翌日のことである。
毛利探偵事務所前には、多くの記者とカメラマンが集まっていた。
事務所に入ると、先に目暮警部が来ていたらしい。
俺たちの姿を見て「おお、黄衣君かね!」と歓迎してくれた。
記者達をかき分けて入るのにだいぶ苦労したが、それは毛利探偵も同じなのだろう。
毛利探偵は頭をかいて難しい顔をしている。
「良く来れたな、黄衣。カメラに集られたろ。ったく、家を出るに出られねぇよ」
「俺のせいで申し訳ない。たぶん『俺と提携してる探偵』ってことで毛利さんにも大々的に取材が来てるんだと思う。メインは犯人の予告電話を受け取った探偵ってことではあるだろうが」
「だろうな。ま、気にすんな。お前のことは何聞かれても守秘義務で通してやるよ」
「感謝……!」
俺は毛利探偵をナムナムした。
隣の諸伏さんも合わせてナムナムして、毛利大仏と化している。
降谷さんは捜査一課を萎縮させる可能性があるということで不在だ。
コナン君がヒョイ、とホワイトボードを覗きこんで毛利探偵に怒られた。
「こら坊主!うろちょろしてんじゃねぇ!黄衣も何連れてきてんだ!」
「いやぁ、コナン君は俺のメイン火力だから許して。コナンくん抜きの俺とかネタなしの寿司だよ」
「ガキのうちから縁起でもねぇ事件に関わらせてんなよ。教育に悪ィだろうが」
「うす」
正論パンチを頬に受け、俺はしょげかえった。
それはコナン君が高校生なことを加味しても本当にその通りなんだが。
彼の類まれなる頭脳が事件を放ってはおけないというか。ブツブツ。
子供扱いされてむすっとするコナン君を、ひとまず俺の膝の上に固定する。
星の精が「くす…」と言ってコナン君の不満に同調している。
友達は凄いのに。大きいのはみんなそれを分かってない。げた。
目暮警部が咳払いして口を開く。
「今回の件はテロの情報を掴んでいたらしい公安から情報提供があったから、避難が早めに済んだ。向こうの対応で爆弾の解体もできている」
「あん?じゃあなんで捜査一課も動いてんだ?向こうに捜査権が移ったとかじゃないんですか」
「いや、向こうで掴んでいる情報を一部共有してもらっているだけだ。何重にも重なるヴェールの向こうにいる、というわけだ」
目暮警部としても、なるべく言葉を選んでいるのだろう。
チラリと諸伏さんを見てから帽子を目深にさげる。
毛利探偵も眉間に皺を寄せながら「ふぅん?」と相槌を打つにとどめた。
公安としても軽々に俺やコナン君のことは言えないから、仕方ないことではあるんだよな。
なんとも心苦しいが、我慢してもらうしかない。
「ともかく、分かっているのは公安が容疑者として五人をマークしているということだ」
そのように言って、ホワイトボードを指し示す。
まずは日売TVスポーツ情報局の山森さんとカメラマンさん。
これは視聴率アップが目的という非常にシンプルな推理だ。
また、本浦という人物について。
彼は息子がJリーグの試合を見た後発作を起こしてそのまま帰らぬ人となったらしく、その恨みをもって容疑者に入れられている。
中岡というバイク店員も怪しい。
プロサッカー選手の夢を怪我で断念せざるを得なかったらしく、恨みを抱くには十分だと言えるだろう。
「だが、今日中岡を引っ張ったところ、彼が犯人である可能性は薄そうだった。スピリッツとの契約を蹴ったのも中岡自身の方だったようだしな」
「でも、ほしのせーわかる。あいつバーンの匂いしてた。怪しい。痛いことするやつ」
「!?!?」
ニュッ!とコナン君のポケットから顔を出した星のオウム突然に口を挟んだ。
目暮警部が困惑の声を上げる。
「に、匂いだって?」
「そう!ほしのせーは鼻がいい。あの大きいやつ、バーンの匂いした。サッカーの場所にあったバーンと同じやつ」
「バーンって、爆弾のこと?」
「そう!ばくだん!ばくだんはそれぞれ匂いが違う!あいつ、サッカーの場所の匂いがした!」
コナン君の問いかけに星の精は同意した。
つまり爆弾には個々に異なる匂いがする。
サッカースタジアムにあった爆弾と同じ香りが、中岡さんから匂ってきたと。
佐藤刑事と高木刑事が同時に顔を見合わせて思案に耽っている。
オウムの証言なんて全然当てにならないが、怪異の話を無視するのも危険だからだろう。
目暮警部が心底困ったように助けを求めて俺を見たので、俺は頷いて見せた。
「星の精は嗅覚は優れてますよ。最低限犬ぐらいには嗅ぎ分けられるかと」
星の精は目が無いから、人間で言うところの視覚はない。
だが代わりに精緻な魔力感知で色すら見分け、それがほぼ目と同じ役割を果たしている。
加えて熱源感知と鋭い嗅覚を持つ。
あらゆる環境で狩人をするための、3次元構造の把握を物にしているのだ。
目暮警部が小さく唸った。
「爆発物探知犬がいるくらいだ、嗅ぎ分けも不可能ではないということか」
「どうします警部。留置場の中岡の釈放を伸ばしますか」
「いや。留める理由がもう無い。マークを外さないようにした上で釈放するしかなかろう」
「わかりました。手配します」
佐藤刑事の返事を聞きつつ、「すまんね、黄衣君」と目暮警部が俺に頭を下げた。
毛利探偵が訝しげに星のオウムを覗き込んだ。
「こんなオウムの話信じられんのか?」
「失礼!このちょび髭失礼!ほしのせーは凄いし強い!ムキムキの大きいのも倒す!」
「こんなこと言って、全部嘘だったら承知しねぇぞ」
「やめんか毛利君。相手は怪異だぞ。本当に筋肉質の男を倒しても不思議じゃない」
「そりゃそうですけど…」
毛利探偵の半信半疑の顔だ。
星の精はのしのしポッケから出て、プンスコ怒りながら机の上を歩き回った。
「ほしのせーは凄い。みんな凄いって言う。褒める。凄いのに。ヒゲ。ヒゲも凄いって言え」
『凄い凄い。星の精は偉いぞ!』
「モゴモゴ。キュル。やり直し。心を込めて言え」
本格的に機嫌を損ねてしまったらしい。
コナン君が両手で抱き抱えてポッケの中に星の精を戻す。
中ではずっと星の精がクスクスゲタゲタ言っているようだ。
俺は毛利探偵に「すみません。難しいお年頃なんです」とフォローしたのだった。
それから、翌日朝早く。
コナン君が日も昇り切る前に外出していった。
朝食の時間には戻ってきたらしく、すんごい幸せそうな顔をしている。
彼のものではない白いリストバンドに、俺はパチクリと瞬いた。
「おかえり、どこ行ってたんだ?」
「キングカズと一緒に朝練してきた」
「え、凄いな!?道理でそんなとろけた顔してるわけだ」
「うっせ。星の精は?」
「まだ寝てる。バレなくてよかったな、起きてコナン君がいないことに気付いたら大泣きだったぞ」
また萎むほど泣くに違いない。
ちなみに、ニャルは朝早くにクトゥグアの住処に遊びに行った。
またバトってくるのだと思われる。
可哀想なクトゥグアさんも何回も家を破壊されて。迷惑そうにしていらっしゃる。
その辺りで、諸伏さんが朝食を作り終えたのか、豪華なフレンチトーストを持ってきてくれた。
店で出てくるようなフルーツと生クリームの盛られた美しいやつだ。
俺は素早く席についた。
「めっちゃ美味しそう!助かる!!すごく助かる!いただきます!!」
『ふっふっふ、俺特製のフレンチトーストだ!生クリームは甘さ控えめ。カロリー取りすぎだからたまにしかできない』
「ところでさ、僕って結局病気にかかったりするの?生活習慣病とか。このブレスレットでどこまでカバーされるのかなって」
「秒間リジェネが効いてるからあらゆる病が無効でーす」
俺はダブルピースをした。
アポトキシン4869は志保ちゃん自身が治したいと言っていたから除外しているが、それ以外は無敵と言っていい。
俺ははっと最近溜まっている金の使い道を思いついた。
「ということは、この家の面子は暴飲暴食でも何も問題ない…?毎晩金を溶かして豪遊…」
「僕変な癖つきそうだからヤダ。僕星の精起こしてくるから、それ食べ終わったやつ片付けて、星の精の目に入らないようにして」
「はーい」
俺は星の精の血液製フレンチトーストをじゅるりと作成。
色合いも調整して本物に近づけた。
最近とみに目も舌も肥えてきて、全部赤一色だと「ほしのせーはこれいらない」って言うんだよね。
ううむ、将来のために血液ご飯の作り方も教えておくべきか。
俺は部屋でグゴゴゴゴ…と大きないびきを響かせている星の精を見やった。
コナン君が自分の身代わりに置いておいた抱き枕を抱えて、星の精は幸せそうに寝ていたのであった。
・公安の動向
「捜査一課と共同で捜査を行う」と言う立場。
普通に大事件が起きすぎて公安のリソースが足りなくなったとも言う。
まだダム爆破の事後処理終わってないし、バイオテロも落ち着いてないし、豪華客船を怪異の軍団が攻めてきた件もある。
その間にも怪異事件は待ってはくれない。
海外のスパイも盛りだくさん。
降谷さん「し、死ぬ……(絶望)」
公安信者さん「」(死)
目暮警部「警察官は体力勝負だぞ君」(180連勤)