コナン君と急ぎ探した結果、アンプルは喫煙室で発見できた。
魔術的に封印されてはいたが、すでに喫煙者を通して蔓延してしまっている。
というか、封印が解かれればどこにウィルスがいようと関係ない。
結局権能の届く範囲全てが人間にとっての即死域なのだから。
「ともかく、動く前に降谷さんと中森警部に伝えなきゃな。悪いがコナン君は子供達を探してきてくれ。なんかさっき探検に出るみたいなこと言ってたから」
「………黄衣さん怒ってる?」
「怒ってまーす。もう子供達も感染してるし、あのクソ害魚ども族滅するしかないよなぐらいに煮えたぎってまーす」
実際には現状潜伏期間であり、封印もあるから子供達にとっては単に「致死率80%の治療法不明のウィルス」でしかない。
魔術を用いれば治療は容易いだろう。
だがこれだけ本体に近く権能が密接に結びついているとなると少し問題だ。
俺が消し飛ばした場合、弱っちい疱瘡神の本体丸ごと消滅させてしまう。
そうなれば後々大きすぎる問題へと結びつくだろう。
あーーーーむかつく。
むしゃくしゃの一段階上の単語である。
中森警部のいるスカイデッキに向かう途中、スマホが鳴ったので出ることにする。
通話ボタンを押した瞬間、降谷さんの叫びが耳を打った。
『そっちは無事なのか!?!?何があった!?』
「お、ちょうど良いところにかけてきてくれた。こっちも降谷さんに報告しなきゃと思ってたところなんだよ」
『……相変わらず寒気がするほどいつも通りだな…信じられないほど怒り心頭なくせに』
なんだか降谷さんにドン引きされてしまったようだ。
俺は自制心が強い方なんですー。
これは人間に対してだけはだけど。
「要点だけ言うと、飛行船の中に例の疱瘡神ウィルスがばら撒かれてた。たぶんハイジャックして重要施設に突っ込むつもり」
『ッ……君の方でウィルス除去は可能か?』
「できるけどその場合疱瘡神も死んで各産業に大打撃」
『なら代替案として、僕が代わりにその枠を担うのは可能か?』
「可能だね。でも警察やめて専業にした方がいいレベルの重労働。疱瘡神の偉大さがわかる」
とはいえ、全てが手詰まりというわけではない。
単に今すぐ事を処理しようとするからこうなるのだ。
この密閉空間であれば、一週間ぐらいかけて俺が全てのウイルスを濾し取るのは十分に可能だろう。
降谷さんは重い重い息をついた。
『なんにせよ、赤いシャム猫をどうにかするのが先ということか』
「そこでなんだが、俺が目にもの見せるのはダメ?全員後悔させてやんよ。あと魚は全員処分」
『落ち着いてくれ。荒ぶるな。座ってるんだ』
「うおおおイライラぁ!ぶっ飛ばしてやる!!!」
俺はジタバタと暴れた。
コナン君が目をキュルンとさせてピトッと引っ付いてくれたので、無言かつ高速で撫でさする。
かわゆいねぇ!!!なでなでしようねぇ!!!
すこぶる迷惑そうなコナン君の視線が突き刺さる。
『僕は西多摩市のバイオテロの対処が終わり次第急行する!ともかく、軽率な真似をするなよ!この件は複数部署で共有する!』
「了解。飛行船には中森警部も乗り合わせてるから、アンプルを見つけた件を報告しておくよ」
『頼んだ。っヒロ、聞こえるか…』
通話が終了する。
向こうも忙しそうだ。
中森警部に話すと、その時はやや訝しげだったが。
念のため対キッド用の防毒マスクで確認してもらうと、すぐにアンプルは見つかった。
かなり深刻そうに頷いて、頭を押さえたのは俺も見た。
あとは次郎吉さんを交えての情報共有だ。
俺がそのウィルスについて説明していく。
怪異混じりの凶悪なものだが、死滅させれば日本社会に大きな影響を与えるものだという話だ。
すると、すぐに発着場にUターンすることが決まった。
このままであれば、時間はかかるが俺の方で除去が可能だ。
発着場に医療施設を整えて、船内から出ずに一週間俺の魔術でウィルスを外に出すことを計画しているのだ。
また、すぐに公安が到着することを告げれば、中森警部が半目で俺を睨みつけた。
「薄々わかっちゃいた事だが、やっぱりあんた公安の協力者だったんだな」
「まあな。多いぞ、こういう怪異に詳しい人間を協力者にする事。そうしないと怪異犯罪に対処できないし」
「だろうな。まあ、次の赤いシャム猫の動きを注意する必要だけはありそうだ」
俺は中森警部の意見に同意した。
この計画は、飛行船をハイジャックしなくては話が始まらない。
話もそこそこに、中森警部には喫煙室の封鎖などのお仕事に移った。
外に出ると、聞き耳を立てていたらしいウェイターさんが目についた。
顎でしゃくって別室に移動してから話しかける。
「よっすキッド。コナン君今どこにいるかわかる?」
「うお!?だから変装中に急に見破ってくるのやめてくれねぇ!?」
「なんかさっき蘭ちゃんのこと騙してたの見たよ。『驚愕!怪盗キッドの正体は工藤新一!』コナン君に言いつけてやろ」
「やめてあの殺人シュートが首に決まったら冗談じゃなく死ぬ!!」
フスフス笑う俺の姿に、キッドがむすっとして腕を組んだ。
「ったく。名探偵はガキどもを探してガス袋のある機関部屋にこっそり侵入してたぞ。あのオウムモドキ付き」
「お、星の精は少年探偵団と一緒か。サンキュー、なら俺も、」
その時のことだ。
船内アナウンスが、奇妙な緊迫感を伴って飛行船中に響いた。
『船員他、乗客は全員ダイニングに至急集まれ!繰り返す!』
次郎吉氏の声だ。
どうやらあの部屋を出たあと、ダイニングで何かあったようだ。
先ほどの話をまるっと聞いていたらしく、キッドが肩をすくめて笑った。
「船内に手引きした奴がいるな、こりゃ。俺らの命も風前の灯か」
「いやぁ、キッドは腕利き魔術師の防護魔術かかってるから助かるよ。君、小泉さんには頭下げときなよ」
「おう……」
神妙にしたキッドと別れて、俺はモソモソとダイニングへと向かう。
俺が隠れ潜む意味は無いし、集められたスタッフさんたちの保護に回ろうと思ったからだ。
入室してすぐ、銃口がお出迎えした。
リーダー格と思しき男がニヤリと笑う。
「ほう、正直だな。それとも間抜けなのか?」
「隠れ潜むのは苦手でね。あんたらの纏う疱瘡神の疫病を防ぐ術式でも拝んでおこうと思ってさ」
「!!!」
リーダーの男が血相を変える。
俺の言葉の意味するところがわかったらしい。
「やはり間抜けだな。危険因子は殺しておくのが正解だとわかってないようだ」
「へえ。そのサブマシンガンで撃って殺すのか?人質がいるし、せっかく大人しくしてやろうと思って投降してきたのに。豆鉄砲程度で来るとはなぁ」
「………」
男は俺の言葉の意味するところを正確に理解したようだ。
つまり「俺は魔術を使えるぞ。現代兵器程度意味はない」ということ。
男は歯軋りした。
テロリスト達の一人に「こいつを見張ってろ!」と言いつけて、俺を人質たちとは別の場所に隔離する。
人質の中には蘭ちゃん達の姿も見える。
不安そうに身を寄せ合っていて、むしゃくしゃが募る思いがする。
男の無線から声がする。
「ガキどもを見つけました!このガキども…爆弾六つが全てダメにされました!それにキャットCも!」と焦ったような声だ。
どうやらコナン君がついでに爆弾を解除しつつ男の仲間の一人を仕留めたらしい。
だが子供達がいるし、何よりここには人質がいる。
「一人ずつ人質の頭をジャムみたいに弾けさせていくぞ」とでも言われればどうしようもない。
しばしの間の後、銃を突きつけられて子供達がダイニングへと連れてこられた。
可哀想にみんなしおしおで、星の精もしょげかえってパサパサの羽になっている。
コナン君が「僕が全部やったんだよ!」と皆を庇うように前に出た。
リーダーの男が醜悪に嘲笑した。
「そうか、正直なガキは嫌いじゃない」
言葉と同時にババババ、と空薬莢が宙を舞う。
秒間十二発の弾丸がコナン君の小さな体にぶち込まれて。
それがギリギリでブレスレットに阻まれる。
その結果を確認する間も無く、男はコナン君を飛行船の窓からその体を放り捨てた。
先ほどの銃弾で何一つ痛痒は与えられていない。
放り出されたところでコナン君は身一つで飛べるし、彼の安全は脅かされていない。
でも。
【────はは。流石にちょっとカチンと来た】
俺は腕の側面にぞろりと裂けた口を生やし、触手ともつかぬ舌を這わせた。
・深きものども、藤岡
流石に飛行船にハスターが乗ってるとは思ってなくて死を覚悟した。
に、人間、お前らにハスターは甘い。慎重に、刺激せずやればいける可能性は残ってる!
あっ馬鹿!人間!怒ってる旧支配者を刺激するな人間待て待て待て待……死ッ……!