ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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無自覚テロリズム

 

 群馬にある板倉さんの別荘までやってきました。

 

 ちなみに、道中の運転は俺がした。

 最近教習所に通い直して、きっちり基礎から身につけ直したんだよな。

 

 とはいえ怖いものは怖いに違いない。

 そのため、魔術でフロントガラスに飛び出しの予知・注意マーカーを表示したり、バイクの巻き込み防止にサブウィンドウなどを表示するなど追加安全確保はバッチリ行った。

 

 結果、コナン君に「完全にSFカーになっちゃってるよ」と冷静な指摘を受けることになったが。

 

 ともかく。

 無事、事故もなく俺たちは群馬の山奥にある別荘へと辿り着いた。

 

 辺りは強い風と雪で視界が悪く、寒さが厳しい。

 コナン君が寒そうに身を震わせたので、俺は人数分のダッフルコートを具現化した。

 もちろん、体格に合わせて作成したため着心地も十分なはずだ。

 

「これ、みんな着てくれ。魔術で編んであるから冷たさも遮断されるはずだ」

『へぇ、それぞれデザインが違うのか』

「ありがとう黄衣さん!」

「魔術は本当に便利だな。僕にもできるだろうか…」

 

 服の裏地を確認しながら、降谷さんが難しい顔をして唸った。

 俺は少しだけ迷ってから、できるだけさりげなく聞こえるように声をかける。

 

「俺、教えようか?基礎ぐらいは知っておいたほうがいいだろうし」

「助かる。僕も、これ以上夢の中で訳のわからない知識を植え込まれたくないからな」

 

 降谷さんが息をついて、両手に手袋をはめた。

 そして盗聴器発見用の器具を取り出し、諸伏さんに先を促した。

 

 基本、ドアを開けたりスイッチに触ったりするのは諸伏さんに任せているようだ。

 

 諸伏さんは幽霊が実体化しているだけの存在であるため、物に触れても指紋などが残らないからな。

 

 部屋の中は真っ暗で、雪と風が窓ガラスに打ちつけてどこか寒々しい空気に満ちていた。

 

 降谷さんがひとしきり部屋の中を歩き回ったあと、ふうと肩の力を抜いて器具をバッグの中にしまう。

 

「盗聴器の類なし。皆、自由に話していいよ」

『お疲れゼロ。しっかし不用心だな。こんな所に取引用のソフトウェアを保管してたのかよ』

「まあ民間人だからな。奇をてらったつもりなんだろう。僕らとしてもやりやすくて助かるさ」

 

 俺も部屋にあるPCを立ち上げて、軽く中を調べた後日記の入っていたフロッピーディスクを接続する。

 メーラーが付属しているから、それも立ち上げておくとしよう。

 

 隣ではコナン君が難しい顔をして考え込んでいる。

 口数が少ないのは、まだあの日記にあった文章のことを考えているのかもしれない。

 

 コナン君が顔を上げ、ぼんやりとした声で俺に問いかけてきた。

 

「前に灰原が言ってたんだ。『時の流れを捻じ曲げようとすれば、人は罰を受ける』って。黄衣さんはどう思う?」

「罰……か。うーん、罰とは違うような」

 

 PCは古いボックス型のそれで、立ち上がるまで結構な時間がかかる。

 その間手持ち無沙汰なので、俺も背もたれに体重を預けてコナン君の雑談に付き合うことにした。

 

 俺の言葉にコナン君はわずかに首を傾げたようだ。

 どこか後ろの二人が聞き耳を立てているような、奇妙な緊張感。

 

「どういうこと?」

「『時』には意志があるけど、別に滅多なことじゃ怒らないし。一々罰なんて下さないってこと」

「時に意志があるって何……?」

 

 俺はにっこりしてコナン君の頭を撫ぜた。

 言葉の通りやで。

 

 我が偉大なる父ヨグ=ソトースは時そのもの。すなわち世界そのものに等しい。

 今この瞬間にも、父はこの世界にあまねく満ちている。

 そんな神が、人間程度の行いにいちいち反応したりするはずもない。

 

 ちなみに。

 ニャルラトホテプが一度、ヨグ=ソトースの表面を毟り取ってパウンドケーキの材料にしたというあまりにも名状し難い大事件が起きたことがある。

 

 なんて言ってたかな。

 ニャルラトホテプの三分間クッキング?

 なんか俺との出会いの日を記念してとかで、ニャル野郎が突如俺を呼んでパーティを開いたのだ。

 準備は「百万の恵まれたるもの」達にやらせたらしい。

 やけに凝った神殿やら捧げ物やらが鎮座する巨大な空間で、かなり居心地が悪かったことを記憶している。

 

 で、出されたのがそのケーキである。

 当然、騙されて毒入りケーキを食べた俺はひどい目に遭った。

 まさに冒涜的としか言いようのない味だったし、もう思い出しただけで胃液が喉まで込み上げてくる感じだった。

 

 加えて無論表面を毟り取られたヨグ=ソトースは激怒。

 俺は虹色の泡で揉みくちゃにされ、ニャル野郎は問答無用でペイッと時間の流れから追放されたのであった。

 

 まあ、その後すぐに戻ってきて「味はどうだった?」とか聞いてくる辺り、ニャルに後悔の二文字はないと見ていいだろう。

 

 などと戯れている間にも、諸伏さんが部屋を探って、机の引き出しの中からCD-ROMを見つけたようだ。

 諸伏さんがおっ、という顔をしてそれを取り出す。

 

『コレが組織との取引予定のシステムソフトか。ほい、黄衣』

「おっけ。時間もないし直で魔術使って中身を見るよ」

『頼んだ』

 

 軽く表面を確認した後、「ハスターの瞳」を使ってつらつらと中身を解析していく。

 どうやらパスワードがかかっていたようだが、そんなもの魔術的読み取りには関係がない。

 

 中身は………ふむ。

 ………。

 

 ……………。

 

 俺はCD-ROMをそっと机の上に置いた。

 しばしの沈黙。

 やや狼狽えた諸伏さんが、心配そうに俺を覗き込んでくる。

 

 俺は目頭を揉んで、もう一度CD-ROMの中身を確認して。

 ちょっとばかり震える声で、諸伏さんに確認した。

 

「組織がこのソフトを欲してたってマジ?」

『えっ、うん、話の流れからすると…?』

 

 ふう。

 両手を膝の前に置いて深呼吸。

 

「…………裁定。組織は今すぐ俺が滅ぼします。以上。全員解散。ありがとうございました」

『何が!?!?!?』

 

 コナン君が「待って待って待って詳しい話を聞かせて!!」と俺の肩に飛びついてくる。

 

 俺がPCを前にゲンドウポーズしていると、降谷さんも不満げな声で「経緯を説明してもらわないと話が進まないんだが」と俺を責めてきた。

 

 とは言っても、どこから説明したものか。

 俺はやや悩んだ後、順を追って一から説明することにした。

 

「まず、これはごくごく素朴な『まだ見ぬ宇宙人とコンタクトを取るためのシステム』なんだと思う」

 

 多分形式からして、巨大な電波望遠鏡とセットで用いることが想定されているのだろう。

 このプログラムを介して成形された二進数のメッセージは、魔術的に極限まで増幅され、時間を飛び越え対象へとすぐさま到達する。

 時の彼方にある存在と今すぐに交信できる。

 これはそういうプログラムだ。

 

『ゆ、夢のある話だな…?それで、何が問題なんだ?』

 

 諸伏さんが戸惑いを隠さず首を傾げている。

 まあたしかに、それだけ聞いたら害のあるプログラムには聞こえないだろう。

 

 降谷さんがサッと顔を青ざめさせ、「ま、さか」と震える唇で呟き半歩後ろへ下がった。

 ニャルラトホテプに侵食されている影響で、基礎的な外宇宙に関する知識はあったようだ。

 

「えー。通常、見知らぬ羽虫に突如魔術的大音量で話しかけられた上位存在は激怒します」

『な、なるほど』

「そしてこのシステムの原理上、メッセージを送る対象に制限がない」

 

 つまり。

 微睡む白痴の神、アザトースの耳元で大音量を鳴らしたて、起こすこともできるということ。

 

 アザトースは眠りの中でこの宇宙を具現化した。

 この宇宙はアザトースの夢であり、彼が目を覚ませば消えるだけの泡沫の夢である。

 

 まあ、なんだ。

 これは宇宙破壊爆弾でファイナルアンサーである。

 

 へへっ、人間如きがヨォ、身の程ってのを弁えろよなぁオォン???

 旧支配者ハスター激おこである。

 

「僕らは別にあの白痴が目覚めても、次の夢を待てばいいだけですけどね♡」

 

 ニコッと笑顔を見せた降谷さんが俺にもたれかかってきた。

 露骨にニャルである。

 どうでもいいけどコイツいつもハイテンションだな。

 

「でも正直理解できませんよ。羽虫共は何故いつも自分達を滅亡させうるものを自分で作って、嬉しげにはしゃぐんでしょう」

「いやそれ俺に言われても」

「いっそ滅びたほうがいいんじゃないです?さっぱりと。こんな羽虫のことは忘れて、次の面白いことを見つけましょうよ」

 

 ニャルラトホテプが俺の顎をなぜて、淫美に妖艶に微笑んだ。

 後ろで諸伏さんが息を呑む音がする。

 というか、何故にニャル野郎は俺相手にR-18な空気を出すのか。これがわからない。

 

「はいはい。俺らは仕事中だからニャル野郎は散った散った」

「えぇ!?この薄情者!僕のことが大事じゃないんですか!?」

「120年後に黒きハリ湖でキャンプするって約束したばっかだろ…というかこんな頻度でハリ湖来る奴お前だけじゃん」

「でもこの素体の羽虫とは数日おきに会ってますよね?」

「面倒な彼女かおのれは!分かった!後で予定空けとくから今は散ること!!」

「はーい。じゃあいい感じの催しを準備して待ってますね!」

 

 パッと俺を離し、ニャルラトホテプは退去していったようだ。

 ここまで降谷さんと融合してしまっていると、うっかり「ニャルラトホテプの退散」を放ったら降谷さんまで退去させられてしまいかねないからな。

 面倒な……。

 

 そして後で必ず催しは俺が企画するからお前はじっとしてろと言っておかねば。

 とんでもないことになるに違いない。

 

 降谷さんは我に返ったあと、「すまん」とだけ言って恥ずかしそうに後ろに下がった

 彼自身、こう言うことに慣れてきたようだ。

 

 諸伏さんが強張った表情で降谷さんを見た後、口を開く。

 

『ひとまず、組織から送られてくるメールを見よう。話はそれからだろ』

「……そうだな」

 

 約束の0時きっかりに、メーラーは新しいメールを受信した。

 

 それをダブルクリックして開いてみる。

 パスワードを入れる欄が開いたが、俺にかかればこんなもの無いに等しい。

 魔術的にハッキングして、そのまま無理やり開封する。

 

 メールの内容はシンプルであった。

 

 システムソフトは無事完成したか、という脅しかけを含めた確認。

 さらに、現在工事中の東都地下鉄、賢橋駅で取引しようという旨の通知。

 彼らはコインロッカー0032番の前で明日午前0時に待つ、と添えて文章を終わらせていた。

 

 文面を確認してから、降谷さんが諸伏さんと頷きあった。

 降谷さんはスマホを取り出し、電話をかける準備をしている。

 

 見慣れないスマホだ。

 降谷さん、スマホを何台も所持しているっぽいんだよな。

 定期的に変えているようだし、まったく潜入捜査官は大変なことだ。

 

 しぃ、と人差し指を口元に当てて静かにするよう合図する。

 一コール、二コール。

 すぐに電話は繋がった。

 

 

「すみません、バーボンです。今少し時間をいいですか?……ええ。少し僕が探偵として動いていて気付いたことがありまして」

 

「はは、そんなことありませんよ!今貴方が対応中の板倉さんの件です。まだニュースには出ていないようですが、彼、殺されたんです」

 

「ああ、ご心配なさらず。彼が隠したシステムソフト、僕の方で入手しておきましたから。中身がキチンと完成済みかどうかは確認してませんよ?パスワードがかかっていて僕は見られませんでしたから」

 

「ええ。感謝してくださいね。警察に痕跡を残さないよう、彼の書いた日記は僕の方で回収しましたから」

 

「………わかりました。今日の昼、顔を出しますのでその時に。それでは」

 

 電話を切って、降谷さんがニヤリとサムズアップ。

 俺が今日の昼に間に合うようにシステムを書き換えるのも決定事項としてしまったというわけだ。

 

 俺が肩を落とすと、やや降谷さんは笑って肩をすくめた。

 

「無理を言ってすまないな。だが、ここまでの作業を公安の方で行うのは不可能だし、頼りにしているよ」

「というか、人類には不可能なレベルだからね本当に!?」

「助かる。本当に助かる」

 

 降谷さんはナムナムと手を合わせて祈り出した。

 諸伏さんもその横で二礼二拍手。

 だから宗教が違う言うとるやろがい。

 

 もはやコナン君だけが俺の心の支えである。

 俺はまだまだ考え中のコナン君の両手を取り、正面に回って真摯に教え込もうとした。

 

「あのねコナン君、俺を讃える正しい祈祷は、腕をバツ字に組んで、『いあ、いあ、はすたあ!』だよ。ほら、やって見て」

「やだ」

 

 素直な一言に俺はヤムチャのポーズで撃沈し、そのまま崩れ落ち砂の山になったのだった。

 





・冒涜的パウンドケーキ
ニャル「ヨグ=ソトースをひとつまみ加えます。すると、味に深みが出ます」
 パウンドケーキは虹色に輝いて不定形に蠢いている。
 本人的には渾身の出来栄え。
 きっと親友も喜んでくれるはず。
 
・丸い時間の神ヨグ=ソトース
 クソ無礼な無貌の神は尖った時間に追放した。
 数日後、尖った時間の神ミゼーアから速達でニャル野郎が返却されてきた。

・尖った時間の神ミゼーア
 突如送られてきたニャル野郎に角っこを毟られてパウンドケーキにされた。
 あまりにも迷惑。

・旧支配者ハスター
 目の前に二個目のパウンドケーキがある。
 ニャル野郎は「次こそ美味しいはず!」と言い張っている。
 完全に腹を下し、180年ほど寝込んだ。
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