ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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沈黙の15分〈慈悲深き〉

 

 翌日、事態は急変した。

 スノートレッキング中に死体が発見されたのだ。

 

 被害者は例の爆破犯と一緒に歩いていた保健調査員の男だ。

 せっかく白鳥を見に来たというのに、なんともまあ血生臭いことだ。

 光彦君も不安そうに元太君と身を寄せ合っている。

 

「なんか怖いですね。冬馬君も具合悪そうでしたし…」

「俺らが後でプレゼント持ってってやろうぜ!」

「うん!冬馬君、星の精ちゃんともすごく仲良くなってたし」

「ほしのせーもプレゼント選ぶ。なにがいい?」

 

 歩美君の肩に乗っかって星の精は首を傾げた。

 歩美ちゃんが優しく撫でてくれる。

 

 冬馬君とは、つい今日の朝に意識を取り戻した地元の子である。

 八年前に事故で崖下の沢に転落して、ずっと意識不明のままだったらしい。

 可哀想なことだ。

 

 長く意識を失ったままというのは、黒田理事官も同じらしいことは聞いたことがある。

 本人曰く「浦島太郎の気分だ」と言っていたが。

 大人でも辛いことが、精神の変動の大きい子供に起こった時。

 いったいどれほどの苦痛を伴うのか。

 

 体は大人、心は子供の冬馬君をなんとかしてあげたい気持ちはもちろんある。

 

 俺にならそれをどうにかする方法がある。

 適当な仮想空間で、留学の雰囲気で八年教育を受けさせれば、それだけで概ね解決することだ。

 だがそんな人格に関わること、俺が勝手にできるはずもない。

 

 コナン君が怜悧に目を細め、独り言のように呟いた。

 

「あまり先入観で話はしたく無いけど、八年前の冬馬君の転落も、山尾さんの交通事故も、同じ日に起きてる。そして山尾さんと組んで動いていた氷川さんが死亡、か」

「ダオロスの加護はなんて?」

「『この謎を解け』ってさ。ヴェールを剥ぎ取るもの、だっけ。二つ名らしい挑戦状だよ」

 

 にやりと燃えるような瞳でコナン君が言い切った。

 うむうむ。苛烈で何より。

 

 ダオロスさんもさぞや満足していることだろう。

 通常求めるものに真理を授けることしかしないダオロスさんが、「自分で辿り着け」って加護を渡してるんだから。

 そりゃお気に入りに違いない。

 

 でも、ちょっとジェラシーなんだよな。

 コナン君は俺が面倒見てるんですー!とブツブツ文句言いたくなりつつ。

 とはいえ外なる神に見初められたのは鼻が高いような。

 うーむ。

 

 すぐに新潟県警も駆けつけて調査はしている。

 だがあんな場所で目撃者もなく、雪に覆われて証拠も残りにくい。

 犯人確保には時間はかかりそうな様子だった。

 

 

 

 そうこうしているうちに、滞在最後の日がやって来た。

 

 昨晩はニャルはやってこなかったが、たぶんその前にカルコサで大暴れしたからだろう。

 カルコサに行ったら街は破壊されて、人もどき君達が瓦礫の下敷きになってバタバタしていたんだよな。

 宮殿も魔改造されてどぎつい原色のねじれた塔になってたし。

 俺が帰って来たらみんな泣いてたよ。

 

 まったく、悪いニャルにも程がある。

 

 ともかく、今日は日の出を見つつ調査をする予定だ。

 子供達は冬馬君と遊びに行ったらしく、朝から姿が見えなかった。

 あの時に取り残された子にとっても、少年探偵団との触れ合いはいい刺激になるだろう。

 

 いや預かった子供が雪山で行方知れずは事案がすぎるんよ。

 ハスターの瞳で秒で見つけられるけど。

 

 コナン君がどこかへ向かう仕草をしたので、俺も声をかけておく。

 

「どこ行くんだ?」

「僕はちょっとしらべものするだけ。必要になれば呼ぶよ」

「了解。気兼ねなく呼んでくれ。じゃあ俺は記念式典の会場に行こうかな。屋台でつまみ食いしつつ子供達を探すよ」

「悪い、頼んだ!また調子に乗って山の奥の方に行くと危ないしな」

 

 そう言って別れるなどする。

 すっかり保護者の貫禄が出ている。

 これは蘭ちゃんとの子育ての時も頼りになることだろう。

 

 志保ちゃんがため息をついてあたりをキョロキョロしている。

 

「あの子達、また悪さしてなければ良いんだけど。博士も隠れて屋台でお肉ばかりたべようとするし」

「博士は長生きして欲しいしなぁ。俺が痩せた健康体を工面しようか?」

「最終手段にしておきましょう。三ヶ月で元の体型に戻るのが目に見えるようだわ」

 

 ちなみに阿笠博士は今現在、部屋で休んで療養中だ。

 昨日雪深い場所で歩き回り、足腰にガタがきているらしい。

 

 式典会場であるキャンプ場へ行くと、そこは観光客も含めてかなり賑わっていた。

 朝倉都知事が欠席したためメディア関係は少ないが、それでも穏やかな喧騒に包まれている。

 

 まず「ハスターの瞳」による探索だ。

 どうやら現在村外れを北上中。

 このキャンプ場に来ているとばかり思っていたが、かなり遠くの方にいるようだ。

 俺は頬をかいた。

 

「まずいな、結構遠くにいる。たぶん冬馬君の事故現場に向かってるんだな、こりゃ」

「!!!子供だけでどこまで向かってるよのあの子達!」

「しかも銃持った人に追われてる。ほら、スノーシュートレッキングで一緒だった遠野さんだよ」

 

 もうすでにかなりむしゃくしゃしている俺である。

 子供達も追われているのに気づいているらしく、頑張って気づいていないふりをして逃げている。

 

 少年探偵団は皆今日はブレスレットをしているから、銃で撃たれたところでダメージはない。

 しかし冬馬君と星の精は撃たれれば重傷を負い、当たりどころが悪ければ死ぬことだろう。

 

 星の精にも良い加減もっと加護を与えたほうがいいな、この危険の頻度だと。

 

 パチン、と指をひと鳴らし。

 子供達を見失わせる認識阻害の魔術を遠隔発動する。

 

 急に子供達の姿が見えなくなって、驚いた犯人が周囲を見渡している。

 

「今、子供達を認識できなくさせる魔術を発動した。これで子供達は安全ってわけさ。さて、迎えに行こうか」

「便利なものね。犯人はどうするの?」

「未遂だし法的には責められないかな。だからちょっと呪った。恨むなら手を出した相手が悪かったと運命を恨むと良い」

 

 俺はペロリと舌を出してうっそり微笑んだ。

 少しばかり不運なことが続く呪いだ。

 生活に支障はないから、せいぜい反省すればいいのさ。

 志保ちゃんは肩をすくめて「怖い人」とだけ言うだけだった。

 

 志保ちゃんを含めて門の創造を作動。

 転移して子供達の前に回り込む。

 

 俺は仁王立ちになって「こら君たち、病み上がりの冬馬君をどこまで連れ歩いてんだよ!」と注意した。

 何故か先回りしている俺に違和感を覚える前に、見知った大人に会えたことの安堵が先に来たらしい。

 皆がわっと駆け寄ってべそべそ泣き始める。

 

「黄衣さんっ!!!すみませんでした!あと変な人が、変な人が僕たちを追っかけて来てたんです!」

「ほ、ほしのせーも見た!バーンって!怖いの持ってた!!」

「早く警察呼ばねぇと!」

 

 皆が目を潤ませているので、ひとまずよしよしと皆を抱きしめる。

 おお可哀想に、怖かったね!旧支配者ハスターが抱きしめてやろうね!

 

 その時である。

 

 凄まじい轟音が空に響き渡った。

 木々に囲まれていてここからではよく見えないが、遠くに黒煙が見える。

 

 それと同時に、俺の念話に通知が入った。

 スマホも使えるのにあえて念話とは、聞かれたくない話でもあるのだろうか。

 

 聞こえて来た声はコナン君のものであった。

 

『黄衣さん聞こえる!?今どこ!?』

『冬馬君の事故現場近く。向こうで爆発したね。その件?』

『基地局が爆破されてスマホが使えなくなった!たぶん犯人が動き出したんだ!早くダムへ向かわないと!』

『オーケー詳しく話を聞いてる暇はなさそうだね。すぐ向かいます』

 

 どうやらスマホが使えなくなったためにわざわざ念話でかけて来ていたらしい。

 基地局爆破とかえらいこっちゃ。ガチガチのテロリズムやんけ。

 

 こっちには銃持った危険人物がいる以上、ここで子供達を放り出すわけにもいかない。

 木陰に入って暫定的に黄衣④を作って入れ替わり、そのままコナン君のいる場所にぬるりと転移する。

 

 空間から滲み出るようににゅるっと現れた俺に、コナン君はすかさず指示を出した。

 

「ダムまで転移して!僕の魔術じゃ届かないんだ!」

「ふむ。人目につかない場所ならいい?」

「うん!今は式典があるから職員は二名しかいないはずだから!」

「了解。ジャーンプ。よいしょとな」

 

 軽い掛け声と共にもう一度空間転移を行う。

 今度はニャルがよくやってる位相の書き換えを利用した転移だ。

 コナン君はまだ短距離転移しか使えないらしい。

 リソース的には問題ないはずだから、単に遠方に転移するイメージが掴みきれていないだけだろう。

 

 到着と同時に、コナン君が走り出す。

 

 「黄衣さんはここにいて!」と言って扉を開け放ち、出て行ってしまった。

 俺はポツンと一人置いてけぼりだ。

 

 俺は悲しみに暮れながら体操座りした。

 多分俺だとやりすぎる可能性があるから残されたのだと思われる。

 つまり俺の我慢が試されるシーンでもあると言うことだ。

 

 やってやろうじゃないか。

 俺の海よりも深い慈悲の心を見せてやる!

 

 でも見るなとは言われてないから、ハスターの瞳を起動。

 

 俺がコナン君に視界を合わせると。

 コナン君は犯人と出会い頭、驚いた犯人に派手に銃撃されていた。

 ブレスレットの防護に阻まれ、銃弾がポトリと落ちる。

 男が動揺して拳を振り下ろしたが、それもまた壁に阻まれて届かなかった。

 

 おう、表出ろよ。

 荒ぶる俺。絶対ぶち転がす。うぉぉおおお。

 必死で我慢しているが触手はち切れそう。

 

 最終的に、返す刀でコナン君がサッカーボールをぶち当てることでKOしたようだ。

 そして犯人が取り落とした無線機のようなものを拾い上げて、コナン君が絶句する。

 そのまま俺に念話で指示を出して来た。

 

『黄衣さん!住人に避難指示をして!全部解体してる時間がない!』

『うーん。待って展開が早い。なんもわからへん!』

『ダムに爆弾が仕掛けられてるんだ!このままだと下の村が沈む!』

『なんでなんや。どうしてそうなるんや』

 

 俺は心の底からの疑問を漏出した。

 普通に轢き逃げ事件とか記憶喪失とか、しっとりした推理ミステリーの雰囲気だったやんけ!

 まあそんなこと言ってる場合ではない。

 俺はひとまず爆弾らしきものを検出、その情報を取得した。

 

『どれどれ、あと8分か。避難間に間に合わへんなぁ。仕方ない。今回は特別に俺が水を止めよう』

『ありがと、ごめん黄衣さん!』

 

 俺の指定した期間が来るまで溶けぬ氷で作った第二のダムを、このダムの少し下に展開。

 それで持って水を防ぐこととする。

 期間は三年。

 その間、この氷はどれほどの高温であろうと溶けることはない。

 排水機能等のダムの基本的な機能もついてるから活用するといい。

 爆弾自体は防がないから、人の手で建築し直しておくれやす。

 

 後はコナン君がノックアウトした犯人と、二人の警備の人を背負ってダムから逃げ出すだけだ。

 

 コナン君のいた場所に駆けつけて、気絶させられた人を触手で持ち上げて運び出す。

 というかこの犯人、置いてっちゃダメかな。

 触手に乗せるだけでむしゃくしゃが行きすぎて全身が破裂しそう。

 自業自得だし吹っ飛んでも俺のせいじゃない気がするんだが。

 

【神が告げる。ダムが爆破される。神が告げる。お前達に慈悲を賜る】

【お前達に三年の猶予を与える。お前達は三年の間水を逃れる】

【これは特例である。これは慈悲である】

 

 そのように、大事件はなんとか回避できたのであった。

 派手に爆暴落したダムは据え置きである。

 あと推理全然教えてもらってなくて置いてけぼりだから、誰か何があったのか教えて。

 





・降谷さん
せっかくダゴンを何事もなく移送したのに、横で急に黄衣が黙り込んで激怒のオーラを出し始めたので肝が潰れた。
恐る恐る問いただしたら大規模テロなダム爆破が発覚して昇天した。
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