さて、事件の波も落ち着いてきた頃合いである。
無事週刊誌に内部情報が漏れて「黄衣ハスタは怪異使い!?その違法性を問う!」とか見出しが踊ることになった。
俺の神秘的な雰囲気にぴったりと喜ぶファンもいたが。
「何にせよ普段から怪異持ち歩いてるなんて、拳銃持ち歩くのと変わらないだろ」とのもっともなお叱りまであった。
俺は方々に対応することになり、忙しく事件と芸能の狭間を過ごしている。
そんな今日は、ベルツリータワーに来ている。
「先日はすまなかった。お主には最高の席を用意したから、ゆっくりして行ってくれ!」
「いえいえ。お招きいただきありがとうございます、鈴木相談役」
俺は鈴木次郎吉相談役にぺこりと挨拶した。
この人は俺の正体を知っても全く態度を変えないんだよな。
たぶん「そのような反応を俺が望んでいる」と敏感に感じ取って振る舞っているのだろう。
財界の猛者はこう言うところが流石の一言なんだよな。
コナン君は青の玉座(アズールスローン)を一足先に見に行っているようだ。
俺と降谷さん、諸伏さんで鈴木次郎吉相談役と少し話立ち話をする。
「それにしてもあやつは何を考えとるんじゃ。『私事により今後はお誘いに軽々に応えられ無くなりますゆえ、ご承知おきください』じゃと!?」
「ははは。キッドも人ゆえに生活があると言うことですかね」
「勝ち逃げはゆるさん!今度という今度は必ずワシが捕らえ、新聞の一面を奪取してくれるわ!」
怒りに燃える次郎吉さんに隠れて、降谷さんがこっそりニコニコしている。
先日、ついにキッドに降谷さんの怒りが炸裂したんだよな。
「多少の行動は黙認するから回数を減らせ!君対策の出動で馬鹿にならない金が動く!」と雷が落ちたのだ。
それはまあ、その通りのことである。
渋々キッドは次郎吉氏の高頻度挑戦状を絞ることを決めたのだ。
本人は「あの爺さんがそのために経済回すからいいじゃんかよぉ」とブツブツ文句を言っていたが。
経済が潤っても警察の予算が追いつかない悲しい現実があるんだよな。
鬼みたいな数の大規模事件が襲ってくるからな、この日本は……。
というわけで、そろそろ俺たちも今回の展示室に向かうとしよう。
ここ、ベルツリータワーの展望室には特別に設置された「天空の展示室」がある。
そこに設置された巨大なタンザナイトがあしらわれた青の玉座はアズールスローンとも呼ばれ、歴史的な価値も盛りだくさんだ。
展望台に着くと、そこでは園子ちゃんと蘭ちゃんが椅子と展示室の見学をしていた。
パッと顔を笑顔に染めて手を振ってくれる。
「あ!黄衣さんお疲れ様!聞いてよ、蘭ったらまた遠距離恋愛でウジウジしてんのよ?」
「そんなことないってば!この間もデートしたわよ!」
「こんな時あの旦那の危機感を煽るイケメン探偵がいればなぁ」
「お呼びかい、俺は巷ではイケメン探偵で通っている超有名探偵だよ!」
「黄衣さんビジュアルに反してギャグ枠なのよね。言動が三枚目すぎるというか」
誰が三枚目やワレェ!
俺がいきりたつと、園子ちゃんが「冗談冗談、黄衣さんもいい男よ」とクスクス笑った。
園子ちゃんが俺の心を弄ぶ!
俺はじっくり吟味するコナン君に声をかけた。
「それでどう、ここの仕掛けは」
「誰か背後にいるのかなって。怪盗キッドなら、外から直接この部屋を狙うこともできると思うけど、わざと中から侵入させようとしてるんだと思う」
「へえ、そりゃなんとも意味深な。キッドの策略?」
「いや。これはねずみ取りと同じだ。誘い込んで捕獲しようとしてるんだ」
それは怖いことだ。キッドの無事を願うしかない。
見た感じ、機械で湿気を撒くだけの構造だ。
扉の前にはランダムな色で光るラインが仕込まれている。
うーん。
魔術師が背後についてるんだから、こんなの本気を出せば門の創造で繋いでもらうだけでいい。
まあ、キッドはそれを望まないから、普通に己の手腕を活かして盗みに入るのだろうけど。
一通り確認してから、コントロールルームへと帰還する。
トコトコと道中、景色が気になって俺は立ち止まった。
夜の東都の見渡す限りの光の海だ。
息を呑むほど美しいそれに、俺は思わず見入っていた。
同じく足を止めた降谷さんがそっと声をかける。
「どうした黄衣君。行かないのか?」
「いやぁ、夜景好きなんだよ。人間の努力と歴史の結晶って感じでさ。星空の万倍好き」
「………そうか。君がいたからこそ、人は繁栄できたんだと思うが」
「それじゃダメなんだよな。俺が滅びても存続するぐらい強くしぶとくいてくれないと」
「君の肉とか食べたらそうならないか?」
「前に狩りに来た人間に無抵抗でいたら食べられたことあるけど、可哀想なことになったよ」
冗談だったらしく、俺の言葉に降谷さんはドン引きした。
まさか俺の触手ぶつ切りにして茹でて皮剥いて食うとは思わないじゃん。
というか、洞窟の奥に隠れて震えてた無害な触手をどうして狩るのよ。
無論だが、食べた人間は次の瞬間この世のものとは思えぬことになった。
慌てて治療して記憶を消して里に戻したが、あれは酷いものだった。
ぼんやりと夜景に見入っていると。
背後から近づいてくる足音に、俺たち二人は振り返った。
特徴的なシャーロック・ホームズのコスプレ姿。
白馬君だ。
「お久しぶりですね、黄衣探偵」
「あれ、白馬君じゃないか。ひさしぶり。ロンドン留学から帰ってきてたのか?」
「所用がありましてね。黄衣探偵も、口さがない連中のお相手ご苦労様です」
「もしかしてここの展望台の仕掛け人って白馬君?」
「コナン君の推理ですか?ええ、合ってますよ。僕がデザインしました」
俺が考えたとは一ミリも思ってくれない信頼感よ。
今は俺も意外とINT高いのに。
俺の隣に立って白馬君は軽く肩をすくめた。
黄昏の館の件以来だろうか。
白馬探。
警視総監の息子であり、自身も名探偵の名をほしいままにする優秀な高校生である。
INTもすごく高い。
「そちらは?」と白馬君が首を傾げたので、降谷さんが安室の皮を被って頭を下げた。
「僕は探偵事務所員の安室透と言います。お噂はかねがね、白馬探偵」
「ありがとうございます。ところで……僕は最近、あなた方について調べておりまして」
俺はきょとんと目を瞬かせて首を傾げた。
不穏な出だしだが、何かあったのだろうか。
「え、俺らの何を?醜聞は山盛りにあるから勘弁してほしいんだけど」
「違いますよ。探偵を週刊誌と一緒にしないでください。単に好奇心です、探偵のサガですから」
「週刊誌の記者も同じこと言うと思う」
「報道社にそのまま僕の自由研究を持ち込んでもいいんですよ」
「まあまあまあまあ、ゆっくりしていってください白馬君」
俺は素早く下手に出て手揉みするなどした。
白馬探偵がこれみよがしに大きなため息をつく。
「まずこれは僕が入手した先月の黄衣探偵の撮影スケジュールです」
「おう。そだね。社外秘やんけ」
「そしてこれが、先月の貴方の解決した依頼人から聞き出した調査日時等です」
「全部理解した俺は分身してません。気のせいです」
「自白が早いので先に全部聞いてもらっていいですか?」
推理が終わる前に俺が頭を下げたので、不完全燃焼の白馬君にギロリとすごく睨みつけられた。
降谷さんにも「ゲロるのが早すぎる。もっと抵抗してくれ」と注意を受けるなどする。
いやこの段階からどう抵抗しろってんだよ!
間違いなく分身してんだよこれは!
白馬君は徐々に大きくなるため息でガックリと肩を落とした。
「僕が言いたいのは脇を締めるべきだということです。貴方が何者かは問いませんが、公安との繋がりも深い。弱みは自身だけの弱みと思わないことだ」
「俺の50倍ぐらいしっかりしてる高校生とは」
「君が高校生の50分の1しかしっかりしてないと捉えるべきだな」
降谷さんに脇腹を刺され、俺は苦悶の声を上げて力尽きる。
どうしてそんな本当のことを言うの…事実陳列罪だぞ…重罪だぞ……。
白馬君にも降谷さんにも両側から厳しい言葉をかけられつつ、俺は満身創痍でコントロールルームに戻るのだった。
・白馬探偵
父君からは何も聞いてないが、怪異についてただならぬ立場だと言うことは察している。
安室透もきっと諜報機関の人間で、黄衣ハスタを見張ってるんだろうなという認識。
最後の話も「公安に迷惑かけんな」ではなく「何かあれば貴方の大切な人に公安が牙を剥くぞ」のつもりで忠告している。
可哀想に、きっと窮屈だろうと同情している。