ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

433 / 469
そして人魚はいなくなった〈地上の地獄〉

 

 折衷案がてら、俺は本性を現してこのように深きものどもへと伝えた。

 

「今日の日を跨ぐ前に、罪深きものを我が元へ差し出せ。儒艮の滝の上にて待つ」

 

 旧神がよくやる、古式ゆかしい人身御供の要求だ。

 

 パニクった魚達が変なことをしないよう、降谷さんに風と化して見張っていてもらっている。

 追い詰められてわけわからんことをされても困るからな。

 

 儒艮の滝の上にいい感じの社を作り、そこにだらけられる畳スペースを用意してまったりする今現在。

 俺はおこなので触手マシマシ、ドゥルンと飛び出た太い触手で星の精を撫でくりまわしているわけだ。

 

 星の精は怯えてしおしおのショボショボになってしまっている。

 ちょっと申し訳ないけど、俺の心の平穏のため今は我慢してもらおう。

 

 コナン君が不安そうに俺を見上げた。

 

「黄衣さん、この推理は…多分村の人には難しいよ」

「だろうな」

 

 第一の殺人も第二の殺人も、儒艮の矢の当選者を狙っての犯行だ。

 たぶん犯人は門脇沙織の仕業に見せかけようとしているのだろう。

 そうでなくとも門脇弁蔵の指紋がトリックに使われた浮き輪から出ている。

 

 実際問題、真犯人を特定するのは非常に困難だろう。

 諸伏さんが悩みながらモゴモゴと口の中で言葉を転がした。

 

『で、結局真犯人は誰なんだ?』

「神社に住む命様だよ。あるいはその孫娘。儒艮の矢の製作と抽選の担い手。そうでないと、当選者を狙った犯行にしては計画的すぎるから」

「せやな。人間なら、百三十歳の老婆に何ができる言う話やけどな。怪異ならさほど問題にならへん」

『なるほど。だが証拠が足りなくないか?』

「うん。犯行に使った長靴を探すか、もしくは行方不明の沙織さんの遺体を探すかだろう。でもそこに関しては、今回は関係ない」

 

 証拠がなくても、俺に正しい犯人を突き出せればそれで事足りる。

 

 俺に視線が集中した。

 俺は太い触手で星の精をもしゃもしゃに撫で回して気分を晴らすことにした。

 星の精が「クス……」とミイラみたいに干からびてされるがままになっている。

 

 特に感慨なく、諸伏さんが他人事のように口を開いた。

 

『正しい犯人が突き出されたらどうするんだ?』

「仕方ないから、人の出入り禁止にして魚はこの島でずっと暮らしてもらおうかな。海の監獄。島外で捕まえた魚も入れとくんだ」

『なら間違えたら?』

「愚かな魚は族滅です。人間殺しといてチャンスを与えるのは本気で慈悲なんだからな」

 

 俺はむすっとして口を尖らせた。

 まあ、気分によって助けたり助けなかったりするのでこれは正しくないのだが。

 それでも、魚に慈悲をかけたのは初めてだと言えるだろう。

 

 推理は難しいものになる。

 およそ島民に犯人を当てるのは不可能なこの状況で、果たして魚どもはどう出るか。

 

 やっぱり興味のなさそうな顔で、諸伏さんが「なるほど」と頷いた。

 

『でも、どっちにしろ国家として人間に寄生する怪異の集落を許容できないからな。ここでどうこうせずとも「害獣駆除」の名目で軍の投入も視野に入ることだ。神が対処してくれるなら後腐れなくて楽でいい』

「せやな。同じ種族同士ですら殺し合う生き物が、敵対種との共存なんぞ夢のまた夢ってやっちゃ」

 

 達観したようでいて、少し悲しげな服部君が遠く明かりがポツポツと街並みを見下ろしている。

 コナン君が俯いて、沈黙を挟んでからゆるゆると俺を見た。

 

「ごめんね、黄衣さん。黄衣さんは何も間違ったこと言ってないのに、僕のわがままを通してしまって」

「ええよええよ。それもまた人間的な感じ方、共感のあり方ってやつだ。コナン君が特別ってわけでもないだろ」

 

 コナン君ほど光の者が拒否反応を示したのだ。

 少なからぬ人間が心の底で同じように感じただろう。

 俺は人間に嫌われたくない。人間から外れたくないから、そう言ってもらえるのは嬉しい限りだ。

 

 とはいえ、もはや深きものどもは滅ぼすしかないわけだが。

 

 ぺろり、と唇を舐めてついつい嗜虐的になってしまう口角を意識して下ろした。

 

 どうせ魚どもは真犯人を当てることなどできない。

 疑心暗鬼に駆られ、その疑念は異邦人たる人間に向く。

 状況証拠も、それが人間の仕業だと言っているから。

 

 その安易な選択が魚どもを自ら破滅へと導くのだ。

 

『聞こえるか黄衣君。降谷だ』

「お、降谷さん。そっちの様子はどう?」

『今門脇弁蔵が住民達に詰め寄られている。お前がハスターを呼んだのか、なんてことをしてくれたんだと』

「やっぱりか。その人も悪い人らしいけど、殺されないようにだけ注意しておいてくれ」

『了解した』

 

 もう戦況は決まりかな。

 同じく念話を聞いていたコナン君が暗い顔をして俯いている。

 この島での魚達の平和で穏やかな暮らしを理解していただけに、心が整理しきれないのだろう。

 

 コナン君の悲しみを見ていると、少しだけ俺も、心が痛い。

 

 俺が目を伏せた時。

 じゃり、と砂を踏む音に俺は顔を上げた。

 

 そこにいたのは犯人、人間名・島袋弥琴だった。

 

 黒い長髪の美人さん。

 大学を卒業後、この神社で働いているのだと言う。

 映画撮影サークルに所属していて、その特殊メイクによって金賞を受賞したのだと同級生が自慢していたらしい。

 服部君の証言である。まあ、どうでもいいことだ。

 

 島袋弥琴は震える体で、青ざめた顔で俺の前に一歩踏み出した。

 

「わ、私です。3人を殺したのは私です」

「………まだ、村人達は突き出す者を決めあぐねているみたいだけど?」

「あの人たちは何も知りません。私が勝手にやったことです。だから1人で、きまし、た」

 

 一息一息が必死で、なんとか恐怖を堪えているのがよくわかる。

 俺は触手でぐるりと彼女の体を巻いて持ち上げた。

 僅かに苦悶の声が聞こえる。

 コナン君が悲痛に顔を歪めた。

 

「改めて確認だけど、なんで殺したんだ?」

「私のお母さんを、殺したからです。あの3人が蔵に火をつけて。許せなかった。憎かった。ハイドラ様から不死を授けられたなんて嘘っぱちなのに。本当に不死か確かめようなんて言って!」

 

 最後は叫ぶような声になった。

 ちなみにこの事件、というか尖った信仰を持つ若者が出ている件だが。

 これは人間で依頼人たる門脇沙織が扇動したことである。

 火付でこの子の母親を焼死させたのも人間の案だ。

 同意した深きものどもも相当アレだが、さすが人間、邪悪の最先端をいく種族。

 

 俺は薄っすらと笑った。

 

「村人に人間に手を出すなと注意されたことは?」

「『繁殖』は絶対この島で、殺しだけは避けろと、昔からの言い伝えが……」

 

 俺は深くため息をついた。

 ぴくりと島袋弥琴の肩が震えた。

 

「自分から言い出して、無事に帰れると思ったのかな?」

「旧支配者のお方がお怒りで、私1人で島のみんなが助かるなら。復讐を遂げられたならもうどうでもいい。生きてても、仕方ないから……」

「ふぅん」

 

 俺はみしりと触手に力を入れた。

 大蛇のようなそれが柔らかな人体を締め上げ、僅かな悲鳴が漏れる。

 

「気に食わないな。その程度の心で人間の命を奪ったのか。俺の心を乱したのか」

「ぐぅ、う…!」

「だが、約束は約束だ。この島の族滅はやめてやろう。お前は苦しみ、苦しみ、孤独と絶望に生きるがいい」

 

 その言葉と共に女を放す。

 放された女の体には、顔にかかるほど大きな黄色の印が刻まれていた。

 

「これより、お前達はこの島から出られない。お前はこの島の要だ。この島の結界に深きものどもが接触した時、接触者とお前には神罰の苦しみが降り注ぐ」

 

 繁殖は許さない。それは神罰を招く。

 魔術の使用は許さない。それは神罰を招く。

 人を害すことも自死することも許さない。

 

 哀れな魚人をせせら笑う。

 

「永劫を檻の中で、同族の憎しみの中生きるがいい。殺されても死なず、永遠の生を約束する。お前は、真に人魚となったのだ」

 

 女を放り出し、そのまま村へと転送する。

 

 俺は一仕事終えてようやく息を吐き、触手をしまって元の姿に戻った。

 

「ふう、お仕事終わり。帰るか!」

「黄衣サン情緒どないなっとんねん。チクタクマンがブルって出てこんようになっとるやろがい」

「え。普通に穏当に済ませたよね?誰も死ななかったしいい具合に円満解決してたことない?」

「どアホ。ああいう時は大人しく死なせてやるのが慈悲言うんや。なにどデカい呪いかけとんねん。びっくりしたわ」

 

 信じられんみたいな顔をされてしまった。

 コナン君達の手前、なるべく優しくしてやったんだがなぁ。

 苦痛を煮詰めた湯の中でコトコト煮てやってもいないし、無限プチプチもしてない。

 

 解せぬ、と俺が星の精の触手を取ると。

 

 すっかり干からびた乾燥星の精から「ク…ス…」と虫の息が聞こえてきた。

 慌てて離してやると、ヨロヨロとコナン君に覆い被さってメソメソし出した。

 

 す、すまんて……。

 

 

 その後、村は大騒ぎになった。

 突如黄色の印を刻まれた村の巫女に驚いて、島を覆う極大の呪いの結界に驚愕して。

 

 降谷さんがその混乱をつぶさに教えてくれたのだった。

 

 人間はもう立ち入ることはできない。

 当然、あらゆる文明の利器は入らない。食料も。何もかも。

 遠からず、ここは閉じた極小の地獄と化す。

 

 

 そこで島民達の憎悪を一身に受け、巫女が結界を維持するのだ。

 殺しても死なぬ体をもって、永劫に。

 





・降谷さん
島の混乱を見ながら「流石、邪神ニャルラトホテプと親友なだけはあるな」と感嘆の息をつくなどした。
日本に地獄を作るのはやめてもらっていいか?
迷惑なんだが。

・ハスター
おう、俺の悪口か???
魚の疑心暗鬼のまま間違いの犯人を突き出すのを待って、プチプチ潰してやろうと思ってた。
それをくだらない自首で邪魔されたので不愉快になっている。
もっと悲壮な決意なら優しくしてやったのに、単なる自暴自棄かよ。ケッ。
邪神は邪神なんだよ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。