥ………】

 

 おや、水も滴るいい男という格言もあるのだが、ナラトゥースはしおっとして肩を落としている。

 パリッと手入れされた服がぐしゃぐしゃになって悲しいらしい。

 諸伏さんを庇うように火の粉を払いながら、ナラトゥースがこちらへと近寄ってくる。

 

【ギャウ。ギャウ】

『ありがとな、ナラ先輩。でも死なないし、俺は大丈夫だって!』

【ギャーーーウ】

 

 おお、「人間的感覚を捨てるのは早いぞ」って諸伏さんがナラトゥースに窘められている。

 優しい旧支配者だ。

 むしゃくしゃするからぶん殴ってやろうかな。

 

 しかし、なぜ犯人は旧神・疱瘡神を盗み出したのか。

 俺は炎によって紅に染まる夜空の黒雲を見上げながら嘆息した。

 

 何に使うにせよ、大惨事は避けられそうにない。

 





・黒い風
存在規模の成長により、かなり格の高い疫病の神になっている。
根本的にはもっと広く「災害」の神。
豪雨、洪水、高波、雷、嵐、病、虫害。
降谷さん自身は少し気にしてて、「日本らしいと言えばその通りだが、そういう意味で日本らしくなりたかったわけじゃない」と膨れている。
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