ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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11人目のストライカー(慈悲と罰とは紙一重)

 

 あれから、再び毛利探偵のところには予告状が届いたらしい。

 

 なんでも、もっと多くの人がその場で爆発を目の当たりにすると書かれていたそうで。

 今汐留アリーナは警察がみっちり張り込んでいるようだ。

 

 俺はといえば、怪異事件かどうかの判定のために魔術で覗き見て犯人がわかったので、今は修理中の東都スタジアムに来ているところである。

 

 コナン君は公安と行動している。

 俺1人探偵事務所ってのも寂しかったのでな。

 ちょいと現場に凸してみる次第である。

 

 汐留アリーナのコンサートも同時刻に行われている。

 せっかくならそっちも見ていきたかったが、流石に人命には代えられないしな。

 

 俺がタイミングを図って来たこともあり、ちょうど犯人がスタジアムの中に入ってくるのが上から見えた。

 夕日に赤黒く染まった暗い色の服が、彼の心境を暗示しているようにも思える。

 

 

 犯人は、バイク店アルバイトの中岡さんだ。

 

 動機はよく知らん。ただ、自暴自棄になっていることは確かだろう。

 スタジアムを爆破して自分も死のうだなんて、よほど思い詰めていなければそうはならない。

 

 中岡さんが爆弾で膨れたバッグを無造作に置いて、ゴールポストをただ眺めているようだ。

 誰1人いない東都スタジアムは、少しばかり静かで不気味に思えた。

 

 俺は犯人に話しかけることにした。

 

【何ゆえに嘆くか。何ゆえに怒るか】

「っ誰だ!!!」

 

 爆破のスイッチを構えて中岡さんが振り返る。

 そして黄衣を長く垂らした俺の姿に、驚愕に目を見開いたようだ。

 

 TVで繰り返し放送されたもんな、俺の黄衣の王お披露目バージョン姿。

 触手もちょっとうねうねさせてるし、神秘性はばっちりだろう。

 

 腰を抜かしそうになり、慌てて山岡さんは後ずさったようだ。

 俺はもう一度問いを繰り返した。

 

【問う。何故にお前は嘆く?】

「………はっ、神様が今更なんだ?助けるべきを助けず説教だけは一人前ってか」

 

 なんだか開幕不貞腐れモードに入ってしまわれたようだ。

 

 まあ、「今更何?」って気持ちは十分にわかるので、俺もしゅんとするばかりだ。

 だからこそできるだけ人が困ってる時は助けてやりたいんだが、塩梅が難しいのがなぁ。

 

 中岡さんが眦を吊り上げて俺を睨んだ。

 

「テメェなら知史を助けられただろう!俺は自業自得だ。けどよ、あんなクソどもに殺された知史をなんで助けてやらなかったんだ!」

 

 トモフミ、と言う人物がキーパーソンらしい。

 話についていけなので、失礼ながら少し記憶を覗かせてもらう。

 

 ふむ。

 どうやらバイク事故でサッカー選手の夢を絶たれた山岡さんの知人のようだ。

 

 まあ、詳細に踏み込まなくても構わない。

 所詮過ぎ去った時。人にとって取り返しのつかないことには変わりない。

 真実を突きつけるのは探偵の仕事だから、俺がほじくり返すこともあるまい。

 

 俺は犯人の足、事故によってついぞ力の戻らぬ足を修復してやった。

 分かりやすく光を伴って足に力が戻ったのだろう。

 山岡さんが足を庇うように半身を下げた。

 

 少しばかりの意地悪と、俺の抗議の気持ちの表れだ。

 

「ッ、何をしやがった!」

【平等など無い。楽園はすでに滅びた。お前は最初に失ったものを取り返したのだ】

「は………」

 

 驚愕の表情で犯人が己の利き足を見る。

 そこに明らかな軽さとしなやかさが戻っているのがわかったのだろう。

 一拍置いて、その表情が憤怒に変わる。

 

「違う!そんなもの求めちゃいない!おれは知史が生きてサッカーを続けてくれればそれで!」

【これより多くのものを地獄の苦しみに落とさんとするものよ。悪人が、望むものを手に入れられると思うか?】

「ッ…!!!」

 

 お前のせいで大切な人の生き返るチャンスを失ったんだぞ、みたいな含みを持たせた意趣返しだ。

 悲しいのはわかるが、この行いには誤解も多分に含まれている。

 爆弾を仕掛けられた会場の客たちに罪はないし、流石に8万人以上を爆殺は俺も許容できない。

 

 愕然とした顔をしたので、俺も若干は満足である。

 これ以後、心改めるように。

 どうせ死者蘇生なんて倫理的に問題あるやり方でしかできないんだし、絵に描いた餅だったということで。

 

 まだ若いんだから、きちんと反省しなさいな。

 

 そろそろコナン君も真相を解いてこちらにやってくるだろう。

 俺もお暇するとしよう。

 

【お前の苦難に意味などないが。それは人が自由であるがゆえ。甘んじて享受するといい】

「待て!待ってくれ!頼む、お願いだ!俺の足なんてどうでもいいから、そんなの恨んでなかった、爆破もやめる!頼む!」

【失ったものは還らない。お前が、向き合うべきと向き合うことを祈る】

「頼む!たのむから、おねがいだ、たのむ……!」

 

 そのようにいい置いて、俺は姿をするりと宙に溶けさせた。

 

 流石にちょっと厳しすぎただろうか。

 でも、俺としても伝えたいヒントみたいなのは伝えられた。

 慈悲というか、サービスみたいな側面もある。

 

 事務所に戻ってみると、置きっぱなしの俺のスマホには不在着信がドゥルルルルと残っていた。

 

 おおっとぉ…?

 

 一番上は降谷さんのものだ。

 怒られが発生する予感を覚え、恐る恐る折り返してみる。

 

「ふ、降谷さん、何かあった?」

『スマホも持たずにどこに出歩いてたんだ?まさか変なことしてないだろうな』

「大人しくしてまーす。というか俺のことハブにしておいてなによ!」

『君がいつもとんでもない荒技決めるからだろう。ひとまず、国立競技場を除くスタジアムの爆弾は止まったようだ。圧巻の試合で、手に汗握ったよ』

 

 普段サッカーは見ないだろう降谷さんがそこまで言うとは、よほどの物だったのだろう。

 まあそりゃ、制限時間内にゴールのクロスバーのど真ん中に当てないと会場爆破、という極限環境下だ。

 

 たぶん、犯人はサッカーそのものを憎んでいて、その上で希望も持っていたからこその最悪な仕掛けだと思われる。

 

 このことを伝えられた選手はさぞや大変だったことだろう。

 おかしなプレイングで助けようとしている観客から溢れんばかりの罵倒とブーイングが湧き、自分以外の仲間は誰1人このことを知らず。

 それでもなおほぼ全てのスタジアムの選手が、爆弾解除を成功した。

 鍛え抜かれた鋼のような精神力と称賛されるべき神業だ。

 

「コナン君は?」

『今僕と共に東都スタジアムに向かっている。最後の爆弾がそこにあるという話でな。万が一別の会場で爆発があったら君の方で守ってやってほしい。解除したとはいえ、まだ主導権は犯人の側にあるからな』

「お願いとあらば聞きましょう。こっそり配線に不具合があったことにしてやんよ!」

『助かる。君を便利に使ってすまないな。……本当は、人の手で全てできるのが一番いいんだが』

 

 降谷さんが静かに声を落とす。

 

 命短い人類にとって、できることなどほんの僅かだ。

 多くが死とともに失伝し、文字、音声、動画、あらゆる媒体を使ってなお、その喪失は補填しきれない。

 

 引き継いでいくという形式の限界は、間違いなくその文明を遅々たるものとしているだろう。

 

 永劫無意味に蓄え、無価値に生きる俺と違って。

 人は精一杯前へ進んでいく。

 

「気にしないでくれ。好きで便利に使われてんだからな。もっと甘えていいのよ♡」

『忙しくなった。切るぞ』

「そんな急に忙しくなる!?!?」

『ゲタゲッタゲタ』

 

 なんか星の精の声が入り込みつつ通話終了。

 

 俺は事務所の椅子の背もたれに体重を預けた。

 むしゃくしゃして、だらんと垂れ下がったままため息をついた。

 

「マモーさん」

「はい。何かご用命でしょうか」

「突然すまぬがすごく甘いもの食べたい。すごい甘いやつ」

「!!!すぐご用意いたします!!!」

 

 やはり心の疲れはカロリーが癒すのだ。

 そのように確信して、マモーさんの特盛パフェをもぐつくのであった。

 





・犯人
ハスターのなんとなく物見遊山のちょっとした意地悪でトドメを刺される可哀想な犯人。
サッカーのサポーター達にトモフミ君の救急車の通行を悪意で邪魔されたから死んだと思ってた。
が、どうやら同時刻に急病人でサポーターが救急車を呼んでいて、人だかりは自分たちの呼んだ救急車だと思って「こっちだ!」と言っていたすれ違いだった。
……この後駆けつけたコナン君にそのように説明を受けて。
コナン君がトモフミ君にあげたのと同じ赤いリストバンドをつけていて。
同じ年頃の子に見上げられて。彼の蘇生の芽を自分の行いが摘んでしまって。それを責められているようで。

無事、絶望に崩れ落ちることになる。
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