本日は米花スポーツランドに来てサッカー教室に参加している。
俺は保護者枠だ。
プロサッカー選手の指導が受けられる特別子どもサッカー教室で、阿笠博士が以前申し込んでいたものだ。
それが何と当選して、参加できたと言うわけである。
有名選手目白押しだから凄まじい倍率だったのだが、やはりと言うべきか一番喜んだのはコナン君であった。
見るからにワックワク。
頻繁にサッカーには行くから好きなのは知っていたが、見るからに上機嫌だ。
俺としても、生前でもTV越しにしか見られなかった人とこんな近くでお会いできるということで、喜ばしい限りである。
なんともまぁ、趣深い気持ちであることよ。
というか。
歴史は全然違うのに、前世と同一人物が同一時期にサッカーやってるって何なんだ。
運命力とかか?
まあ、そんなわけで俺は阿笠博士といっしょにまったりしている。
ちまい子供達がわーわーとサッカーをしているのは可愛いものだ。
今回、せっかくだし星の精も人間形になって教えてもらうことになっている。
星の精は普段子供達と遊んでいるから力加減も完璧だしな。
「お、あなたは黄衣探偵じゃないですか!いやぁ、奇遇奇遇!」
急に背後から声をかけられて、俺はパチクリと瞬いて振り返った。
そこにいたのはガタイのいい男性だ。
「私は日売TVスポーツ情報局の山森と申します。ついでに一枚写真もらっても?」
「ははは、構いませんよ。今の俺は単なる保護者ですが」
「構いませんとも!香田ちゃん!頼んだ!」
山森さんの言葉で、カメラマンさんが数枚、俺と山森さんのツーショットを撮影する。
需要あるのかなこれ。俺私服だし。
一応どこで記者に会うか分からないから日頃からおしゃれな服は着てるけど。
「いやぁ、最近TVスポーツも大変でして。ほら、怪異を使ってスポーツの不正があるんじゃないかと噂になってるんですよ」
「なるほど。スポーツの不正に怪異ですか。となると『鋭敏な2人』に『無欠の投擲』がパッとあげられますね。代償が大きいからこそ心配になりますが」
「鋭敏……?」
「ああ、失敬。忘れてください」
やべえ、普通に不正に使える有名魔術を答えてしまった。
しかもスポーツメディアの人にポロリである。
後で大惨事になる前に降谷さんに懺悔しておこう。
めっちゃ怒られが発生する予感を察知して、俺は触手を縮れさせた。
ちなみに、鋭敏な2人は集中力増強、無欠の投擲は投擲物を狙った場所に当てられる秘技である。
薬物検査で感知不可能だが、選手に多大な後遺症を負わせる可能性があり、こちらも将来的には対処が必要になるだろう。
俺の不審な様子を特に気にした様子のない山森さんが、俺に問いかけてきた。
「ところで、私も色々ネタになるものは探してるんですが、こう、パッと心を燃やせるものがなくて困ってるんですよ」
「心を燃やす?」
「そうです。怪異って陰湿な雰囲気で、スポーツには似合わないでしょう?やはり人の心は盛り上がってこそですよ」
「ふぅむ。確かに難しいですね。俺はスポーツ音痴なのであまり滅多なことは言えないんですが」
「へぇ!あの全てを完璧にこなすみたいなイメージの黄衣探偵が運動が苦手とは!」
「内緒ですよ。ファンの理想を壊してしまうので」
俺はやや恥ずかしさを隠して微笑んだ。
まあ、これくらいならすっぱ抜かれても構わない。
俺が運動音痴探偵だとバレるぐらいの話だしな。
撮影の時は必死で取り繕ってる湖の白鳥、というわけだ。
特に馬に乗るシーンは辛い。馬が本能で俺に怯えるので。
そんな雑談をしていると、コナン君と星の精の番がやってきた。
星の精がととと、と駆けていく。
「ともだち!早く行こう!ほしのせーもサッカーやる!」
「足で蹴るの慣れた?」
「慣れた!ほしのせーはとても上手い!『ぷろ』もびっくりする!」
「そりゃすごい!」
星の精をヨシヨシしながら、コナン君がヒデの前に立つ。
コナン君は相変わらずの超絶技巧だ。
子供の姿になって感覚も違ってくるだろうに、滑らかかつ正確にボールをコントロールしている。
星の精は最初こそおぼつかない雰囲気ではあったが、プロの指導をみるみる吸収しているようだ。
2人とも将来有望だ。
…………。
いやぁ、俺だって力加減を気にしなければサッカーも上手いじゃんね。
グラーキをボールにして蹴り飛ばすのとかプロ並みなんだよ。おう。
口の中でもそもそ言い訳を並べ立てつつ、周囲を見渡す。
比護選手がコナン君を見ているようだ。
他の選手もちらちらとコナン君を確認している。
やっぱスペックが違うんだよなぁ、などと勝手に鼻高々になる俺である。
俺のコナン君は最強なんだ!
そしてやっぱり、こういうイベントが平和に終わるわけもないということで。
二週間後。
俺たちは近場の東都スタジアムまでJリーグの試合を見に来ている。
今はちょうど休憩中。
大行列の売店に並び、お土産を買おうとしているところである。
相変わらずものすごい行列で、買えるかどうかはわからない。
が、それを含めてスタジアムの醍醐味というやつなのだろう。
俺はネットニュースを見ながら名物チーズボールを狙っている。
ちなみに、TVスポーツ情報局の山森さんはやっぱり黙ってはいなかった。
コラムに俺が運動音痴であることを明かして
SNSでファンが大いに盛り上がり、「スキップできなかったら可愛い」「バトミントンで空振りしてるとこ見たい」などと概ね高評価を得ていた。
まったく、口の軽いお人だ。
いや、あえて俺の失言の核である魔術のことはまるで触れなかったあたり、危険ラインの見極めが上手いだけだろう。
競争の激しいメディア界で部長の座に登っただけはある、ということだ。
ふと。
その時俺のスマホが着信音を鳴らしたてた。
降谷さんからだ。
俺が休暇中なのをわかっていて電話ということは、大事件の予感がひしひしと伝わってくる。
「はーい、黄衣です」
「事件だ。東都スタジアムに爆弾が仕掛けられた恐れがある。電光掲示板を確認してくれ」
「おう、話早いですね。収穫の時期が来たか?」
「爆弾は別に東都には自生していないと何度言ったらわかるんだ。米国から流れてきてるに決まってる」
「罪を外国に押し付けるのは止めなされ」
降谷さんは憮然として黙り込んだ。
あれは純国産です。メイドインジャパン。
ともかく、爆弾があるなら探さねばなるまい。
ハスターの瞳をぐりぐりと動かして、電光掲示板の裏に鬼ほど仕掛けてあるのを発見する。
なんだあれ。
清掃員として紛れ込むにしてもとんでもねー場所にとんでもねー量があるんだが。
犯人フィジカル強者か?
俺はコナン君をちょいちょいと呼んで声をかけた。
「なに、黄衣さん?」
「なんかスタジアムの電光掲示板の裏に超たくさん爆弾あるんだ。解体できそう?」
「!?!?!?僕の分、ヒデのボールペン買っておいて!」
「了解!頼んだ!」
すっ飛んでいくコナン君だが、彼に任せれば間違いはなかろう。
俺が手を出すのは角が立つが、コナン君に任せるのはセーフというガバガバ理論である。
一応手は打ったので、安心して降谷さんに返事をする。
「コナン君が出動したのでひとまず大丈夫。で、詳しく聞きたいんだけど何があったの?」
『毛利探偵の事務所に犯人からの予告電話が来たようでな。黒煙が上がっているのは見たんだが、パトカーが出動したからには事件だろうと駆けつけたんだ』
もちろん現場まで行った降谷さん達は、そこで犯人の予告を秒で読解。
それが東都スタジアムの電光掲示板だと理解したらしい。
降谷さんが静かに問いかける。
『コナン君は間に合いそうか?』
「たぶん大丈夫だと思う。予告の時間までまだ一時間近くあるし。コナン君は飛べるし魔術を使って遠隔で解除できる。処理の速さはピカイチだよ」
『なら……爆発物処理班はかえって邪魔だな。避難指示だけ出す。君は大人しくしていてくれ。くれぐれも失言はしないように』
「信用なさすぎる」
『この間の失言で日売スポーツ情報局の人間をマークすることになった公安の人員がいるわけだが』
「誠に申し訳ありませんでした。俺は罪深い神です」
俺は電話越しに深々と頭を下げた。
あ、俺の番が来た。ヒデのボールペン売り切れとるやんけ。
これは運命操作で売り切れなかったことにして、よいしょ。
購入。よし。
これは大人しくしているの範疇の動きなので問題ない。うむ。
席に戻ると、透明化して体を隠したコナン君が、鉄骨の上に立って高速で解体を進めていた。
星の精がうにゅーんと触手を伸ばしてカバーを受け取ったり足場になったりしている。
頼もしすぎる。流石コナン。シビあこ。
俺はタオルの柄を少し変化させて「CONAN」にして掲げるなどの奇行をした。
そしてすぐに文字の変化に気づいた志保ちゃんに「彼の邪魔をするにしては高度なやり方ね」と皮肉を言われてしまった。
じゃあどうすれば……帽子もコナン君のゆるキャラがついた柄に変更。
直後に入ってきた念話によって「怒るよ」とコナン君に注意され、再び俺は触手をしおしおにしたのだった。
・世間の黄衣ハスタのイメージ
完璧超人。優しく微笑む知的な王子様。
しかし運動音痴が発覚し、ちょっとドジっ子のイメージがついたようだ。
今回のコラムが話題になり、日売TVスポーツ情報局は少しだけ沸いた。
・星の精の将来の夢
白黒の車の人→サッカーの人→友達と探偵する
ぐらいをぐるぐる回ってる。