犯人を見つけたなり。
今日の昼間に寄った市役所でこの付近の地図をもらう時に、ちょうど犯人も立ち寄っていたのだ。
犯人はこちらに気づいた様子はなかったが。
コナン君の反応が激烈だったから俺も気づくことができた。
すごい滑らかな動きで盗聴器を仕掛けるもんな……悪い子やで。
昼は元太君が食べすぎで具合悪くなるなどのトラブルがありつつも。
スキーロッジの創作料理は非常においしく、ゆったりとした時間をもたらしてくれた。
そして今、夜であるわけだが。
「我が夫。僕がこんな具合が悪そうにしてて罪悪感とか湧かないんですか?ショックでしたよ、ええ。寝込みました」
「お、おう。落ち着け。触手をしまうんだ、な?」
唐突に部屋に現れたニャルが、しおしおのべちょべちょになった触手を振り回して暴れている。
すごい荒ぶり方だ。
空間が歪んで見えるし、ニャルも泣いているように見えて真顔だ。
触手の一本は星の精をぐるぐる巻きにして振り回しており、星の精は悲鳴をあげた。
【グスグスグスッッッ!?!?!?】
「わああぁニャルさん星の精!星の精放して!!!」
「嫌です。元はといえばこのミニゴキブリが悪い。我が夫のゲテモノ好きを甘く見てましたよ。こんなんに触手食べさせるなんて。絶対こいつの触手一本ずつ引っこ抜いて丸ハゲにします」
「星の精は悪くないじゃん!?!?悪いのは100%黄衣さんだよね!?!?」
コナン君の必死の嘆願により、理性的な降谷さんの在り方を核としたニャルは一理あると思ったらしい。
しぶしぶ星の精を放した。
これでいつものニャルだったら星の精は引き裂かれてたな。
ビバ降谷さん。
星の精はワッとコナン君に飛びつき、全身ぐしょぐしょにして泣いて縋っている。
ニャルはベッドの上で正座して、ギロリと俺を睨み据えた。
「我が夫。あんなゴキブリに触手あげて僕の分がないのはどう言うことですか」
「え、ニャル黄衣の王焼き欲しいの?いや、一緒じゃダメか。仕方ないな。なんか良いもん作るから少し待っててくれ」
「良いでしょう。あと今日は添い寝でお願いします」
「俺の触手毟るなよ。じゃあ作りますかね」
本当は予定外の宿泊はダメなのだが、ニャルは人間ではないんだし良いことにしよう。
俺は立ち上がって腕を回した。
なんとなく恥ずかしいので、ユニットバスへ籠る。
触手を2本ほどむんずと引き抜いて、念入りに洗ってから鍋に投入。
鍋の水が呪詛で黒くならなくなるまで煮たら、皮をむいて水で締める。
ドス黒い瘴気の含んだ湯気で風呂場が黒く染まる。
人間が入ったらまず間違いなく死ぬだろう。
さらっと清掃魔術で色と瘴気を拭っておく。
で、呪詛抜き魔術を………いや、ニャル相手なら良い辛みになるからこのままでいいか。
塩昆布と水とすりおろしニンニクとレモンと胡麻油、黄金の蜂蜜酒、細かい知性体の魂を溶かしたものを混ぜて、ドレッシングにする。
彩り野菜代わりに、まだ蠢くザイクロトルの死の植物を添えてドレッシングをかければ完成である。
黄衣の王のカルパッチョだ。
呪詛抜きをしっかりして多少調整すれば、人間でもおいしく食べられるだろう。
出来立てのそれを小さなサイドテーブルにことんと乗せる。
ニャルは目を輝かせて飛びついた。
「美味しい!生のままももちろんいけてますけど、料理上手な我が夫の手にかかると一味違いますね!」
「やったぜ。コナン君もしよかったら夜食に作るよ」
「いらない。僕まで妙なことになったらどう責任取ってくれるの。あ!星の精だめ!食べたら変になるよ!メッ!ダメ!」
【グズッ】
納得してない星の精がブツブツ文句を言っているが、ニャルに睨まれて再びベソベソ泣き始めた。
可哀想だからいじめない!
そうこうしているうちにペロリと平らげたニャルだが、なぜかハッと我に帰ったように顔をくしゃくしゃにした。
「いや、違うんですよ。もっとこう、エロティックで官能的な雰囲気で行うべき話であって。こんな美味しい団欒みたいなノリは望んでなかったんです」
「何を言っているのかわからない……」
「我が夫も!みだりに人に触手を食べさせない!」
「お前だってよく俺の触手食ってるじゃん。寝てる間に丸坊主にされそうなぐらい」
「僕は良いんですよ。なんなら僕の触手食べても良いんですよ」
「え………俺はそんな野蛮なことしない……」
瞬間、ニャルはドカ鬱の顔でベッドに倒れ伏した。
シクシク泣いて、ガチ泣きの姿勢である。
なんで!?
いや融合してお互いを貪り合うのが作法だとは知ってるけど、触手食はオプションだろ!?
大体さぁ!食ったら痛いじゃんけ!
俺はオロオロと出っ放しで震えるニャルの触手を持ち上げた。
そのままそっとカプリと噛み付く。
歯形が少しつくぐらいの力加減だ。
これなら痛くないだろうし、前にやった時もニャル喜んでたし良いだろう。
そっとニャルの様子を横目で確認する。
ニャルは安らかに昇天し灰になっていた。
お前の情緒おかしいよ……。
本当に幸せそうに白く燃え尽きてベッドにゴロンと転がるニャルが、しばらくしてから恥じらってチラチラコナン君を見て顔を隠した。
「こういうの、羽虫は人に見せるのを躊躇うんですよね…大胆な我が夫♡」などと発言している。
触手を食うのの何がそこまで外なる神を昂らせるんだ。
わからん。怖い。
コナン君が「僕博士の部屋に行って良い?」と虚無の顔で宣言した。
だめ。俺とニャルの二人きりにしたら化けて出るからな。
ニャルがふと俺を見て伸びをしながら口を開いた。
「そういえばここの羽虫、何やら面白そうなことをしてますね。魔術も使えないのに大量殺戮とは、人間の業は見ていて飽きませんね」
「!?!?!?」
「すごい聞き捨てならない発言が聞こえた気がした。ニャル、詳細頼む」
「僕もそれぐらいしか見てないので知りません。所詮羽虫、催しに捻りが足りないんですよね」
飽きて見るのやめたらしい。
この悪いニャルニャルは純粋に俺の触手食いに来ただけのようだ。
俺はヨシヨシとにニャルを撫でた。
ニャルはゴロニャンと擦り寄ったあと、ビョンと立ち上がって顎に手を当てた。
「しまった。ハリ湖に忘れ物しました!取って来ます!」
「待て、俺んちになんでニャルが来てんだよ。ビヤーキー殺してないだろうな」
「我が夫のペットですか?ちょっとつついたぐらいなのでみんな生きてると思いますよ」
「すごい不安になってきた。俺も行く」
俺は肩を怒らせて身支度をした。
ビヤーキー君達に酷いことしてたらぶつからな。本気だからな。
俺がニャルを睨みつけると、ニャルは「やってませんってば」と明後日の方向を向いて答えた。
何一つ信用が置けない。
「コナン君ごめん、今晩中には戻るから!」と言って部屋を出る。
星の精はまだ震えて泣いているようだ。
ともかく、懸念点は山積みということだけ分かったのは収穫なのであった。
・ハスターにとっての触手
美味しい無限食料。
実は古代、まだハイパーボリア成立前に人間の食糧にしようとしたこともあるぐらい。
無限に生えてくるし毒抜きすれば食べれるし、ちょうど良いかなと。
エロティックな意味はかけらも無い。
・ニャル
どうしてあなたは!簡単に人に触手食わせるんですか!!!!(号泣)
もっと自覚を……いや自覚はせずに、こう、良い感じに僕にだけエロくあって欲しい。
そんな気持ち。煩悩である。