ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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そして人魚はいなくなった〈平和な島〉

 

 福井県の若狭湾沖にある美國島。

 別名「人魚の住む島」。

 

 今日やって来たのは、そんな名前の島である。

 

「敵わへんでほんま。人魚に殺される?そんな事件探偵に送って来てどないすんねん!」

「ふっふっふ。そういう時の俺だよ。魚どもなんてみんなぶっ飛ばしてやる!オラオラオラ!」

 

 荒ぶる俺が様になって来た拳を連続で繰り出していると、諸伏さんに「どうどう、鎮まりたまえ」と宥められた。

 だってぇ、魚どもの住処から人の悲鳴が聞こえて来たんだよ?そりゃギルティでしょうよ。

 俺は早くもむしゃくしゃしてきて、コナン君を高速で撫でるなどした。

 

 荒ぶる俺に、ずっと険しいままの表情の降谷さんが問いかけてくる。

 

「それで、本当なのか。美國島が深きものどもの巣窟だと言うのは」

「9割確か。俺も時間をかけて精査して、島中をクトゥルフの阻害の加護が覆ってるのは確認した。コロニーがあるのは間違いない」

「頭が痛いな。観光地としても有名で、権力者が訪れることも多いパワースポットなんだが」

 

 降谷さんの言葉に、諸伏さんも深刻そうな顔をした。

 

『政治家とか在外の著名人も来てるらしいな。何されてるかわからなくて怖いし。調べ直しが必要だろうな』

「ああ。本当に忌々しい半魚人だ。……おい黄衣君。だから僕を洗脳するのはやめろといくら言ったら分かるんだ!」

「すまぬ。意図してのことじゃないんだ。気付くと漏れてるんだよ、憎悪が」

「言葉が強い」

「訂正する。侮蔑と強い憎しみが漏れてる」

 

 俺は真顔でシュッシュと拳を打ち出した。

 自然と力が入り、軌道上の空間を歪曲させる。

 おう、俺のミラクルパンチで爆散させてやんよ。

 

 コナン君が星の精と共におれの頭をヨシヨシした。

 おおん?そのぐらいで魚は許されぬ。でもちょっと手心は加えていいかもしれない。

 俺は拳を納めた。

 

 服部君が「黄衣サン、それでええんか。工藤に撫でられるだけでええんか」と訝しげにしている。

 人間だってニャーンに手を添えられたらニコってするやろがい。

 

 小さい定期便が、そろそろ美國島に着くようだ。

 

 

 

 

 始まりは、服部君に届いた一通の手紙だった。

 内容は「このままじゃ人魚に殺される。助けて」というものだ。

 差出人の名は門脇沙織。

 

 美國島は観光名所でも知られていて、人魚の肉を食べて不老不死になったという現人神ポジションの方もいる。

 年に一度の儒艮祭りでは不老長寿をもたらすと言われる儒艮の矢の抽選会も行われていて、有力者の来島も多いという。

 

 昨今の怪異ブームの波もあり、観光客は増える一方だと言う。

 

 俺たちは島を降りて、まず差出人の家を目指すことにした。

 島の商店街を歩きながら、俺は顔を顰めた。

 

「やっぱりクトゥルフの加護が強い。島ほとんど魚しかおらへんやんけ。人間なのは観光客ばっか」

「黄衣さんの正体はバレてない?大丈夫そう?」

「大丈夫。頑張っていつもより沢山正体を隠してるからな。めちゃ動きづらいから走ることすらできないけど。身体重すぎる」

 

 俺はギッチギチの触手を動かしてなんとかダブルピースをする。

 いや、力を入れることは簡単なんだが、細かい操作が難しくなってると言うべきか。

 

 普段がゴム風船に触手を詰めたものだとしたら、今日は鉄球に隠れ潜んでいるぐらいの雰囲気だ。

 力一杯腕を振り下ろす分には簡単なんだがな。

 あまりにミチミチで、繊細な動作をすると節々が痛い。

 まあ、こればっかりは仕方ないことだ。

 

 降谷さんにも同じように正体隠匿の魔術をかけているんだが。

 ニャルの千変万化の系譜を継いでいるので、ニュルニュルと滑らかに動けているらしい。

 いいなぁ、俺もそれになりたい。

 

 服部君が一軒の民家の前で立ち止まった。

 

「ここや。ここが依頼人の家や。ドアチャイム押すで」

『どうでもええけど、いつも丸出しのハスター様がそんな控えめになって気味悪いわぁ。ジャンプスケアが近いやろか』

「誰がジャンプスケアやねん。隠れたまま深海のチクタクマンの本体の横にお邪魔してやるぞ。今の俺はむしゃくしゃして始末に負えないぞ!」

「自覚はあるのか、良い傾向だ」

 

 降谷さんに雑に褒められて、俺はくしゃくしゃな顔をした。

 「おのれらは静かにできへんのか」と迷惑そうな服部君と共に依頼人が出てくるのを待つ。

 しかし、いつまで経っても出てこない。

 どうやら留守のようだ。

 

 出直すか、となったあたりで隣人さんがひょいと覗き込んできた。

 この人も魚だ。

 

「門脇さんなら留守だよ。いつも飲んで歩いてるし沙織ちゃんも3日前から行方不明だ」

「なんやて!?警察には言うたんか?」

「駐在さんは来てたよ。でもいつものことだからなあ。家出癖だよ。もし本気で探すんなら美國神社に行くと良いよ。友達がいるはずだからね」

 

 魚は親切に地図を出して来て、神社の場所を丁寧に教えてくれた。

 

 だがこいつは純粋な深きものどもだ。

 人から変異したものではなく、今は人に化けているだけのもの。

 その上で、平和に暮らしているだけの存在である。

 

 神の復活を待ちながら、平穏無事にうまく人間社会に溶け込んで商売を成功させているのだ。

 だから穏やかで分別もある、人類の敵。

 

 俺たちは和やかにお礼を言って隣人と別れることとする。

 

 クトゥルフの加護が強いこの島では、俺の呪詛がうまく効果を発揮しない。

 「子供を残すことができない呪詛」も、「精神が変貌する直前、眠るように死ぬ呪詛」も。

 発動させるにはこの島の外に出なけれはならないだろう。

 

 俺はするりと目を細めた。

 その間に観光客を引き摺り込めばいい奴らにとって、餌は事欠かないだろう。

 

 コナン君がキュルキュルとかわい子ぶりっこして俺にピトッと張り付く。

 

「僕のこと撫でる?抱っこして良いよ」

「コナン君の優しさで助かる命があります…!」

「本当にね。プチってしないでね」

 

 俺の命が助かる話をしたのに、違う意味で受け取られてしまった

 ここの魚は純魚だから潰しますけど。おぉん?

 

 神社は結構な数の観光客がいて、お土産やお守りを買う人で行列ができている。

 

 ちょうど今日が年に一度の儒艮祭りの日とは聞いていたが、予想以上に観光客が多い。

 1人ぐらい攫っても目立たなさそうだ。

 

 神社の裏手では忙しそうに準備をする女性をみつけたので、声をかけてみる。

 やはり魚だ。

 

「沙織ちゃんですか?3日前に一緒に歯医者に行ってから見てないですね。……あの。何かあったんですか?」

「守秘義務があるので詳しくはお話しできませんが。何か最近変わったことはありませんでしたか?」

「一週間前に儒艮の矢を無くしたって言ってすごく怯えてましたけど…単なる迷信なのに」

 

 魚はクスクスと笑っている。

 儒艮の矢は人魚の肉を食べて不死となった命様が自ら髪の毛を結えつけたもの。

 不老長寿の夢が叶うとされているはずだ。

 

 ばかばかしい限りである。

 そも、深きものどもは不老だ。

 単なるこの島に人間を引き寄せる口実であることは間違いない。

 

 軽く礼を言って巫女さん魚から離れる。

 服部君が腕を組んで考え込む仕草を見せた。

 

「どうすんのや。フレンドリーに見えて意外と口が固いで」

「手紙の送り主は気になるけど。ここに加護が張ってあるのは分かってるんだ。無理やり加護を引き剥がすだけで決着はつく気がするなぁ」

 

 加護さえ剥がせば、地上にいる深きものどもなんて簡単に一網打尽にできる。

 簡単な話だ。

 コナン君が心配そうな顔をして口を挟んだ。

 

「……でも、目的を調べてからでも良いんじゃない?」

「確かに、いつでも潰せるなら情報を吐かせるだけ吐かせた方が得ではある」

 

 降谷さんも同意してしまった。

 俺は逃げ場を失い、ブツブツ文句を言いながら頬を膨らませた。

 コナン君の説得もありギリ自分を人だと思ってる魚は可哀想な気がして来たわけだが、純正魚なんて駆除一択なのに。

 もごもご。

 

 ポッケの中から星の精が「クス!」と俺を窘めるから余計にしょげかえる。

 

 そうして、ひとまず調査続行と行くことになったわけである。

 





・美國島
平和な深きものどもの島。
別に何も企んでない。税金も納めてる。
島外に出る時は時間制限付きの加護を賜る儀式をしてから出る。
歯医者に行く時などに使う。
平和が故にクトゥルフ信仰が薄い。
そんな、クトゥルフ様が復活して経済が破壊されたら俺たちの生活はどうなるの…?
若者は若気の至りで尖ったクトゥルフ信仰をしがち。
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